勝手にシネマ評/『淀川アジール~さどヤンの生活と意見』('20)

琵琶湖から大阪湾に流れ込む一級河川・淀川。その河川敷に手作りの小屋を設え、20年ほど前から暮らし続けている男がいる。70歳を過ぎたその人物は、“さどヤン”という愛称で呼ばれている。田中幸夫監督による本作は、そんな彼のライフスタイルに長期密着したドキュメンタリーである。

f:id:chinpira415:20210127100006j:plainを眺めながらの一軒家暮し、しかも拾い集めた素材で作ったマイホームを構えているさどヤンだが、地面を所有していないとなると、わが国での扱いは不法占拠の輩であり、世間の目もズバリ“ホームレス”。皮肉なことに、ホームを持っているのにホームレスである。

f:id:chinpira415:20210127100159j:plainそしてホームレスの人々を映像で扱う場合は、わたしの知る限り、「ホームレスの身だけど、こんなに知恵者」「ホームレスなのに毅然と生きている」というふうに、意外性を賛美し、座布団を敷いて見守るフォーマットがほとんどだ。劇映画でもドキュメンタリーでも…。そこでいつも気になるのは、世間的価値を正解としたうえで、彼らが比較検討される点である。ホームレスは事実だが、それを一般的なものさしの下から評価し、「なのにスゴイ」と持ち上げるのは、どこか違和感をおぼえるのだが…。

f:id:chinpira415:20210127104143j:plain私自身、ホームレスに限らず、じぶんの中で対象を弱者として認識するときに、個人的なクセで勝手に判断してしまうところはあって、しばしばマズイなあと省みることが多い。だから、じぶんに揺さぶりをかけるためにも、絶えず異なる視座を備えた映画を探し求めているような気がする。前置きが長くなったが、そこでさどヤンである。

f:id:chinpira415:20210127100634j:plain正直言って、ここでのぞき見するさどヤンの生活、ビジュアル、発言のすべては、自由で活力ある老人の模範図のようで、ホームレスという座布団など意味をなさない。地に足がつき過ぎてて、むしろ驚きに乏しいほどだ

f:id:chinpira415:20210127100811j:plain彼は革命家ではない。リアリストである。アルミ缶拾いで1日500~1000円、週1回の清掃の仕事で5300円を稼ぎ、カレンダーには仕事スケジュールが書き込まれ、自己管理もバッチリ。一級河川を台所にして、シジミを採ったりハゼを釣ったり…。バーベキュー後の捨てられた炭を煮炊きに再利用するのはもちろん、太陽光発電システムまで手作りし、東急ハンズの店員にだってスカウトされそうだ。

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マイホームの隣には、誰でも立ち寄れる休憩所を設け、公共性を担保。社会意識が高く、ひとりでSDGsミッションを回しているようにすら見えてくる。ぜんぜん無理がない。不自然さの欠片もない。だからなのか、様々な人々がここを訪れ寛いで行くが、それが群像劇の顔ぶれに酷似して映り、かえって印象に残らなかったりする。言葉使いとイイ風格とイイ、やけにホンモノ感たっぷりな元西成の手配師でさえ、なぜかさらっと見流してしまうのだ。だって、落語に出てくる人情長屋フォーマットから、一向にハミ出さないのだもの…。

f:id:chinpira415:20210127101249j:plain貨幣経済と折り合いをつけ、人情ユートピアも実現させ、技術を武器に、かつ自然をも味方につけ、持続可能な生活を維持するさどヤン。そのバランスのイイ暮らしぶりは、じぶんの頭と身体で考えて試行錯誤を繰り返した証しだろう。だから驚きがないこと=安心安定なわけで、それを物足りなく感じるとしたら、わたしの側に問題がある。

f:id:chinpira415:20210127101519j:plain元々田中監督は、問題定義を引っ提げて被写体を狙う作家ではない。異端扱いされがちな人々を、ごく普通に承認される場所へ送り出すための、きっかけ作りに一役買って出るのが持ち味だ。だけど今回の被写体は、揺るぎない個で立ちつつも、世間との親和性が高く、そもそも心も身体も全開放的な環境下に置かれているわけで、もてなす必要がまるでない。さて監督の出る幕はどこにあるのか―。

f:id:chinpira415:20210127101036j:plainそういえばあったなあ…と、記憶を呼び覚ますシーンが最後に登場する。関西方面を直撃し、多くの被害をもたらした台風上陸中の映像だ。確かこの日、じぶんも早帰りしたっけ…と振り返りつつ、スクリーンに意識を戻して…ハッ、とした。被災地域は、まさにさどヤンのテリトリーではないか!

f:id:chinpira415:20210127102045j:plain我ながらイヤな人間である。安心安定に退屈しておきながら、いざ波乱の気配を察知すると途端に身を乗り出したりして、単なるのぞき屋ですわ(汗)。そして田中監督は、そんな俗人好奇心に応じるかのように、台風一過のさどヤンを訪問する。はい、満を持してここでもてなしを繰り出すわけだが、いやー、このくだりが実にイイのだ。

f:id:chinpira415:20210127102350j:plainすでに淀川は、何事もなかったように胸襟を開いて流れていたが、さどヤンのマイホームは、あの強風でひとたまりもない状態に陥った。建物の半分は辛うじて残ったが、生活必需品は全部飛ばされ「みんなパア」。それでもカメラを前に苦笑しながらこうつぶやく―「何もかもなくて気分ええわ。ホームレスらしくなったやろ?」と―。

f:id:chinpira415:20210127100456j:plainどこ吹く風を装い、自嘲気味にサラっと言葉を紡ぐさどヤン。しかし私の耳には、「なーんにもなくなって、これで世間が望むホームレス像になっただろう?」と、挑発するかのように聴こえたのも事実。そう、「ホームレス」という在り様に対して絶えず意識を尖らせ、誰よりも自覚して生きてきたのは、他ならぬさどヤン自身なのだ。だから、わたしや世間がどう捉えようとも彼の中では端から想定内だし、いかようにも振る舞えるとの余裕がある。なるほど、矜持とはこういうことか―。

f:id:chinpira415:20210127102932j:plainさらに一転、幕切れでは、さどヤンの恐ろしく無防備な横顔が差し挟まれる。殺されかけた愛犬を必死の看病で救い、リハビリに寄り添う姿は一服の宗教画…まるで聖家族の絵のようなシーンが登場する。災害と病気に対し、いつだって彼らが抱えるリスクは大きい。しかしその一方で、これほどあらゆる生命(いのち)と向き合う日常はないかもしれない。しかもその営みをさどヤンは、ごくシンプルに「人間の仕事は生きることや」と説くのだ―なんて痛快👍


ドキュメンタリー映画 淀川アジール さどヤンの生活と意見 予告編

 

 名古屋シネマテークにて 2/27~3/5まで 連日10:00~ 公開

『淀川アジールさどヤンの生活と意見

2020年/73分/日本

監督・撮影      田中幸夫
企画・デザイン 大黒堂ミロ
朗読           ナオユキ                       
出演              さどヤン

おまけ/映画の中で、さどヤン側から見た川向こうの景色が繰り返し切り取られる。ふと、メキシコのアーティストガブリエル・オロスコ(1962-)『島の中の島』(1993)という写真を思い出した。向こうと手前があることで空間がダイナミックに変貌する…“ともに幸あれ!”とつぶやきたくなる1枚だ。

