勝手にシネマ評/『タレンタイム ~優しい歌』('09)

へっ?いったい何ごと?聞いてないし…(汗)。チラシには「8年の時を経て“伝説の映画”がついに待望の劇場公開」とある。そう言われても、逆に引いてしまうが…(汗)。ただし、いかに宣材に無関心なあたしでも、予告を見れば自ずとカンは働く。取り急ぎ、こちらの動画をチェックしてみて。


『タレンタイム~優しい歌』予告編 Angel ver.

結論から言うと、『タレンタイム~優しい歌』の予告は、早々に公開日を心待ちにさせる2分間である。データベースの乏しい人でも、「なんだかイイかんじ…これ見たい!」と、思わずホホを緩ませる道案内になっているのではないか。ついぞ触れたことのないマレーシアの映画だが、なるほどここには「伝説」と呼ばれるに値するテイストが網羅されている。ちなみに辞書によれば、「伝説」ある時、特定の場所において起きたと信じられ語り伝えられてきた話―とある。

f:id:chinpira415:20191207114300j:plain話は前後するが、本作は完成後8年間、観客の口コミを支えに日本各地でささやかに自主上映され続け、今回初めて劇場公開が実現した息の長い映画だという。つまり、映画そのものが描いているのも「伝説」なら、作家の手を離れた映画が、観客に息をつながれて「伝説」と化してもいるらしい。未だDVDになっていないことも、前のめりに拍車をかける大きな要因だろう。

f:id:chinpira415:20191207114455j:plain驚くのはまだ早い!監督のヤスミン・アフマド(1958-2009)は、本作完成直後に51歳の若さで急逝。全編にわたり、生と死が非常に接近した形で描き進められたこの1本が遺作となるとは…。すべてがあまりに劇的すぎて茫然としてしまうが、『タレンタイム~優しい歌』は、この先も何度となく人々の口の端に上る傑作である。天界に召された彼女は、作品と共に永遠に語り継がれる―。

f:id:chinpira415:20191207114951p:plain本音を言えば、「伝説」とは予備知識なく、バッタリ出くわしていただきたいので、いつものようにエンジン全開で映画評にまとめるのは、いささかためらわれるのだが―。そもそもあたし自身、マレーシアのことは、何一つ知らなかった(汗)。地図上で指し示すことさえできなかったし、宗教や言語の異なる人々が共生する他民族国家だという事実も、映画を見て初めて知った。何かにつけて、日本人には想像しにくい背景じゃないか―。

f:id:chinpira415:20191207120433j:plainところがヤスミンの映画には、あたしみたいなボンクラを最短最速で射止める決定打が随所に用意されている。その一つが「音楽」である。

f:id:chinpira415:20191207120018j:plainドラマは、学内の音楽コンクール“タレンタイム”に挑戦する高校生たちを描いた群像劇。当然ながら音楽は肝になるが、競技シーン以外でも音楽を活かした演出がことごとく素晴らしい。多様な楽曲のきらめきが、ときに雄弁に、ときに思慮深く我々の胸を打ち、見知らぬ国との距離をイッキに縮めてくれるのだ。選曲はもちろん、登場人物のキャラの違いを、扱う楽器で色分けしてみせるのも、わかりやすく楽しい試み♪

f:id:chinpira415:20191207115557j:plainここで競技に絡む高校生諸君を紹介すると…。しっとりとピアノの弾き語りで魅了するのが、リベラル&リッチなおウチ育ちのムルー嬢。ギター片手に陽気にオリジナル曲を歌う転校生のハフィズ君は、母親が末期の脳腫瘍で入院中。そんな転校生を何かにつけて敵視するのが中国系のカーホウ君で、見事な二胡の腕前をお披露目。ここに、ムルー嬢の送迎役に抜擢されたインド系のハンサムBOYマヘシュ君が加わり、キーマンの多さにたじろぐほどだ(汗)。

f:id:chinpira415:20191207121527j:plainいや、まだまだ序の口。たじろいでいる場合じゃない。4人の他に、彼らの家族や親族や友人たちが出張るわ、キャラの濃い先生たちも黙っていないわ、さらにはメイドに天使に亡霊(!)までもガッツリ組み込まれた、多民族かつ大所帯のドラマなのである。

f:id:chinpira415:20191207120227j:plainそのうえ誰一人欠かすことができない役どころを配されていて、登場人物全員が主役となって奏でるオーケストラ仕立て「音楽」を網の目に張り巡らし、多様な人々がゆるやかにつながることで映画内相関図は豊かさを増し、やがてマレーシアという一国の枠を超え、目の前にすーっと「世界」が出現する! そう『タレンタイム』は、「音楽」を共通言語に「世界」が立ち上り、我々に「希望」の在りかを授ける映画なのだ

f:id:chinpira415:20191207121758j:plain例えば、耳の聞こえないマヘシュ君とムルー嬢の中越しの初恋がある。残された時間を精一杯慈しみあうハフィズ親子の情愛があり、同僚を慕う片思い先生の一途さもある…。甘い触れ合い、清らかな願い、苦く切ない別れ…など、映画は人と人が織りなす様々な情景を捉え、ときに憎々しい感情にさえも「希望」を見い出し、ユーモアを交えながら切り捨てることなく、もてなして描く。とてつもない包容力で。

f:id:chinpira415:20191207122129j:plainまた「希望」は、各人の胸の内を伝える「告白」のアクションと常に抱き合わせて紡がれるので、画面の強度は増し、我々と映画の親密度はより高まるというわけだ。だが実際の社会はそうじゃないそうじゃない状況を見据えているから、この太っ腹が胸を打つ!

f:id:chinpira415:20191207122445j:plainヤスミンは、人と人との距離が近づくほどに、民族、宗教、言語、文化のすれ違いをあえて露呈させ、むしろ世界のままならなさを容赦なく浮かび上がらせるが、黙って立ち去りはしない。まず他者との間に風を通す。そして困難さを引き受けたうえでなお、人が皆、こうありたいと願ってやまない理想の世界図を描き切る。愛は月より古く”、相互理解はけして見果てぬ夢ではないと…。うーん、思わず武者震い!

f:id:chinpira415:20191207122756j:plain映画は、念じていれば必ず見られるチャンスがやって来る娯楽。ヤスミンの作品はいずれDVDになるだろうし、回顧展も開催されるだろう。だから極力具体的なスケッチに触れないようにしてきたが、最後に1つだけシビレまくったエピソードを紹介すると―。

f:id:chinpira415:20191207123109j:plain死期が迫るハフィズくんの母の枕元を訪れては、話し相手になる車椅子の男がいる。ずいぶん打ち解けあっているが、明らかに実在の人間ではない気配。亡霊?守護神?それとも死神?…やがて迎える最期の瞬間。男が、赤く光る木苺の束を口元にそっと差し出すと、母は静かにその実を受け入れ、天に召される―。

f:id:chinpira415:20191207123632j:plainヤスミンの映画では、生者間の隔たりだけじゃなく、生者と死者の隔たりもまた溶け出して消えて行く…。未だかつて見たことがないほど慎ましく美しい最期の晩餐。まるで神話のような一節を、サラっと簡素に綴るがゆえに忘れ難い。この世のすべての優しさを引き出すヤスミンのマジック…思い返しては今も背筋がゾクゾクする―。

f:id:chinpira415:20191207194842p:plain(おまけ)名古屋で見逃したマブダチKKからこんな興奮メールが―「さほど映画を沢山見ているわけじゃないけど、これは名作。と、いうか大好き♥京都まで行った甲斐があったどころか、おつりがくるわ~」だって★タレンタイム エクスプレスですか?(笑) 伝説はこうして語り伝えられるのね…。ではバージョン違いの予告でもう一度むせび泣いていただきましょう~♫


『タレンタイム~優しい歌』予告 I go ver.

