数珠つなぎ 読書備忘録📚

【数珠 1冊目】『いい絵だな』(集英社)

ある日、マブダチに本をプレゼントしようと本屋で目に留まったのが、伊野 孝行南 伸坊のんきで小粋な絵画談義本『いい絵だな』。これがねー、ちょっと立ち読みし始めたら、面白くて止まらなくなっちゃって…(笑)。イラストレーターのお2人が好きな絵と、じぶんの好みがかなり近いので、対談に同席して相槌を打ってる感がハンパなかったの😊

お話は、高橋由一(1828-1894)作品から朗らかに始まりますが、興奮したのが<第2章 絵画と写真の間>の「カメラオブスクラ」にまつわる談話でした。昔の巨匠たちの絵ってうますぎじゃね?➡肉眼で見て描いたとは思えない!➡もしかしてカメラが発明されるうーんと前から光学装置を使ってるんじゃね?と仮説を立てて検証した『秘密の知識』という本の話を交えながらの解説に、思わず身震いが~

また、「3次元のものを2次元(平面)に直すのはタイヘンだけど、いったん平面になったものを平面に引き写すのはそんなに難しくない―」…なーんていう描き手目線の補助線が数々繰り出され、膝を打つことばかりだったのです。

そして、本の表紙にも使われているアルベール・マルケ(1875-1947)の紹介がとてもいいの~♫このお地味な作家を改めてネットで検索したら、伊野さんがおっしゃるように「マルケに駄作なし!」は本当でした(笑)。👇マルケ作<レ・サーブル・ドロンヌ>(1923)は、まるでジャック・タチの映画の世界。ゆるカワなええながめですぅ~♫今のところ『いい絵だな』は2冊購入。ご贈答にもお勧めです😊

【数珠 2冊目】『秘密の知識―巨匠も用いた知られざる技術の解明―(青幻社)

『いい絵だな』つながりで早々読みふけったのが、画家のデイヴィッド・ホックニー(1937-)が発表した『秘密の知識』どうやら初版刊行時(2001年)に世界中で一大センセーションを巻き起こし、科学史と美術史の双方の分野で激しい論議を呼んだ曰く付きの一冊だったんです。図録たっぷりの大判の高価本…どうしたら読めるかなと悩む間もなく、行きつけの県図書館で新改訂増補版(2006年)をいとも簡単に借りられました(笑)。さすが行政施設!

1999年1月。ホックニーはロンドンのナショナル・ギャラリーのアングル展で数々の素描の肖像画に魅了されました。でも顔の造作は正確なのに、サイズが不自然に小さいことに気づき、そのうえほとんど1日で仕上げられているスピード感に驚愕。「いったいどうやって描いたのだろう」―この謎に憑りつかれた画家は、以降2年間、自身の創作活動をSTOPさせてまで秘密を探るための調査に没頭したのです

導入部分を読んだだけでワクワクしない?彼が、2年かけてまとめた仮説を目に見えるかたちで紙面展開させ、検証して行く編集がまた素晴らしい👀そう、読者ひとりひとりを前にして、穏やかな語り口でプレゼンするような流れの本なのです。例えば左ページはクラナハ(息子)右はベラスケスの作品。100年を隔てて描かれた2枚を見比べると、人物表現の違いは明らか。右はモロ写真みたいでしょ。いったいこの100年の間に画家たちにどんな変化があったのか、俄然知りたくなるよね!

ところが、どれだけ本物に近づくテクを身につけても限界があるし、やっぱ飽きられて廃れるわけです。カラヴァッジョが1596年に描いた左のリンゴと、280年後にセザンヌが描いたものを見比べてみましょう。パッと見、技術の退化?と考えがちだけど、ここにはものを捉える際の単眼と複眼の視線の違いがあって…

興味がある方はぜひ読んでください!美術に興味がない人にも間違いなくササリます。なんと2月に復刻版が出たそうです。アトリエの壁に、ほぼ年代順にその時代を代表する絵画のコピー500年分を貼り出し👇、西洋美術史の全体像を一望しながら秘密を探ったホックニー。画家としてはもちろん、文章も達者な人だとは知っていましたが、教科書を書き換えるような研究者になっていたとは!