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 PS 次回は3/13に更新します

勝手に年間cinema🎬 2020年版

すでに正月気分は吹っ飛んでますが(笑)、遅ればせながら、ちんぴらジャーナル恒例の年間映画特集です。2020年は、映画館が1ヵ月も閉鎖するという生れて初めて体験をしましたが(汗)…洋画48本+邦画19本計67を劇場でチェック。ふたを開ければ前年度より2本多いじゃん(笑)。いい映画、たくさんあったよ紹介しておくね~♫

 

上等少女たちが覚醒する2本


世界各国で50冠以上!韓国映画『はちどり』予告編

『はちどり』('18)は、90年代の韓国を舞台にした中2女子病物語👧14歳の少女が、家と学校と社会の3つの大海を日々漂いながら、孤独にサバイバル術を磨いてゆく姿がたまらなく愛しい。少女の言葉にできない息苦しさや痛みに耳を澄まして寄り添い、ささやかな仕草で訴える仕立てなの。やがて少女の水面下の声と唯一共振する大人をめぐり逢わせ、幕切れでは唐突に史実をもぶっこんできたりして…何とも大胆な傑作でした!


映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』日本版予告編

ガリ勉女子高生2人組が、卒業式前夜になって、寸止めにしてきた青春を取り戻そうとハジけまくる痛快コメディ『ブックスマート』('19)ギャグのキレが強烈&高速すぎて、全部を理解するには3回くらい見ないとムリかも(笑)。『はちどり』とは対照的に、こっちは全方面に解放されすぎてて、目標設定が生きる糧になってしまう危うさは気になるが…💦それでもエンジン全開の友情譚は、やっぱ理屈抜きでタマらんぜよ~♪

 

しっとりとLOVEが咲2


2020.1.17公開『オリ・マキの人生で最も幸せな日』予告

▶殴り合いより恋を選んだボクサー、オリ・マキ😊『オリ・マキの人生で最も幸せな日』('16)は、実話を下敷きにしたフィンランド映画です。とにかく勝利至上主義というハシゴをあっさり外す柔軟さがスキスキタイトル通り、幸福とは個別に定義するものよね。スポーツ競技がナショナリズムに利用される気味悪さに比べたら、恋につまづく方がよっぽど真っ当。白黒16ミリフィルムで撮影された躍動美にも震えまくるわよ~


6/19公開『ペイン・アンド・グローリー』本予告

『ペイン・アンド・グローリー』('19)は、スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督が70歳にして撮った自伝的映画。創作意欲を失くした映画監督が、幼き頃の記憶を紐解いて慰められるうち、思わぬ経緯で過去の時間が現在につながり、さらにもう一度過去を引き寄せて自身の生命の輝きを再発見する…。ここでしっとり咲く愛は、老境のじぶん自身を慈しむ愛。アクの抜けたバンデラスの演技がシックで実に色っぽかった

 

画家が主役のドラマチックな2本


映画『ある画家の数奇な運命』予告編

▶ドイツ激動の時代を背景に、現代美術の巨匠ゲルハルト・リヒターの半生をモデルに描いた『ある画家の数奇な運命』('18)。リヒター自身は完成作品に異議を唱えているらしいが、真実かどうかはともかく、大きな歴史的時間と一人の芸術家誕生時間がサスペンス色たっぷりに交差する宿命ドラマに、めちゃワクワク。映画の虚構性に紛れ込んでもリヒター作品の評価が変わるわけではなく、ちゃんと上等娯楽映画に着地してマシタ


【公式】映画『燃ゆる女の肖像』本予告 12/4公開

▶18世紀フランスの孤島。『燃ゆる女の肖像』('19)は、望まぬ結婚を控える貴族の娘と、彼女の肖像を描くためにパリから呼び寄せられた女性画家との悲恋を描く。見る側と見られる側の攻防を経ながら、モデルと画家が徐々に接近するくだりが極めて劇的で、過呼吸になりそうなほど濃密💦特に生活音を通じて2人の関係を間接的に物語る演出のエロティックなこと!300年前の女たちの人生に思いを馳せ、胸が高鳴ったな~🔔

 

そして震災後の時間はつづく―


『風の電話』予告編

津波で家族を失い広島の叔母の元で暮らす17歳の少女が、震災以来一度も帰ってなかった故郷の岩手県大槌町へ向かう―。あたしの2020年の邦画ベスト1諏訪敦彦監督作品『風の電話』('20)。絶望を受け入れるための喪の儀式に要する時間は一律ではない。そして独りだけで執り行えるものでもない。少女が旅をしながら息を吹き返して行くエピソードのどれもに、唯一無二の瞬間が捉えられていて、何度も泣きそうになった


映画『空に聞く』予告編

『空に聞く』('18)は、震災後の陸前高田ラジオパーソナリティを務めていた阿部裕美さんに長期密着したドキュメンタリー。ゆったり丁寧に語りかける阿部さんの声を耳にしたら、2度と忘れられないだろう。何だろうこの包容力の源泉は…懐かしいようなくすぐったいような…。阿部さんの語りに導かれて町の再建をながめていると、かつての町と未来の町が自然につながり、さらには町と無縁のあたしの足元にまでつながりを感じずにはいられなくなる―。映画ならではの見事なマジック、脱帽です。

 

まがまがしさに魅せられた2本


『鵞鳥湖の夜』予告編

▶中国社会の底辺で生きる人々のサバイバルゲームを描いた『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』('19)。仲間割れ、復讐、逃走、裏切り…迷宮感がめっぽう高くてどっぷり酔いしれた。謎解きは宙吊りにしたままで、触覚に直に届く演出効果でひっぱるの。取り残された土地のうめき声がとどろくセット、闇の深さ、作り物めいたセリフ…最強のオーケストラになってます!女2人が連帯し、「光」を受けながらサラリと出し抜く幕切れもカッケ~


『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』予告編

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』('19)は、1970年代に4人の女性を殺害し、アパートに死体の一部を隠していたドイツの連続殺人鬼を主役にした実録もの。グロテスク極まりないエピソードの連続だけど、振り切れ方がハンパないんっすよ~。殺人鬼のイタい横顔から、敗戦後遺症に蝕まれた70年代ドイツの闇を照射するとき、登場人物全員が狂人に見えてくる…。狂気への暴走スイッチは、社会の中にこそあるんだろうな…。

 

目の前で歴史が蘇る傑作ドキュメンタリー2本


ワン・ビン監督『死霊魂』6月27日(土)より全国順次公開

中国共産党によって55万人もの人々が強制収容された「反右派闘争」。地獄の収容所体験から奇跡的に生き延びた人びとにカメラを向け、8時間半に及ぶドキュメンタリーに完成させた『死霊魂』('18)は、2020年の洋画ベスト1です👑もしじぶんがTV局を持っていたら、本作品を24時間ループ上映で流し続けたい(笑)とにかくタマげたのは、カメラを前にした生存者の語りに、犠牲となった同胞たちの気配が絶えずたなびいて見えること!途切れていた時間が再び流れはじめる現場に居合わす興奮は予想以上だった👍


映画『彼らは生きていた』予告編

▶こちらもスゴイ!『彼らは生きていた』('18)。人類最初の大戦=第一次世界大戦時の膨大な映像資料を4年半かけて再編集したドキュメンタリーで、映像技術の進化に腰を抜かすと同時に、真実であり嘘でもある映像の特性を考えさせられもした。カメラ慣れしていない当時の兵士たちが、無防備にカメラを直視してくる生々しさに息を呑んだり、歯並びの悪いいかにも貧しい階層の若者たちが物見遊山的に志願し、そのまま戦場に散ったであろう経緯を想像したり…と、100年前の悲喜劇を体感できる貴重な1本です

