サクッと大阪✑備忘録②

さてさて前回に引き続き、「サクッと大阪」後半戦のレポートです!

おとろえぬ情熱、走る筆。『ピエール・アレシンスキー展』

▶『クラーナハ展』と同じ国立国際美術館で、もう1企画チェックしたのが『ピエール・アレシンスキー展』。なんと、今年90歳を迎えるベルギー生まれの現役ペインターの大規模回顧展です!わたしもこれが初対面。どんな爺さんがお出ましになるのやら~。でも、いつだってどんなジャンルだって、予備知識なくまっさらな状態で遭遇するのは、一等好きよ♪

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クラーナハが妄想絵画だとしたら、こっちは身体絵画になるのかな…。つまり作品から作家の身体性が横溢して見えるわけです。じゃあその身体性はどんな形で浮かび上がってくるかというと、アレシンスキーの場合、ズバリ“線”なんですね。初期の小さな版画宇宙から始まって、様々な表現方法にトライしてますが、自由でノリノリな筆致をながめる楽しさが作品に溢れかえってます。手から筆がハエて生まれてきたんじゃないか?ってくらいの勢いなのです(笑)。「移動」(1951) この絵、よかったなあ…。

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「見本」(1979)

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▶彼の画風は、ザックリ言えば抽象絵画という括りになるんだろうけど、コマ割りみたいに分割して世界を捉えていたり、目を凝らすと1枚の絵に様々な技法がコラージュされていたりして、絵の中に複数の物語がうねり、アクセルとブレーキを同時に踏み込んでいる印象も受けましたね。絵は物体だけど、その絵を何とか動かせてやろう、絶えず変化するよう描いてみせよう!―と、試みている風に映ったのです。とはいえ、けして無邪気さだけで走ってるわけでもなく、知性を湛えた広がりも感じられました。

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 ▶またひと頃、日本の前衛書道に魅せられて、「日本の書」という記録映画まで撮っていたらしい…。会場の片隅で流れているので、ぜひチェックしてみてください。若かりし頃の篠田桃紅女史が映画の中に登場しています。何せ彼女も103歳の現役アーティスト(汗)。墨と親しくなると長生きするってことでしょうかね(笑)。

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写真家・楢橋朝子 『NU・E』展

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 ▶さてお次は江戸堀のThe Third Gallery Ayaにて楢橋朝子を拝見!楢橋さんは以前我がブログでも紹介したご贔屓写真家。なんとラッキーなことに、わたしが未見の初期のシリーズ『NU・E』(1992-1997)から、新たにセレクションしたヴィンテージプリントを展示すると聞きつけ、いそいそと出かけて行ったのであります。ブラボー、大阪!

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▶まずタイトルの『NU・E』とは、鵺(ぬえ)のローマ字表記。鵺は、日本に伝わる伝説上の妖怪のことですが、つかみどころがなくて正体のはっきりしない人物や物事を例えるときに用いたりもします。あと余談ですが、鵺からわたしが連想するのは花輪和一の漫画。漫画狂のマブダチKちゃんの熱い勧めにのって、花輪の「鵺」を読んだ日のことは生涯忘れられません…。脳天が破壊されました…けして万人にはお勧めできませんが…(汗)傑作です。

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▶で、待ちに待った楢橋さんの『NU・E』。やっぱどこを切っても鵺でしたあ~。なんて言ったらいいのか…写真の中に生き生きとした死体が転がってるというか、死に損ないの日常を目撃するというか…。アンビバレンツなものが想起されて、動揺しまくりましたね。もちろんいい意味で!しかもニヤっと笑えるの~、素晴らしい★ 写真は静止した時間を切り取るメディアだけど、その寸止めゆえの底無しのまぼろし感に、エロティックな興奮も覚えました。

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 ▶楢橋さんの写真を知ったのは2000年以降ですが、それ以前にこんな魑魅魍魎な世界を炙り出していたと知り、じぶんが彼女の作品の何に魅かれているのか、すごーく腑に落ちた展示でした。楢橋さん、特にあの大阪の白日夢のような“虎”の写真は、田中昇監督の傑作『㊙色場めす市場』連想したりして、シビれました~!引続き、追っ駆けさせていただきます!

