サクッとお江戸✑備忘録 2021春

コロナ禍も2年目となると、遠出するタイミングもすっかりマスター。まっ、そんなカンを磨いてどうするってわけですが…💦さて恒例のお江戸で2泊3日の美術展ハシゴ旅、4月頭にするするーっと実現できマシタ!天気よし、気分よし、スケジュールもよしでいいことづくめの小旅行。印象に残った4企画展をまとめて紹介しますね~♫ 

f:id:chinpira415:20210502125534j:plain1本め👀『没後70年 南薫造』東京ステーションギャラリー

南薫造(1883-1950)?誰それ?知らねーし…。ただ、優れた日本の近代洋画家たちの業績が忘れられないようにと企画される回顧展はおそらくじぶん好みだろうな…と駆け付けた。まあ、足を運ぶも何も、新幹線下車したら5分で会場よ(笑)。 これが想像以上によかった~😊例えば、南が若き日の留学時代に描いたセンス抜群の水彩画『ゴンドラ(1908)。コロナ禍の今だからか、海外の風景画にひどくノスタルジーを感じてしまうわ

f:id:chinpira415:20210502143437j:plain▶版画もよかった。『畑を打つ』(1911)は、小島に、帆船に、海に、農作業…と、ベタなモチーフばかりのはずが、何とも洒脱!かと言って、洋行帰りの気負いがあるわけでもなく、どこかのんきでSF的な香りが漂ったりして…火星がこんな風だといいな(笑)。

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もちろん本筋の油絵群も、ウキウキしちゃったよー♪若いうちから才能を評価され、官展の中心作家として活躍した洋画家だから、モダンな生活環境にいたとは想像できるけど、物質的豊かさだけじゃない生きた時間の輝きみたいなものが、南の作品には捉えられているのよね。こちらは『ピアノの前の少女』(1927)

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▶モダンライフから一転、太平洋戦争に突入し、疎開先の田舎の風景を描いた『高原の村の朝』(1941)がスゴイ!うねうねキャベツ畑が忘れられない。しかも傍らで遊ぶ子どもたちよりデカいキャベツは新種の怪獣じゃん(笑)遠くに並ぶ洗濯物とのサイズ感も可笑しいし、シュールで最高!暮し向きは変っても画家が美しいと感じる目は同じなのね

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▶でもってさー、戦争が終わったら今度は本の虫干しだあ~、『曝書』(1946)。キャベツ同様、本もうねって並び、まるで波のよう~♫ 娘2人が本の海に漂ってるよ~🏊

f:id:chinpira415:20210502150053j:plain▶さらに『生家の近く』(1949)では、空が海になり雲がうねるの薄日の表現も好き

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▶晩年は郷里の呉市に戻り、瀬戸内海を描き続け生涯を閉じた南。『瀬戸内』(1949)は、じぶんの故郷でもない風景に多幸感を感じたのよね。この絵に流れている時間の輝きは、永遠に色あせることはないだろうな。他にも関東大震災時の東京や、戦時下の日常を描き続けたスケッチが公開されていて、全身画家一代記に立ち会えた好企画でした👍

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2本め👀『澤田知子/狐の嫁いり』東京都写真美術館

▶もう25年も活躍してるのね…。証明写真BOXで撮影したセルフポートレイト『ID400』(1998)で一躍脚光を浴びた澤田知子(1977-)。「なんで4枚なんだよ~、4枚使い切ることなんてないし~!」と、ずっと引っかかっていたあの証明写真のフォーマットが、澤田作品を見て初めて4組1セット」はこのシリーズのためにあったのか!と腹落ちした思い出があります(爆)。被写体がぜんぶ本人というオチより、一人の人間が4つに分裂したり4つに増幅したりして見えて、細胞標本みたいでゾクゾクしたっけ―。

f:id:chinpira415:20210506102944j:plain▶そんな澤田の新旧&複数のシリーズを組合せた大規模個展『狐の嫁いり』は、会場へ足を運んでこそ体感できるええ展示でした。ほれ、300点組の『FACIAL SIGNATURE』(2015)を見て!作家曰く「人はどこを見て個人を判断しているのか知りたいと思い、様々なアジア人に見えるように変装してみました」とのことだけど、顔面の差異が提示されるほどに個人とは一体何なんだろう…という哲学的問いの渦へ巻き込まれたわ~

f:id:chinpira415:20210506103231j:plain▶そう、会場入口に掲げられたこちらのテキストが展示のすべてを物語っています🦊

f:id:chinpira415:20210506103125j:plain▶中でも強烈だったのが、キャバクラ嬢をモチーフにした『MASQUERADE』と、就活生の履歴書写真を作品にした『Recruit』2006年制作のこの2作品は、リーマンショック前のニッポン国女子のテンプレートが克明に写し撮られていて、今見返す方がよりヒリヒリする。どちらも社会の要請になり切り、しのぎを削るために振舞う女子たちのポージングだからね。日本のジェンダー指数が問題になっている今、今後この絵柄がどう変化するのかしないのか…非常に気になるところです。

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▶じぶんでシャッターを切らない写真家・澤田知子は、“私”から最も遠いセルフポートレイトで現代を再構築してました。今回、広い空間で鑑賞することで、彼女の社会学的視点がより強く感じられたみたい。インタビューもユニーク、ぜひチェックしてみて👀


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3本め👀『電線絵画展小林清親から山口晃まで練馬区立美術館

