春先に重い腰をあげて本棚の整理をした。定期的に見直しはしているが、唯一保留にしたままの一角があり、今回はそこに踏み込もうと、ねじり鉢巻きさながらに取り掛かった。はい、映画のチラシとパンフレットをぶっこんでるゾーンです。何せ40年以上続けている愉しみなので、振り返るのも恐る恐るだったりするんだよね…(汗)。チラシはタダだからバッサリ捨てられても、パンフは厄介💦まずは吟味から―。
たまに調べ物をするときにのぞくことはあっても、もはや何冊あるのかすらわからない状態の棚。軽い気持ちで1冊ずつ手に取り出したら、ぜんぜん終わらなくて焦った。最近ではWeb情報が充実してきているので、ここ10年くらいは買っても年に1~2冊程度のはずが、蓋を開けたら何と600冊以上もあるじゃないの(汗)。どうせならと、装幀の凝り具合、コンテンツの充実度、写真の多さ、シナリオ付録のあるなし、美術廻りの仕事の好み判断…など、簡単なスペック欄を設けてエクセルで一覧化するハメに―。
いやはや、紙好き体質はヤバイですぅ~。ペラペラめくるだけでも、作品記憶がダイレクトに身体に届いちゃって、テンションMAXなんですよ。じぶんの映画アーカイブ劇場に丸4日間、通い詰めていたような体験でしたね。動画ではすぐ飽きるのに、なぜか紙だと成立。ってことで、我がパンフコレクションの想い出をここに綴っておきましょう
🎬ミニシアター全盛期パンフ
▶「シネマスクエアマガジン」「シネ・ヴィヴァン」「シネセゾン」「シネマライズ」「シネマシャンテ」「ガーデンシネマ」「キネカ大森」「シネスイッチ」etc…。高校卒業後、本格的に映画館通いを始めたタイミングと80年代にスタートしたミニシアターブームが重なり、持っているパンフの半分はミニシアターがオリジナルで作っていたもの。本家で鑑賞したことは1度もないのに…情報は東京発信だったんだよね。
▶例えば、1991年発行のフィンランドのアキ・カウリスマキ監督『マッチ工場の少女』('90)のパンフのコンテンツを書き出すと、とんでもなく豪華な執筆陣で腰を抜かす!
- 歯科医でロッカーのサエキけんぞう
- 小説家の辻邦生
- 映画評論家からは、北川れい子、黒田邦雄、齋藤敦子、三木宮彦、梅本洋一、河原晶子の6人
- アテネフランセの安井豊
- 贅沢な見開きカラーはイラストライター三留まゆみ
- 吉武美知子による海外最新映画情報
- カウリスマキ監督へのインタビューも収録
総勢12人が様々な角度から論じる56頁!もちろんシナリオも付いてて、パワーの掛け方がハンパない。観客は、ミニシアターが競い合うように作っていたこうしたパンフを熟読し、1本の作品情報にとどまり切らない海外映画文化を吸収しまくっていたわけよ。映画鑑賞はひとりで愉しむ娯楽だけど、パンフには同好の士を見つける喜びがある。エンタメを提供する側とされる側、両者によってサブカルの華は咲いていたのよね~🌼
🎬イラストレーター活躍パンフ
▶カウリスマキ作品は美術や音楽に携わる人々に愛されていて、左上の『浮き雲』('96)のパンフには安西水丸がイラストとエッセイを寄せている。ヒロインの肖像画が表紙の『あなたがいたら/少女リンダ』('87)はペーター佐藤のイラスト。50年代の英国の田舎町を舞台にしたお転婆な女の子の物語、大好きだったな~。ユーミンがエッセイを書いてたりしてなかなか貴重。そしてセンス抜群のポップカルチャー映画『コーンヘッズ』('93)。三留イラストのテイストにピッタリで、パンフの出来も超キュートです♥
🎬変わりダネ映画パンフ
▶新しい表現方法に切り込んだ映画を見た後は、「誰だ!これを作った奴は!」とパンフを買って夢中で作品背景を貪る。写真をつないだだけの画期的SF映画『ラ・ジュテ』('62)のパンフはリバイバル上映時の特別仕様。美しい。『ルンバ!』('08)と『アイスバーグ』('06)の2本の小さな映画で、道化師夫婦アベル&ゴードンの世界に初めて触れた興奮は今も忘れられない。映画を見ている間中、「パンフ買わなきゃ!」と焦りマシタ~♬そしてカルト映画作家アレハンドロ・ホドロフスキーと初対面した『サンタ・サングレ』('89)のパンフも宝物。敬愛する詩人の荒川洋治が寄稿してるの、信じらんな~い!
