サクッとお江戸✑備忘録

先週末、どうしても見たい美術展を追い駆けて、1泊2日の東京弾丸ツアーを敢行してまいりました!今年の冬はやたら寒く、心身ともに縮こまっていたんで、イッキに爆発したかんじです(笑)。頭の中が“真夏”状態になってる今のうちに、ぎゅぎゅっとメモっておきますね~♪ “赤”レンガ東京駅と、“白”旧東京中央郵便局極上ツーショットをうっとり眺めながら(後ろの高層ビルが邪魔にならないこんな曇り空がベスト!)、まずは三菱一号館美術館へ―。

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 1本め👀『ルドン―秘密の花園 展』

▶植物に焦点を当てたオディロン・ルドン(1840-1916)の作品展。珍しい企画との触れ込みだけど、そもそもわたしにはルドン作品を集中的に見た体験がありません。辛うじて、フェミニンな花々や一つ目小僧(?)をモチーフにした幻想的な作品がチラっと思い浮かぶ程度…ドガシャガールを足して3で割ったような画家だと勝手に捏造してました(汗)。関係者のみなさま、タイヘン申し訳ございませんでした(土下座)。

f:id:chinpira415:20180321113458j:plain▶当たり前だけど、お手軽に画集をパラパラめくるだけではアカンですね。そこでは仕掛け側が意図する「編集」がされているわけで、つまりフィクションを前提にして受け取り&吟味しないと…マズイ。もちろん「編集」は上等なもてなし役にもなり、ナマ鑑賞をバックアップします★はい、美術展でも「編集」はキモ。どしょっぱつに掲げられる作品はけっこう用心深く見てますよ。ルドンの1枚目は、木炭で描かれた『木々の習作』(1875)、これがよかった!最初のコーナーに提示された補助線によって、「そっか、ルドンって“木”なんだ!」と開眼できたんです。この流れで魅かれた次の1枚。

f:id:chinpira415:20180321124014j:plain『青空の下の木』(1883)。MoMA所蔵のこの小品が、わたしのお持ち帰りしたい1枚となりました~(笑)。で、同じコーナーの片隅には、ルドンの若い頃のメンターで版画家のロドルフ・ブレスダン『善きサマリア人(1861)がひっそり並びます。腰抜かしますよ、このお師匠さんの世界観!放浪の果てに死に絶えたらしい人ですが、人間の想像力がここまで跳躍できることに、茫然となります。間違いなくルドンの創造性に火を付けた方でしょう…頭の中は無限の森だと!そして次の2枚もたまらんかったですぅ~。

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▶シカゴ美術館所蔵の預言者(1880)と『植物人間』(1885)。寡黙なのか饒舌なのか判断が付きかねますが、圧が強くて目が離せません(爆)。わたしのベスト・ツーショットでした。とにかく他にも気づきが異様に多い展示で、メモを取りまくりましたが、一番意外だったのはドランが理系男子だった点ですね!感覚本位で描いているのではなく、幅広い知識欲と地道な写生テクで世界を編纂して行く実験的な画家だから、今もベタつかずに新鮮に映るのでしょう。ドランの粒子を浴びるには、ぜひナマ鑑賞で!

 2本め👀『熊谷守一 生きるよろこび』

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▶かれこれ30年以上、目にする度に「やっぱり好き!ずっと好き!」と惚れ込んできた画家熊谷守一(1880-1977)。名古屋周辺には、守一のパトロンだった木村定三コレクションを常設する愛知県美術館をはじめ、守一作品を所蔵する美術館がたくさんあって、遭遇するチャンスはとても多いの~♪なんで、当初は国立近代美術館での大規模回顧展と聞いても、さほど慌てもしなかったのだけど…マブダチRから初期の作品群の充実ぶりを聞かされ、閉幕ギリギリに飛び込みました★まずは『自画像』(1904)。

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▶隣が褒状を受けた『蝋燭』(1909)。今回の展示で、遅ればせながらこの2枚にぞっこん!20代で描いた絵からすでにウソや隠し事がなく、実に堂々としてるんですよ。ここには97歳で亡くなった守一と同じ守一がいて、つまりずっと変わることなく一本道を歩み続けた軌跡に胸を打たれたのです。そして、守一の代名詞と言われる赤い線”が用いられるようになったのは1936年頃。今のわたしと同じ56歳からだと知りました―。

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▶山の中央の赤と緑のベタ塗りが目を惹く『風景』(1940-50)には、まだ随所に陰影が微妙に残っていながら、赤茶の線も引かれています。この縁取りによって、馬がデカくみえません?存在感が増幅してますよね。じーっとながめていると、やがてこの馬とじぶんが同化し、見知らぬ惑星で草をはんでいるような気分を味わうのでした。

f:id:chinpira415:20180323184748j:plain▶その後わたしは『木小屋』(1966)を見て、小屋ともスンナリ同化しました(笑)。赤い線は細く凹み、そのぶん平塗り部分が全面にせり出し、筆跡のアクセントも効いて、輝いて見えます。またまた新たな惑星に降り立った感覚になりました~♫

f:id:chinpira415:20180323182608j:plain▶守一は同じモチーフに何度もトライしています。観察と推敲を重ね、ごまかしとは無縁の創作姿勢。彼も探求心の根っこにあるのは理系マインドだったようです。『海』と題したこの2枚は初めて目にしたもので、右は1947年、左は1950年作品です。小さい方が完成形になるのかな…。でもそれぞれ独立した別の世界にも見えてくる。おそらく守一が求めているのは正解ではないのでしょう。さて次の『御嶽』三兄弟も見物でした!

f:id:chinpira415:20180323183603j:plain▶さらにおてんとうさま4兄弟も並びます(笑)。左から『夕暮れ』(1970)『夕映』(1970)『朝のはぢまり』(1969)『朝の日輪』(1955)。具象とも抽象とも異なる手法で、光を射抜いています。あー、なんてカッコいいんだろう…見飽きることがありません。

f:id:chinpira415:20180323184652j:plain▶こちらは『ハルシャ菊』(1954)『豆に蟻』(1958)。どんだけ生き生きしてんだい!守一作品は、色使いに魅せられてツイ「可愛い~♪」なんて口に出ちゃうけど、「いやいや、そんなにヤワじゃない!」と即座に訂正したくなります(汗)。どれも冒頭の自画像と同じように、骨格がしっかりしていて、絵の真ん中に生命が走っています。あー、彼が描く宇宙の住人にわたしはなりたい…