 

他にもイロイロ~♫


アニメ映画『音楽』本予告編

▶トンデモ法廷シーンをはじめ、マフィアの喜劇性を暴露するシチリアーノ~裏切りの美学('19)スターリン時代の圧政に肉薄しながらも一級の娯楽映画として作り込んだ『赤い闇』('19)仮面夫婦の化かし合いと映画in映画の組合せが見事にキマった『スパイの妻』('20)、くっだらね~青春の断片をチマチマ拾い上げて硬派アニメに一発逆転させた『音楽』('19)あー、映画ってホント楽しいわ~♪最後に、去年ブログに書いた長編映画評もおまけに付けておきます、どぞー🎬

 

PS 次回は2/20に更新します。少し先になりますが忘れないでね~😊

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2020年「1日1枚シリーズ★」発表!📅

2020年の制作テーマは…

「1日1枚 河原 温(かわら おん)」!

2021年がスタートしました。そこで遅ればせながら去年の「1日1枚シリーズ★」の発表です!去年の1月1日から丸1年間、日々是丹精、続けたのは…「1日1枚 河原 温(かわら おん)でした。ところでみなさん、河原 温(1932-2014)はご存知?地元愛知県出身のコンセプチュアル・アートの第一人者。代表作のTodayシリーズは、美術館の収蔵品コーナーへ足を運ぶと、けっこうな確率で遭遇してるはずなんだけど…見おぼえないかな…?

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単色で塗られたキャンバスに、白色で制作日の年月日のみを描く「日付絵画」と呼ばれるもので、制作する日の0時から始め、その日のうちに完成させるというルールに基づき、1966年からスタート。なんと生涯に3000枚(!)近く描いたらしいのよね。そもそもあたしの「1日1枚シリーズ★」も、じぶんの決めたテーマとルールで1年間やり通すものだから、考え方はいっしょのはず(ホントか?)💦何はともあれ1年やってみた👍

f:id:chinpira415:20210108153758j:plainでも、毎日キャンパスを貼るなんてことは、土台無理だしやる気出ないんで(笑)、白無地の冊子に年月日を描くことにした。それだってどうせすぐに飽きるだろうから、冊子ごとに描き方を変えよう…と最初からルールもユルユル。まずは初回2020年1月1日。

f:id:chinpira415:20210108161111j:plain河原はキャンパスに下塗りをして、まるで印刷物のように何時間もかけてレタリングをしてるのよ。仮にテクや時間があったとしても、イラチなあたしがそんな修行僧みたいなアクションは続かないので…1冊目は文字を切り貼りして間を持たせマシタ~。

f:id:chinpira415:20210108162340j:plain見開きで考えれば、切った残りが翌日に使えるじゃん(笑)。早くも手抜き

f:id:chinpira415:20210108162618j:plain2冊目は、図柄も使っちゃえ~ってことで、建国記念の日横山大観(1868-1958)の富士を背景に、日付入り太陽をぶつけてみた もはや河原 温の欠片もなし。一方リアル日本は、この頃、コロナ予防のためのマスク買占め問題が勃発し始め、閉塞感が蔓延💦

f:id:chinpira415:20210108163012j:plain2月22~23日。キスリング(1891-1953)展のちらしを見開き2Pにわたって間延びさせ…やりたい放題。なんとなく楳図かずおの恐怖マンガをイメージしてマシタ😊

f:id:chinpira415:20210108165317j:plainかつてドラマでよく見た“切り張りの脅迫状”を真似て、文字コラージュにもトライしてみた。簡単そうに思えたが「2」「0」「2」「0」が毎日必要で、めちゃタイヘン💦

f:id:chinpira415:20210108170105j:plain印刷物を物色するだけでも一苦労だったのに、途中で書体のダブル利用を思いついちゃったもんだから、在庫が尽きて、ひぃーひぃー言ってマシタね(笑)。そしてコロナ禍は欧州を襲撃し、バタバタとロックダウンが始まることに―。

f:id:chinpira415:20210108171626j:plain4冊目は、連日立法形をテーマにして、ハコの中に今日の日付を描き入れ続けた。もしかして閉塞感の表れ?…いや、そんなナイーヴな人間ではないわな(笑)。

f:id:chinpira415:20210108174207j:plainそして4月に入り、わが国も風雲急を告げる状態に―。非常事態宣言が目の前に迫りつつも、やっぱりせっせと日付絵画制作「1日1枚シリーズ」=心を整えるための作業ね

f:id:chinpira415:20210108174839j:plainこの日はリモートワークの初日。ノートは5冊目に入っていて、写真をながめながら、あたしの永遠のミューズの“カラス”を一筆書きタッチで描き続けました…。世界が一変した時は、じぶんじゅうぶんになれるものを愛でて遊ぶに限るわね

f:id:chinpira415:20210108175554j:plain世の中は、生まれてこの方一度も味わったことがない、超静かなGWになってたっけ…

f:id:chinpira415:20210108180303j:plain黒ペン1本で描き続けた反動もあり、6冊目は色がみを絵の具にして抽象の世界へGO~カラフルってだけで、テンションあがるぅ~🌼連休明けは感染拡大が収まり、落ち着きを取り戻した感もあったよね。個人的には映画館の再開がメチャ嬉しかった~~

f:id:chinpira415:20210108180813j:plain7冊目になると、日付より、白無地冊子に何を綴るかに目が向いてしまい…そこでいきなりキノコを登場させてみた。菌の繁殖が勢いづく梅雨の時期だし―🍄

f:id:chinpira415:20210108180918j:plain標本風味を出すために、色鉛筆で描いた絵の上にトレペを貼り付けたりして一工夫✋

f:id:chinpira415:20210108220649j:plain7月、徐々に暑さが増してきて頭が回らない…。そこで8冊目は、大好きな資生堂パーラーの唐草模様の包み紙を絡ませることにした💎2015年に仲條正義によってリニューアルされたこのデザインは、“銀座”のきらめきが匂い立つようで、素敵すぎるぅ★★★

f:id:chinpira415:20210108181029j:plain包装紙の、どこをどう切り出しても絵になるの!しかも華やかで色っぽい。水玉の飛ばし方やサイズも絶妙で、ホンモノと接近するとじぶんが自由になれるから不思議~

f:id:chinpira415:20210108181111j:plain仲條ワールドの曲線の色気を堪能したあとは、今度は色がみを3色に絞り、ロシア構成主義ごっこへ突進。結局じぶんの好みからは、なかなか抜け出せないものなのよね…。

f:id:chinpira415:20210108181148j:plainそこで一念発起!(大げさ~笑)PCに入ってるフォントを参考に、初レタリングに挑んだの。毎日書体を変えて下書きなしのイッパツ勝負。だから日にち間違えたし~😢

f:id:chinpira415:20210108220254j:plainやっぱ1冊くらいは河原 温をちゃんとやらないと…ねっ(笑)。どんなにヘタクソでも、日付ではなく「日付絵画」だと思い込めば、ある種の風景に見えなくもないし―👀

