テオ・ヤンセン展と“ティンカリング” PART 1

【“ティンカリング”って知ってる?

ある日。図書館で何気なく手に取った1冊の本―『THE ART OF TINKERING(ティンカリングをはじめよう)』にはスッカリ魅せられた。貸出延長×2回をもってしても、ワクワクは沈静化せず、「いつかこの中のアイデアを具体化しよう!」と、頭の中に仮置きしておいた。何せひねくれ者のちんぴらゆえ、「ラボ」「サイエンス」「クリーンで知的な遊戯」…そんなイマドキな匂いにはスンナリとはノレず(苦笑)、しばらく寝かせてからトライしようと考えたわけ(めんどくせー奴でスイマセン)。

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だってさー、ティンカリングには理念があるらしいのよ(汗)。ほらこれ―。

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ティンカリングとは何かというと―「実際のものを組み合わせたり分解したりして、実用的なもの、風変わりなものなど、さまざまな目的に合うように作り変える基礎的な技術」(本文より)と書いてある。えっ?つまりありものを活用する工作でしょ、昔からやってるじゃない?なんで工作じゃダメなんだー!と突っ込みましたよ、はい。どうもイマドキの工作は、科学+ART+技術の3本柱を組合せ、試行錯誤を繰り返す中で自らの探究心を育成させようとの目的があるらしい。「教育」機能として注目されているみたいなのよね。ふーん、わかったような、わからないような…。消費社会に対する、ある種のスマートな浄化活動とおいてんのかもね~。まっ、崇高な理念を棚に上げたとしても、単純にこの本は楽しい。例えばこんな作業場風景を目にするだけで、わたしは血が沸騰する!職人の家に生まれたサガですかね~。

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女性フェルティング作家のアトリエもいいわよ。今すぐお友だちになれそうだ(笑)。

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本の構成は、ティンカリング気質を持つ人気作家(自己表現者)たちをピックUPし、お得意のスタイルや技術について具体例を見せながら紹介していくもので、ジャンルが多岐に渡っているところがミソ。ARTよりは普段着で、工芸みたいにお手本はなく、ユルくて自由な風が吹いてるかんじ。だから、ノウハウ本じゃないけれど「これ試してみたいなあ♪」なんて気分に、すぐにスイッチが入るわけ。特にわたしの場合は、今まで封印していた「モノを動かす」という好奇心に火がついちゃったから、さあタイヘン(汗)。

 

【『テオ・ヤンセン展』へGO!】

さて、どうやったらわたし好みの「モノを動かす」が実現できるかなあ…。タイミングよく三重県立美術館でテオ・ヤンセンが始まった。これはもう行くしかないでしょう~♫ さっそく、いつもの大人美術部のメンツで津までひとっ飛び!

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実は『THE ART OF TINKERING』の中でもテオは紹介されているの。でも、ちょっとレベルが違いすぎ(フィッシュリ&ヴァイスも別格。Makerムーブメントの人たちと並列に扱うのは、わたしの中では抵抗があったなあ…。どっちがエライってことじゃなく、やっぱアーティストで勝負している人たちの創造性は跳躍力が高いよ。まずは、この動画を見て―


DVD Theo Jansen "Strandbeest" / テオ・ヤンセン 「ストランドビースト」

な、な、なんだこれは!と椅子から転げ落ちそうになったでしょ?はい、これは「21世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称されるオランダ出身のテオ・ヤンセンが、1990年から制作している風で動く作品―「ストランドビースト」を紹介した映像なの。「ストランドビースト」という名称には、“砂浜の生物”という意味が込められてて、テオが作る“風を食べて動く作品”たちの総称なんだよね。ホラ、他にもこんなに様々な形態の「ストランドビースト」が生み出され続けているんだよ、壮観でしょ(他にもYoutubeには多数の動画がUPされてるよ。ロケーションと音の組合せが絶妙で、ずーっと眺めていても飽きませーん!)。

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でもって三重県立美術館では、「ストランドビースト」シリーズ誕生前のエピソードを皮切りに、彼の構想の軌跡を年代順にわかりやすく展示してるの。テキスト、スケッチ、映像、素材、実物作品、デモンストレーションと…さまざまな角度から、テオの創作の源泉に近づけるという仕立てです

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 次が「ストランドビースト」の基本歩行機構。風だけをエンジンにして歩行する、あの独特の優雅でエロティックな足さばきーまるで砂浜をトゥシューズで可憐に舞う絵❤ーの秘密はここにあり! 

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Scilabによるテオ・ヤンセン機構の解析

展示の中で一番興奮したのは、「ストランドビースト」に使用されるパーツ紹介のボード。近未来の骨格標本みたいでしょ?モノとしても、いちいち美しくて、ウットリ。フェティシズムがそそられたなあ~。

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テオは若い頃から生物の進化に強い関心があって、「ストランドビースト」を人口生命体と位置づけ、絶えず進化させ続けてるってわけ。無料配布されたパンフには、その進化系統樹が掲載されていて、なんだか壮大な叙事詩を目の当たりにするようだった。

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 あとねー、ナイロン製の結束バンドが出回ったことで、イッキに進化に拍車がかかった逸話や、動かなくなった「ストランドビースト」を化石と呼んだり、圧縮した空気を入れたペットボトルを「筋肉」に見立てるセンスとか、ネバーエンディングストーリーを立ち上らせる小ネタのどれもが愉快で上等、心底感服しちゃった。こうしたドラマ性が作品に強い求心力をもたらせているんだよね。もはや単に風だけで動く制作物ではない。人口生命体と呼ぶにふさわしい半ナマな気配にゾクゾクしちゃったわ。

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この日、デモンストレーションを担当していたティム氏の腰にぶら下がった、なが~い結束バンドにも注目したわ❤新種のアクセサリーとして巷で流行りそうではないか(ウソ)。ついでに会場の片隅にあった圧縮空気用のコンプレッサーもパチリ(爆)。

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最後はご本人に登壇してもらいましょう!自身による作品解説をしたTEDがおもしろかったの、オススメです。テオ・ヤンセン:新たな生物の創造 | TED Talk Subtitles and Transcript | TED

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テオ・ヤンセン展は三重県立美術館で9/18(月)まで開催中。この後、沖縄へ巡回するらしいです。めったに見られないこの機会に、ぜひ実物と対面してみて。

 

【オマケ】大人美術部のMが、お盆にダンナの実家の土佐清水へ帰省中、車窓からテオ的な風景を撮影して送ってくれた(笑)。なるほど、風では動かないけどフォルムはテオっぽい?(笑)

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 そして、次回の『テオ・ヤンセン展と“ティンカリング” PART 2は、ついにわたし好みの「モノを動かす」に初挑戦★お盆休みに繰り広げられた血と汗と涙の(?)の制作レポートをお送りいたします。乞うご期待!

 

PS 次回は9/3にUP予定です