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▶終わった展覧会だから、サラっと流すつもりでしたが、やっぱり好きなものは歯止めが利かず…収拾がつきません(汗)。中途半端な紹介になってしまってごめんなさい(ぺこり)。興味を持った方はぜひ関連書籍も読んでみてください。

f:id:chinpira415:20180324000627j:plain▶守一は、絵と同様、うかつに読み飛ばせない上等な言葉をつぶやきます。写真集もオススメ★美男子は何してたって絵になるんですぅ。会場には大勢の外国人旅行者が詰めかけていましたが、「どうだい、これが日本のかみさまよ~!」と、ひとり誇らしげに胸を張ってしまいました(笑)。

 3本め👀『プラド美術館展』

f:id:chinpira415:20180324131231j:plain▶うって変わって最後は、“美術館の王様”プラド美術館が所蔵する16~17世紀スペイン絵画の傑作選です!かみさま、ほとけさま、4号サイズの守一さま(笑)と、どデカイ7点のベラスケス作品が、同じ東京の目と鼻の先で見られるなんて!まったくすさまじい街です(爆)。天皇陛下からの褒章をお断りした守一と、宮廷画家ベラスケスとのガチンコ勝負という考察もできました(笑)。とはいえわたしが夢中になったのはこちら―

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▶ベラくんに招かれてマドリッドで活躍したフランシスコ・デ・スルバランです!磔刑のキリストと画家』(1650頃)。いやー、この静謐さは、絵を前にして浴びていただくしか手はございません。見上げればそこにイエスが!なのにパレット持って突っ立っていてどうする?早く助けてやれよ~とヤキモキしますが(笑)、それも込みで現代に通じる絵ではないでしょうか―。「俺の迷いを聞いて聞いて~」ですもんね(笑)。

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ヘラクレスとレルネのヒュドラ』『ヘラクレスクレタの牡牛』(共に1634)の肉体表現にも目を奪われました。怪物とがっぷり四つに組むヘラクレスの臀部が、鈍く光ってやけにドラマチックです。筋肉フェチのRが見たら卒倒しそう(笑)。でもスルバランは裸体を描いてもとってもシック青い血が流れ、肌は陶器のような印象なんです。

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『祝福する救世主』(1938)もスルバラン作品。ほら、こんな憂いを湛えた眼差しの救世主なら、フラフラとついて行きたくなるでしょう~。欲しいなあ、この絵(爆)。あっ、忘れていた!やっぱ赤い血が流れてるこっちもお持ち帰りしなきゃ…少々デカイけどー(笑)。

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ティツィアーノ『音楽にくつろぐヴィーナス』(1550)。何せ今年は戌年ですから。それにナマで見るティツィアーノは、ピントも精神性もユルくていいんですよね~。お昼寝モードになっちゃいます(笑)。赤と白で始まったお江戸備忘録は、幕引きも赤と白でキメて見ました♪ ではではおあとがよろしいようで―。


プラド美術館展CM(60秒)

 【番外編】LULU TAPAS BAR

 ▶最後はおまけ!表参道communeの一角にあるスペイン タパス Bar『LuLu』をご紹介♬ うーんと年下のマブダチTが切り盛りしてるキュートな飲み屋です。都会と言う名の森の奥にこっそりたたずむ小屋のよう…守一の『木小屋』がダブります(笑)。つまみもリーズナブルで美味しいの~。ひとりでぶらっと立ち寄るのにイイかんじで~す★

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PS 次号は4/10に更新します

 

振り向けば テレビ体操~♬

わからないものですね…。じぶんが早朝6:25テレビ体操(=テレビで放映するラジオ体操のこと)を、ほぼ毎日続けることになろうとは…。もしかして一種の徘徊?ちょっとコワいなあ…(汗)。

f:id:chinpira415:20180303130856j:plainきっかけは2つ。1つは、ちょっとした義理から50歳を機に始めたヨガが予想以上に面白くて「適度な運動は意識を変化させるものだなあ…」なんて考えるようになったこと。だってヨガって、自己鍛錬しながら眠くなるんだよ~、わけわかんないよね?(笑)わたしはどうも、運動全般に漂う生真面目な空気がイヤで、なるべく遠ざけてきた経緯がある(汗)。だけどヨガは、愉快な気持ちのまま深掘りできそうだから続けられてるみたい…今のところは。鶴太郎を目指す気はサラサラないけどね(笑)。

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で、教わっているヨガの先生から「ラジオ体操に意識的に呼吸を入れたら、ヨガと同じだよ」という話を聞いたときに、ストンと腑に落ちたんだよね。そう思って、テレビ体操を眺めたら…最近は動作解説にプラス「呼吸」ポイントを挟み入れて誘導してるじゃないの~♪ 有酸素運動を取り込もうとしてるんだあ~!と、ガッテンしたってわけ。

f:id:chinpira415:20180303141654j:plainそしてもう1つのきっかけは去年の夏、7月某日の早朝のことです。休日だというのに、クソ暑くて朝早くから目が覚めちゃって(汗)、しょうがないからシブシブ起きてTVのスイッチを付けたら…朝もはよから溌剌としたオーラが目に飛び込んできたの!「えっ?テレビ体操って毎日やってんの?」と驚きながらも、つられてしまい…思わず参加(爆)。その日以降ほぼ毎日つられっぱなし(爆)。どうやら本当に365日休みなしの番組です(爆)。ここに働き方改革のメスは入りません(爆)。わたしも相当くどい奴なんで「さすがに正月くらいは休みだろう…?」と訝りながら、恐る恐るのぞきましたよ~今年の元旦に(爆)。するってーと…

f:id:chinpira415:20180303152010j:plain休むどころか、なんとスタジオが正月仕様に!フルメンバー+犬(柴犬イラストが昭和味で泣かせる)!しかもアシスタントと呼ばれる6人のお姉さまたちが名前入りで紹介されててバカウケ!間違いなくマニアがいるだろう仕立てになっているから、あわててWebで検索したら…案の定でした(笑)。

f:id:chinpira415:20180303152454j:plainNHKテレビ体操のお姉さん【朝の10分間のアイドル】と題し、歴代のアシスタントとレオタードの変遷を丁寧にまとめていらっしゃる方もいれば、正月豪華版を長年録画している方もおいでで…(汗)。申し訳ございません。はじめて半年程度の新参者には歯が立ちません。それもそのはず、なんと今年(2018年)はラジオ体操が創設して90周年だって!こうなりゃ、その沿革を知りたくなるのが人情ってもんよね?はいそこで、さらにラジオ体操の奥深さを知りたい人ために、オススメ本がありま~す♬