🎬007シリーズパンフは2冊
▶メジャー映画のパンフだって、それなりに揃ってますよ…007シリーズはこの2冊だけだけど(笑)。5代目ボンド、ピアース・ブロスナンの『ダイ・アナザー・デイ』('02)と、6代目のダニエル・クレイグの『カジノ・ロワイヤル』('06)。なにせ007シリーズは、ボンド以上に男の子アイテムが主役だからさー、パンフも商品タイアップ図録と化してて家庭画報みたいなのよね(笑)。ゴージャス感演出で攻めてます💎
🎬資料性に徹したお地味パンフ
▶007とは正反対な超お地味パンフを作り続けているのが岩波ホール。基本、写真はモノクロで添え物扱い。その一方でアカデミックな執筆陣が寄稿するため文字数は多く、ふんわり映画の余韻に浸るというより、お勉強モードに突入します😊初岩波パンフは40年前に見た『ピロスマニ』('69)。最近ではパトリシオ・グスマン特集が印象深かったな…どちらもパンフが映画の補助線になってくれました。あと、さらに資料性に振り切っているのが京橋のフィルムセンター発行パンフ。国立の施設ならではの手触りです。
🎬若手作家のパンフ
▶じぶん好みの若手作家と出会っても、「まあ、次の作品を見て判断だな」などと、渋く見積もるクセがある…特に邦画は…(笑)。ところが、掟に反し衝動買いしたパンフの中で、特に思い入れのあるのが山本浩資の『ランデブー』('99)と富田克也の『国道20号線』('07)。富田はその後もコンスタントに“オレが見ている空”を監督として更新し続けているが、山本は映画現場の照明スタッフで活躍しているらしい。もう一度見直したくてもその機会がない『ランデブー』、だからこのパンフは余計に宝物。
🎬古本屋で物色パンフ
▶ネット配信全盛期の今では想像しにくいかもしれないが、若い頃にたまたまTVで吹き替え&短縮版を見て惚れ込んだ映画が何本かある。『デリンジャー』('73)『ダーティー・メリー クレイジー・ラリー』('74)…その後古本屋でパンフを見つけたときは、思わずむせび泣きましたよ。中でも『ウィークエンド・ラブ』('73)は、未だDVD化されておらず、パンフを持ってるだけでも気持ちは温かい♥ YouTubeで予告編を見つけたわ~、見て見て!これが大人の不倫映画だと信じられる?ふたりの掛け合いにブラボー♬
🎬蓮實センセイお墨付きパンフ
▶1992年「ルビッチ生誕100年祭」1994年「プレストン・スタージェス祭」1995年「カネフスキー、その清冽な瞬間」。映画史における最重要監督の特集上映が企画されるとき、パンフには言わずと知れた映画評論家・蓮實重彦センセイが颯爽とご登場になります。ぶっちゃけ広告塔なんですが、蓮實印が付くとシネフィルたちに向けた大看板となるので、とーっても重宝されるわけです。でもこんな風に身を乗り出して旗振りをしてくれる先人のおかげで、単なる消費で終わらない映画鑑賞の道筋が作られるのよね。
▶☝はスタージェスの『レディ・イヴ』('41)。『ウィークエンド・ラブ』の艶っぽいドタバタ劇も、スタージェスの暴走にはかなわない!今わの際にスタージェス作品を目にしたら、クレイジーな浮世に未練が残り、思わず生き返りそう♪
🎬パンフレットが血肉となった!
▶パンフの整理を終えてしばらくした頃、映画保存のエキスパート・岡田秀則が書いた『映画という<物体X>』(立東風)をたまたま再読。すっかり中身を忘れていたけど、タイムリーなことに、本の中にチラシとパンフレットを礼賛する章が出てくるではないの!パンフの機能を―“瞬時に消えゆく「映画体験」を紙上に再び追い求め、最終的には消えることのない「記憶」に達しようとするためのツール”と例え、パンフを“持ち帰ることのできる映画”だと綴る著者に、激しく共感しちゃいました。
▶そう、たかが本棚の整理ではじめたことですが、映画館でしか買えないパンフレットによって、じぶんがいかに鍛えられたかを振返る作業となりました。「映画はパンフレットで2度おいしい」改め➡「映画はパンフレットで何度でもおいしい」―です!
PS 次回は10/29に更新します