あいちトリエンナーレ2019✑備忘録

ぼちぼち定着した感があったあいちトリエンナーレ。ところが4回目にして「まさかこんな騒動になるとは…」でしたね(汗)。あいトレを知らない人々にも、あいトレ=「表現の不自由展」=「中止」は、強くインプットされたんじゃないなあ…。正直言って、腹立たしいことがたくさん聞こえてきた。でも、現代ARTは少なくともあたしにとっては不可欠な窓。この窓が閉じられたら息ができないよ~😡

f:id:chinpira415:20191003231024j:plainというわけで、今回の騒動は一旦括弧で括り、いつものようにフリーパス券を買い求め、いつものように全会場を歩き、いつものように「じぶんから近づく」を繰り返し、いつものように未知の星と遭遇して、いつもように心地よい胸騒ぎを覚えた備忘録です。なにせ現代ARTは未来への博打ですから~♬破産しても賭け続けまーす(爆)

 

桝本佳子(1982-) 

わぉ~、理屈抜きに好き♥ なんて大胆、陶磁器でこの跳躍!『メロン/壺』('16)。目を凝らせば表面にメロンの網目が…👀ぶっ刺さった切り口の角度も絶妙✌

f:id:chinpira415:20191004100021j:plain神妙なのかラフなのか、澄まして流すべきか突っ込むべきか…。作品と対峙するとき、一瞬戸惑い、照れて気まずいムードになるそのタメ感も込みでよかったあ~。はい、お見合い体感です(やったことないけど…笑)。次のイカ/壺』('18)の光りっぷりも、思わず生唾を飲み込んだ。どんだけ新鮮なんだー!今すぐ刺し身醤油もってこい!

f:id:chinpira415:20191006113504j:plain『武人埴輪紋壷』('10)では、誰もが知ってるあの埴輪のスタイルを、むりくり壺の形に変形させて、しれーっとD難度着地!伝統的な技法を使い、壺であって壺でないが、笑いのツボはけして外さない桝本作品群、今後も追い駆けさせていただきます(ぺこり)

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ミリアム・カーン(1949-) 

スイス・バーゼル出身の女性アーティスト、ミリアム・カーン。シンプルなフォルムと、鮮やかな色使いで、遠目からでもガッツリ首根っこ掴まれちゃった~

f:id:chinpira415:20191006211558j:plainどの絵も、いい意味での投げやり加減がタマランこちらは『急いで離れて!』('10+'18) 。空恐ろしさと同時に永遠の美に届いている…。どうやら、作家が掲げるテーマはかなりシリアスなものらしいが(汗)、それでも美しいものは美しい―。

f:id:chinpira415:20191006214527j:plainお次は、奈落の底なのか、はたまた絶頂の境地か…ずるずるずるーっと落ちてゆく~『美しいブルー』(’17)しりあがり寿の傑作マンガ『方舟』をしきりと連想しちゃった。好悪の感情がせめぎ合い、紙一重のところでなるものに滑り込む…このスリルこそ美術のカ・イ・カ・ン

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高嶺 格(1968-) 

太陽がギラギラ照り付ける中を「あっち~、あっち~」とボヤキながら歩いた先に、使われなくなった廃校のプールが登場。そこに聳え立つは…「えーっ、ウソだろう~!」


あいちトリエンナーレ2019 「反歌:見上げたる 空を悲しもその色に 染まり果てにき 我ならぬまで(高嶺格)」をみてきたよ!

人間は不思議なもので、あまりに「見たマンマ」だと頭ん中がカラカラ空回りしちゃって、「へっ?これ作品?工事中?」とキョトンとなっちゃうわけよ(笑)。現実なのにマンガにしか見えないのは、プールの底があまりにきれいに切り抜かれてるから(爆)。でも考えてみたら、こんな工事あるわけないし(汗)、しばらくぼーっとしてると、立ち上がったプールの底の巨大さがじわじわ押し寄せてくるんだよね~。

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反歌:見上げたる 空を悲しも その色に 染まり果てにき 我ならぬまで』('19)は、実際は、ぺろーんとプールの底を引っ剥がしたわけではなく、分解して積み上げ、鉄骨で後ろから支え、巨大な壁として出現させているの。しかも、トランプ大統領がメキシコ国境に建設しようとしているクレイジー9メートルの壁と同じ高さに!廃校のプールに反骨の源泉が埋もれていたとは…これぞカウンターパンチよ~