 

『タレンタイム ~優しい歌』

2009年/115分/マレーシア

監督・脚本 ヤスミン・アフマド
撮影       キャン・ロウ
音楽       ピート・テオ
出演       パメラ・チョン マヘシュ・ジュガル・キショール

 

PS 次回は12/30に更新します

わたしの“好きな時間” レポート2019📄

ネタに困ると、マブダチたちへの無茶ぶりアンケートが命綱のちんぴらです(汗)。今回は、最近のじぶんの生活を振り返り、「いま、〇〇してるときが至福の時間~♪」を教えて!と質問してみました。あの文豪トルストイは「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」と書いておられますが、いやー、幸福も人それぞれですよ~(笑)

 

やっぱ王道か?/ペット編

【Entry NO.1】マブダチM猫達との時間🐈

f:id:chinpira415:20191114102400j:plain「至福の時、それは猫達との時間。三十郎が遊んで欲しい時に私の足をカプッと甘噛みする時。丸めた紙をキャッチボールしてる時。ふわふわの身体を捕まえてスリスリする時。かわい~い」 だって(笑)。あたしはペットと生活を共にした経験が1度もないが、三十郎のくつろぎ大胆姿態、やばくない?ノーカットOK?(爆)ヤツも絶頂タイムだよ~♥ 愛は生物系統を軽々と超えて共振するんだねっ🌼

 

【Entry NO.2】マブダチY愛犬との散歩時間🐕

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「1人で行くコテツの散歩。コテツの行きたいところに着いて行く道すがら、『今日のご飯』等々、何か考えたりする時はだいたいこの時間で、たまにコテツに意見を聞いてみたりして…。ボーッと何も考えずに、ただ歩いたりの日もあって、そんな時は本当に『無』の状態。能面みたいな顔で歩いてんだろうなーと思う。稲刈り終わったなぁ〜とか、藁燃やしてんなぁ〜とか、季節の到来に気付くのもコテツの散歩の時。」 ひとりの時間がなかなか持てない子育て真っ最中のYちゃんにとって、コテツはじぶんを刷新してくれる騎士なのね♘ むしろYちゃんがコテツに導かれているんだろうな~♬

 

 本能のまま?/フィジカル編

【Entry NO.3】マブダチF触感増幅時間

f:id:chinpira415:20191114151524j:plain「“ベストな布団で寝る”ですな。それも太陽の光でパンパンにあったまったカッサカサの布団。そして洗い立てのシーツと枕カバー!ホテルじゃんと言われそうだけど、そうじゃない。自宅のいつもの布団がいつもそうなっててほしい!だってすべてがチャラになるくらいの贅沢な気分になるんだもん」 確かにそう!Fはいつも触感と睡眠へのこだわりが強くて、ベッドも一生モノのマットレスを選んでたな。あと、乾いたコンクリート壁や紙の質感を頻繁に指先で確かめたりしてて…指先と脳が直結してるよ~(笑)

 

【Entry NO.4】マブダチK寝落ちの瞬間💺

f:id:chinpira415:20191114154522j:plain「ソファで寝落ちする瞬間。ベッドよりソファ。ベッドで寝なきゃと一瞬思いながら…速攻で寝落ちしちゃうんだよね。録画見ながらの寝落ちも嫌いじゃない。毎回同じところで寝ちゃう…ビックリするけど…でも4~5回続くと笑える。体勢がやばくて首と背中を痛める時があるけど、未だに繰返してます(汗)。でかいソファが欲しいわ」 おいおい、でかいソファってつまりそれがベッドだよ(爆)。居間の真ん中にベッドを置けよ!とツッコみたいが…ダメヨダメダメの罪悪感が寝落ち快楽のキモなんだろうね★

 

集ってハジける?/遊戯編

【Entry NO.5】マブダチYKカラオケ時間🎤

f:id:chinpira415:20191114160458j:plain「気の合う友達と仕事帰りに行くカラオケでーす。いま、歌っているときが至福の時間〜ビール片手に、昔懐かしの曲から、ちょっとだけ頑張って今の曲にチャレンジしてみたり…3時間コースで発散してます。大きな声を出すって気持ちいい〜サイコ〜」YKちゃんのカラオケタイムは、フィジカルな要素も強いけど、独り暮らしだから時には集ってハジけたい気持ちもあるんだろうな。気兼ねなくカラオケに行ける相棒がいるってイイよね~。遅まきながら気分は新宿の女子高生?👧

 

【Entry NO.6】マブダチKK麻雀時間🀄

f:id:chinpira415:20191114162852j:plain「やり始めると時間を忘れるというものは、麻雀ですね。家族麻雀ですが、始めると一日やっている気がする。夫、息子、私のパターンと、夫、私の母、私の2パターンしかメンツいませんが…。」 いいなあ~!あたしの理想のインドア遊戯👍でも老後は日がな一日雀卓を囲んでいたい…と願っているのに、役を覚えるのが面倒で、未だ参戦できない(汗)。ところで家族麻雀って、誰が言い出してどんなタイミングで始めるのかな?…互いの性分をわかり切ってる間柄でも、やっぱ負けず嫌いの血は騒ぐってか?

 

 スタート前勝負?/妄想編

【Entry NO.7】マブダチR映画鑑賞前時間🎬

f:id:chinpira415:20191114202615j:plain「お休みの日に、どの映画を見るか、一覧表見ながら、スケジュールを組み立ててる時間が好き!」「一番見やすい情報は新聞!劇場が横並びになってるから、2本ハシゴしたい自分には、とっても便利^ ^。あと、ストーリーを調べずに見るのが好きなので、チラシ、役者、監督をざっくり把握しておいて、“ どんな世界に誘ってくれるかなぁ〜”、とほんの少しの期待を抱きながら映画館へ向かうまでの時間が、好きです スマホで海外ドラマを早送りで見たりするRが、なんとここ一番の妄想源が新聞とは!鉄道マニアでいうところの「時刻表鉄」「スジ鉄」ってやつか(笑)。

 

【Entry NO.8】マブダチKOちゃん休日前時間

f:id:chinpira415:20191114210115j:plain「明日から3連休以上の仕事終わりで、嫁さんと息子が実家へ行って帰ってこない夜。映画観て帰るか?パチンコに寄って帰るか?倍ビッグマックセット買って帰り、家でAmazon Prime Video観るか?…と妄想しているときが至福の時間です。何でもそうですが、実際何かしているときではなく、妄想しているときが一番幸せなのかも…汗」 いいわー、世のサラリーマン家庭持ち男子の見果てぬ夢ではないでしょうか😢しかもその夢のちっこさが何とも切実で泣けるぅ~。ちなみにKOちゃん、一部上場企業の役員です(汗)…がんばれ~🚩

 

やりたい放題?/創作編

【Entry NO.9】マブダチの息子Oエネルギー爆発時間🎨

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「Oが一番ハッピーなのは…①昆虫を観ている時 ②弟と遊んでいる時 ③何時までと限定されない遊び&工作時間!」 

f:id:chinpira415:20191114223644j:plainエネルギー爆発~、子どもはこうじゃなきゃねー!目下、あたしの一番のライバル。ちなみに彼は4年生です(爆)。でも、じぶんからお受験に手を挙げたもんだから、遊び時間が限定されるようになり、ちょっとハジけ切れないのがイマイチとか…。まっ、しょうがねえサ、ぜんぶやり切れ~、世界は宝の山だ~、欲張ってよし

 

【Entry NO.10】ちんぴら左手模写時間🎨

f:id:chinpira415:20191114230054j:plainそして最後は ちんぴらの出番 「ジャーン、目下あたしが好きなのは…長谷川利行(1891-1940)の絵を模写する時間です!」去年開催された大規模回顧展で、見る絵見る絵ぜーんぶに武者震いしちゃってさー(汗)、今そのとき買った図録を引っ張り出してきて、毎日模写してるのよ、楽しいったらな~い。

f:id:chinpira415:20191114230126j:plainまともに模写するだけでは面白くないので、油性マジックを使用して 左手で描いてます(爆)。で、これが意外にも長谷川作品の自由奔放なパッションを浮かび上がらせるのに、ピッタリなのよね。家はないわ、日銭暮らしだわ、画材も買えずに最期は野垂死んだ波乱の画家とのコラボ、「明日は我が身」と思いながらニコニコ描いてま~す😊

―というわけで、幸福な時間は十人十色。そして移り変わっていくものです―1年後に同じ質問をしたら、みんななんて答えるかな~(笑)

PS 次回は12/14に更新します

勝手にシネマ評/『エセルとアーネスト ~ふたりの物語』('16)

『ドッグマン』『ジョーカー』そして『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』…と、ここのところ、あたし好みの狂気をはらんだ映画に立て続けに出くわして、至極ご満悦。どの作品も、内なる境界線を踏み越えてしまった主人公が、危うい領域へ転がり落ちる瞬間を捉えていて、とてもスリリングだった。予想を超える見事なタガの外れっぷりに、思わずホレボレ(笑)。ユルく凡庸な毎日を生きてる人間側からすると、ちゃぶ台返しのアクションすべてに快哉を叫ぶってわけだ。

