とりあえず、図書館へ行こう 📕

現在、最も贔屓にしている図書館は、丸の内にある愛知県図書館(略して県図書)。自転車で10分程度で行けて、官庁エリアだから混みあうこともなく、じぶんにとってのベスポジ施設だ。外観はバブル時代に建てられた風だが…(笑)。

話は少しそれるが、先日、還暦を迎えたプロレスラーの蝶野正洋が「老後に朝マックや図書館以外に居場所がないと、人との会話が減り老いるスピードは加速する」と語り始めたインタビュー記事を読んだ。うーん、そうかなあ…。彼とは社会的立ち位置が違いすぎるけど、朝マックと図書館の老後を、あたしは羨ましいとさえ思うのだが…

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館内ご紹介コーナー📕

ひょっとすると、蝶野氏は図書館をじっくり探訪したことがないのではないか…?“とりあえず、図書館へ行こう!”と、あたしはお声がけしたい。例えば県図書の場合、入口の左手側は、2Fまで全面ガラス張りの吹き抜けになってて、名古屋城内の南西外堀の土塁に茂る木々を借景に、閲覧だって勉強だって休憩だってできる。そう、お城で過ごせるわけで、贅沢三昧とはこのことだ

続いて1F奥にはCD&DVDの棚が―。正直言って映画作品のラインナップは量も質も偏っていてイマイチ💦でも、いつでも見られるからと後回しにしがちな名作洋画を借りてくるのは楽しいオマケ。何せ、無料&1回3本&3週間貸出という太っ腹ルールですよ、感謝しかない。

前回は、上等少女趣味の傑作リトル・ロマンス('79)ミツバチのささやき('73)を借りてきて、40年以上ぶりに再見。今更ながら胸を打たれた。ただし、蝶野氏の言うように、このコーナーも利用者のほとんどが高齢男性💦ジョン・フォード(西部劇の大巨匠)作品は常に貸出し中で、なかなか借りられないという難点も(笑)

いや、それより図書館で高齢男性がひしめき合っているのは新聞閲覧コーナーだ。もしかしてオレサマの書斎のつもり?積年の思いが溢れているように見えなくもない(爆)。年金暮らし➡節約生活➡新聞購読中止➡図書館で読み放題…そんなプロセスをツイ想像する。女性利用者がほぼ皆無なのも特徴的だ。そっか、浪平&マスオが新聞を手にしている姿はすぐに思い浮かぶが、フネ&サザエは覚えがない…。それほど、新聞=家長が読むもの時代は長く続いていたわけだ。

さて、図書館の自習机は、長時間滞在をテンプレートとしてる人間にとって最重要ポイント。多くの図書館で、学校休みのシーズンは席の争奪戦が繰り広げられるものだが、県図書は利便性がイマイチだからか混雑が少なく、必ずKEEPできてありがたい。個室感がある囲み机も集中できてサイコーだ何せあのマルクスは、大英博物館図書館で『資本論』を書いたのである!

そしてさらなる天国は、5FにあるSugakiya!誰が流布したか知らないが、名古屋めし=味噌カツ、ひつまぶし、手羽先ということになっているが、我らのソウルフードはSugakiyaのラーメン、一択でしょう。この地であの味を知らずに学生生活を送る人はいない。ランチに良し、おやつに良し、図書館との相性良しだ。かつてどこのデパートにもあった最上階のレストランのようで…ツイしみじみ。

個人的利用方法ご紹介📕

とはいえ、利用したことない人たちからはよく「図書館で何をして過ごすの?」「どんな本を借りるの?」と尋ねられ、驚く。だって図書館には何でも揃っているからだ。みなさん、調べたいものがなくてもネットはのぞいてるでしょ?じぶんとしてはネットといっしょなのだが…。ただし自分なりの閲覧パターンはある。まずよく眺めるのは建築関係の棚。この日は、今年亡くなった建築家・阿部勤を思い出し、自身が自邸を紹介する絵本『中心のある家』を借りてきた。

建築を志す人なら、誰でも知っているような超有名な自邸。それこそ動画では何度も見てるのだが、絵本は初めて。なぜか絵本の方が想像が広がり、興奮した!


