この夏、出会った“女たち”👗

今年の夏はいろんな意味で熱かった🌻狙ったわけでもないのに、ユニークかつ濃ゆーい女たちのドラマと接する日々が続き、やたらにぎやかだったのよ~。ようやく秋風も心地良くなってきたし、ここらでそんな変わり種の女たちを蔵出ししておきますね。

【STEP1】バレエで少女漫画革命

▶皮切りは、先日掲載した“胸アツ”コンビ特集の流れで、40年ぶりに再読した山岸涼子のバレエ漫画アラベスク。やっぱ山岸先生は少女漫画の革命家でした。

f:id:chinpira415:20211009164717j:plain▶画期的だったのは少女漫画ならではのお姫様展開―「派手に失敗を繰返すヒロインが実は天才で」➡「無垢な振る舞いで周囲の人々をちゃっかり隷属させ」➡「しれーっと成長&王子様もゲット」―に、妖気漂う絵を持ち込んだところ。この落差にシビれたんだよね。そこにマブダチFから「私は『SWAN』派!全巻あるよ~」との声がけが―。

f:id:chinpira415:20211009165335j:plain

▶初めて通読した有吉京子『SWAN』は、1976年に連載が始まり、40年以上も続いた大ベストセラー。ざっくり言うと『SWAN』全巻も『アラベスク』全巻と同様、ヒロイン(聖真澄)が少女漫画の王道展開をひた走るけど、長期連載に至った分キャラの肉付けが厚みを増し、読了後は聖真澄があたかも実在したかのように記憶されてしまうというスゴ技なんですわ。はい、1970年代に誕生したバレエ漫画の2大傑作は、ノスタルジーで取り扱えるようなヤワな代物ではなかったです💦両巨頭の実験精神こそ熱かった~

【STEP2】少女漫画の感性は世界言語

▶7月。今度は少女漫画のエッセンスを2本のアジア映画に発見👀

f:id:chinpira415:20211010113516j:plain『1秒先の彼女』('20)は、人よりワンテンポ早い女子とワンテンポ遅い男子が、空白の1日を埋めてめぐり会う台湾発の恋愛映画。キャラの設定、ギャグの間合い、ロケーションの選び方など、スクリーンから流れ出る空気が絶えずなめらかでさー、かなりのトンデモ話なのにスンナリのれて、最後には涙ぐむ始末(笑)。パッとしないヒロインを一発逆転で輝かせるテクは、上等な少女漫画のアプローチと共通していた気がしたよ。


www.youtube.com

▶打って変わって『少年の君』('20)は、現代の中国が抱える様々な社会問題に苛烈に踏み込んだヘビーな1本。で、こっちの主役男女は、地獄絵のような毎日を、まるで『愛と誠』ノリに魂の一心同体化で共闘します。青春純度も高く、ババアのあたしからすると“せつなまぶしさ”に目がくらみました。主役二人のおぼつかない足取りや距離感にはくらもちふさこ漫画がダブったり…。少女漫画の感性は間違いなく世界言語ですね

 

【STEP3】美術作家・寺内曜子に唸る

▶8月。豊田市美で寺内曜子(1954~)作品と初遭遇。インスタレーションパンゲア』をはじめ、すっごくシャープでカッコいいんですけど…この人誰?鑑賞後もしばしば思い返していたところ、なんと本人による作品解説を動画配信で拝見できたのです。

f:id:chinpira415:20211011123819j:plain

▶この講演が目からウロコの連続!例えばこの赤と青の面はどっちが表か?と問われたら、判断に困らない?そもそも赤と青の他に切り口もあるし、1つの造形物と考えれば見る角度でも変わるし…ぶっちゃけ全体を捉えられなくて答えられない…。つまり寺内作品は、鑑賞者自身の価値基準の曖昧さに気づきを与える展示をしてるわけ。あたしは「モノ」の美にときめいたけど、本人は「モノ」として作ってないんだって!ひぇー

f:id:chinpira415:20211011132439j:plain▶とはいえ、作家から未知の視座に気づかされるのはよくあること。それより興奮したのは、当時の貴重な写真を交えて語られた寺内さんの留学体験談でした1979年に渡英し、セント・マーチンズ美術学校でアンソニー・カロに学んだ寺内さんは、憧れの彫刻家に近づくことで、逆に「モノ」を作らない意思を固めていったのです。これまた今から40年以上前に試行錯誤を繰り返した女の人の横顔です。そして今も実験継続―熱い!