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―が、今回取り上げるのは、これとはまったく真逆な一本。英国の絵本作家、レイモンド・ブリッグズが、今は亡き両親の想い出を綴った『エセルとアーネスト~ふたりの物語』(’16)である。

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恥ずかしながら、この著名な作家に関する予備知識はゼロ。作品も読んでいない。そのうえ原作のアニメ化だという…(汗)。チラシを見れば、写実的な画風や真面目な人物タッチ、「ささやかな幸せを大切に生きたふたりの日々に温かな涙があふれる―」との惹句も照れくさくて、むしろ腰が引けるばかりだった。…が、なぜか劇場へ出掛けた(汗)。そして悪態をついてるヒマがないほど面白く見てしまったのだ!

f:id:chinpira415:20191106225603j:plain映画は、原作者レイモンドが慣れた手つきでミルクティーを入れる、なんと“実写”シーンで幕を開ける。自宅と思わしき台所や仕事部屋を背景に、ご本人が本編の前フリをする仕立てだ。特に、ゆっくりハニかみながら両親の想い出を紐解く老画家の語り口は、レイモンドを知らない&ファミリーヒストリー好きなあたしに願ってもない導入となり、苦手意識は早々に吹き飛んだ―。

f:id:chinpira415:20191106225848j:plainさてアニメ本編は、1928年のロンドンを舞台に、若かりし頃のレイモンドのご両親の馴れ初めから始まる。陽気な牛乳配達員のアーネストが、5歳年上のメイドのエセルと偶然目が合い、手を振りあって、デートに誘ったと思ったら、あれよあれよという間にご結婚!

f:id:chinpira415:20191106225941j:plain古今東西の映画を愛好してきたあたしでも、ここまで高速ゴールイン・ドラマは記憶にないかも…マジで(汗)。しかも、ほころびを想像する気も失せるような、安心、安全、誠実、純粋なほのぼのカップルの誕生に、「おい、おい、開始早々ハッピーエンドか~!」と、意表を突かれて苦笑い。まるで、半年分の朝の連ドラを5分で早送りしたみたいなノリではないか(笑)。

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そして、若い夫婦が新居の購入にチャレンジするくだりも見物。ここでは一転、人生すごろくのスピードはスローダウン。学のない牛乳配達員が、労働者としての誇りを胸に夢のマイホームを手に入れ、夫婦で知恵と力を合わせ、丁寧に暮らして行く様子を事細かにお披露目するのだ。

f:id:chinpira415:20191106230302j:plain25年のローンを組み、入り口には鉄の門。小さいながらも庭があり、トイレは水洗、お風呂だって付いている…。エセルが思わず涙ぐむほど、それは当時の憧れの文化的生活だったのだろう。さらに言えば、少し背伸びしての人生設計が、立ち上げたばかりの若い共同体の絆をより強固にしていて、90年前の英国庶民の“暮らしの社会史”として眺めても、興味深いスケッチになっていた。

f:id:chinpira415:20191106230424j:plain1934年。ふたりに待望の子どもが授かる。雪の日の朝、難産を乗り切ってレイモンド誕生。そして同じ頃、世界はキナ臭い匂いに包まれるようになる。新しい歓びと、忍び寄る戦争の影を、映画は相互に組み入れながら、再び流麗に飛ばす

f:id:chinpira415:20191106230952j:plain「外」にどんなに荒波が立とうが、「内」は絶えず穏やかで、生活者目線を崩さないブリッグズ家のエピソードの数々…。ささやかな日常の一コマが、緩急使い分けた編集のリズムによって、イチイチ粋な小話に豹変するのには驚いた。もちろん、夫婦の素顔には夫々の個性がくっきりと浮かび上がり、日本人のフツーとは異なる側面も伺われる。ラジオから流れる政治情勢に、敏感に反応するふたりが、互いの見解を自由に語る姿は、我が国のホームドラマではついぞお目にかかれない代物だろう。

f:id:chinpira415:20191106231211j:plainまた、エセルとアーネストにとって共に身内を亡くした前回の大戦の傷は深く、あの絶望を乗り越えることで、彼らの質実剛健な生活者スタイルが確立されたことにも気づかされる。生きている限り人生の時間は、絶えず後ろへも前へも伸び続けるのである

f:id:chinpira415:20191106231415j:plain世界は再び悲劇を繰り返す。ふたりは泣く泣く幼いレイモンドを田舎へ疎開させる。同時代を生きた人々なら、誰もが味わったであろう戦時下の不自由な暮らし…。だが、ブリッグズ家の体験談は、ここでも個別的であり普遍的でもあるように映る。それはなぜか。小さな幸福を積み重ねてひたむきに生きる一家の在り方に、我々自身が信じたい生のドラマを重ねて見ているからではないか。我々の営みには意味があると―。

f:id:chinpira415:20191106231739j:plainやがて終戦。再び一つ屋根の下に家族が揃い、平和な日々が戻って来るが、政治は絶えず揺れ動き、科学の進歩は生活スタイルを一変させる。何より愛する一人息子の成長が、一番予期せぬ未知との遭遇になろうとは!(笑)

f:id:chinpira415:20191106231931j:plainエセルとアーネストに信じたい生のドラマを重ねて見てきたのは我々観客だが、劇中のふたりも同じように、息子にこうなってほしい理想を思い描いていたのである。が、それは見果てぬ夢。握りしめていた親心をゆっくり手離すと、今度は自然にじぶんたちの老いが目の前に広がるようになる―。

f:id:chinpira415:20191106234937j:plain人類が月への一歩を遂げた2年後、エセルはこの世を去り、追いかけるようにアーネストも旅立つ。ふたりの最期は、唖然とするほど即物的に描かれ、極めて残酷に映る。40年以上に渡り、ふたりの日々を丹念につむぎながら、映画は最後まで観客の思惑をいい意味で外し続け、ただただ激動の時代を駆け抜けた。

f:id:chinpira415:20191106235055j:plainそうすべては無常。誰にも等しく終わりはやってくる。しかし、はかない生の一回性に賭け、生涯を全うしたふたりの軌跡は、虚無に飲み込まれない。自身の両親を描きながら、真摯に生きたすべての人々の生をも照射したレイモンド、その仕事は大きい。


『エセルとアーネスト ふたりの物語』予告編

 

『エセルとアーネスト ~ふたりの物語』

2016年/94分/英国 ルクセンブルク

原作    レイモンド・ブリッグズ
監督    ロジャー・メインウッド
音楽    カール・デイヴィス
声の出演  ブレンダ・ブレッシン ジム・ブロードベント

 

PS 次回は11/28に更新します

 

あいちトリエンナーレ2019✑備忘録

ぼちぼち定着した感があったあいちトリエンナーレ。ところが4回目にして「まさかこんな騒動になるとは…」でしたね(汗)。あいトレを知らない人々にも、あいトレ=「表現の不自由展」=「中止」は、強くインプットされたんじゃないなあ…。正直言って、腹立たしいことがたくさん聞こえてきた。でも、現代ARTは少なくともあたしにとっては不可欠な窓。この窓が閉じられたら息ができないよ~😡

f:id:chinpira415:20191003231024j:plainというわけで、今回の騒動は一旦括弧で括り、いつものようにフリーパス券を買い求め、いつものように全会場を歩き、いつものように「じぶんから近づく」を繰り返し、いつものように未知の星と遭遇して、いつもように心地よい胸騒ぎを覚えた備忘録です。なにせ現代ARTは未来への博打ですから~♬破産しても賭け続けまーす(爆)

 

桝本佳子(1982-) 

わぉ~、理屈抜きに好き♥ なんて大胆、陶磁器でこの跳躍!『メロン/壺』('16)。目を凝らせば表面にメロンの網目が…👀ぶっ刺さった切り口の角度も絶妙✌

f:id:chinpira415:20191004100021j:plain神妙なのかラフなのか、澄まして流すべきか突っ込むべきか…。作品と対峙するとき、一瞬戸惑い、照れて気まずいムードになるそのタメ感も込みでよかったあ~。はい、お見合い体感です(やったことないけど…笑)。次のイカ/壺』('18)の光りっぷりも、思わず生唾を飲み込んだ。どんだけ新鮮なんだー!今すぐ刺し身醤油もってこい!