f:id:chinpira415:20210108181231j:plainようやく秋めいてきた10月後半。本棚をながめていて、たまたま目に止まったブルーノ・ムナーリ(1907-1998)の本を久しぶりに引っ張り出したら、1日1枚で記しておきたいデザインばかりで嬉しい悲鳴👄ムナーリを教科書にして、しばらくお勉強モードになった

f:id:chinpira415:20210108181558j:plainシンプルで、イキで、美しくて…日付との相性もぴったり。これは植物が変化して行くプロセス…ドラマ性が高くて、切り刻んだ色がみの残骸と組合せてもサマになっちゃう

f:id:chinpira415:20210108221008j:plainムナーリの有名なフォークを手に見立てたイラストも真似たよ。ここでは遂に手書きの日付を止め、印刷したものを貼り付けた。スキっと決まって気持ちイ~イ🚩

f:id:chinpira415:20210108181439j:plainムナーリは様々な分野で独創的なデザインを展開させ、言うなれば社会的に開かれたポジションで活躍を遂げた人。真似っ子してると、心も身体も軽快になった👣

f:id:chinpira415:20210108181511j:plainそして2020年、最後の1冊のテーマは「〇」すべてめでたくおさまりますようにと「〇」尽くし。2020年師走。帰省自粛要請のアナウンスが響き渡っていたコロナ禍の日本で、「1日1枚 河原 温(かわら おん)」はこうして幕を閉じたのであります―。

f:id:chinpira415:20210108181702j:plain河原 温というアーティストは、「Todayシリーズを始めた1966年以降、カタログ等にも一切経歴を明らかにせず、公式の場に姿を見せず、作品について自己の言葉で語らず、近影やインタビューなども存在しないなど、その実像を隠し続けた」―と記されています。じぶんの痕跡を消し続けることで、逆に誰よりも作品と自身が一体化し、永遠に至った河原 温。いかにじぶんを飽きさせないよう痕跡を残しまくりのあたしの着地とは真反対ですが(汗)、それでも、世界が一変した中で描き続けた14冊には、あたしの生きた時間がうっすら浮び上がって見えます

PS 次回は1/29に更新。去年見た映画の振り返りを特集しますね~

ツイ感傷的になるあのメロディ~♫ 後編

前回に引き続き、マブダチたちへのアンケート―「何度耳にしても感傷的になる楽曲を紹介して!」の後編です。まずは東京在住の妹分からスタート♪

f:id:chinpira415:20201220154929j:plain【レポート8】T.Y(1978~)  えーーっと、少し恥ずかしかったりもしますが(笑)①コブクロ『轍』。東京暮しを始める時の新幹線車中、youtubeでたまたま流れてきたのですが、これを聴いた瞬間からなんだか涙が止まらなくなり…ベソかきながら車窓を眺め、東京までずーっとループで聴いてました。そのシーンは今でも超リアルに思い出す感じなんすよね(笑)。東京生活が始まってからも、何かある度によく聴いてたな…。


2012/09/27 コブクロ - 轍-わだち-

玉置浩二『時代おくれ』。新生活が始まって5年くらい経ってからかな…酒は飲めないし、カラオケしないし、男の子でもないけど…本当に毎日ずーっと聴いてた曲です。


Koji Tamaki「時代おくれ」

▶Tが上京して早10年以上になるけど、こんなエピソードがあったとはツユ知らず…。気張って勝負してきたんだね…感慨深いわ。そう、東京はヤセ我慢してる人々で輝いてる街。もうちょっとだけ、がんばれ~★
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【レポート9】M(1961~) 本音をいうと聴ききたくない…企業CM。すごく直接的だけど、やっぱり(実)家に帰りたいって思っちゃうからなのかなぁ…。感傷的。心は帰るんだよ…泣いてしまった。色々なバージョンがあるんだけど、この八代亜紀編は姐御の歌声に包容力があって良い。犬の「あっ!帰って来たっ⁉」の仕草とか…映像も◎だね。


企業CM「家路2020」篇 30sec

▶これまた40年以上のつきあいになるけど、知らんかった~。 あたしには家族礼賛イメージしかなかったCM。改めて何が切なさを誘発するかはわからないものだと痛感。でも、確かに「家」=「ノスタルジー」の象徴だね。あたしの場合、実家の記憶を紐解くと、若かりし頃の両親の姿が自動的に思い浮かぶ…。
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【レポート10】Kちゃん(1969~) My Revolution渡辺美里。発売当時16歳。“馬鹿を調教して大学に受からせる”を合言葉に、週に2日は18時まで授業、週に1日は学校に泊まり込み24時まで勉強を強要する私立男子高校に在学してました。「おもしろきこともなき世」で数少ない娯楽であったラジオ…彼女がパーソナリティをしていたMBSヤングタウンで聞いたのが初めてだったかと。今聞いてもその当時の閉塞感が蘇ってくると共に、そこから抜け出すためにがむしゃらだった日々を思い出す―ある意味青春


渡辺美里 My Revolution

Self Control (方舟に曳かれて)』TM NETWORK。発売当時17歳。引き続き「おもしろきこともなき世」で数少ない娯楽であったアニメレンタルビデオ屋にて2泊3日1,800円(!)で借りて観た吸血鬼ハンターDのテーマ曲で初めて聞いてTMファンに。今聞いても、その当時の閉塞感が蘇ってくると共に、声優が出演するイベントにまで参加するアニメおたくだった過去を思い出す―ある意味青春


TM NETWORK 『Self Control』TMN final live LAST GROOVE

『花』ORANGE RANGE。発売当時34歳。独身・彼女なし時代。当時、好意を抱いていた女性を初めて誘って見た映画いま、会いにゆきます』の主題歌で聞き、不覚にも号泣。デート自体も大失敗。映画上映中に地震があり、彼女から「今の地震大きかったね」と声をかけられたんだけど、号泣しながら「それどころじゃない」的な返答をした僕に、まったくいい印象がなかったとの事。そりゃそうです、実際フられましたし…。だから、その後彼女が僕の妻になるとは想像もしていませんでした―ある意味青春


花 - ORANGE RANGE(フル)

▶いやー、笑った!爆笑青春三部作!そして、「がむしゃら」「アニメ」「涙もろい」は、50歳を過ぎた今もまるっきし変わってないじゃん★…ある意味まだまだ青春?(笑)
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【レポート11】H.R(1971~) わたしが音楽で感じる「感傷的」には2つのイメージがあって、その①が「あのころ(数年前)が懐かしい、戻りたくても戻れない、切ないなぁ」というもので、伝説のロックバンド、Red Hot Chili Peppers『Californication』を選びました。愛車でのドライブ時に音楽は欠かせませんが、特にこのアルバムを聴くと、ノスタルジックな想いになるのです。全15曲、すべてのメロディ、声、サウンドが大好き❤︎20年以上前に発表されたアルバムですが、今でも、ヘビロテMUSICです。


Red Hot Chili Peppers - Californication [Official Music Video]

②もう一つは「切ない、悲しい映画のワンシーンでかかる曲」=サントラです。お気に入りの2本の映画―『君と歩く世界』('12)アデル、ブルーは熱い色('13)で使用されたLykke Li(リッキー・リー)『I Follow Rivers』。偶然なのですが、2本ともじぶんが胸キュンした切ないシーンに流れていて、強く印象に残っているんです。


I Follow Rivers - Lykke Li (La Vie d'Adèle/La Vida de Adele)