 

【STEP4】女性ドライバーが裏ヒーロー

▶カンヌで脚本賞を受賞した濱口竜介監督作品『ドライブ・マイ・カー』('21)。綿密に仕立てられた映画の中でひときわ印象的だったのが、女性ドライバー・みさきでした。

f:id:chinpira415:20211012100031j:plain化粧っ気もなく無口なみさきは23歳。妻を亡くし喪失感を抱える舞台演出家の専属ドライバーとして雇われる設定で、縁もゆかりもない孤独なふたりが運転席と後部座席に身を置き、同じ時間を過ごすシーンが繰り返されます。『ナイト・オン・ザ・プラネット』('91)以来記憶にないよ~、プロの女性ドライバーが存在感を発揮する映画なんて!

f:id:chinpira415:20211012121238j:plain▶『ナイト~』のウィノナ・ライダーと同様にみさきも喫煙者に設定していて、やさぐれ感を漂わせていますが、30年の歳月を経た現代の女ドライバーは、さらにプラスαで折り目正しき黒子の陰影が加味されてるの。クール!さりげなくフィルムノワール(犯罪映画)ムードが薫ってましたわ。みさきに扮した三浦透子マジで高倉健です👀


www.youtube.com

【STEP5】歌人の少女時代

▶9月。図書館で手に取ったのは与謝野晶子が少女時代を綴った『私の生い立ち』

f:id:chinpira415:20211012201835j:plain▶可愛がってくれた叔母が与謝野晶子の歌が好きで、子どもの頃に読み聞かせてもらった思い出はあるけど、彼女の才能やエネルギッシュな生き方にはずっとノレず…💦なにせ評価が確立されてるものに、あえて飛び込もうとしないちんぴらですからね(笑)。ところが、堺での幼少期の記憶を紐解いたこの1冊はべらぼうに面白くて、何度も声を上げて笑っちゃったのです。いやはや感受性がナミの少女じゃない!

f:id:chinpira415:20211013110303j:plain▶特に5つ目の「嘘」と題した章には爆笑。同級生たちと継母話(ママハハばなし)で盛り上がるうち、嘘がヒートUPして止まらなくなるという…(笑)。傾きかけた老舗和菓子屋の三女に生まれた晶子の妄想力に少女漫画の原点を見た気がします。短いし、エピソードごとに分かれていて読みやすいからぜひトライしてみて。竹下夢二の挿絵も素敵。ちなみに青空文庫でも読めますよ。

 

【STEP6】遅ればせながら出会った本命

▶さらにタイヘン💦遅ればせながら映画監督、ケリー・ライカートを知ってしまった!

f:id:chinpira415:20211013114812j:plain▶ケリーは1964年フロリダ生まれ。最初の長編『リバー・オブ・グラス』を発表したのが1994年だし、じぶんと年齢が近いこともあって「なんで誰も教えてくれなかったのよ~」と非常に悔しがったわけですが、どうもご本人にメジャー映画制作の志向がなく、紹介が遅れたみたいですね。旧作4本をチェックした今ではそれも納得。世に送り届けたい作品の方向性が明確で、市場ありきで進めていない。腹が据わった作家なんです。

f:id:chinpira415:20211013154535j:plain

▶ケリーの作品はとてもシンプルな語り口ですが、今まで見たどの映画にも似ていません名もなき人たちのささやかな生の断片と、ひび割れた世界の断片が共振し、落ち着きどころのないまま我々の頭上を低空旋回し続けます。西部劇にも、犯罪サスペンスにも、自分探しドラマにも回収されない唯一無二のケリーの世界…これからようやくリアルタイムで彼女の活動が追跡できると思うと、それだけで心が震えるちんぴらです。


www.youtube.com

【STEP7】天才は忘れた頃にやってくる

倉橋由美子(1935~2005)の伝説の一冊『聖少女』とも遂に対面…息も絶え絶えです✟

f:id:chinpira415:20211014100848j:plain▶記憶喪失になったヒロインが出てくる…彼女の日記が届く…近親相姦エピソードが盛られる…死の匂いがする…素足で都会を駆け巡るイメージが横溢する…ヘタレな“僕”が騎士になる…ってな具合で、あらすじさえ掻い摘めないのに、感想を書こうなんて到底ムリ💦―が、1965年に発表されたこの小説の一節にでも触れたら最後、身体のどこかに『聖少女』傷跡が残り、一生消えません。ちなみにあたしは横隔膜が破れマシタ~。

f:id:chinpira415:20211014122332j:plain

村上春樹川上弘美吉本ばなな、そして漫画家の大島弓子らの創作イメージ遡れば、『聖少女』にたどり着くと言われているようですが、ホントその通り!いや倉橋さんは、どこまで追いかけてもたどり着けない別の惑星の住人かもしれません。汗も涙も真実もない絵巻物なのに、“永遠”の輝きが放たれていて、国産みの神話と肩を並べるような風格があるんです。いずれデビュー作のパルタイ('60)にも挑戦したいけど、その前に体力をつけないと💦

 

【STEP8】ジェンダーバランス?

f:id:chinpira415:20211015153529j:plain

▶そして10月の早朝、一瞬我が目を疑った👀日課にしている『テレビ体操』に、なんと男子アシスタントの姿を発見。1957年の放映開始以来初の男女混合編成なんだって。まあさー、10月1日って、様々なモノの値上がり話題で持ちきりになる日だけど、女たちの牙城に男たちも集うようになったという話なら、むしろウェルカムだよね。早々に見慣れちゃったし…(笑)。最後は男サイドの巻き返しでオチとしておきましょう~♬

f:id:chinpira415:20211015152132j:plain

PS 次回は11/13に更新します