f:id:chinpira415:20191006113504j:plain『武人埴輪紋壷』('10)では、誰もが知ってるあの埴輪のスタイルを、むりくり壺の形に変形させて、しれーっとD難度着地!伝統的な技法を使い、壺であって壺でないが、笑いのツボはけして外さない桝本作品群、今後も追い駆けさせていただきます(ぺこり)

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ミリアム・カーン(1949-) 

スイス・バーゼル出身の女性アーティスト、ミリアム・カーン。シンプルなフォルムと、鮮やかな色使いで、遠目からでもガッツリ首根っこ掴まれちゃった~

f:id:chinpira415:20191006211558j:plainどの絵も、いい意味での投げやり加減がタマランこちらは『急いで離れて!』('10+'18) 。空恐ろしさと同時に永遠の美に届いている…。どうやら、作家が掲げるテーマはかなりシリアスなものらしいが(汗)、それでも美しいものは美しい―。

f:id:chinpira415:20191006214527j:plainお次は、奈落の底なのか、はたまた絶頂の境地か…ずるずるずるーっと落ちてゆく~『美しいブルー』(’17)しりあがり寿の傑作マンガ『方舟』をしきりと連想しちゃった。好悪の感情がせめぎ合い、紙一重のところでなるものに滑り込む…このスリルこそ美術のカ・イ・カ・ン

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高嶺 格(1968-) 

太陽がギラギラ照り付ける中を「あっち~、あっち~」とボヤキながら歩いた先に、使われなくなった廃校のプールが登場。そこに聳え立つは…「えーっ、ウソだろう~!」


あいちトリエンナーレ2019 「反歌:見上げたる 空を悲しもその色に 染まり果てにき 我ならぬまで(高嶺格)」をみてきたよ!

人間は不思議なもので、あまりに「見たマンマ」だと頭ん中がカラカラ空回りしちゃって、「へっ?これ作品?工事中?」とキョトンとなっちゃうわけよ(笑)。現実なのにマンガにしか見えないのは、プールの底があまりにきれいに切り抜かれてるから(爆)。でも考えてみたら、こんな工事あるわけないし(汗)、しばらくぼーっとしてると、立ち上がったプールの底の巨大さがじわじわ押し寄せてくるんだよね~。

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反歌:見上げたる 空を悲しも その色に 染まり果てにき 我ならぬまで』('19)は、実際は、ぺろーんとプールの底を引っ剥がしたわけではなく、分解して積み上げ、鉄骨で後ろから支え、巨大な壁として出現させているの。しかも、トランプ大統領がメキシコ国境に建設しようとしているクレイジー9メートルの壁と同じ高さに!廃校のプールに反骨の源泉が埋もれていたとは…これぞカウンターパンチよ~

 

タリン・サイモン(1975-) 

『隠されているものと見慣れぬものによるアメリカの目録』('07)は、タイトルのまんま(笑)。写真と映像とテキストで、タリン・サイモンが我々の目に届かないものをさりげなく解き明かす。とはいえ、ことさら煽るわけではなく、鑑賞者自らが「何が写っているんだろう…」とふら~っと近づく仕立てになってて、なかなかの戦略家だ。例えばこちら、お馴染みのアメリカの男性誌PLAY BOYの表紙を撮った写真は―

f:id:chinpira415:20191009083947j:plainよく見ると、ラビットヘッドの上に点字が浮き上がっているでしょ?アメリカの国立図書館にある点字版PLAY BOYなんだって!視覚障がい者のリクエストに応えた無料サービスで、中に写真は一切なく全部点字テキストらしいのよ。さーすがアメリカ、誰に対しても知る権利を提供するってことね📚 その一方で、こんな1枚も―

f:id:chinpira415:20191012120127j:plain檻?でも光と影の分量のせいか、モダンな白いストライプのハコ型インスタレーションにも見えたりして…。実はオハイオ州にある死刑囚のための屋外レクリエーション運動場(汗)。こんな風に、じぶん自身の中でイメージと事実の落差を何度も味わう体験になり、緊張度は高い。美しく作り込んだ写真が落差をより誘発するってわけ。きっと、事実に恐れるというよりは、じぶんの脳内変化に驚かされるんだろうな…。ご本人が自作について語るTED動画があるよ~👀

www.ted.com

サイモンのもう一つのシリーズ公文書業務と資本の思想』('16)も、目の付け所がシャープで、非常に練り上げられた展示だったよ。ほれ、この“ありそうでない”&“なさそうである”お花畑、なんだと思う?あのチコちゃんにもわかんないかも~(笑)。

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小田原のどか(1985-) 

「戦後日本の彫刻を考えるうえで、長崎は最も重要な場所である…」小田原のどかの展示コーナーで配布されたテキスト Look at the sculpture 冒頭の一文に、思わずゾクゾクした。彫刻史も長崎も、個人的にはまったく縁遠いものなのに、ここにはあたしが探している何かが、必ず見つかる予感がしたから―。

f:id:chinpira415:20191012141128j:plainとはいえ、戦後日本の彫刻史と被爆地・長崎に一体どんな関係があるのか…皆目見当がつかなくて(汗)、なんとなくブースに並んだ古めかしいモニュメントが写っている土産物のような置物(スキ)を眺めたり、もったいぶった公共彫刻の設置意図や社会背景を資料で示唆され、逆に今までノレなかった理由が明確になったり(苦笑)してたわけ。公共と美術の関係性って、それこそ今回の騒動を予言するような視座だしね。

f:id:chinpira415:20191012152238j:plainそして隣のブースには、砂利の上に置かれた『↓(1946-1948)』いネオンサインを放ち怪しく光る―。さっき見た米兵の記念写真に写っていた矢印と同じ形?…これが爆心地を意味することぐらいは想像できるけど…??? こうして様々な要素を目撃し、ぜんぜん整理ができないまま帰路の瀬戸線車中でおもむろに読み始めたのが、先のLook at the sculpture。そう、ここで冒頭の一文に出くわしてイッキにが沸騰したの~👍

f:id:chinpira415:20191012153206j:plain面白いよね、会場を後にしてから展示の本丸へたどり着けたんだもん(笑)。なるほど、彫刻を通じて投げ掛けられた「問い」こそが最も手ごわい構造物だったのか!台座不要、持ち運び可能な彼女の「問い」は書籍でも読めます。手始めにHPをご覧あれ💻

 

ホー・ツーニェン(1976-)

そしてあいトレ2019、ちんぴらを最ものけぞらせた作品は、シンガポール出身のホー・ツーニェンによる映像インスタレーション『旅館アポリア('19)でした✌ 会場は、大正から昭和にかけて豊田市内で実際に営まれていた料理旅館「喜楽亭」

f:id:chinpira415:20191014092629j:plain風情漂う町家建築ってやつですよ~。「わーい、わーい、中も見学できるのかな~、ラッキ~!」とひとりはしゃいで訪問♫ フタを開ければ、室内の全座敷を順に回りながら、「波」「風」「虚無」「子どもたち」と題した映像を鑑賞する仕立てに―。

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…で、なんの予備知識もなく、恐る恐る最初の座敷に入り「波」を見るわけですが…激しく動揺(汗)。本作を制作するために、作家自身がスタッフへリサーチ依頼をしてる様子が楽屋オチ的にナレーションで流れる中、なんと背後にコラージュされる映像が小津映画のオンパレードで、しかも常連役者が振り返るたびのっぺらぼう~ぎゃー!『ジョーカー』なんて目じゃない!『シャイニング』並みのおっそろしさにめまいが~

f:id:chinpira415:20191014094902j:plain f:id:chinpira415:20191014094808j:plain f:id:chinpira415:20191014094724j:plain

いやー、ヤラれました(汗)。古い日本家屋に小津映画のローアングルを同機させることで、建物自体が呼吸し始めちゃって、もうタイヘン。っていうか、この手があったのか~!…と若干悔しい気持ちになっちゃった。それに、のっぺらぼうの絵も、考えてみたら「ぼくの作品には表情はいらないよ。表情はなしだ。能面で行ってくれ」と笠智衆にオーダーした小津演出の究極の形じゃね?何より小津映画が世界のテンプレートになってる事実に胸を打たれたわ~。我々日本人が一番知らなかったりして…(汗)。

f:id:chinpira415:20191014094927j:plain映画好きだからどうしても小津に気が向いてしまったけど、本作は「戦時中は海軍さん、戦後はトヨタさん」でにぎわった喜楽亭という場所との同機がもっともスリリングな体験になるの。言うなれば、“難破船”喜楽亭を再び浮かべ、戦中戦後に様々な立場で生きていた人々の断片が浮かぶ大海を眺めながら、追体験するインスタレーション

f:id:chinpira415:20191014095058j:plain仕事がデカすぎて、正直言ってざっくりでもまとめづらいけど(汗)、ここで触れた夥しい数のイメージやテキストは情報の枠を超えて確かに身体に残った。この先も幾度となく振り返ることになりそうだわ―。

