ぜんぶ上等、Tara Books🌲

南インドの小さな出版社Tara Books(タラブックス)。とんでもなく美しい本を作っていると評判の出版社の全貌が、この春【世界を変える美しい本】と題して刈谷市美術館で紹介されました。終了したイベントですが、想像以上に発見が多く、引続き注目して行きたいチームなので、ザックリ共有しておきますね~♪

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そもそも美術館が、現在運営中の一民間会社の活動にスポットを当てるって珍しいことじゃない?そう、Tara Booksを一言で説明するのはちょっと難しい…(汗)。でも鑑賞後は、美術館で紹介するのにふさわしい対象だなあと、スッと腑に落ちたの。まず2人のインド人女性、ギータ・ウォルフ(写真右)V・ギータが偶然出会い、意気投合したのが事のはじまりです🌻

f:id:chinpira415:20180703232004j:plainふたりは交流を深める中で、“インドらしさを盛り込んだ子ども向けの本がないから、一緒に作ってみよう~♫”という話になり、1994年に会社を設立。早々、海外のBOOKフェアに、シルクスクリーンで印刷した2ページだけのサンプル本を初出品しました。それが、古いインドの民話を下敷きにした『はらぺこライオン』。するってーと、なんとカナダの出版社の目に留まり、いきなり8000冊の大量発注が舞い込んだんだって!わぉ~

f:id:chinpira415:20180709224729j:plain『はらぺこライオン』

“ 無欲の勝利”とでも言ったらいいのか…。ふたりは、ハンドメイドの本を作るのが夢だったわけではなく、ましてや事業計画などないも同然だったみたい(汗)。しかも、「サンプルと同じように手漉きの紙にシルクスクリーンで!」とのオーダーを受け、そこではじめてどうやって作るかを考え(笑)少人数のチームを立ち上げ仲間の力を結集して作業にあたり1年かけて無事納品完了したのでした(パチパチパチ)。でもこれだけで終わらないのがTara Books!

f:id:chinpira415:20180711225235j:plain1995年に出版された『はらぺこライオン』は、Tara Booksにとって重要な1冊となりました。①資金ができ、②土地を買って制作拠点を築き、③じぶんたちの得意なことが見定まり、④高い技術力をもつ職人たちとの協同作業に道筋が生まれ、⑤ハンドメイド本の製作を発展できるようになったと―。ほんの偶然のスタートとはいえ、意を決したときの集中力を想像するだけで、すんごくワクワクしちゃう話よね😊

f:id:chinpira415:20180714122307j:plain さらにふたりは言います…『世界を変える美しい本』より

  • 私たちは仕事をしながら学んでいったのです」と―。
  • 「世界のどこにも、アーティストによる本を、この品質で、この価格でつくれる出版社はないと思うんです。これこそが私たちの目標でした。…」
  • つくり手にとって公正であり、読者にとって良いものであること、このバランスを保ちたい。それが私たちの本づくりの背景にある考えです。」


Do! - A Book by Tara Books

幸運なめぐりあわせに浮き足立たず、すぐにじぶんたちの理想とする持続可能なしくみを整え、具体的に動かしたのは驚きです。グローバル化した現代でこそ、こうした社会性のある高い視座を理念に掲げる企業は多いけど、未だ実情は絵に描いた餅じゃない?結局は日々売れたもんが勝ちのサバイバルゲームを繰返してるよね?ではなぜ、Tara Booksは絵にかいた餅にならず、20年以上も同じスタンスで走り続けられているのか。

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今回の展示に、そのヒントになるカギはたくさん見つかりました。ただし「ここがスゴイ!」と感服するポイントはおそらく人それぞれ。そのくらい新しい試みに絶えず挑み続けているチームなんです。いうなれば決定打を必要としない点がTara Booksの強さだと思いましたね。そのうえ彼女たちは、一般的な意味での“成功”という概念から、もっとも遠いところにいる気さえしたんです

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ふたりはこんな発言もしています…『世界を変える美しい本』より

  • 「私たちがインドで初めて民俗芸術で本を作ったと言っていいでしょう。…彼らを対等なパートナーとして出版界に引き入れたのは、私たちが初めてです。
  • 彼ら(民族芸術家)にも確固たる世界観があると認識することが大切

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  • 「私たちが扱う分野はとてもとても幅広いんです。私たちが好きなもの、敬意を持っているものを出版しています。」
  • 「ただ、絵を眺めて読み捨ててしまうようなものにはしません。どんな考えから生まれた本なのか分かるようにします。」
  • 明確な価値観を持った本を作りたいのです

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  • 「本の形そのものにも何かがあるのです。表紙と裏表紙の間に世界のすべてがある。本を開くと、別の宇宙へと連れて行ってもらえます。」
  • 「本という形には、さまざまな労働が集約されています。」
  • 「出来上がった本と同じくらい、つくるプロセスが重要なのです。時間が必要です。急いではだめ。」

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  • 「私たちにとっての挑戦は、どうやってアイデアを実現させるかということなんです。博士論文とは違います。本が出来たら終わりではないんです。」
  • 限界を知ることが大切だと思います。私たちは一気に5万部も刷ったりはしません。そのような成長は望んでいません
  • 「本づくりを続けて、Tara Booksの本を広めること。読者の手元に届けることは今でも最大の挑戦だと思っています」

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明確な目的を持ってモノを生み出し⇒多くの人々に広め⇒その収益で新たなアイデアを実現してゆく…。今の世の中で、このサイクルを理想としないビジネスモデルはないでしょう。が、Tara Booksは20年以上も前から、さらにその先を見通し、かつ実現してきました。そう、彼らが広めてきたのは、本というモノを通した新しい見方多様な考え方。そうした社会的視座をワークショップを通してコツコツ広め、世界中に支持されるようになっているから、けして絵にかいた餅にならないわけです

f:id:chinpira415:20180804111528j:plainTara Booksの本は日本でも手に入ります。まずはそのクオリティの高さを、直接手に取って味わってみてください♫ ここ4~5年、本は共有財産だと目覚め、もっぱら図書館を利用してきましたが、 やっぱTara Booksの本は手元に置きたくなりました。単純にテンションが上がるんです! Tara Booksの活動をまとめた『世界を変える美しい本』(ブルーシープ)もオススメです。

f:id:chinpira415:20180804101327j:plain超余談ですが、Tara Booksの全貌を知って、じぶんも本作りが好きだったことを思い出しました。まあ、本と言ってもじぶんの活動記録を備忘録的にまとめただけの代物ですが(汗)。装丁から全部手作りしてたんですよね…めちゃたくさん残ってる(笑)

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ただ、このサイトを立ち上げてからは、記録を「モノ」に仕立てて残すことが少なくなってます(汗)。わたしには社会的活動センスはないけど、じぶんの手を使い「モノ」に仕立てて別の文脈で表現するアクションは、やっぱ忘れたくないなあなんて思いました


Introducing the Exquisite Tarabooks

 アーティスティックな本なら山ほどあるでしょう…。ワークショップだって猫も杓子も…ですよね?何より出版不況は世界的な流れと聞きます。でもTara Booksの活動は1民間会社の成功譚に止まっていません。何かもっと大きな投げ掛けを我々にもたらしている気がします。この先も彼女たちの挑戦から目が離せません👀

 

PS 次回は8/26に更新します