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 高橋秀実氏の『素晴らしきラジオ体操』小学館)です。20年ほど前に発売された本で、私も10年くらい前に読んではいたんだけど、目下実際に体操をやりながらの再読だから、余計に面白くて。高橋さん曰く、“ラジオ体操=つられてやるもの”というオチは、ホントその通りです!(ちなみに高橋さんのルポはどれも絶品★読んでいる途中で声をあげて笑っちゃうくらい愉快なボケと、対象者たちへの敬意をこめながらのイジワルなツッ込みがサエまくるオススメの読み物ばかりよ。)

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この本では、“ラジオ体操人”と呼ばれる人たちの生態、ラジオ体操が創設された経緯、ラジオ体操と国威発揚、占領時に禁止されたラジオ体操の復活工作劇等、血湧き肉躍る背景がまとめられてて、ラジオ体操を通じて知っていそうで知らなかった日本人のメンタリティがググっと立ち上るのよ~。ラジオ体操は日本人に馴染み過ぎてて、意外にも書き残されてる資料が乏しかったんだって。個人的には、戦後のラジオ体操再改訂版の原案を作った遠山喜一郎さんの話に最も唸った!文庫版も出てるからぜひ読んでみて♬

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冒頭でも触れたけど、何十年かぶりにマジマジと目撃してしまったテレビ体操。まずアシスタントのお姉さんの体操プロポーションと、ゴムマリみたいな躍動感に圧倒されたのよね。学生時代、あの全体主義ムードにケッ!と悪態ついていたわたしが、50過ぎてこの変わりようはどうよ~、まさに保守反動(爆)。しかーし、誰でもできるあの体操を、お姉さまたちのレイヤーにまで上げようとしたら、オリンピック選手を目指すくらいのハードルの高さですわ。朝からハァーハァー肩で息吸っちゃったりして(汗)。

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他にも、15分間のメニュー構成は飽きさせない工夫が凝らされているし、毎日お花畑越しのピアノ伴奏付きというアナログな贅沢さ!特にわたしが重宝してる理由は、めざまし時計代わりにできる点ですね★そのうえ、寝ぼけまなこでフラフラやり始めても、終わるころには本日の活動スイッチがON状態になってるの(笑)。ほら、そろそろあなたの食指も動き始めてきたわよね?ではごいっしょに~♫


テレビ体操(みんなの体操及びラジオ体操第2)

余談だけど、テレビ体操の前に放送されている『旅する語学シリーズ』も一見の価値あり!このシリーズは、フランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語の4か国語を、現地を旅しながら学ぼうという企画らしいけど、美味いもん食べたり、きれいなもの見たり、おしゃれーなお宅にお邪魔したりして、ほとんど贅沢三昧な旅番組仕立て。「おいおい、語学のお勉強はどうなってんだあ~?」とツッコミどころ満載です(笑)。どうやら最近のEテレは、振り幅の大きさがウリみたいね(笑)。 

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PS 次回は3/26にUPします

 

勝手にシネマ評/『デヴィッド・リンチ:アートライフ』('16)

デヴィッド・リンチか―。ちょっと困った(汗)。

f:id:chinpira415:20180214221426j:plain実はわたしイレイザーヘッド(’77)を未だに見ていない不届き者。そのうえツイン・ピークス』シリーズもスルーしてて…(汗)。まあ、それ以外は公開時に劇場で一通り目にしてきたが…うーん、いい意味でフツー。フツーに可笑しかったり、フツーに頭がこんがらがったりして、それなりに愉しさも味わってはいるのだが…フツー。もちろんお気に入りもありますよ。

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ブルー・ベルベット(‘86)とストレイト・ストーリー(’99)は好き。良くも悪くも、リンチワールドは、この2本で過不足なくのぞき見できると言ったら、ディープなファンの方々からはお叱りを受けるかな…。というのも、リンチにはガッカリさせられた思い出があるからだ。

f:id:chinpira415:20180214222818j:plain2012年ラフォーレミュージアム原宿でデヴィッド・リンチ展~暴力と静寂に棲むカオス』を見た。映像作品にとどまらず、絵画・ドローイング・写真まで網羅した鳴り物入り大規模企画展。要は、豆腐作ってるだけじゃないんですよ~、肉も野菜も使って脳内妄想レシピを調理してるんですよ~と、アーティスト=リンチのお披露目会になっていたのだが、これがまったくノレなくて…(汗)。

f:id:chinpira415:20180214223005j:plainもったいぶってる割には、どれもこれも射程距離が短いわ、そのうえ詰め切れてないわで、かえってお里が知れちゃったわけ。「世界で最も影響力のあるアーティストの1人だとぉー?これじゃあ、美大生の卒展レベルだろ?」と、ひとりボヤキながら帰路についたのでありました、はい。

f:id:chinpira415:20180214223213j:plainそれ以降、リンチのことはすっかり忘却。現に10年以上、映画制作から遠ざかっていたらしいから、思い出す機会もなかったのだ。そんな中、唐突に舞い込んで来たのが、リンチに密着取材したドキュメンタリー映画デヴィッド・リンチ:アートライフ』('16)だ。リンチご本人がナビゲーターになり、物心ついてからデビュー作イレイザーヘッドを完成させるまでの道のりが、時系列に沿って語りつくされる仕立て。要は、ジョン・グエンという人に監督を任せ、ご自身は被写体モード全開(!で御登場だと…。なるほど、その手がまだあったか!