富田克也(1972-)

最後は映像プログラム。富田克也監督作品『典座』('19)。富田作品とのつきあいは国道20号線('07)以来だからもう10年以上になるけど、まさかこんな展開になるとは…。だって、シンナー中毒のへなちょこ悪ガキドラマから始まって、なんと新作では曹洞宗のホンモノの坊さんたちが出演する映画を作ったのよ~、面白すぎる!そのうえカンヌに特別招待だって👀世の中何が起こるかわかりませんね(笑)。長生きはするもんだ♫


国道20号線 予告編

映画は山梨と福島に身を置く2人の青年僧侶が主人公。ただし、頭丸めて袈裟着たりしてるから僧侶と認識するものの、迫ってくるのは、寺という家業を継ぐことになった地方の青年の横顔なんだよね。そして、いくら仏教の教えを拠りどころにする道に就いたからと言って、卑近な悩みにすら答えが見つからないのももっともなわけで、彼らの惑いをあえて宙づりにしたママ提示するあたりは、富田監督らしいアプローチだったな

f:id:chinpira415:20191022114227j:plainところが今回監督は、若者を漂流させるだけの映画にしなかったの。彼らが拠りどころとする道に確かなともし火を捧げた…それが曹洞宗の尼僧、青山俊董老師の登場シーンなのよ。一度聞いたら忘れられない語り口、Eテレ『こころの時代』で見たことがあった人でさー、富田くんの映画で再会するとは…これまたビックリ仰天だった。

f:id:chinpira415:20191022195147j:plain『典座』は、わずか62分の割に要素は多いわ、とっ散らかってるわ、そのくせ繊細だわで、大忙し(笑)。そしてやっぱりやたらと心が動く「仏教」という大きな船を見つけた富田くんの勢いが止まらないよ~。11/15(金)まで名古屋シネマテークで公開中。この機会にぜひ―。

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そして粘りに粘り、 閉幕間際に完全再開にこぎつけたあいトレ。わたしも最終日に再開したブースをのぞいてきましたよ!ただ、豊田会場にまでは足が伸ばせず、小田原さんのこの写真↑『彫刻の問題』('16)と直に対面できなかったのは心残りだったなあ…。まっ、でも念じていれば見られる機会もあるでしょう。「そしてARTはつづく…」なのだから👍

 

PS 次回は11/13に更新します

 

ひろしま漫喫帖 🦌⛩

8月の終わりに、1泊2日で広島へ行ってきマシタ!なんとこれが人生の広島観光旅行~♪ 修学旅行でさえ訪問しておりません(汗)。予報では、台風&秋雨前線の影響で大荒れだったはずなのに、フタを開けたら奇跡の逆転劇!両日ともに上天気でめちゃラッキーでした はじけすぎ&キョロキョロしすぎで、首がツリかけマシタよ~(笑)。

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1日👀~市内編

さて25年来の旅の相棒Rと、新幹線車中でパリパリサクサクのクロワッサン🥐を食べながらGO♫~ 今回は、何度も広島に来ているRに任せっきりで、事前に地図を眺めることもせず、ミステリー・ツアーのような運ばれ旅行体験となりました。いやー、新鮮でいいわぁ~♥ 持つべきものは、とびっきり気が利く年下のガールフレンド👩ですねそして到着早々リニュアルしたばかりのピカピカの広島駅内でお好み焼きランチ😊

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今やどこでだって食べられる食い物になっても、これを食べなきゃ始まらないと思わせるのが地元のソールフードってもんでしょう。ランチでガソリン満タンにして、次に目指したのは比治山公園にある広島市現代美術館。開催中だった山口啓介 後ろむきに前に歩く』展をのぞいてきマシタ。どこを旅しても、集中力のあるうちにまずは美術館!が2人の合言葉🎨 初めて訪れる土地で初めて知る作家と遭遇するのはさらにで~す

f:id:chinpira415:20190921120956j:plain未知の作家とはいえ、同世代の山口氏の作品遍歴を眺めるのは、じぶんが歩いてきた時間を振り返るアクションにつながり、予想外の面白さだった。特に80年代後半から制作された大型銅版画シリーズ、圧巻だった世の中全体が浮足立ち、何でもありだったあの時代に、こんなに重心を低くしながら澄んだ線を重ねていた人がいたなんて…。

f:id:chinpira415:20190921131311j:plainその後、作品が劇的に変化し続けている様子も興味深く、回顧展形式でチェックできてラッキーだったなあ。そうそう、大ぶりの作品群から一転、東日本震災後の2011年3月14日から1日も欠かさず書き続けている日記の展示が、これまた強烈!あたしも「1日1枚シリーズ」を続けているけど(汗)、これだけの熱量&創造力をKEEPしたまま毎日って…しんじらんな~い、まるで異星人サラリーマンでしたよ

f:id:chinpira415:20190921134316j:plainあっ、でももっとぶっ飛んだ異星人がいたわ~!常設展で河原温(1932-2014)をみーっけ👀 絵葉書にじぶんが起床した時刻だけを記して特定の相手2人に郵送する「I Got Up」シリーズと遭遇!自己開示ゼロのまま、自己表現1000%でこの世から消えた天才の痕跡に鳥肌が立った。ゴム印も郵送も、今となってはむしろ生々しく謎めき輝いてたわ~

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そしていよいよ平和記念資料館へ。4月に全面リニュアルしたという資料館、とにかく来訪者の多さに驚いた。特に外国人の団体客がひっきりなしに入場するのを見て、長年じぶんが躊躇していた心理は一体何だったんだろう…とフト考えちゃいましたね。「観光」で訪れるべき場所ではないと、勝手に思い込んでいた節があったのかも

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でも、思わず「あっ…」と息を飲んだのは、資料館内の通路から見えた原爆ドームだった。広島に来て初めて見る実物のドームが、窓ガラス越しの正面に遠目に映った瞬間、愁いを帯びたその佇まいに胸が締め付けられてしまった…。まるで、身を挺して平和を願う女神の肖像画のようで―。なぜか人、それも女性に見えてしまったみたい…。当たり前だけど、資料館は“編集”されての展示だが、ドームは展示じゃない。あたしにはその違いが大きかったなあ。

f:id:chinpira415:20190922225326j:plainそうそう、たまたまネットを眺めていたら、資料館に関する重厚かつシャープな論評を発見小田原のどかという彫刻家(!)によるもので、ツイむさぼるように読みふけってしまったの。そこに引用されている定期入の展示、あたしも強く記憶に残ってる…。

bijutsutecho.com

しかもタイムリーなことに、彼女があいちトリエンナーレに参加してると知り、その後速攻で見に行った話は後日また えらいこっちゃ~

 

2日👀~宮島編

まだまだ見学し切れなかった市内編をひとまず切り上げ(汗)、翌日は朝からフェリーで宮島へ🚢 船で島へ渡る旅って格別だよね~。なんだろう…わずか10分余りの乗船なのに、潮風に吹かれて漂ってるあいだの空白の時間が、禊作用をもたらすのかな…

f:id:chinpira415:20190923112651j:plainだし清らかな心地になっても習性は変らず…文字盤看板を見れば胸騒ぎ~(笑)

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して下船して早々、目の前に広がる景色がこれだもん!泣きそう~

f:id:chinpira415:20190923132543j:plain知らぬ土地なのに、懐かしさがこみあげてくる…。あたしの場合、平清盛公より、松・灯篭・桟橋の3点セット東京物語('53)を連想しちゃったわけですが💦