 

タリン・サイモン(1975-) 

『隠されているものと見慣れぬものによるアメリカの目録』('07)は、タイトルのまんま(笑)。写真と映像とテキストで、タリン・サイモンが我々の目に届かないものをさりげなく解き明かす。とはいえ、ことさら煽るわけではなく、鑑賞者自らが「何が写っているんだろう…」とふら~っと近づく仕立てになってて、なかなかの戦略家だ。例えばこちら、お馴染みのアメリカの男性誌PLAY BOYの表紙を撮った写真は―

f:id:chinpira415:20191009083947j:plainよく見ると、ラビットヘッドの上に点字が浮き上がっているでしょ?アメリカの国立図書館にある点字版PLAY BOYなんだって!視覚障がい者のリクエストに応えた無料サービスで、中に写真は一切なく全部点字テキストらしいのよ。さーすがアメリカ、誰に対しても知る権利を提供するってことね📚 その一方で、こんな1枚も―

f:id:chinpira415:20191012120127j:plain檻?でも光と影の分量のせいか、モダンな白いストライプのハコ型インスタレーションにも見えたりして…。実はオハイオ州にある死刑囚のための屋外レクリエーション運動場(汗)。こんな風に、じぶん自身の中でイメージと事実の落差を何度も味わう体験になり、緊張度は高い。美しく作り込んだ写真が落差をより誘発するってわけ。きっと、事実に恐れるというよりは、じぶんの脳内変化に驚かされるんだろうな…。ご本人が自作について語るTED動画があるよ~👀

www.ted.com

サイモンのもう一つのシリーズ公文書業務と資本の思想』('16)も、目の付け所がシャープで、非常に練り上げられた展示だったよ。ほれ、この“ありそうでない”&“なさそうである”お花畑、なんだと思う?あのチコちゃんにもわかんないかも~(笑)。

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小田原のどか(1985-) 

「戦後日本の彫刻を考えるうえで、長崎は最も重要な場所である…」小田原のどかの展示コーナーで配布されたテキスト Look at the sculpture 冒頭の一文に、思わずゾクゾクした。彫刻史も長崎も、個人的にはまったく縁遠いものなのに、ここにはあたしが探している何かが、必ず見つかる予感がしたから―。

f:id:chinpira415:20191012141128j:plainとはいえ、戦後日本の彫刻史と被爆地・長崎に一体どんな関係があるのか…皆目見当がつかなくて(汗)、なんとなくブースに並んだ古めかしいモニュメントが写っている土産物のような置物(スキ)を眺めたり、もったいぶった公共彫刻の設置意図や社会背景を資料で示唆され、逆に今までノレなかった理由が明確になったり(苦笑)してたわけ。公共と美術の関係性って、それこそ今回の騒動を予言するような視座だしね。

f:id:chinpira415:20191012152238j:plainそして隣のブースには、砂利の上に置かれた『↓(1946-1948)』いネオンサインを放ち怪しく光る―。さっき見た米兵の記念写真に写っていた矢印と同じ形?…これが爆心地を意味することぐらいは想像できるけど…??? こうして様々な要素を目撃し、ぜんぜん整理ができないまま帰路の瀬戸線車中でおもむろに読み始めたのが、先のLook at the sculpture。そう、ここで冒頭の一文に出くわしてイッキにが沸騰したの~👍

f:id:chinpira415:20191012153206j:plain面白いよね、会場を後にしてから展示の本丸へたどり着けたんだもん(笑)。なるほど、彫刻を通じて投げ掛けられた「問い」こそが最も手ごわい構造物だったのか!台座不要、持ち運び可能な彼女の「問い」は書籍でも読めます。手始めにHPをご覧あれ💻

 

ホー・ツーニェン(1976-)

そしてあいトレ2019、ちんぴらを最ものけぞらせた作品は、シンガポール出身のホー・ツーニェンによる映像インスタレーション『旅館アポリア('19)でした✌ 会場は、大正から昭和にかけて豊田市内で実際に営まれていた料理旅館「喜楽亭」

f:id:chinpira415:20191014092629j:plain風情漂う町家建築ってやつですよ~。「わーい、わーい、中も見学できるのかな~、ラッキ~!」とひとりはしゃいで訪問♫ フタを開ければ、室内の全座敷を順に回りながら、「波」「風」「虚無」「子どもたち」と題した映像を鑑賞する仕立てに―。