そしてこの夏、ホックニーの大規模個展が、27年ぶりに東京都現代美術館で開催されると聞いてさらにびっくりドンキー😲タイムリー過ぎて眩暈が…💦

【数珠 3冊目】『ルーヴル美術館の楽しみ方』(とんぼの本)

実は『いい絵だな』で知った本は他にもあって…赤瀬川源平(1937-2014)ルーヴル美術館の楽しみ方』(新潮社 とんぼの本)も、図書館で借りてイッキ読み!ルーブルを案内する本なんて有り余るほど出てるし、30年以上も前に発行されたものだから、正直どうかな…と訝っていたのですが…いやー、失礼こきマシタ(ぺこり)。めちゃくちゃ面白い!さすが路上観察学会、目の付け所と文章の柔らかタッチが素晴らしすぎます。

そっかー、これもまた美術作家から見たギョーカイ探訪ものですよね!だからテクに関する想像力や言葉選びが読者の胸に直に届くというか…いちいちハッとさせられ、説得力があるんですよ。『秘密の知識』を読み、古典名画の新しい見方も得たところだし、今すぐルーヴル美術館へ飛んでゆきたいです♫本の力って、すげー!

【数珠 4冊目】『猪熊弦一郎展 馬と女性たち』(馬の博物館)

4冊目は、前出の2冊を図書館へ借りに行ったついでに偶然見つけた図録です。猪熊弦一郎(1902-1993)の画集や図録はけっこうチェックしてきた自負があるけど、これは珍しかった!横浜の馬の博物館で2018年に開催された企画展の図録なのです。猪熊さんが馬と女性を組み合わせた絵をこれほど繰り返し描いていたとは!

猪熊さんは、馬について“神様が作られた作品の中でも傑作中の傑作”と述べ、女性についても“あんなに完全にバランスをもった美しい立体はない”と語っています。確かにページをめくるたび、馬と女性のフォルムが響きあい、なんとも妖艶な世界を作り上げていくではないですか~。繰り返しながめても見飽きることがありません。図書館にはこんな予期せぬ出会いがあるから止められません😊

【数珠 5冊目】『そうはいかない』(小学館)

【数珠 6冊目】『山田風太郎 育児日記』(朝日新聞社)

図書館はえらい!馬と女性を見つけた後に、犬と女性の装画に出会える場所でもあります(笑)。佐野洋子(1938-2010)の1989~1992年のエッセイ集『そうはいかない』は、他の佐野作品同様、“高貴な俗臭”にシビレまくる1冊です。佐野作品の屹立ぶりは筋金入りで、どんなに身も蓋もない書きっぷりをしても、嫌悪感ゼロ。深いところで世間に対する信頼があったんだろうなあと思ったりします。

そして図書館は本当にえらい!風太郎先生にこんな著作があったとは!

昭和29年10月11日(月)雨 啓子、午前4時ごろより下腹部の異様感を訴え、しばしば厠に立つ。大便出でんとしてしかも出難き感に似たりと。6時ごろ出血せりという。いよいよ陣痛はじまれるごとし(本文より)

『育児日記』は長女の佳織さんが生まれた日から、中学1年生になった昭和42年まで付けていた秘蔵の日記で、佳織さんの結婚が決まったときに父から娘へ贈られたもの風太郎先生が亡くなった後、要望を受け、2006年に書籍化されたようです。

昭和30年1月5日(水)晴 佳織はじめて散髪にゆく。うしろあたま青々として、ただ枕の当たる部分のみ毛がうすく可笑しい。リボンをつけてもらってる(本文より)

タマランかったです😢風太郎先生の他の日記同様、我が子に関しても温度低めのトーンで端的に綴られていて、その距離感にかえって胸をうたれました。父親の言葉によって、じぶんの記憶にないじぶんが生き生きと動き回り、日々成長してゆく姿を目撃できるなんて…心底うらやましい!佳織さんが、棺の中に入れてほしい宝物だというのもよーくわかります。再販を願ってやまない1冊です

数珠つなぎ読書備忘録、いかがだったでしょうか。年を取るごとに読書が拠りどころになっているちんぴらは、今日もせっせと図書館通いです😊

PS 次回は4/13に更新します