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、目指すは“尾道”ではなく(笑)厳島神社でございます。いや、その前に大鳥居⛩でしょう~という話になるわけですが、なんとその修繕中!マジっすか?でも…

f:id:chinpira415:20190923140358j:plain~っ、これはどこをどう見ても韓国人アーティストス・ドホ(DO HO SHU 1962-)「ファブリック・アーキテクチャー」シリーズではないの?(爆)ほれ、見比べてよ~♫

f:id:chinpira415:20190923141157j:plainへへ、なんかすんごく得した気分 しかもRとは、2012年に金沢21世紀美術館でしこたまス・ドホを味わいつくした仲だから、ハプニングもサイコーの土産になったわ本殿内から見たス・ドホ仕様大鳥居もええかんじじゃね?…クドイってば~(笑)

f:id:chinpira415:20190923144102j:plainれにしても、厳島神社は刺激的な場所ですね。長い参道からすでに笑っちゃうくらいドラマチックなんだけど、“潮の満ち干き”が動く書割りみたいでさー、水を舞台装置に見立てるとは、大胆な発想だよね。それとやっぱ朱塗りの縁取りですわな。厄除けとエロス炎上の、両方向への作用を感じずにいられない色味だなあ。いずれにせよ、信仰の力が脳ミソの可動域をめっちゃ広げることは想像できました~(笑)

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んな朱塗り空間を歩きながら「もしここに絵を飾るなら絶対マティス!」と妄想インスタレーション。前日にひろしま美術館で魅了されたこの2枚を連想してマシタ

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あっ、でも江戸時代に建立されたという能舞台だけは朱塗り縁取りなし!あの世の舞台だから?神さまが祭られていないから?なんでだろう…

f:id:chinpira415:20190924090607j:plainちなみにス・ドホのファブリック・アーキテクチャー、赤バージョンもいいのよー!階段、浮いてるし~。くどくてスイマセン(ぺこり)

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厳島神社本殿の御祭神は、海の神様宗像三女神(むなかたさんじょしん)。去年ハマった古事記に出てきたけど…脇役扱いだったから印象に残ってませーん(汗)。それより大国主だよ~、あのプレイボーイ野郎がココにも出張ってる~(爆)

f:id:chinpira415:20190924222225j:plainそしてオオトリを飾ったのは宮島の最高峰「弥山(みせん)⛰ ロープウェーに乗ってするするっと獅子岩へ登れば、瀬戸内海の島々が一望できる絶景👀 まるで『古事記国生みの章よ。せっかくだから天沼矛でこおろこおろとかき混ぜなくちゃあ~。

f:id:chinpira415:20190925083711j:plainこからさらに頂上を目指しておよそ30分(けっこうハード…汗)、徒歩で登り切った先には、360度パノラマが堪能できる弥山展望台が―。スニーカーでよかった、晴天に恵まれてウカれたあ ほらあたし、ここんとこ“石”マニアになってるからさ(笑)、標高535mのてっぺんに、こんな巨石がゴロゴロ転がっててテンションあがりっぱなしでしたよ。ミシュラングリーンガイドジャポン」三ツ星の地にブラボー

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そういえば、下山途中の山肌に鹿を発見🦌ここまで遠征?マジ?健脚すぎるぅ~

f:id:chinpira415:20190925214909j:plain下山して厳島神社に戻ったら、あたり一面干潮に―。潮風にちぎれてbyユーミン~♫ そう、キツネではなく、“神さま”につままれちゃう景勝地「宮島」は、 世界遺産というより、秘密にして容易には人に見せない玉手箱のような場所だった。次はぜひ島で一泊してみたい…ス・ドホ仕様大鳥居が終わったあとに~😊

f:id:chinpira415:20190925215507j:plain帰りの新幹線のお楽しみは、宮島口で予約しておいた「あなごめし うえの」の穴子弁当うまいったらなーい!噂には聞いていたけど評判以上…し・あ・わ・せ😊これも神さまのお導きね~♪ 昔の絵柄をそのまま使い続けているレッテルは12種類もあるって!

f:id:chinpira415:20190925230505j:plain牡蠣に顔がほころんだり、尋常じゃない広島東洋カープに驚かされたり、旅の思い出は尽きませんが、まだまだ味わい足りない、広島。ぜひまた訪問したいですぅ~。余談だけど、旅から戻ってオードリー・ヘップバーン写真展』なるものをのぞいたら、小鹿のような女優が小鹿を飼っていたという写真に遭遇!おー、広島つながり~😊

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PS 次回は10/29に更新します。「あいちトリエンナーレ2019」備忘録です!

 

 

束の間のダーリン♥年下編

前回に引き続き、スクリーン内で束の間恋に落ちた洋画男優遍歴を紹介する『 束の間のダーリン』の第2弾。今回は年下編でございます。幼い頃から枯れ線だったあたしも、気づけば50代後半となり、知らない間に「ナイス!」と思うお相手が年下になっていたんですよね…恥ずかしながら、ここに書くまで気づかなかった(汗)。

7人目ダーリン♥  

f:id:chinpira415:20190908125010j:plain▶こいつもろくでなし野郎だったなあ…7人目のダーリンはデヴィッド・シューリス(1966-) ここからあたしの男優遍歴には年下男が登場しまーす。マイク・リー監督の『ネイキッド』('93)で強烈な印象を残したドブネズミ王子ですわ(笑)。シューリスが演じたジョニーは、乱暴なSEXに興じるわ、誰かれ構わず突っかかるわ、盗みはするわのクソ野郎!しかも、自堕落な生き方の言い訳は呆れるくらい饒舌だし、他人の誠意にちゃっかり甘んじるような姑息な面もあって、とにかくダッせぇ~の。

f:id:chinpira415:20190908140138j:plain▶かつてのアウトローには多少の美学があったが…ジョニーはゼロ…いやマイナスです。ところが人一倍世界に懐疑的な彼が、誰よりも“いま”を猛烈に生きてるように見えてしまう…これが映画のマジックなんですよ~😊 次の動画は、ちゃぶ台ひっくり返してトンズラする長廻しのラストシーン。ちゃちな絶望ごっこで終わらせないシューリスの存在感、まさに役者の身体性がスクリーンに生命を吹き込む瞬間が捉えられてます★


naked.1993. David Thewlis

▶そしてシューリスといえば、忘れちゃならないのが持てあますほど長く細い指と、しなやかな手の表情!骨フェチ長沢節先生もお墨付きの指の美しさに、クラクラしちゃいますよ~ ドブネズミからハリーポッターシリーズへの大転身も、あの優雅な指でかるーくクリア(笑)。そうそうこの映画、主人公を取り囲む女たちもすっごくイイの。ジョニーが無軌道に浸っている間に、女たちは着実に現実を受け入れて進み、実は映画のど真ん中にドーンと腰を据えて光り輝くのは彼女たちなんだよねー、傑作です👍

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8人目ダーリン♥

まさかこのあたしが007にハマるとは!007/カジノ・ロワイヤル('06)で6代目ジェームズ・ボンドに抜擢されたダニエル・クレイグ(1968-)が8人目のダーリンです 2007年、正月早々、“新生ボンド第1作”とご対面したときは興奮したな~。

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▶まず、意表を突かれた…だってそれまでの007と違ってダニエルは冷気が強すぎでしょ?どっちか言ったら悪役顔(汗)。先代のピアース・ブロスナンの洒落っ気やユルさを贔屓にしていたあたしとしては、冗談が通じなさそうなボンドじゃ野暮で嫌だなあ…なんてシンパイしてたわけ。ところがドッコイ、幕開けからダニエルの身体性に目が釘付け!動いている時と静止している時ではガラッと肉体が変貌するのよ、ひぇー

f:id:chinpira415:20190910090814j:plain▶しかもこのアクションが、速くて正確で、ずしりと重く響いてくれちゃうの~。そしてどんなに激しいアクションをこなそうが、スーツ姿はカンペキ。スーツの上からでもダニエルの筋肉が想像できてしまうのよ。あっ、そうそうこの肉体派6代目ボンドは、その分いたぶられかたもハンパなくて、全裸拷問シーンまで登場(爆)。笑いより、悲哀の体現できる新ヒーローにリニュアルしたんだよね。だから毎回スクリーンから“挽歌”が立ち上るのぉ~、東映やくざ映画みたいに~(笑)。

f:id:chinpira415:20190912220524j:plain▶ザンネンながらダニエルのボンドは来年4月公開の『007 NO TIME TO DIE』が見納め(涙)。撮影現場にチャールズ皇太子が表敬訪問したって!すごいツーショット

 

9人目ダーリン♥  

▶9人目のダーリンは台湾出身のチャン・チェ(1976-)。なにせ、15歳で主演した衝撃のデビュー作が、エドワード・ヤン監督の傑作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件('91)ですからね!以来、大物監督から引っ張りダコで、正統派美形スターの地位を不動のものに―。ただ、大作アクション&コスプレ出演が多くて色物扱いされがち…もったいないのよぉ~。前髪の後退も若干シンパイ…いっそ今から坊主に…いらん世話か?