レッチリ!Rの車に乗せてもらって、よく耳にしたわ~。一緒に遠出したときの車中気分が蘇ってきたよ!そしてRが『アデル~』のレア・セドゥに惚れ込んで、イケメンを追い駆けるように注目していた日々も思い出した(笑)。今やレアは、ボンドガールにも選ばれる大物女優。さ~すが、目の付け所に狂いなし!
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【レポート12】Yちゃん(1977~) ①瞬時に私を18歳の夏に戻してくれる真心ブラザーズサマーヌード。若いってよかったな…楽しかったな…と、ノスタルジーに浸ってしまう曲。歌詞に「小さな肩」ってところがあるんだけど、「いいな…こんな風に思われてみたいなぁ…」と、歌に出てくる女の子をイメージしては、ずっと水泳をしていたじぶんの広い肩を「この野郎!」と叩いたものです(笑)。


真心ブラザーズ 『サマーヌード』

②最近、宮本浩次がカバーして話題になった木綿のハンカチーフ。今までは、人でなしの男の歌、女の人がかわいそうだな…と思って聴いてたけど、宮本さんのカバーを聴いたら、男側も悩んで悩んで苦しかったんだろうな…という気持ちが溢れいて、両者の気持ちがわかるようになり、すごく切なくなった。あれ?今2曲を聞き直したら、声質が似ている?もしかしてわたし、この手の男性歌声に弱いのか⁇

f:id:chinpira415:20201220214302j:plain▶ほんと、鼻にかかる声質とぶっきら棒な歌い方、似てる似てる!年齢も近いし。永遠に甘酸っぱい青春の影を引きずってる風だしね(笑)。ちなみに宮本のカバーアルバム、あたしのイチオシは『あなた』です♪
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【レポート13】M.K(1963~) やっぱ「何度耳にしても感傷的になる楽曲」なんて存在しないことが判明しました~。一時の感傷に浸れる曲も、100 回も聴けば飽きてくる…つまり AV と同じ。強いて挙げれば、スナック閉店前の蛍の光ですね~♫


別れのワルツ - 蛍の光

▶オイオイ、手抜き回答だろう~!と、スルーしようとしたら…『蛍の光』をアレンジした『別れのワルツ』は、映画『哀愁』('40)の挿入曲だったわ!この映画の悲恋のイメージが浸透して、商業施設の閉店時に使われるようになったらしい。しかも日本での普及は、朝の連ドラで話題になった古関裕而が一役買ってるって!
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【レポート14ちんぴらの叔母T(1930~) ある日、認知の進んでる90歳の叔母Tが「忘れられない歌が1曲だけあるの…」と言いながら「月の沙漠を~、は~る~ば~ると~♪」と歌い出した時は驚きました。今まで歌の話などしたことがなかった人だから。でもって「最後がね、~黙って~越えて~ゆ~き~ました~♫なんだよ。これは心中する歌じゃないの?」と問われ、歌詞をロクに覚えていなかったので慌てました💦


月の砂漠 - Tsuki no Sabaku

▶『月の沙漠』って御宿の海岸をモデルにした日本の曲なんだね(汗)。異国情緒漂うメロディは最果て感満載で、聞けば聞くほど心細くなったりして、童謡にしては複雑な味わい。叔母はどんな妄想をしてるのかな。
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【レポート15ちんぴら(1961~) オオトリはあたしの1曲。 プロコル・ハルム『A Whiter Shade of Pale(青い影)です。思い出?なーんにもありましぇーん(爆)。世界中でカバー曲が出されているし、CMやドラマで日常的に使われてきた名曲。オムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』('89)でも使われていたな…。ニック・ノルティがあたしの心のダーリンで、ロザンナ・アークエットが最も輝いてた頃の大好きな1本。


From Scorsese's segment in New York Stories - A Whiter Shade of Pale

じぶんはあくまでメロディ優先で、「感傷➡切ないフレーズ探し」みたいな発想しかないけど、どうも世の中的にはそうじゃなかった…(汗)。今回取材して気づいたのは、大半の人がじぶん史の1ページと音楽がリンクして感傷モードに突入するらしいということ。そうか、だから「歌は世につれ世は歌につれ…」なんだね!とりあえずこれからは、眼👀も耳👂も澄まして音楽に触れてみたいと思います、はい(笑)。

 

PS 次回は年明け1/13に初UPします。よいお年をお迎えください―鼻歌でも歌って♫

ツイ感傷的になるあのメロディ~♫ 前篇

恒例のマブダチたちへのアンケート、今回の質問は音楽系― お気に入りの楽曲で「何度耳にしても感傷的になるヤツ」を紹介して!―です。コロナ禍で何かと振り返る機会が多かった2020年、はてさてみんなの耳👂は、どんな物語に思いを馳せたのでしょう―。

f:id:chinpira415:20201202094803j:plain【レポート1】(1973~) ジャン・ジャック・ベネックス作品『ディーバ』('81)Vladimir Cosmaからです。タイトルが「Promenade sentimentale」なので、今回のお題にぴったりです。映画の中で、ジュール青年が躊躇いながらオペラ歌手シンシアの肩にそっと手を置くシーンが…切ない。大好きなシーンですが、ある人からするとCMみたいだと…(汗)。人によって感じ方がやっぱり違いますねぇ(笑)。


Vladimir Cosma - Promenade Sentimentale (extrait de "Diva")

『21世紀音頭 』佐良直美 この夏実家で、「今年はどこもお祭りもできないし大変だね」と話していたとき、子どもの頃の盆踊り大会を思い出し、母に教えてもらったのがこの曲です。ああ、確かにこの曲、流れていたな…と思い出したのですが、歌詞を全く知らなかったので、YouTubeで調べました。私の生まれる前の曲ですが、高度成長時代を感じさせ、社会がポジティブな雰囲気に覆われていたのに驚きです。昭和を思い出し、私も小さい頃があったんだなぁと…。目下、私のヘビロテ曲になってます。


二十一世紀音頭 佐良直美

▶『ディーバ』ね~、そして『21世紀音頭 』か~、ヤバイわ~、あたしは両方ともリアルタイムで体感してるわよ(笑)。まさかひとまわり下のFに教えられるとは…!それにしても音頭の歌詞、コロナ禍の退廃ムードで再読すると、無邪気でピカピカの未来図に切なさが倍増してしまった…(涙)。
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【レポート2】K.K(1967~) 思い浮かんだのはこの3つ。エルビス・コステロ『EVERYDAY I WRITE THE BOOK』…自分の心のリズムを取り戻す1曲ですね。そして②高校時代の彼氏との思い出が詰まったレベッカ『フレンズ』と、③なんだかいつもちょっとウルっとくるSMAP夜空ノムコウも!


Elvis Costello & The Attractions - Everyday I Write The Book (Official Music Video)

コステロは声質でもうノックダウンだよね~。プロモビデオにダイアナ&チャールズ夫婦のそっくりさんが登場するあたりの皮肉ぶりは、いかにも英国風。でも若い人には、もはやダイアナ姫がわからない?(笑)
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【レポート3】Aくん(1963~) まずは①アリス『センチメンタルブルース』。初ヒット曲の「冬の稲妻」が入ったアルバムの中の地味目な曲。ふられた男同士が慰めあいながら飲むという詞。高校生だった当時、この曲に出てくる男が、カッコいいオトナのイメージで、自分もこんな感じで酒飲んだりしたいなあと―。②やっぱサザンからも一曲。『逢いたくなった時に君はここにいない』。NY駐在員の92年、死ぬほど寂しい日々に、毎日この曲の入ったアルバムを聴いてた。当時の自分としては感情移入しやすい楽曲で、昔の彼女達をアレコレ妄想しながら聴いてたなあ…。


センチメンタル・ブルース アリス

それと洋楽から③ホワイトスネークIs this Love。ハードロックバンドのしっとりしたバラード曲。ほとんど聴かないバンドなのに、この曲のメロディがめちゃ好きになり➡就職で上京し➡MARUIで留守録機能付き電話を買い➡「ただいま留守にしております」のBGMにしてました!