f:id:chinpira415:20180214224258j:plainデヴィッド・リンチは1946年1月20日生まれの72歳。そりゃあ人並みに、我が人生を振り返りたいと思うのも無理はない。リンチ曰く「新しいアイデアに過去が色づけする」―。そうでしょう、そうでしょう。リンチみたいな特異なポジションを確立してきた人が、穏やかな口調で過去と未来を紐づけた自己肯定感を口にすると、それだけでよい空気が流れ出るもの。でもって、語られる幼少期の想い出が、リンチ作品にもたびたび登場する1950年代の米国の明朗快活なイメージそのもので、さらに興味を引く

f:id:chinpira415:20180214224454j:plainカウボーイハットがトレードマークの父と美しい母。おしどり夫婦による愛情あふれる家庭生活の下、3人兄弟の長男として一点の曇りもなく健全に育つリンチ少年。ところが一転、自宅から数ブロックの小さな世界がすべてだった彼が、転居&進学を繰り返すたび、やがて心の内を制御できなくなり、夢と現実の境界線が崩れ、恐怖を抱えながら生きるようになったという。人生の振り返りといいながら、創作の原点や自作の解説とも受け取れるお話が、様々な素材をコラージュして綴られて行くのである。

f:id:chinpira415:20180214225101j:plainリンチの口からこぼれだす歪なエピソードの数々は、ダークな深層心理を解き明かすためのくすぐりにピッタリなのだが、わたしは正直言って勝手に割愛(笑)。それより、口癖のように「あの頃はサイテーだった…」とネガワードを連発するところが、ひどく可笑しくて。いや、きっと感受性豊かな青春時代に、世界に触れて、戸惑い&苦悩した記憶は、脳裏に焼き付き離れないのだろうが、何もそこまでネガなじぶんに依存しなくても…ねえ(笑)。

f:id:chinpira415:20180214225356j:plain何より、70年生きてても、青春の彷徨ってヤツを当時の気分のまま語っている様子に虚を突かれた。1ミリもてらいがない。そっか、リンチは制御不能に陥っていたじぶんが嫌じゃなかったんだなあ…、いつもどこに戻ったらいいかをウッスラ覚えていて、帰れる場所があったんだなあ…とわかり、初めて腑に落ちたのだ。

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まっとうなご両親から注がれた愛情深き日々という礎があるからこその、ダークサイドへの憧れ―。リンチにとってはどっちも大切な拠り所なのだろう。そうそう、アトリエの片隅にヒエロニムス・ボス『快楽の園』のポストカードが貼られているのを、わたしは見逃さなかったわよ!これまたいかにもなチョイスじゃないの~。でも美しく、謎めき、寓意に満ちた500年以上前の傑作に、心から憧れている様子が、実に微笑ましかったです。とことんピュアな人なのでしょうね。

f:id:chinpira415:20180214225905j:plain映画は、リンチの現在の創作風景も捉えながら進行する。何せタイトルが『アートライフ』だからね。でもごめんなさい、手掛けているものより驚嘆したのは傍らで遊んでいる幼子だ。何と彼のひ孫ではなく実の娘だと!3度の離婚4度の結婚って…(汗)。ピュアな男は死ぬまで現役モテ期なのね♫ ロマンチックLOVEを未だに夢見る男、これぞ真のアートライフ。デヴィッド・リンチは稀に見る幸福な人だった。拝みに行く価値ありです!

名古屋シネマテークにて 2/24~3/16まで公開中

 


映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』予告

 

デヴィッド・リンチ:アートライフ』

2016年/ 米・デンマーク/カラー/88分
監督   ジョン・グエン リック・バーンズ O・N=ホルム

主演    デヴィッド・リンチ
撮影    ジェイソン・S
音楽    ジョナサン・ベンタ

 

PS 次回は3/13にUPします

 

人生最期のBGMは…こんなメロディで♫

人生最期シリーズ第2弾は、最期の瞬間に耳元で流れるメロディ♫にしてみました第1弾の『最期の晩餐』同様、これまたわたしには、好ましいと思う明確なイメージがあるのよね(笑)。まあ、それは一番最後に紹介するとして、いつものように友人たちに敢行した聞き取り調査の結果を綴っておきましょう。シチュエーションも込みのお遊びで語っていただきましたよそれにしてもやっぱ人それぞれで笑ったなあ

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🎼【Entry1】Hotel California/The Eagles

一番バッターに指名した、昼夜問わずパワフルに働きまくっているTは、スカイダイビングしてる途中に死ぬ絵が浮かんだと言ってマース(笑。「飛んでる途中に死ぬってキモチ良さそうだな~、パラシュートが開いて、少し気流にのって下がったくらいのタイミングがベスト」だって。ナチュラルハイのまま昇天…だからBGMは風の音になるんだけど、最期の一曲と問われたら「Hotel California」を選択。マジ?イントロ長すぎじゃねぇ?これじゃあ歌に入る前に事切れそうだ(爆)


[4K] The Eagles - "Hotel California" Live At the Capital Center (1977)

🎼【Entry2】Ghosts/Albert Ayler 

お次はジャズに詳しいNさんに、今日限定(2018/01/30 16:23)の1曲をあげてもらいましたホームレスになって絶命しかけたとき、亡くした猫の幻影がでてきて、手をのばしたらガブと指を噛まれて死んでいく」そんな設定だって ははーん、これは野垂れ死にと言っても、舞台はNYでいマフラーしてそうだなあ…と返したら、「赤いマフラー施設で嫌々もらってきたとか、エルメス路面店から万引きした、みたいな未来像が描けた★」と大喜び(笑。我ら映画好きは、ディティールが肝ですから◆


Albert Ayler - Ghosts

🎼【Entry3】6代目三遊亭圓生の落語で

憧れの職業が専業主婦で、引きこもりが大好きなIZくん(男)は、落語を聞きながら昇天するのが理想の最期。わかるわ~、本人が落語に出てきそうなキャラなのよ。親から譲り受けた一軒家で長年独り暮らしを謳歌してるようだが、噂では相当奇怪なゴミ(?)屋敷らしい(汗)。そんな自宅で「4匹の野良猫に見守られながら、最期はうっすら微笑みを浮かべてがいいなあ~」と、はなはだズーズしい願いを口にしておられます。その前にくれぐれもボケないでね!と言い聞かせてますが…(笑