▶も~、タイトルを聞いただけで「絶対に行くぞ!」と息巻いちゃった👃だって子ども時代は屋外が毎日の主戦場で「見上げればどこまでも電線」「遊びのアイテムは電柱」は、あたしの原風景なんだもん。ってことで、明治初期から現代まで、“近代化の象徴”である電線&電柱が描かれた作品ばかり集めた日本初の美術展へ行ってきマシタ👅一番バッターは小林清親(1847-1915)『従箱根山中冨嶽眺望(1880)1869年に電信局が開局し、イッキに広まった電信柱と電信線の風景。富士山とも肩を並べてますから~

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▶そして東京の電化が始まるのが1887年の電燈局(火力発電所)完成からだ楊洲周延(1838-1912)『上野公園の夜景』(1895)では錦絵に電燈が煌々と灯ってて、新しい生活スタイルにワクワクしている様子が伝わってくる。光の効果を色で使い分けていて斬新!

f:id:chinpira415:20210506221901j:plain▶銀座生まれの岸田劉生(1891-1929)の作品を眺めると、急速に大都市化する東京の真っ只中に居合わせ、同じ空の下で呼吸しているような感覚になるよね。1915年制作の『道路と土手と塀(切通之写生)』『代々木附近』同じ場所を角度を変えて描いたもので、電信柱の存在感が際立っている。新旧の時間の交差も絵の中に見えるなあ。

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関東大震災時のスケッチにも電信柱は登場十亀広太郎(1889-1951)が震災直後に上野の松坂屋付近を描いたもので、手早いタッチながら甚大な被害状況が一目瞭然。

f:id:chinpira415:20210506221939j:plain▶本企画展で一番ウケたのが、“ミスター電線風景”と呼ばれる画家朝井閑右衛門(1901-1983)。1949年頃から描き続けられた『電線風景』の連作には、腰が抜けましたわ。電柱は描いても電線までは描かない作家が大半の中、交差するハイウェイのように電線をうねり走らせ、空が格子柄状態になってます(爆)。しかも厚塗り…ヤバイです💦

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▶他にも山脇信徳牧義夫鈴木金平小茂田青樹…等、未知の作家との出会いにトキメイちゃいマシタ💛逆に「電柱と言えば、この人でしょう~!」とじぶんで勝手に太鼓判を押してる作家たちのことも思い出し(会田誠長谷川利行、写真家の金村修、様々な方向へ想像が膨らみました。さらに源流を遡れば、円谷プロへ行き着くような…💦ちなみに求龍堂発行の公式図録の資料性の高さが素晴らしい本屋で買えます📚

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4本め👀『遠見の書割―ポラックコレクションの泥絵に見る「江戸」の景観インターメディアテク

▶みなさまご存知ですか…東京駅直結のベスポジにこっそり開場する魅惑のミュージアムインターメディアテク(IMT)を!ここには東京大学が蓄積してきた学術標本や研究資料が常設展示されるスペースがあり、しかも入場無料なんです。ほれ、これ見て!

f:id:chinpira415:20210508222514j:plain▶かっけ~のなんの…館内に入った瞬間に脇汗かきました…この後予定があるけど時間忘れそう…と💦とにかく設置されている1個1個の什器の風合いとその組合せが素晴らしく、空間と一体化した展示物がオーケストラになって館内に響き渡っているんですよ

f:id:chinpira415:20210508225531j:plain▶リアルとも図鑑とも複製とも異なる剥製での動物との対面。ホンモノでもなくニセモノでもない、曰く言い難い存在が並ぶハコの前では、ツイ妄想が加速してしまいます。

f:id:chinpira415:20210508225621j:plain▶さらにギャラリー1には、アジア美術の蒐集家エミール・ギメ(1836-1918)ゆかりの古展示ケースが並びます。100年以上前にリヨンのギメ博物館のために特注されたエレガントな什器にうっとり客はまばらだし、独り占めして何時間でも眺めていられます⌛

f:id:chinpira415:20210508225649j:plain▶そして今回、特別展示『遠見の書割』並んでいたのが、東海道五十三次泥絵という画法で描いたシリーズ。一目見るなり絶叫、なによこれ~!解説によると「画面上部を覆う濃藍色の空と、地平線に向かう白色のぼかし。銭湯の壁を飾る富士のポンチ絵同様、紋切り型表現を特徴とする泥絵は、時間を超えて永続する観念としての都市を描き出してみせている」とのこと。量産品を手がける逸名職人による仕事=土産物だって。

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江戸から帰郷する際に地方出身者たちが買い求めたポストカードか…なるほど!土産物特有のキッチュな世界観に目がないあたし、そりゃあササるはずだね。はい、安手の土産物に作家性は無用です。無名職人たちがせっせと典型を量産するからクールなんですよ、まさに“遠見の書割”👍ひんやりした青がミステリアスで、未知の惑星に降り立った気分にも浸れますね。

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▶爆笑なのが点景人物の表現「スルメやキノコに喩えられるほど簡略化」されていて、もはや様式美です。次に、ポラックコレクション『濱松』の一部分を拡大してみました。どう?ちっこいキノコ?たちが感動的でしょ(笑)好きだなあ~~

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▶さて、ここまで魅せられたら、このあたしが“返歌”を詠まないわけがない!またまたやっちゃいマシタ、なーんちゃって泥絵ごっこを~🎨 あたしの宝物、染谷亜里可『Landscape』(2007)の前で、手作りの股旅姿キノコたちを遠見の書割風に記念撮影。

f:id:chinpira415:20210513092143j:plain三度笠はファンデーション用のスポンジパフ、脚は爪楊枝でできてます(爆)。亜里可さまに叱られない前に…それでは、おあとがよろしいようで―。

f:id:chinpira415:20210513092236j:plain今回の上京の一番のお目当ては、東京都現代美術館で開催中の『マーク・マンダース マーク・マンダースの不在』展。こちらについては5/29更新の次号にまとめますのでお楽しみに