Whitesnake - Is This Love (Official Music Video)

 ▶さーすが男子は想い出に生きてるわね!エピソードと楽曲が一体化して➡速攻で脳ミソスクリーンに自分史を上映してるかんじ(笑)。ほぼ同世代のAくんの70~80年代は、じぶんとは全く異なる体験時間なんだけど、音色にはありありとあの時代の空気が流れていて、妙に懐かしい~。
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【レポート4】ちゃん(1963~) 私のお気に入りの曲はBay City Rollersの『SATURDAY NIGHT』です♪ 当時中学1年生。ラジオから流れてきたpopなメロディを聞いてBCRの熱狂的なファンになった私。放課後、友達の家で一緒にLPを聞いたり、春日井の西武で行われたフィルムコンサートに行って、お気に入りのメンバーと同じタータンチェックを身にまとい、歌い、踊った!この曲を聴くと、あの頃の情景が次から次へと浮かんできます。10代キラキラ時代の幕開けね!その後BCRを卒業した私は、Queen,Cheap Trick,Japan,Duran Duranと、ミーハーロックな10代を過ごしたのでした!


Saturday Night - Bay City Rollers

▶Aくんと同じ年の女子、Yちゃんの70年代はミーハー魂全開!あたしはこちら方面にもノレませんでしたが(汗)、少女漫画風な華奢で綺麗男子の登場は、もしかしたら世の中がジェンダーフリーに向かう最初の一歩だったのかも!何よりこのストレートな明るさが、鼻の奥をツーンとさせるぅ~。
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【レポート5】Bやん(1976~) エリック・クラプトンの『Tears In Heaven』です。オールナイトニッポンのエンディングテーマ。高校生の頃、夜更かししてユーミンとか福山のオールナイトニッポンをよく聴いてたから、若い頃の自分を思い出すんだよね…。


Eric Clapton - Tears In Heaven (Official Video)

▶高校生で『Tears In Heaven』(汗)。なるほど、90年代に青春を過ごすってそういうことか…。成熟というよりすでに老成?無意識に耳にしていた時代の流行曲は、人格形成に少なからぬ影響があるだろうな。
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【レポート6】Hさん(1960~) 例えば西島三重子『池上線』。池上線は東京のちょっとゴチャゴチャした下町を、チマチマと停まりながら終着駅(意外と近い)目指して走っているから良いんでしょうね。これが、京急なら高速で通過して行ってしまいそうだし、小田急なら温泉に行く行楽客の浮かれた雰囲気になりますし、かと言って西武なら埼玉の山間部に連れて行かれちゃうしってことで、この裏寂れた感の中で、若い二人が何故か言葉少なに別れてしまう感じが丁度良いのでしょう。ちなみに、私は着信音をこの曲にしていた時期があります。自分で音符を入れられた機種だったので―。


池上線  西島三重子

▶感涙に浸るような歌はないけど…と言いながら、「歌唱力」と「歌詞」を選択基準に20曲(!)ばかし送ってくれたHさん。あたしには当時『池上線』ってどこよ?ってツッコミながら聴いていた思い出が―(笑)。今回Hさんの傑作解説で、45年経てようよう歌詞の背景に近づけましたあ~。

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 【レポート7】M(1979~) ①大学4年生の夏にホームステイしたカナダ・プリンスエドワード島で、ホストファミリーと歌った曲『カントリー・ロード』。当時60代のホストファザーとマザーが奏でるギターと、語学学校の友人が弾くピアノに合わせてみんなで合唱。飛行機3便乗り継いで、丸一日かけないと行けない島だから、なかなか会いに行けなくて―。あれから20年…聞くと切なくなる曲です。


Country Roads (John Denver) Strum Guitar Cover Lesson with Lyrics/Chords

②ちなみにダンナはサザン『心を込めて花束を』だそうです。若い頃の自分が歌詞に重なるみたい。実際、私たちの結婚式の花束贈呈にも使った曲です。

f:id:chinpira415:20201202172134j:plain▶教科書に出てきそうな曲だから、多くの人が歌った覚えがあるだろうけど…飛行機3便乗り継いで、丸一日かけないと行けない島での体験って!!!スペシャル感ハンパないな~。映画のワンシーンみたい。そして桑田さんは、男子が泣くのを許すメロディーメーカーだね。

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【レポート7】K(1962~) ♪それは誰のせいでもなくて あなたが男で、きっと誰のせいでもなくてわたしが女で~♪…この2フレーズをもう何十年も歌い続けてる。何のエピソードも無いんだけど…。酔っぱらってたり、何か口ずさみたい時、ちょっぴりおセンチな気分の時なんかにチャリンコ乗りながら歌ってる。誰もいない夜道でね。この2フレーズだけ。だってここしか覚えてないから。ずっと大瀧詠一かな?…と思ってたら、今回調べてびつくりぎょーてん(汗)。五十嵐浩晃の曲だった。①『ディープ・パープル』


五十嵐浩晃 - ディープ・パープル

②もう一曲、Black Pumas 『Colors』。初めて聞いた時、めっちゃタバコが吸いたくなった。また絶対吸うたる(何年も禁煙中💦)。その時はこの曲を聴きながらだ(笑)。もちろん酒も。ビール派の私だがこれは洋酒のがよいわ。今年最もYouTubeで聞いてる。体が揺れて好きだな~。他の曲もイケてる!


Black Pumas - Colors (Official Live Session)

▶タイトルも歌手名も知らずに、なぜか鼻歌に出る曲ってあるね!今やネットのおかげで何でも判明するが、実はわからなくても平気だったりする。でもこの2曲、ビジュアルも時代も全く違うのに、意外にも泣きのメロディ感触が近いような…。つまりKの好みが40年のつきあいでようやくわかり始めたってことか?(笑)

 

PS 「ツイ感傷的になるあのメロディ~♫ 後篇」は、12/29に更新します

 

秋の伊賀🏯漫喫帖

じぶんちにはまるで関心がわかないのに、よそんちのファミリーヒストリーにはなぜか鼻👃をクンクンさせるちんぴらです。この秋、20年以上つきあいのあるヨガの先生のMさん生誕の地、伊賀市へ足を延ばし、日帰り散策を満喫してきました~♫ いわばファミリーヒストリー現地体験版。小旅行ガイドとしても活用できます、どぞー

f:id:chinpira415:20201114122847j:plainまずは名古屋駅から近鉄特急で伊勢中川まで行き、大阪線に乗換え伊賀神戸へ。ここのところ近鉄に乗る機会が続いてて、改めて車両デザインを見直したけど、マジにタマラン👍 脚乗せバーはもちろん、金属のあしらい方がかつての近未来的でスキスキ

