勝手に年間cinema🎬2017年版

さて、今回のちんぴらジャーナルは年間映画特集です。忘れないうちに昨年観た映画の振り返りをメモっておきますね。長年ベスト10形式でまとめてきましたが、「ランキングにする必要ってあるのか?…」とフト疑問に思い(汗)、括りを変えての備忘録にリニュアルしてみました。よろしかったらお付き合いくださ~い★

 

屹立した女と出会える3本

▶今、ハードボイルドなトーンで映画を描こうとしたら、主役は断然女性でしょう。ラブ・ディアス監督作品『立ち去った女』('16)は、深い絶望の淵にたたずみながら、ひるむことなく独り屹立するヒロインのお姿が拝顔できる桁外れの1本です。30年間無実の罪で投獄されていた女ホラシアがたどる復讐の旅路に(なんと4時間!)、頭のてっぺんから爪先までもって行かれ、かつ、帰れなくなります(汗)。お気をつけて~!

f:id:chinpira415:20180120113250j:plain▶こちらは、しゃべりまくりのブルドーザー母性に圧倒された『ローサは密告された』('16)。ディアス監督と同じフィリピン出身のブリランテ・メンドーサ監督は、マニラのスラム街を舞台に、雑貨屋家業に精を出す女店主の抵抗開き直り悔し涙殴り描きし、有無を言わせぬ迫力がありました。“金”と“雨”が降り注ぐ世界の四つ角で、茫然と串をほおばるローサ…。どん底と、とりあえずの腹ごしらえが共存する演出に、ひたすら感服するばかり(涙)。

f:id:chinpira415:20180120124054j:plainそして、若いながらもすでに苦み走った女”と言い切って余りあるヒロインが登場した『午後8時の訪問者』('16)も忘れ難い1本です。詳しくはこちらを参考に。

 

米映画ならこの3本

スティーブン・ソダーバーグ監督が、引退宣言取り消し後初めて撮ったローガン・ラッキー('17)は、「強盗」+「脱獄」の娯楽フォーマットに、家族を持てないプア・ホワイト層の現実を炙り出し、笑ってばかりもいられないお話でしたよ。センス抜群の役者&キャラ設定は無論、負け犬たちにこの先どんな夢を見せるのか、米社会の未来図展開も気になるところでした。

f:id:chinpira415:20180120135413j:plain▶一方、市場を遠ざけ、個人的志向に体重をかけて制作を続けるジム・ジャームッシュ監督は、新作『パターソン』('16)でバスの運転手をしながら詩を書く男の平凡な日常を綴ります。ここでは競争のない代わりに、内と外との融合を図るための問い掛けが、主人公の中で繰り返されます。そう、意外にもアグレッシブな映画と言えるのです。

f:id:chinpira415:20180120150605j:plain▶最後は、3台のスマホだけで映画を撮り切り話題になった『タンジェリン』('15)です。出所したばかりのトランスジェンダーの娼婦と、その仲間たちの品位の欠片もない内輪揉め(爆笑の連続!)が、終わってみれば聖なる一夜に奇跡的に着地するというズルい1本。“LA発、愚者の贈り物”といった趣でした(笑)。好きだわあ~♥

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イレギュラーな愛を語る3本

▶去年見た映画の中で最も控えめに恋心を描いてみせたのが『ムーンライト』('16)。過酷な貧民街に生まれた黒人少年の成長プロセスが、3人の役者をつないで描かれます。しかも、荒れた境遇をあえて美しく静謐に切り取り、内気な主人公の声なき声を想像させながら進行するので、全身をそばだてながら魅入ってしまいました。

f:id:chinpira415:20180120170027j:plain▶南京のマッサージ院を舞台にしたロウ・イエ監督作品『ブラインド・マッサージ』('14)は、なんと登場人物全員が盲人で、目の見えない彼らの日常が至近距離でスケッチされています。しかも、あまりにのびやかなので、我々観客の方がアウェイになるという画期的な作品です。盲人の不自由さだけに注力せず、彼らの自由な振舞いに柔らかな光を当てることで、様々な愛の形が浮び上がって見えました。

f:id:chinpira415:20180120174001j:plain▶意外性が高かったのは、アントワープが舞台の犯罪映画『汚れたダイヤモンド』('16)。主人公ピエールはダイヤをめぐって何人もの「父」と出会います。冷酷かつ渇いた犯罪タッチで描き進む一方、父性の力に守られて、ご都合主義だわウェットだわでやたら可笑しい(笑)。成功の要因は“泣き虫の強盗”という新キャラ設定にありました!

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巨匠が吠える映画2本

『オン・ザ・ミルキィ・ロード』('16)は、旧ユーゴの悲劇にどこまでもこだわるエミール・クストリッツァ監督、渾身の一本。長引く戦時下で、絶望深く生きてきた主人公が運命の女と巡り合い、死と隣り合わせの逃避行に旅立つ波乱万丈ドラマです。頭でっかちな思想は一つもありません。愛を知り、ひたすら生の交響曲を奏でる男に生まれ変わるだけのシンプルな構成です。そのうえクストリッツァの愛はハンパなくデカイ!世界を360度見渡しながらの語り口と、動物たちとのコラボの力で、映画は神話の領域にまで達していました。

f:id:chinpira415:20180120184227j:plain▶88歳にして、まるで旅芸人一座を率いる座長のごとき存在感を放つアレハンドロ・ホドロフスキー御大。監督自身の青年期を描いた自伝的作品エンドレス・ポエトリー('16)は、青春の彷徨を思う存分高らかに歌い上げ、その迷いのなさに胸を打たれます。かつてのじぶんを、老いたるじぶんが見守る構図のハマりっぷりには、心底唸りました。

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2017年ベスト1作品

▶強いて1本と言われたら…ジャンフランコ・ロージ監督が、イタリア最南端の小さな漁師町ランペドゥーサに1年半移り住み、住民たちと暮らしを共にしながら撮ったドキュメンタリー『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』('16)ですね。予測できないもの同士を結びつける知性もさることながら、観客の想像力を呼び覚ますための余白の取り方が素晴らしいのです。こちらにガッツリ感想を書いております。興味のある方はぜひ。

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オマケ:邦画3本!

▶何しろ邦画は鑑賞数が少なすぎて、わざわざ書くのも気が引けますが…。目下若手の日本人監督で一番注目している小林啓一監督の逆光の頃('17)がダントツ好きでした!幼なじみ以上恋人未満の高校生カップル(葵わかな高杉真宙)が、京都の古い町並みを、2匹の猫がじゃれあうようにお散歩してて美しいったらありゃしませーん。


『逆光の頃』予告編

高杉真宙つながりで、散歩する侵略者('17)も必見です。役者たちを、すごーく高レベルで脱力させ、つかみどころがない。そのくせ“愛情”の扱い方は正々堂々たるメロドラマ調でキメる黒沢清監督。長谷川博己の怪演が光ってましたね。最後は北野武の『アウトレイジ最終章』('17)。黒光りするオッサンたちは、今やスクリーンでしかお目にかかれない絶滅危惧種塩見三省に座布団5枚進呈いたしましょう!

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ということで、今年も劇場通いは続きます♫

PS 次回は2/11に更新予定です。