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🎼【Entry4】あえて抵抗しない/ゆらゆら帝国

IZくんとお誕生日がご一緒のIくん。超仲良しのふたりには、ヤン坊マー坊天気予報でも聞きながら、最期も同時に息を引き取ってほしいものだが(苦笑)、いちおうIくんは、ゆら帝の「あえて抵抗しない」をBGMに、とーってもシュールな状況下で最期を迎えたいそうなー。「温度は高からず、低からず…なんだよね~」だって。おいおい、抵抗しないと言っておきながら、オーダーがやけに細かすぎないか~(爆)


ゆらゆら帝国 - あえて抵抗しない

🎼【Entry5】邦楽のひととき/NHKFM

「楽曲と言うより、自然なかんじで耳に響く音色をBGMにしたいなあ。ラジオから流れる常磐津や筝曲、地唄なんかが邪魔にならなくてイイ。」と、的をきっちり絞り込んできたF(笑)ってことは、NHKFMの帯番組「邦楽のひととき」がベストですかね時間も自ずと決まり、お昼ご飯前です、はい。「ベッド横の窓からは青空がのぞき、風が割と強く吹いてて木の葉が揺れてるんだよね…」―と、妄想はどこまで具体的に進行。もしかして臨死体験してたとか?(汗)

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🎼【Entry6】Frontin' ft. Jay-ZPharrell

さてさて F以上に具体的なのが、妄想させたら日本一のRです。これはもう老後の脚本ですね(爆)。「介護施設なのか、何かのコミュニティで暮らしていて(人との交流がある場所)、死の予感がしたら直前まで元気にふるまうんです。で、一人部屋に戻り、一応ヘアを整えて、メイクもして、寝床に入る。BGMに「Frontin’」、画像は「トムハ主演 マッドマックス」を流し、わたしの愛するイケメンたちに囲まれながら、息をひきとる。―翌日、食事の時間になっても現れないので、誰かが私の部屋を訪ねると…リピート再生されていた「Frontin’」と「マッドマックス」が流れる中で、幸せそうな顔のわたしの亡骸を見つける…でどうでしょうか」。スゴ過ぎ!死の翌日までスケッチした人はあなただけです(爆)


Pharrell - Frontin' ft. Jay-Z

🎼【Entry7】Spiegel im Spiegel/Arvo Part

うって変わって、こちらはしっとり静謐派ナンニ・モレッティの映画『母よ』(傑作)でも使われていたアルヴォ・ペルトをご所望。「映画監督たちは、ペルトがホント好きですね。この曲は余分な音が削ぎ落とされていて美しいなあと感じます。そして人生最期は、ヘンリー・ダーガーのように死ねたら、本望かなと最近思ったりします。」。おー、控えめに見えて、それはかなりハードル高いぞ。まずは今日から絵描きにならないとね(笑)


Arvo Part - "Spiegel im Spiegel'

🎼【Entry8】映画『メランコリア』('11)

絵描きといえば…画家のマブダチSが妄想する最期は、映画のラストシーンに重なるとか。なんとその作品はラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』とハシャいで口にするから気が気じゃないだって超美しく壮大なシーンだけど、惑星メランコリアと地球が衝突する人類最後の瞬間なんだよ~(汗)。「人類最後の日が自分の最期だといいなあ~♪全員いっしょに死ねば死はないものとなるじゃない?映画のラストのように光に包まれて消滅するのよ~」「明日のことをもう考えなくていいしね~」だって(汗)。ってことは、わたしもいっしょ死なばもろともってヤツおい、コラ、勝手に巻き込むな~!


Melancholia (2011) - Official Trailer [HD]

🎼【Entry9】Fly Me to the Moon/Frank Sinatra

いくらマブダチとはいえ、いくらアーティストの気まぐれとはいえ、Sの派手なお誘いには乗りたくないですぅ(笑)。神様、わたしの最期はひっそりお地味にお願いしますフツーでいいです。フツーに病院で、相撲中継(できれば中入り後すぐあたりの時間)をぼんやり眺めながら…が長年の理想です。廊下からは夕食のにおいがうっすら漂い、枕元に置いたトランジスターラジオから流れてくるのはシナトラの「Fly Me to the Moon」♪ そう、一点豪華主義の最期です(笑)うーん、マンダム


Frank SINATRA Fly Me To The Moon In Other Words Live 1969

さて 全9編の最期のメロディはいかがでしたでしょうか?…明日にはまた変わっていそうですが、それもまた一興(笑)。ではおあとがよろしいようで―。

 

PS 次回は2/26にUPします

 

勝手に年間cinema🎬2017年版

さて、今回のちんぴらジャーナルは年間映画特集です。忘れないうちに昨年観た映画の振り返りをメモっておきますね。長年ベスト10形式でまとめてきましたが、「ランキングにする必要ってあるのか?…」とフト疑問に思い(汗)、括りを変えての備忘録にリニュアルしてみました。よろしかったらお付き合いくださ~い★

 

屹立した女と出会える3本

▶今、ハードボイルドなトーンで映画を描こうとしたら、主役は断然女性でしょう。ラブ・ディアス監督作品『立ち去った女』('16)は、深い絶望の淵にたたずみながら、ひるむことなく独り屹立するヒロインのお姿が拝顔できる桁外れの1本です。30年間無実の罪で投獄されていた女ホラシアがたどる復讐の旅路に(なんと4時間!)、頭のてっぺんから爪先までもって行かれ、かつ、帰れなくなります(汗)。お気をつけて~!