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▶ところで、正統派にはめったに食指が動かぬちんぴらが、なぜチャンを束の間のダーリンに選んだのか…。はい、それは呉清源(ゴセイゲン)〜極みの棋譜('06)と出会ったからなんですよ囲碁の神様”と称され、日本の囲碁界に多大な影響をもたらした中国出身の天才棋士呉清源の波乱の半生を描いたもの。おそらくチャンの出演作品で一番ミニマルな内容で、一番お地味なキャラなのではないかしら…。

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▶なにせイガグリ頭で碁盤の前でじっと座っている姿がメインですから~(笑)。それにフツーの伝記映画と違い、偉人の人生を説き明かして謳い上げたり、内面を吐露させるシーンが1つもないの。むしろ近づき難い存在として描き、勝負師としての資質以前に呉清源に備わる清らかな精神の音色みたいなものに耳を澄ます映画になってたよ。

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チャンの美しすぎる横顔が、ミステリアスな演出でさらに際立ち、思わず息を潜めて魅入ってしまいマシタ。ツルツルおでこをなでたいな~♪見落とされそうな小粒な映画だけどマジに必見★呉清源ご本人も草葉の陰から目を細めていることでしょう(笑)。

 

10人目ダーリン♥  

▶ついにダーリンも80年代生まれに…(汗)。ベン・ウィショー(1980-)くんです。『パヒューム  ある人殺しの物語('07)のキワモノ調香師役で鮮烈に登場し、アイム・ノット・ゼア(’07)であのボブ・ディランに扮し、甘い顔だけどなんだかいつもヒト癖ある役ばかりだな…なーんてチェックしてたら、次の『ブライト・スター いちばん美しい恋の詩('09)では19世紀ロマン派の詩人ジョン・キーツを青白く演じ、イッキにときめき全開よ~

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▶実は、映画はキーツの婚約者ファニーに焦点を当てているので、ベンくんの出番は意外と少なめ(汗)。新進気鋭の詩人ながら、一文無しの居候の身で、拍子抜けするほど押し出しが弱く、震えて生きているような繊細な男キーツ…しかも25歳で夭逝。まるで一昔前の少女漫画みたいな役どころをベンくんがウルウル演じ、えー仕事してまっせ~。そうそう、前出の6代目ボンドの相棒役天才メガネ男子Qも大好き~♥♥ 殺人鬼からミュージシャン、詩人に研究者まで…派手過ぎず地味過ぎず…なんでもイケますわ

f:id:chinpira415:20190912222206j:plainプラダファッションアイコンにだって、さらりとなっちゃったりして…。わかった!どうもベンくんのこの首のラインが小鹿を連想させ、辛うじて残っているわが母性本能がこちょこちょくすぐられるみたいよー。あー小鹿、ウチで飼いたいな…(笑)

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11人目ダーリン♥  

▶鹿といえば…ジャック・オディアール監督の傑作預言者('09)には、不意に鹿が登場して宙に舞う強烈なシーンが出てきます。そしてこの映画の舞台となる、危険度200%な刑務所内にあたしの11人目のダーリン、タハール・ラヒム(1981-)くんを発見♥ 猛獣たちがのさばる檻の中へ、ひとり放り込まれたアラブ青年役…24時間絶体絶命だあ!


映画『預言者』予告編

▶とはいえ映画の醍醐味は非日常空間ののぞき見ですから、塀の向こうでしのぎを削る男たちの具体的なスケッチが痛快で退屈しらず~。当初は黒目の分量が大きい子犬顔のラヒムくんにハラハラしつつも、意外にも学習能力が高くてさー(笑)、サバイバルの知恵を身につけて顔つきや振る舞いが徐々に変化して行く様子に魅了されたなあ~♫ 所内を仕切る牢名主との疑似親子関係や、じぶんが殺した亡霊との対話シーンなど、閉じた舞台に奥行をもたせる演出も効果的。ラヒムくんの出世作となった1本ですわ👍

f:id:chinpira415:20190916095121j:plain▶その後も、鬼才監督たちから引っ張りダコだわ、作品選びも抜かりないわで、目下フランス映画界で最もいいポジションにいる若手役者の一人じゃないかな…。彼の魅力はどこかぼーっとしてると言うか(笑)、トンデモ状況に置かれても身に染みないかんじがあって、その無頓着さが緻密かつスピーディに進行する現代社会の時間軸と逆行し、謎めいて映るところなの。ぼーっとしてても一生懸命…これ最強のコンテンツです★

f:id:chinpira415:20190916103045j:plain▶そしたらなんとあの黒沢清(1955-)がラヒムくんに目を付けたのよ!パリ郊外を舞台にした黒沢監督初の海外資本作品ダゲレオタイプの女』('16)で、亡霊を愛してしまう主演の青年役に抜擢。あの世とこの世の境目を超えて、愛の深みにハマってゆく主人公を、気負うことなく、ごくごく自然な顔つきで演じるラヒムくんに、新たな柔軟さを発見しちゃいましたね~おフランスで怪談を絵にしてしまえる黒沢、さすがです👍


黒沢清監督作品/映画『ダゲレオタイプの女』予告編

そんなこんなで、しょーもないババアの戯言をダラダラ書いてしまいましたが、いかがでしたでしょうか…(汗)。人工何とかが進んだとしても、そもそも映画自体が幻影なんだから、むしろ生身の人間が演じる物語を見たいと願う気持ちはより強まるんじゃないかな…。まっ、あたしの目👀の黒いうちは、束の間のダーリン探しは続きますよ~。

PS 次回は10/12に更新します

束の間のダーリン♥ 年上編

あ~あ、ピーター・フォンダも死んじゃったか…。お気に入りの役者の訃報を目にすると、思い出グルグル駆け巡る…。―というわけで、今回はあたしの洋画男優遍歴をご紹介★ 銀幕の中の束の間のダーリンたち…さてどんなメンツが並ぶかな~♫

1人目ダーリン♥ 

f:id:chinpira415:20190822221433j:plain▶もはや知らない人も多いでしょうが、超有名芸能一家に生まれたピーター・フォンダ(1940-2019)は、70年代を代表する映画界の“顔”だったのよ。といっても、あたしもまだ中高生時代だったから、当時の人気振りはイマイチわかってなくて(汗)、彼が主演した映画『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』(’74)1本だけで、めでたく忘れられない男優にランクイン!まさに“束の間”のダーリンです(笑)。

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▶確か、高校卒業まで残すところあと数日の昼下りに、TVで放映されたんだよなあ…。手元のメモによると今から40年前、1979年2月だって(汗)。もちろん吹き替え版。名うてのドライバーとメカニック野郎の2人組が、レース用の新しい車欲しさに、スーパーマーケットに強盗に入り、警察に追われて大騒動になるってだけの話。途中、はすっぱな女が乗り込んできて3人逃避行になるものの、ぶっちゃけ何の深みもなし(爆)。

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▶犯罪描写も、カーチェイスも、人物設定も、見事にぺっらぺらでさー、カッコイイんだか悪いんだかよくわかんなかったわけ。ただ、脳みそツルツルの割には、映画内エネルギーの質といい量といい、見たことないほどまばゆくて、圧倒されたのよ!でもって、ウソみたいにあっけないラストのお開き…。ピーターのだらしない笑顔としゃくれたアゴのライン(スキ)ともども、今でも“踏切”に出くわすたび、蘇る1本ですわ~。


Dirty Mary Crazy Larry Trailer 1974

 

2人目ダーリン♥ 

▶お次は、さらにみなさまに縁遠いであろう男優、ウォーレン・ウォーツ(1928-1982)。束の間どころか、あたしにとってはオールタイムベスト1ダーリンなんですけどね~♪ 鬼籍に入った役者は、永遠度がぐっと高まるし…(笑)。1本に絞るのは至難の業だけど…やっぱ最初の出会いデリンジャー('73)は外せない!

