日常と非日常の間から―⌛

“定点観測”好きなちんぴらは、新型コロナに関しても、意識的に書き留めています。じぶんの日記に初登場するのは2月4日。豪華客船内の事態に仰天しつつ、一方でその日はバレンタイン贈答用のチョコを買いに出掛けておりました(汗)。でもむしろこんな平凡なスケッチこそ、後にはリアルなテキストになる気がします。ここでは、2020年2月~6月にかけて、読んだり見たり聞いたりしたあれこれを抜粋しておきますね✑

📅2月某日

マブダチMから借りた2003年発行の『キラーウイルスの逆襲』(畑中正一著/日経BP社)を読む。SARS?名前だけ微かに聞き覚えが…。ところがびっくりするほど今のコロナ禍の状況とシンクロするもんだから、逆に冷静になれましたよ。まさに過去に学ぶでした!

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日本は幸いにして感染者ゼロだったSARS「文明の利器であるジャンボジェット機に乗って世界に広がったSARSが急速に終息したのは、やはり文明の利器であるPCRとインターネットのおかげである」(本文より)と出てきますが、4ヵ月で終息できたのはかなり奇跡的だったみたいです。「隔離」に伴う人権問題と追跡調査の難しさ、デマや買い占めのこと、高齢者の致死率の高さ、被害の大きかった台湾の主張や感染症が政治に密接に絡む経緯など…畑中先生、今書きました?と突っ込みたくなるくらいの臨場感にふーっ。

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本の中で、パンデミックが発生した場合の自治体対応について検討している専門家集団のリーダーとして西村秀一氏が登場します。西村先生は今回もメディアでコメントされてますよね。今まさに、地方自治体の担うべき役割を目の当たりにしている毎日ですが、正当に怖がるための道筋を説く専門家たちの存在は大きい…。ただし、専門家の見解を参考にしつつ、予防もマナーも最後はじぶんの頭で考えて…がキモだと思ってます

📅3月某日

▶新型コロナが猛スピードで世界を席巻し、遂にWHOがパンデミック宣言をした頃、最もチケットの取れない講談師六代目神田伯山(かんだはくざん)が、YouTubeで無料配信を始めたと聞き大興奮。噂には聞いていたけど、ここまで振り切れた芸だったとは~👀

f:id:chinpira415:20200614123607j:plain正直言って、落語の軽やかさには馴染みが深くても、講談の生々しさには及び腰なところがありました。ところが、伯山襲名前に臨んだ「畔倉重四郎(あぜくらじゅうしろう)全19席」が、連夜UPされるのを聴き始めたら、やめられない止まらない!色男で連続殺人鬼のダーティーヒーロー像にすっかり魅せられちゃって… 悪事の美に、耳からどっぷりと浸かり、コロナを忘れる春でした🌸


【#01】畔倉重四郎「悪事の馴れ初め」(1席目)【全19席】

📅4月某日

▶深夜、クソ生意気なマブダチOからフイに連絡があり、高校生ノリの長電話。「昔、感染症のゲームにハマっていたことがあって、世界が全滅して行くのになぜか何度トライしてもアイスランドだけが生き残ったことを思い出しましたあ~。きっとリアルでも、何事もなく終わる国は必ずあると思いますよ~」と、妙に暗示めいた話に―。

f:id:chinpira415:20200614112617j:plainそういえば以前Oにもらった本があったっけ…『図解 生き残るためのやりかた大百科』(PIE)。こんなご時世なので久しぶりに引っ張り出して再読しました。「ハチに刺されたときの手当法」や「カヌーのつくり方」は序の口で、「地下シェルターのつくり方」とか「社会崩壊に備えるには」なんていう項目がしれーっと並び、緊急事態の幅が広すぎてメチャ可笑しい。ちなみに「インフルエンザの防ぎ方」はマトモ路線でした(笑)

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▶そうこうしているうちに愛知県にも緊急事態宣言発令。いきなり来週から仕事は在宅でとのお達しが(汗)。そこで、図書館からどっさり借りてきた本を友にして引きこもりが始まりました。遅ればせながら愉しんだのが村田沙耶香コンビニ人間(文藝春秋)

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自粛期間読書にあまりにピッタリなんで、じぶんのカンにホレボレしましたね(笑)。近所のコンビニか食料品店しか他者とのリアル接点がない毎日…その数少ないシャバの一角が、この“受胎告知小説”によってグッと彩りを増したのです。ブラボー♬