f:id:chinpira415:20180120113250j:plain▶こちらは、しゃべりまくりのブルドーザー母性に圧倒された『ローサは密告された』('16)。ディアス監督と同じフィリピン出身のブリランテ・メンドーサ監督は、マニラのスラム街を舞台に、雑貨屋家業に精を出す女店主の抵抗開き直り悔し涙殴り描きし、有無を言わせぬ迫力がありました。“金”と“雨”が降り注ぐ世界の四つ角で、茫然と串をほおばるローサ…。どん底と、とりあえずの腹ごしらえが共存する演出に、ひたすら感服するばかり(涙)。

f:id:chinpira415:20180120124054j:plainそして、若いながらもすでに苦み走った女”と言い切って余りあるヒロインが登場した『午後8時の訪問者』('16)も忘れ難い1本です。詳しくはこちらを参考に。

 

米映画ならこの3本

スティーブン・ソダーバーグ監督が、引退宣言取り消し後初めて撮ったローガン・ラッキー('17)は、「強盗」+「脱獄」の娯楽フォーマットに、家族を持てないプア・ホワイト層の現実を炙り出し、笑ってばかりもいられないお話でしたよ。センス抜群の役者&キャラ設定は無論、負け犬たちにこの先どんな夢を見せるのか、米社会の未来図展開も気になるところでした。

f:id:chinpira415:20180120135413j:plain▶一方、市場を遠ざけ、個人的志向に体重をかけて制作を続けるジム・ジャームッシュ監督は、新作『パターソン』('16)でバスの運転手をしながら詩を書く男の平凡な日常を綴ります。ここでは競争のない代わりに、内と外との融合を図るための問い掛けが、主人公の中で繰り返されます。そう、意外にもアグレッシブな映画と言えるのです。

f:id:chinpira415:20180120150605j:plain▶最後は、3台のスマホだけで映画を撮り切り話題になった『タンジェリン』('15)です。出所したばかりのトランスジェンダーの娼婦と、その仲間たちの品位の欠片もない内輪揉め(爆笑の連続!)が、終わってみれば聖なる一夜に奇跡的に着地するというズルい1本。“LA発、愚者の贈り物”といった趣でした(笑)。好きだわあ~♥

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イレギュラーな愛を語る3本

▶去年見た映画の中で最も控えめに恋心を描いてみせたのが『ムーンライト』('16)。過酷な貧民街に生まれた黒人少年の成長プロセスが、3人の役者をつないで描かれます。しかも、荒れた境遇をあえて美しく静謐に切り取り、内気な主人公の声なき声を想像させながら進行するので、全身をそばだてながら魅入ってしまいました。

f:id:chinpira415:20180120170027j:plain▶南京のマッサージ院を舞台にしたロウ・イエ監督作品『ブラインド・マッサージ』('14)は、なんと登場人物全員が盲人で、目の見えない彼らの日常が至近距離でスケッチされています。しかも、あまりにのびやかなので、我々観客の方がアウェイになるという画期的な作品です。盲人の不自由さだけに注力せず、彼らの自由な振舞いに柔らかな光を当てることで、様々な愛の形が浮び上がって見えました。

f:id:chinpira415:20180120174001j:plain▶意外性が高かったのは、アントワープが舞台の犯罪映画『汚れたダイヤモンド』('16)。主人公ピエールはダイヤをめぐって何人もの「父」と出会います。冷酷かつ渇いた犯罪タッチで描き進む一方、父性の力に守られて、ご都合主義だわウェットだわでやたら可笑しい(笑)。成功の要因は“泣き虫の強盗”という新キャラ設定にありました!

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巨匠が吠える映画2本

『オン・ザ・ミルキィ・ロード』('16)は、旧ユーゴの悲劇にどこまでもこだわるエミール・クストリッツァ監督、渾身の一本。長引く戦時下で、絶望深く生きてきた主人公が運命の女と巡り合い、死と隣り合わせの逃避行に旅立つ波乱万丈ドラマです。頭でっかちな思想は一つもありません。愛を知り、ひたすら生の交響曲を奏でる男に生まれ変わるだけのシンプルな構成です。そのうえクストリッツァの愛はハンパなくデカイ!世界を360度見渡しながらの語り口と、動物たちとのコラボの力で、映画は神話の領域にまで達していました。

f:id:chinpira415:20180120184227j:plain▶88歳にして、まるで旅芸人一座を率いる座長のごとき存在感を放つアレハンドロ・ホドロフスキー御大。監督自身の青年期を描いた自伝的作品エンドレス・ポエトリー('16)は、青春の彷徨を思う存分高らかに歌い上げ、その迷いのなさに胸を打たれます。かつてのじぶんを、老いたるじぶんが見守る構図のハマりっぷりには、心底唸りました。

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2017年ベスト1作品

▶強いて1本と言われたら…ジャンフランコ・ロージ監督が、イタリア最南端の小さな漁師町ランペドゥーサに1年半移り住み、住民たちと暮らしを共にしながら撮ったドキュメンタリー『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』('16)ですね。予測できないもの同士を結びつける知性もさることながら、観客の想像力を呼び覚ますための余白の取り方が素晴らしいのです。こちらにガッツリ感想を書いております。興味のある方はぜひ。

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オマケ:邦画3本!

▶何しろ邦画は鑑賞数が少なすぎて、わざわざ書くのも気が引けますが…。目下若手の日本人監督で一番注目している小林啓一監督の逆光の頃('17)がダントツ好きでした!幼なじみ以上恋人未満の高校生カップル(葵わかな高杉真宙)が、京都の古い町並みを、2匹の猫がじゃれあうようにお散歩してて美しいったらありゃしませーん。


『逆光の頃』予告編

高杉真宙つながりで、散歩する侵略者('17)も必見です。役者たちを、すごーく高レベルで脱力させ、つかみどころがない。そのくせ“愛情”の扱い方は正々堂々たるメロドラマ調でキメる黒沢清監督。長谷川博己の怪演が光ってましたね。最後は北野武の『アウトレイジ最終章』('17)。黒光りするオッサンたちは、今やスクリーンでしかお目にかかれない絶滅危惧種塩見三省に座布団5枚進呈いたしましょう!