f:id:chinpira415:20190823222349j:plain▶1930年代の米国に実在した悪名高きギャング、ジョン・デリンジャーの半生を描いた1本で、これまた40年以上前に深夜のTVでチェックしたの。ウォーレン演じるデリンジャーは、人は殺さず金は銀行からしか奪わないがモットーの粋な犯罪王でさー、クセモノ揃いの仲間との絆も強く、テンション上がりまくり~✌そう、なんといっても映画の最大の魅力は、おおっぴらに反体制の旗を振れるところですから~♪ FBIとの派手なドンパチに、脱獄…我々の見果てぬ夢を代わりに体現してくれて痛快極まりなし★


Dillinger 1973, Warren Oates , Harry Dean Stanton

▶しかもこの映画、死と背中合わせのアナーキーな日々を緩急使い分けたアクションシーンで織り上げ、実録チックかつ詩的なの。ウォーレンのいかつい顔と、時折りのぞかせるナイーブな表情との落差が辛抱タマランかったそして意外にも彼はウエットなシーンでこそ本領発揮する役者なのよ。傑作ガルシアの首('74)もむせび泣いたな~。

f:id:chinpira415:20190823085904j:plain女には愛を贈り、仲間には筋を通す…まっ、いかにも男が惚れる男のイメージですわな(笑)。亡くなった年、なんとイオニアのステレオのCMに登場して驚いた。きっと広告代理店の営業マンあたりにウォーレン心酔者がいたんだろうね(笑)。享年53歳…よく考えたら(よく考えなくても)今のあたしより年下じゃん!やっべー(爆)


1982年 パイオニア ロンサムカーボーイ(60秒)

 

3人目ダーリン♥ 

▶もはや懐かしすぎて誰もついてこられない?(汗)茶目っ気たっぷりなおチビさんダドリー・ムーア(1935-2002)もあたしの束の間のダーリンでしたあ~。ただし、認知経路は若干異なり、超辛らつな映画評論家ポーリン・ケイル女史の著書「映画辛口案内」の中で、ベタ褒めされていたダドリーに興味が湧き、すでに彼の全盛期が過ぎた91年にビデオでまとめて見たのがきっかけだったの。

f:id:chinpira415:20190824130613j:plain▶今にして思えばレンタルビデオ屋さまさまの時代でしたね(笑)。喜劇役者の身体能力の高さを吟味するには、お手軽に再生できるソフトで繰り返し見るのがベストなのよ~。もともとは音楽畑の人だから笑いの間合いが抜群だし、気の強いデッカイ女の周りをグルグル回る小型犬みたいな身のこなしに、母性本能をそそられたものです😊イギリス人らしい皮肉屋ぶりや、酔っ払い貴公子な横顔も◎ビデオで愛した束の間のダーリン、これもまたよし♫(若干、布施明入ってる?!)

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4人目ダーリン♥ 

▶打って変わって、巨漢おやじダーリンもいたわよ!ハリウッド殿堂入りを果たしたニック・ノルティ(1941-)。今もバリバリ現役役者よね~。白髪の好々爺になったとはいえ、あのでっかい肉の塊に抱きついて、宙に浮いた脚をバタバタさせたい~というババアの妄想も、引き続き継続中です(爆)。

f:id:chinpira415:20190824145307j:plain▶とはいえ、あたしが最も惚れこんだのは、ニューヨークに縁の深い3人の巨匠が撮ったオムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』(1989)第1話「ライフ・レッスン」に出ていた時のニックなの!彼が演じるのは、個展を目前に控えた画家のドビーイーストサイドの倉庫にアトリエを持ってて、こっぱずかしさも込みでいかにも当時のアートシーンの最前線を走ってる風なんだけど、ロザンナ・小鹿・アークエット(!)扮する小娘に翻弄されて、ムラムラは募るわ、制作は進まないわでおっさん大ピンチに(笑)。

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アトリエ内を殺気立ったライオンみたいに歩き回るニックの色っぽいこと!オープニング前のアーティストが、対戦前のボクサー並みにストイックの頂点にいる絵になってて、ワクワクが止まらなかったよ~。寸止めの美学ですかねぇ。極めつけは背後に流れるプロコル・ハルム「青い影」。おっさんを蘇らせるには感傷的なオルガン音が最適で~す(笑)。そしてもちろん新しい獲物探しも重要課題。何せアーティストは、いくつになっても恋がガソリンですから~。


Life Lessons Montage

 

5人目ダーリン♥ 

▶先を急ごう!次はおフランスからセレクト…でも素直にアラン・ドロンとか書けないのがちんぴらです(笑)。知ってるかな…イポリット・ジラルド(1955-)。束の間のダーリンでした。愛さずにいられない('89)は、90年の7月に劇場で見て、衝動買いしたポスターを長い間トイレに貼ってたわよ(笑)

f:id:chinpira415:20190824162447j:plain▶30歳になっても定職に就かず、高校生の弟と2人で気ままに暮らし、パリの街を我が庭のごとく徘徊する男を演じたイポリット。自己実現なんて端から無視したオレサマ野郎が、正反対のレイヤーで生きる女子大生に恋をして、主義を曲げない者同士の恋愛ドラマが繰り広げられます。惚れた相手だからこそ、徹底的にじぶんの筋を通そうと踏ん張るのは、やっぱお国柄でしょうかね…パリはやせ我慢が似合う街でもあります(笑)

f:id:chinpira415:20190824205040p:plain▶ただ、イポリットに夢中になったというより、このデビュー作でいきなり数々の賞に輝いたエリック・ロシャン監督(1961-)の思考にジャストミートしたの。政治に熱くなれなかったり、キャリアハッスルを嫌悪したり、束縛を嫌いじぶんの流儀に子供っぽく固執してしまったり…と、主人公の振る舞いを通じて立ち上る監督の感性が、同じ年のあたしにひどく刺さったんだよね。イポリットはその後もコンスタントに活動しているけど、監督は2013年以降新作を撮っていないみたい(汗)…同級生よ、今どうしてる?


Un Monde Sans Pitié (Hippolyte Girardot, Mireille Perrier et Yvan Attal)

 

6人目ダーリン♥ 

▶そろそろ最強の“混沌”役者ハーヴェイ・カイテル(1939-)に触れておかないと…。若い頃から、マーティン・スコセッシ(1942-)監督作品とは切っても切れない間柄。『タクシー・ドライバー』('76)筋肉ポン引き姿で、男も女もビビらせたのはご存知の通り。デュエリスト('78)『ジェラシー』('80)『ボーダー』('81)での脇固めも最高だった!

f:id:chinpira415:20190825225213j:plain▶とにかくハーヴェイがチラッとスクリーンに登場するだけで、辺りに不穏な空気がはらみ始め、予測不可能な映画に化ける瞬間を何度も目の当たりにしましたね~レザボア・ドッグス('92)の狂犬ぶりはもちろん、主役を射止めたバッド・ルーテナント('92)では、53歳にして全裸仁王立ちで極悪刑事をヒリヒリ演じ、あたしが握りしめていたちっぽけなモラルを木っ端みじんに破壊しましたあ~(爆)。

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 ▶とはいえ、ダーリン目線で見守ったのはピアノ・レッスン('93)のときですね。ハーヴェイは、話すことができないヒロインからピアノを教わる粗野な男を演じ、ここでも脱ぎまくり😊 はい、全裸チェックしたさに、劇場へ2回通いマシタ~(爆)。何せ監督が女性だからさー、いちいちタメをきかせたエロス描写で、美女と野獣”方程式に仕上げてしまうわけ。ぶっちゃけ、格調高めなレディースコミックです♫

f:id:chinpira415:20190827210011j:plain▶特に、ヒロインが身にまとう鎧のごとき19世紀のお召し物と、野獣ハーヴェイの節くれだった指、深く刻まれた眉間の皺、猫背気味のシャイな背中、血の果てまで見通しそうな鋭い眼光が呼応して、ロマンチックが止まりません。さらにはマイケル・ナイマンピアノ曲が鳴り響いちゃうんだもん…どこまでも女に都合のいい映画になってて、ニヤケ笑いが止まらない1本でしたね😊


The Piano Beach Scene - The Heart Asks Pleasure First

 

映画は監督主義のはずだったけど、振り返ってみると、夢中になった役者ダーリンもけっこういらしゃいマシタ(笑)。まっ、40年以上も劇場へ通い詰めているんだから当たり前か。そして90年代の後半になると、それまでのおっさん好きから徐々に年下へ移行し始め…。次回「束の間のダーリン」年下編もお楽しみに~

 

PS 次回は9/29に更新します