📅5月某日

f:id:chinpira415:20200614215604j:plain▶TVでドキュメント72時間の再放送「鴨川デルタ」編を偶然目撃。京都で学生さんするなら理想のくつろぎ空間じゃないの~と悔しがっていたら、マブダチKから万城目学鴨川ホルモー(産業編集センター)が届きました。これまた過去に話題になった小説ですが、あまりにタイムリーな1冊でビックリ仰天👀

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コロナ禍で中止になった葵祭「路頭の儀」が物語の鍵になったり、感染症のごとく見えない“オニ”が生き生きと暴れ狂ったり、はたまたレナウンのCM「わんさか娘」が頭から離れなくなるという…何せ読んでる最中にレナウン倒産の一報が入りましたからねぇ(汗)。トンデモ展開を、偏差値高めの語り口で硬派な青春群像劇に着地させた1冊、閉鎖中のキャンパス=京都大学が舞台になっているのも“今”でした🏫

f:id:chinpira415:20200619221805j:plain▶感染拡大が一息ついた5月中旬、ご近所のマブダチFんちでテイクアウトのカレーランチに舌鼓🍛。フト目に留まった砂の器('74)のDVDを借りて帰宅。言わずと知れた松本清張の長編推理小説の映画化です。大昔に1度TVで見たきりですが、今更ながら豪華キャストにたまげましたよ!男も女も老いも若いも全員主役級。往年の日本映画見てると、どんな役柄でも陰影が立ち上ってて、人生背負ってます感がハンパないんです

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でもってこの作品の見せ場は、ハンセン病に苦しめられて村を追われた親子の運命が叙事詩のごとく描かれてゆくくだり。四季折々の美しい日本の原風景が、皮肉にも世間の悪意も浮かび上がらせて行きます。病への偏見や差別的空気の支配するスケッチがコロナ禍の今と重なり、いやはや、なーんも変わってないことに愕然としてしまいました💦


砂の器 デジタルリマスター版

▶さて次にめぐり会ったのがヨガの先生に借りた『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)。去年話題になった本、著者は英国在住のブレイディみかこさんです。海外子育て体験談か?と読み始めたら、政治・経済・教育・福祉などの幅広いテーマを、生活者目線で具体的に捉え、かつ硬派な読み物になっててとても小気味イイ

f:id:chinpira415:20200620132449j:plain劇映画とルポでは立ち位置が異なるとはいえ、例えばケン・ローチの映画を通じて知る英国労働者階級の叫びでは、豪速球すぎて目の前を通過して終わってしまう…。でも彼女の本の場合、ご近所の人間関係や家族との会話を踏まえながら社会問題に落とし込んで行くので、誰も皆のっぴきならない境遇を生きてて、そこを安易に切り捨てて進めちゃダメだと気づかされるのです。遠回りを厭わない胆力に大いに魅せられました。

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📅6月某日

▶買占め、自警団、ネット上でのバッシングetc…コロナ禍は、ウイルスより人間の方が恐ろしいという空気もはびこらせました。こんなとき、ムショーに読みたくなるのが1995年に上梓された阿部謹也『世間とは何か』(講談社現代新書)。世の中にゲンナリする度、拠り所としてきた1冊です。例えばこんな一節を目にすると―「世間とは個人個人を結ぶ関係の環であり、会則や定款はないが、個人個人を強固な絆で結び付けている。しかし個人が自分からすすんで世間をつくるわけではない何となく、自分の位置がそこにあるものとして生きている(本文より)

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なぜ我々は何の保証もないまま自粛要請に黙って従い、身を小さくして耐えるのかが、ぼんやりとわかってきませんか…。マイナンバーカードの普及率が現状15%止まりなのに、なぜ80%の外出自粛要請目標に対して努力できるのか…不思議でしょうがなかったけれど、「世間」という所与されたものさしを思い浮かべれば「そりゃあ、世間にはあがなえないか…」と飲み込めてしまえるんですよね。そう、世間と社会は違います

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ブレイディみかこさんの発言からは英国社会と対峙する様子が伺えますが、少なくともあたしは日本の世間という枠組の中で生きているのであって、その中のmy世間を意識しての自己表出。しかもその「世間」を対象化できず、「何となく」置いているだけだから、対峙のしようもない空中戦が59年間続いているというか…。せめて阿部先生の本を読み返し、じぶんとじぶんにとっての世間とは何かを考える機会にはしてるけど…正直言って難しい作業です(汗)。

PS 次回は7/14に更新します。2カ月ぶりに観た映画の話を少々―。