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ということで、今年も劇場通いは続きます♫

PS 次回は2/11に更新予定です。

 

日記はともだち 📓

あけましておめでとうございます。

我がブログも、3年目に突入しました(パチパチパチ)。本年も“ヒマつぶしの友”として、ちんぴらジャーナルをご贔屓に(ぺこり)。2018年、さて「何から書き始めようかな…」とボンヤリ考えていたところ、「そうだ、まだ紹介していなかったコレだ!」とひらめいたのが…日記に関するあれこれです★ すでに日記がともだちになっている人も、日記と聞いただけでゲンナリする人もいるでしょう。―が、ここはひとつ年の初めにふさわしいお題で、“エアー日記”ごっこでもして寛いでみてくださ~い(笑)。

 

『日記をつける』を読む

荒川洋治『日記をつける』(岩波アクティブ新書)という本を知ってますか?15年以上前に出された本ですが、贈り物にしたり&薦めたりしたこともある、わたしのお気に入りの1冊です。冒頭で荒川氏は、人が体験する様々な日記をサラリと紹介してくれます。それも絵日記から始めるんですよ~、キャハ♫f:id:chinpira415:20180112183151j:plain◆でね、なんと荒川氏は郷里に帰り、ご自身の小学校1年生のときの絵日記を見つけ、先生が赤インクで描いた感想を紹介してるんです。これがタマランのです!わずか2ページ半のエピソードなんですが、瞬く間にじぶんの体験が蘇り、おそらくすでにお亡くなりになっているであろうわたしの担任だったK先生の書き文字が鮮明に思い浮かんじゃったの(涙)。そう、人には多かれ少なかれ必ず日記体験がある。その先陣を切るのが絵日記だったことに遅まきながら気づきました。あー、とっておけばよかった…7歳のじぶんと出会えるチャンスだったのに~!

f:id:chinpira415:20180112191650j:plain◆もちろん本の中身は絵日記だけではございません(笑)。日記のつけかた、日記のことば、つける順序、名作日記紹介など、穏やかな語り口とシャープな視点で日記にまつわるあれこれが綴られていて、何度読み返しても感服してしまいます。

 

…日記は、自分を笑うことでもある。「うれしい」なんて書いたりして、いいのかな、調子に乗りすぎではないのかななどと思いながら、筆はその「うれしい」ということばに、つながろうとする。そして自分の書いたことばに、にっこりする。「ばかだな」とも思う。自分の批評家がひとり生まれる。その批評家はときどき現れ、消えていく。日記をつけることは、自分のそばに、自分とは少しだけちがう自分がいることを感じることなのだ。その分、世界はひろくなる。一日もひろくなる。新しくなる。…(荒川洋治「日記をつける」より)

 

本文の最後に書きしたためられたこの一節を読み返すたび、「日記っていい奴だなあ…滋味深い相棒だなあ…。」と思わずにいられません。そして、日記というアクションの本質を突いたことば―“自分の批評家がひとり生まれる”―には、つたない表現だろうが惰性だろうが、じぶんの他にこの批評家になれる幸運がないことに気づかされ、思わず胸が高鳴ってしまいます。日記をつける人にもそうでない人にも、強くオススメしたい1冊です。

 

日記と名がつく読みもの

 ◆日記は文学として扱われてもいますよね。で、学校の授業で習う日記文学の王道が、土佐日記だったり紫式部日記だったりの古典じゃない?申し訳ないけどあれはマズイ(汗)。絵日記から始めたリアル体験なのに、数年後には、絵はないわ&意味不明のコードが使われるテキストの解読だわで、日記=文学+古典⇒敷居が高い という刷り込みになってしまう…(それがイイ!と思われる方は素晴らしい~★)。日記文学には隣の庭を覗き見する俗な愉悦があります。でもそれは、じぶんの庭にもそれなりに芝生が生えて初めて比較して眺められるから面白いわけで、日記と名がつく読み物との出会いは、大人になってからこそ貴重なんですよね。

f:id:chinpira415:20180113110957j:plain◆現在私の手元にあるのはこんなラインナップ。あえてタイトルに日記が入ったものを選びました。プライベートで書いた日記の書籍化もあれば、形式だけを借用したコラムもありますね。日記と名付けることで、逆に歯止めがかかり、じぶんをダダ漏れにしない含羞のある書き手がわたしの好みです。

 

日記、つけてます!

◆さて、さんざんエラソーなことを書き並べてきましたが、わたしの日記体験はここ10年ばかりのひよっこです(汗)。それまでは、ちょっと始めてはフェイドアウトの連続で、そもそも日記を通じてじぶんの毎日と向きあうような行為に興味が持てませんでした(汗)。一変したのは、うーんと若いマブダチMがつけていた10年日記帳に触発されたから。そんな日記帳があるのか!と、道具の発見で意識が変わったんです

f:id:chinpira415:20180113124545j:plain◆わたしが選んだのは博文館の5年日記帳。同じ日の5年分の記録が縦に並ぶ形式です。そう、荒川氏の例えを借りれば、1ページ開けるたびに、自分の批評家がMAX5人誕生している様子が眺められるってわけ。もともとが定点観測好きな性分ゆえ、これにはすぐにノレました♫ しかも1日がこの分量なんで、ハートより事象描写を優先し、スイスイ書ける書ける~。読み返すときも胸焼けがしません(笑)。

f:id:chinpira415:20180113131505j:plain◆2008年から始めて11年目。青いやつがニューカマーで、今年3冊目に突入しました!正直言ってわたしの場合、終わった日記帳を引っ張り出してまで読み返すことはありませんね。でも、「押し入れのあそこにかつてのわたしが眠っている…」と想像するのは悪くない。もはやそれはじぶんであってじぶんでないような距離感に変わります。書いてる瞬間だけはじぶん十分だけど、書き終わったら最も親密なともだちに早変わりする日記。やっぱ日記っていい奴なんです~(笑)。

 

お布施で生きる🎍

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◆さて年末年始、わたしの日記はマブダチたちとの交流話で花盛りになってましたよ~(笑)。K夫にはキットカットと郵便局がコラボったお年玉をもらい、帰省中のYちゃんからはマイブームお菓子3点セットをいただき(「ブルトンヌ」の缶入りクッキー、美味すぎてめまいが…)、Tからは空きカン再利用を見越しての鳩サブレが入り(笑)、Mがお正月飾りにと庭に咲く花を届けてくれました(涙)。

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◆いただきものが、エピソードとともに次にウチに遊びに来てくれるマブダチのお茶菓子になる…という相互扶助数珠つなぎ。これを称して「ちんぴらさーん、お布施で生きてますね!それ、新しい~」と言われました(笑)。いやはやなんとも、ありがたいことです。せめて家庭料理の腕を磨き、お招き体制を整えておきますので、今年も夜露死苦お願い申し上げます★

 

PS 次回は1/28にUP予定です

2017年「1日1枚シリーズ★」発表!