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…で、なんの予備知識もなく、恐る恐る最初の座敷に入り「波」を見るわけですが…激しく動揺(汗)。本作を制作するために、作家自身がスタッフへリサーチ依頼をしてる様子が楽屋オチ的にナレーションで流れる中、なんと背後にコラージュされる映像が小津映画のオンパレードで、しかも常連役者が振り返るたびのっぺらぼう~ぎゃー!『ジョーカー』なんて目じゃない!『シャイニング』並みのおっそろしさにめまいが~

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いやー、ヤラれました(汗)。古い日本家屋に小津映画のローアングルを同機させることで、建物自体が呼吸し始めちゃって、もうタイヘン。っていうか、この手があったのか~!…と若干悔しい気持ちになっちゃった。それに、のっぺらぼうの絵も、考えてみたら「ぼくの作品には表情はいらないよ。表情はなしだ。能面で行ってくれ」と笠智衆にオーダーした小津演出の究極の形じゃね?何より小津映画が世界のテンプレートになってる事実に胸を打たれたわ~。我々日本人が一番知らなかったりして…(汗)。

f:id:chinpira415:20191014094927j:plain映画好きだからどうしても小津に気が向いてしまったけど、本作は「戦時中は海軍さん、戦後はトヨタさん」でにぎわった喜楽亭という場所との同機がもっともスリリングな体験になるの。言うなれば、“難破船”喜楽亭を再び浮かべ、戦中戦後に様々な立場で生きていた人々の断片が浮かぶ大海を眺めながら、追体験するインスタレーション

f:id:chinpira415:20191014095058j:plain仕事がデカすぎて、正直言ってざっくりでもまとめづらいけど(汗)、ここで触れた夥しい数のイメージやテキストは情報の枠を超えて確かに身体に残った。この先も幾度となく振り返ることになりそうだわ―。

富田克也(1972-)

最後は映像プログラム。富田克也監督作品『典座』('19)。富田作品とのつきあいは国道20号線('07)以来だからもう10年以上になるけど、まさかこんな展開になるとは…。だって、シンナー中毒のへなちょこ悪ガキドラマから始まって、なんと新作では曹洞宗のホンモノの坊さんたちが出演する映画を作ったのよ~、面白すぎる!そのうえカンヌに特別招待だって👀世の中何が起こるかわかりませんね(笑)。長生きはするもんだ♫


国道20号線 予告編

映画は山梨と福島に身を置く2人の青年僧侶が主人公。ただし、頭丸めて袈裟着たりしてるから僧侶と認識するものの、迫ってくるのは、寺という家業を継ぐことになった地方の青年の横顔なんだよね。そして、いくら仏教の教えを拠りどころにする道に就いたからと言って、卑近な悩みにすら答えが見つからないのももっともなわけで、彼らの惑いをあえて宙づりにしたママ提示するあたりは、富田監督らしいアプローチだったな

f:id:chinpira415:20191022114227j:plainところが今回監督は、若者を漂流させるだけの映画にしなかったの。彼らが拠りどころとする道に確かなともし火を捧げた…それが曹洞宗の尼僧、青山俊董老師の登場シーンなのよ。一度聞いたら忘れられない語り口、Eテレ『こころの時代』で見たことがあった人でさー、富田くんの映画で再会するとは…これまたビックリ仰天だった。

f:id:chinpira415:20191022195147j:plain『典座』は、わずか62分の割に要素は多いわ、とっ散らかってるわ、そのくせ繊細だわで、大忙し(笑)。そしてやっぱりやたらと心が動く「仏教」という大きな船を見つけた富田くんの勢いが止まらないよ~。11/15(金)まで名古屋シネマテークで公開中。この機会にぜひ―。

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そして粘りに粘り、 閉幕間際に完全再開にこぎつけたあいトレ。わたしも最終日に再開したブースをのぞいてきましたよ!ただ、豊田会場にまでは足が伸ばせず、小田原さんのこの写真↑『彫刻の問題』('16)と直に対面できなかったのは心残りだったなあ…。まっ、でも念じていれば見られる機会もあるでしょう。「そしてARTはつづく…」なのだから👍

 

PS 次回は11/13に更新します