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そして愛煙家にはヨダレものの喫煙室!どの座席よりも贅沢な車窓独り占め空間にウットリ。のぞみのちっこい窓から眺める景色とはダン違いよ~。さ~すが近鉄

f:id:chinpira415:20201114141444j:plain伊賀神戸に到着後、今度はかつての日本的旅情誘う列車の旅へガラッと衣替え。手作り感満載の単線のローカル線・伊賀鉄道(なんと乗車券は車掌さんが社内を回って販売。しかも手書きチケット👀)に乗換え、1区目の比土駅で下車します。

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四方を低丘陵で囲まれたのどかな田園風景を眺めて歩くこと10分、『城之越遺跡(じょのこしいせき)へ寄り道です👣この画像の↓こんもりと木々が茂る辺りが目的地~♫

f:id:chinpira415:20201114150116j:plain入口に立つとこんな眺め。手入れの行き届いた公園の趣きね。そのまま奥に進むと…

f:id:chinpira415:20201121105032j:plainそこには水が湧き出る3か所のポイントと大溝があって、どうやら古墳時代前期に「水の祭祀」が執り行われた場所だったと考えられてるみたい。 あとさー、流路に沿って石を立てたり貼り付けたりしてあるでしょ。今から1600年も前に石を使った造形美を生み出している点が珍しいらしく最古の日本庭園遺構とも謳われてるの。

f:id:chinpira415:20201121105204j:plain確かにこの石組みは現代に通じる気がするよね。特にうねった曲線の流路がステキ周囲を低い山々に囲まれた小盆地に、突如現れる水の祭祀場、上空写真でどぞー!

f:id:chinpira415:20201121115456j:plain訪問時大平和正(1943-)という彫刻家の作品が遺跡庭園内に野外展示中だったの。中には大掛かりだったり、金属が使われていたりする作品もあるんだけれど、なぜかスッと大地に馴染み、悪目立ちしてないんだよね。ずーっとずーっとその場所にあって、作品群も共に呼吸しているような…これも城之越の包容力なのかな…。ええ塩梅でした。

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ってなわけで遺跡探訪の後、もう一度伊賀鉄道に乗り込み、いざファミリーヒストリーの地へGO。比土の田園風景から北へ向けて乗り進むと、見る見る間に車窓は街中の景色に様変わり。大正11年に建てられたロッジ風とんがり屋根がカワイイ上野市駅に到着です。市町村合併で正式には伊賀市となったけど、住人の愛着が強く、駅名は上野市のママなんだって。ただし、営業目線で「忍者市駅」は許したってことか(笑)。

f:id:chinpira415:20201121144514j:plainさて駅から一歩外に出ると…さーすが城下町は道が掃き清められていて清々しい!地方の城下町を歩くと住人の矜持が隅々まで表れていて実に興味深いわ~。町は三つの天守閣を持つ伊賀上野城を中心にして、外堀に沿って学校や武道場が並び、現在も文武両道の志がまるっと健在。やっぱ上野住民にとっては、お城が絶対的な求心力になってるね。お城を見上げながらの生活様式は、きっと住人の美意識にも影響してるだろうな。

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ちなみに県立上野高校の校門を見てよ!ここを毎日くぐり抜けて登校してたら、そりゃあ背筋も伸びるってもんでしょう。ダラダラ高校生だったあたしとは大違いだわ💦

f:id:chinpira415:20201124104543j:plainこちらは藩士の子弟を教育するために建てられた『崇廣堂』。多くが創建時(1821)のままの状態で残っているらしいんだけど、Mさんが子どもの頃は建物自体をそのまま市立図書館として開放しており、毎日のように立ち寄るスポットだったらしいの。史跡が図書館なんて…何とも贅沢な話じゃないの~

f:id:chinpira415:20201123124915j:plain重厚さと解放感を併せ持つ空間。入母屋造がキリリと美しい

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続いて上野高校と『崇廣堂』の間の坂道をのぼると、築城の名手・藤堂高虎(1556-1630)が本丸の西に築いた日本一の高さを誇る石垣が目の前に!ほ~っ、これはこれは…

f:id:chinpira415:20201124110858j:plainマニアでもなんでもないけど、この迫力、テンション上がるな~♫力強さにプラス優雅さも漂ってるよね。黒澤明(1910-1998)の『影武者』('80)にも使われているんだって。

f:id:chinpira415:20201124110802j:plain今回あたしたちは城の西側の坂を上って裏手から城に入るコースをチョイス。裏側も木漏れ日が美しくて雰囲気抜群だった。Mさんは毎日のように犬の散歩に来てたって。

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登り切ったら初秋の陽射しに輝く伊賀上野城がお出迎え😊思わず目を細める―

f:id:chinpira415:20201124113412j:plain先に見上げた高石垣から下に見下ろすと…見晴らしは絶景だがさすがに足がすくむ💦上野の城下町が低い山々に囲まれた小さな盆地にあることがよくわかる眺望です。

f:id:chinpira415:20201124115750j:plainそんな中「えっ、なぜここに?」と足を止めた石碑が―。そっかー、上野は横光利一(1898-1947)が旧制中学時代を過ごした地なのね!だから親友の川端康成(1899-1972)が彼を偲んだのか…。実は高山文彦(1958-)『火花―北条民雄の生涯をたまたま読んでいたところだったの。ハンセン病と闘いながら、川端の手厚いフォローで数々の名作を著した早逝の天才作家・北条民雄(1914-1937)を描いた傑作ノンフィクションで、横光の登場シーンも出てくるのよ。日本文学の青春つながりを城のてっぺんで目撃するとは…運命的!

f:id:chinpira415:20201124122708j:plain現在の天守は、1935年に地元の名士が私財を投じて純木造で再建したもので、住人一丸となって取り組んだらしい。Mさんの亡き祖父も馳せ参じたんだって~。城下町住人の心の拠り所だから、一肌脱ぎたくなったんだろうね。ただ、どこの城下町もこの先どう維持するかはきっと難題だろうなあ…。お金、技術、何より心意気問題が…💦

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お城に隣接する上野公園には、松尾芭蕉(1644-1694)の生誕300年を記念して建てられた『俳聖殿』が―。この地に生まれた芭蕉の、それも旅姿をイメージした八角Mさんが上野で一番お気に入りの場所とか。いや~、なかなかオツですよ。旅に生きた漂泊の詩人がひっそり佇んでる風で、滋味深い。設置場所も◎ですね~👍

f:id:chinpira415:20201124144754j:plainどうもこの地は「城」芭蕉「忍者」の3本柱を宝物にしている模様です。

f:id:chinpira415:20201126100337j:plain実は、Mさんから毎年10月に開催される上野天神祭に誘われていたんだけど今年は中止(涙)。そこで400年以上も続く祭りの雰囲気だけでも少し味わおうとだんじり会館』を見学したら…びっくり!忍者ではなく鬼が練り歩く祭りらしいのよ~。それもけっこうおどろおどろしいお面でさー、鬼滅よりそそられました(笑)衣装も気になる👀

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そうそう、お昼ごはんはMさんとなが~いお付き合いがある日本料理店『伊勢之家』さんでいただきました🍚丁寧な仕事、ゆったりくつろげる個室、名古屋で食べるよりうーんとリーズナブルで美味しかった~~。調子にのってご飯おかわり!(笑)

f:id:chinpira415:20201127224742j:plainMさん城下町のど真ん中にあるお寺の出身。公共性や奉仕の精神を、ごくフツーに育んできてる人だとは常日頃から思っていたけど、今回生誕の地を一緒に歩き、城下町の矜持も遺伝子レベルで受け継がれている気がしたなあ…

f:id:chinpira415:20201127235145j:plain帰路三重交通高速バスで名古屋まで直行。これまた行きとは趣きがガラっと変わり、一粒で二度美味しかった~。よそんちのファミリーヒストリーの1ページを堪能した小旅行…とても日帰りとは思えないほど充実しまくりでした