2017年の制作テーマは…「1日1赤ヌード」!

さて恒例の「1日1枚シリーズ★」。2017年ももちろん、1月1日から、“日々是丹誠”大和屋の守口漬けのように(笑)1テーマを追い駆け続けております(汗)。今年のテーマは「1日1赤ヌード」。…と、書いたところで、なんのことかわかりませんよね?(笑)取り急ぎ、こちらをごらんくださいませ~♫ 毎日こんなことやってんです―

f:id:chinpira415:20171223132334j:plain 見てもよくわかんないって?…そうでしょう、そうでしょう~。では作業工程を説明しましょう。古今東西の名画、それも裸婦に注目し、まずはトレースをします。トレぺを載せて濃い目の鉛筆でなぞるのです。ちなみにこの日はゴーギャンさまの『かぐわしき大地』(1892)がモチーフ。

f:id:chinpira415:20171223132441j:plain次になぞったトレぺをひっくり返し(汗)、赤の画用紙の上にのっけて、線の上をとんがったペンでひっかくと、鉛筆がカーボンになり画用紙に転写できるってわけ。どう?めまいがするほどローテクでしょ?…すでに21世紀も17年経ってんですけどね(爆)。

f:id:chinpira415:20171223132540j:plainで、これを切り取ったら、一丁出来上がり!いちおう作品のデータも備忘録として残しておこうと、切り絵にタックシールを付けたりなんかしました。標本みたいにね。 

f:id:chinpira415:20171223132850j:plain最終的には、毎日切り抜いた赤ヌードをBOOK形式でファイリング。動かないように台紙に切り込みを入れて挟み込んだんだけど、このシンプルなアイデアはなかなかヒット。では、コレクションの中からいくつかお披露目いたしましょう~♫ 裸婦からフォルムだけを抽出すると、画家の女性を捉える視線に別の角度から肉迫できる気がします。まずは2月に連続したピカソのミューズたちのページ。

f:id:chinpira415:20171223133006j:plain8月~9月は足長のシルエットが際立つクラーナハに集中♥

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こうしてページをめくって行くと、なんだか猪熊弦一郎せんせいが手掛けた三越の包装紙に見えてきたあ~(笑)。

f:id:chinpira415:20171223143512j:plain異色なのは映画『リリーのすべて』のモデルにもなった女流画家ゲアダ・ヴィーイナ。女が女のエロスを絵にするとマネキン風になるみたい。つい理想を追い駆けるのか―。 

f:id:chinpira415:20171223133321j:plainポージングで作家性を際立たせたバルデュスは切り絵向きか―。

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美術の世界で名著とされているケネス・クラーク『ザ・ヌード』なんかも、いちおう読んだりしたんだけど、そもそもなぜ裸婦に着目したのかというと、じぶんがばばあになるにつけ(笑)、女の人の裸体の美しさに今更ながら気づき始め(遅いって!)、特にその丸みを帯びた塊に感動する機会が多くなったってことが大きいわ~★臀部をカッターでなぞるときなんて、メチャ気持ちいいのよね~。単純におっさん化してます、はい(爆)。

f:id:chinpira415:20171223141832j:plainやり続けて発見だったのは、「はいはい、あの名画ね!」と一目でわかるものもあれば、ひどく見慣れた裸婦でも赤一色でフラットに切り取った途端に判明できなくなったりすること。そう、切り絵にすると全部マチスに見えちゃうのが可笑しかった~マチス、すんげー!(笑)

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そこで、敬愛を込めてマチスjazzを表紙に使わせていただきました。西瓜の段ボールを活用して(笑)。無駄に豪華なHARVARD印の布張りハードカバー(もらいもの!)もご愛敬♪

f:id:chinpira415:20171223133943j:plainお気に入りの赤ヌードは、屋外に持ち出してロダンの足元にはべらせたり、いただいた花束にトッピングしたり…やりたい放題(笑)。ぺらぺらな紙1枚なんだけど、赤色の魔法でいきなりその場がゴージャス&ムーディーになるから面白い。

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花屋に営業しようかな~。錦のキャバ嬢をクドくときにもってこいじゃない?(笑)

f:id:chinpira415:20171223134406j:plain今年は友だちの誕生日プレゼントにも赤ヌードを登場させたの。こちらは、マブダチKに進呈した手のひらサイズの赤ヌードコラージュBOOK

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画家のマブダチAに、左隻にティッィアーノの『ダナエ』、右隻にブーシェの『オマフィー嬢』、背景に天才Tetsu ImamuraのピザBOYSを配した赤ヌード風神雷神図屏風を贈ったら、どうやらかなりウケたみたいで巻紙の礼状が届いたよ~(爆)。

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f:id:chinpira415:20171223135550j:plainそしてマブダチMんちのリビングには、わたしの赤ヌードモビールがきょうも風になびく~★どなたさまもこんなゴミみたいな遊びを喜んでくれて、まっことありがたいことです。いつもお騒がせしてすいません(ぺこり)。

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 そうそう、驚いたことに、来春横浜美術館『ヌード NUDE』展が開催するらしいの!英国テート美術館のヌード コレクションがお披露目されるんだって。もしかして先取りしちゃった?言ってくれればわたしの365裸体もお貸しするのに~(笑)。

artexhibition.jp さーて、今年も残りわずか。所要時間15分のアクションの最後を飾るのは、目下国立近代美術館で開催中の熊谷守一のこの1枚、マブダチRが送ってくれたポストカードに決定♫ もちろん年明けからは新たな「1日1枚」がスタートです、乞うご期待!

f:id:chinpira415:20171223141646j:plainブログも年内はこれにて終了。年明けは、1/13から再開です。ではよいお年を!