 

神品降臨!『青磁水仙盆』揃い踏み

▶さーて、「サクッと大阪」もいよいよ大トリ。東洋陶磁美術館の特別展、『台北 國立故宮博物院北宋汝窯青磁水仙盆(ほくそうじょようせいじすいせんぼん)』でございます。まさに真打登場(笑)。なーんて、少々大げさに煽ってみましたが、青磁が吟味できるほどの好事家でもないちんぴらは、「人類史上最高のやきもの 海外初公開、初来日」との惹句にウケて、足を伸ばしてみたに過ぎません(汗)。そもそも最近の美術展の広宣関係は、いささか煽りがエグくて鼻白むこともしばしば。まあ、行政のフラットすぎる仕事ぶりには常々呆れてはいましたが、動員目標を課せられた果てに極端に攻勢に転じるのもどうかと思いますよ、まったく。サブコピーが「もう、二度と出会えかもしれない。たった6点、世紀の展覧会。」なんですから(笑)。バブってんなぁ…往年の西武セゾングループの戦略みたい(苦笑)。

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で、本当に小さなお部屋に6点だけ並べての特別展。どこかの小金持ちの居間にお邪魔したサイズ感ですわ(爆)。しかも、そこに並ぶのは、「おいおい、これのどこが違うんかいっ!教えろよぉ~」と突っ込まずにはいられないほど、6点すべて薄青いカレー皿に脚がついてるようなフォルムで…(汗)。チラシをご覧ください。「無印良品」?それとも「ニトリ」のパンフ?と尋ねる人も少なからずいるでしょう(笑)。

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▶とはいえ、ここには6点の小さな器が並んでるだけだから、いちおうゆっくり深呼吸しながら、見て歩く…解説も読まず見て歩く…。するってーと、脇の下から汗がにじんでくるわけです(汗)…マジに。神品降臨にウソはなかったんですよね。降参しました、はい。こーんなに疑い深いわたしが、あっさり白旗をあげちゃいました。

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 ▶中国北宋時代(960~1127年)に、宮廷用の青磁を作っていた汝窯は、雨が降った後の空の色を見立てた天青と呼ばれる釉色を追及していたとか。その汝窯の最高傑作が「青磁無紋水仙盆」。この他、北宋汝窯の青磁水仙盆4点と、清朝の皇帝・乾隆帝が「青磁無紋水仙盆」を真似て作らせた景徳鎮官窯の1点を集結させて、今回の展示が構成されています。

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▶はてさて、どの娘が一番べっぴんか?―と、さながら飾り窓をのぞくオヤジ状態で身を乗り出して眺めていたら、たまたま並んで見ていたホンモノのおっさん(リタイアして悠々自適な佇まい…おっさんと言うより小津安二郎映画に登場しそうなビジュアルのオジさま。「サライ」読んでそうな…「美の壺」とか見ていそうな…笑)が、「キミはどれがお気に召したかな?」「こっちの色とあっちの色とどっちがお好み?」と話しかけてきたりして(新種のナンパか?笑)、さーすが関西人、その場が妙に和んで楽しかったですぅ。でも何度見返しても「青磁無紋水仙盆」は別格!だって、器そのものが発光体になってんですよ~。ウブな光を放ち、色っぽいったりゃありゃしません。ウソだと思った見に行ってください! 特別展「台北 國立故宮博物院北宋汝窯青磁水仙盆」は3/26(日)まで開催中です。


特別展「台北 國立故宮博物院―北宋汝窯青磁水仙盆」予告動画(2分)

 

▶特別展は6点ですが、東洋陶磁美術館の所蔵品は、ハンパじゃないですから!平常展だけでも、陶酔の連続で、あっという間に2時間経ってしまう…(汗)。惚れ込んでる作品はいくつかありますが、強いて言えばこの2点!「飛青磁 花生(とびせいじ はないけ)」(14世紀)「鉄砂 虎鷺文 壺(てっしゃとらざきもんつぼ)」(17世紀)。花生は、国宝であります★日本一奥ゆかしい国宝ですよぉ~。わたしはこの娘を見る度、樋口一葉を思い出すのです。でもって鉄砂で描かれた虎の方は、こいつをトレーナーにプリントして身に付けたいと…。業が深くてスイマセン(ぺこり)。

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▶厳冬の2月の平日に行ったせいもあって、どの展示も客はまばらで、名品独り占め鑑賞。あー、極楽極楽♨ The Third Gallery Ayaの前にあった昔ながらの喫茶店に入って、一服する時間も至福でした♪ 久しぶりの大阪、ぬるエロっぽい作品の数々、ぜーんぶブラボー♫ 

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PS 次回は3/12にUP予定です