PS 次回は12/13に更新します

 

勝手にシネマ評/『のぼる小寺さん』('20)

内容はもちろん、タイトルもろくすっぽ見ないまま劇場に駆け付けた『のぼる小寺さん』。それでも幕が開いた瞬間、「へぇー、小寺さんって子が、本当にのぼる映画なんだあ~」と、最短であたりがついた。だって笑っちゃうくらいタイトルのマンマなのだから

f:id:chinpira415:20201110091607j:plain開口一番、小寺さんと呼ばれる白目のきれいな女の子が、ボルダリング競技に挑んでいる。傍らには、彼女の背中を見上げて、声援を送る仲間たちの横顔が並ぶ。ボルダリングに多少の現代性はあるものの、正直言って眼にタコができるほど見慣れた競技中継フォーマットだ(汗)。そんな小寺さんに、ひときわ熱い視線を送るのっぽの男子を、カメラがスッと抜くあたりもお約束。この後のカップリング予測までつきまくりだが…それで大丈夫?

f:id:chinpira415:20201110091815j:plainそして何と驚くべきことに、これが映画のすべてだからかえって潔い。だったら10分で終わるって?そう、『のぼる小寺さん』は、映画の骨組みを10分で開示し、残り90分で観客を“小寺マジック”にかけようという狙いなのだ。しかもマンマとその通りにのせられるから困った。まさか還暦前のババアが、学園ものにスンナリ溶け込めるとは…苦笑するしかない。

f:id:chinpira415:20201110092120j:plainさてそんな、“小寺マジック”とはなんぞや―。高校のクライミング部に所属している小寺さんは、クライマーに憧れ、ボルタリングに熱中する毎日。当然のことながら我々は、好きなことにひたむきに取り組む彼女を映画の主人公にして眺めるのだが、すぐに勝手が違うことに気づく

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意外にも小寺さんは主人公ではない。常に物語の中心に存在はするが、あえて例えるならその役目は「背景」なのだと気づく。そして、アイドルの放つ天然の輝きを、ダイレクトに映画の「背景」に使った点が本作の新しさなのである

f:id:chinpira415:20201110092454j:plain実は『のぼる小寺さん』の主人公は、冒頭に登場した応援団の側であり、何と4人もいる。まずは、あののっぽの男子近藤。クライミング部の隣でチンタラ卓球の練習をする彼は、小寺さんの一生懸命な姿が気になってしょうがない。暇さえあれば彼女を眼で追い、「なぜ登るのか…」と、じっと見守る。はい、古今東西を通じて、それを恋と呼びますね。

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もっとわかりやすく小寺さんに近づく男子も登場する。いかにも運動が苦手で場違いな印象の四条は、小寺さんを追い駆けてクライミング部に入部。憧れのキミに並べるようコツコツ練習に励む。気弱BOYは体当たりで思いを伝える作戦に出るようだ

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小寺さんに夢中になるのは男子ばかりではない。カメラマン志望のありかは、こっそり小寺さんを被写体にしているうち、撮影の楽しさに目覚め始める。誰にも打ち明けられず、独りで紡いできた趣味の世界が、徐々に形を変えて行くから面白い。

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まともに登校せずチャラチャラ遊び歩いてる梨乃も、小寺さんのふんわりとしたリアクションにはなぜか自然に打ち解けられる。マメだらけの小寺さんの手に、得意のネイルをしてあげたりして、カッタるい彼女の毎日にちょっぴり彩りが蘇る不思議さ

f:id:chinpira415:20201110225939j:plain…とまあ、ある日偶然小寺さんを見つめるようになったクラスメイトたちが、あれよあれよという間に小寺さんに魅せられ、勝手に自己変革を遂げて行くのである。ある意味恐ろしい(汗)。神がかり的と言ってもイイ。だから“小寺マジック”

f:id:chinpira415:20201110230516j:plainところがそのメソッドは、まったくもって小寺さんの意図せぬものだから、再現性はなく、「なんでやねん?」の連続である。美貌、知性、リーダーシップ力etc…小寺さんはおよそ何も発揮しない。カリスマ性ゼロ。ただ、無垢な塊と化し、来る日も来る日もひたすらその先に向かってのぼり続けるだけだ。何よりじぶんが嬉しいから―。

f:id:chinpira415:20201110230606j:plain 一方でなぜ小寺さんはスクールカーストの枠外にいられるのだろう…そんな難問も浮かぶ。クライマーになりたいという夢が拠りどころになっているのは一つの要因。でも、個に執着してやり過ごせるほど学生生活は甘くない。じぶんを盛るのも消すのも、匙加減ひとつで状況が激変する狭い世界だ。

f:id:chinpira415:20201110231013j:plainなのに小寺さんはそんな悶着とも縁遠い人として映る。独りてっぺんに上がっても、地上に降りて他者とまみれても、どんなシーンでも彼女はものさしを持たずに挑み、出し惜しみなしの全力投球。そもそもじぶんの着くべき座を意識していないため、彼女から発せられるものすべてに濁りがないのである

f:id:chinpira415:20201110231111j:plain小寺さんの輝きに引き寄せられた人々が、体内化学変化を起し、じぶんの知らないじぶんを発見してゆく下りは、映画ならではの贈りもの。そのために、“小寺マジック”をいかにあってほしいウソに仕立てるかは、作り手の腕の見せ所だろう

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放課後の解放感、学祭の共同性、校内を吹き抜ける風、試合前の張りつめた空気…学び舎の記憶を醸成させるスケッチの数々が素晴らしくみずみずしい。行き届いたディティールのパッチワークがあってこそ、観客の望むウソでもてなしができるのだ。あっ、そこで忘れちゃならない!工藤遥ボルダリングを、伊藤健太郎が卓球の猛特訓を受け、本人の実演で撮影に挑んだアクションの厚みが、一番の勝因だということを―。

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そのうえ最後に用意されたエピソードがいいじゃないの~!無自覚にキラキラしてる小寺さん、みんなに見られるばかりだった彼女が、「僕を見てくれ!」とお願いされる夏の放課後。近藤に直球で告げられた小寺さんは、長い沈黙と共に、そこで初めて映画の主役の1人になるのだった―。

f:id:chinpira415:20201110232216j:plain古厩智之作品との付き合いは長い。すでに四半世紀になる。タイトルも覚えずに劇場に足を向けるほど、監督への信頼度は高い。劇中、「がんばれ!」が何度もこだまするのに、まったく胃もたれがしないのは、この監督が勝ち負けや英雄譚を気に留めない作り手だからだ。それでいて、登場人物全員のきらめきだけは脳内にいつまでもリフレイン…。腕のいい群像劇の職人監督、引き続き、定点観測させていただきます!


工藤遥と伊藤健太郎共演!映画『のぼる小寺さん』本予告

『のぼる小寺さん』

2020年/101分/日本

監督            古厩智之
撮影       下垣外純
脚本       吉田玲子                             音楽    上田禎                             
出演       工藤遥  伊藤健太郎

PS 次回は11/29に更新します