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服飾関係の棚も必ず立ち寄る。世界は戦争の時代に突入し、ネット上には様々な国の画像で日々溢れているが、特に軍服や警察官の制服などのメンズファッションと、威圧的な振る舞いには深い関係があるような気がして、あらためて男性服飾史本を手に取ってみた。ズバリ服飾史は、生き方も含めた男性美意識の歴史なのだから!

続きまして美術の棚へ。現在、パリ市立近代美術館で開催中のニコラ・ド・スタール(1914〜1955)、マジに行きたい!!!しかし…貧乏ババアにフランスはあまりにも遠し…。ならば、図書館倉庫から画集を借りて夢想するしかない。ついでに、41歳で自死したスタール自身が、親しい人たちに送った手紙を読んだ。トンでもなく血中画家濃度の高い人だったみたいで、ゴダール気狂いピエロ('65)の主人公のモデルだったという逸話に納得。映画を見直したくなった。

美術関係書は、大判の画集や図録は館内で眺め、エッセイや評論の類は借りて読む。最近ウケたのは写真家・杉本博司の『空間感』。作品を展示する当事者目線で世界の名建築をバッサバッサと斬りまくり、爆笑の連続だった。犬は風景を見るのだろうか?という問いから始まる、赤瀬川源平の『四角形の歴史』も洒脱な文明論で大いに唸った。著者による挿絵がこれまた絶品!

そして最後は毎回、文学棚を物色して締めくくるのが定番だ。この日借りた岩波文庫『冬の宿』は、ずーっと読みたかった阿部知二(1903‐1973)の代表作。ある家の2階を借り卒論を書くつもりの主人公が、極貧の大家の憂鬱な生活にひきずりこまれ、悪夢のようなひと冬をすごすトンデモ物語なのだが、登場人物たちのキャラがどいつもこいつも鮮烈で、支那事変前の灰色の時代への没入感がハンパない!図書館で借りるのに相応しい往年のロングセラー本、いやはや、脱帽です。

今じゃだれも見向きもしない全集が堂々と並ぶのも、図書館の立派なところ。我が心の師、福田恆存先生の全集もいつも涼しげな顔で並んでいる。何より、対談・座談集だけをまとめたこの1冊を手に取ると、かつて知識人が雑誌の誌面で様々な討論を繰り広げ、そんな思想の動向をフツーの人々が定期購読していた時代だったことに驚かされる。切腹3年前の三島由紀夫との対談は思わずコピーした

県図書の一番の魅力は22日間という貸出期間の長さだ。図書は6冊、DVDは3点まで貸出OKで、そのあと予約がなければ、ネットからさらに2週間の延長ができる。冊数が満たないときは、贔屓の作家の文庫や新書を物色して、いつも限度までお借りする。先月は久保田万太郎(1889-1963)俳句集』にホレボレ。

湯豆腐や いのちのはての うすあかり

いつだったか、この一句をはじめて目にしたとき、詩的感性の乏しいあたしでも映像が鮮やかに浮かび「おっと…」と息を呑んだものだ。今回のお気に入りは…

新海苔の 艶はなやげる 封を切る

ゆく年や むざと剥ぎたる 烏賊の皮

越すつもり あれどあさがほ 蒔きにけり

元々は小説家で、俳句は余技としていたらしいが、どの句もスッとして美しい。口にするたび抒情が尾を引く。ーが、その生涯は波乱に満ちびっくりドンキー!なーんてことを知るのも図書館があるおかげ(ぺこり)。

とりあえず 図書館へ行く 師走午後

そうそう、目下1Fの特別フロアでヤマザキマザック美術館で開催中の企画展「レトロ・モダン・おしゃれ 杉浦非水の世界」(会期:2023年10月27日~2024年2月25日)にちなみ、グラフィックデザインや、明治・大正時代の図案集などが並んでて、めちゃタイムリー★美術館に行く前にしかと予習ができた!図書館ブラボーです

PS 次回は12/13に更新します