サクッとお江戸✑備忘録 2019夏

今年も一足早く夏休みを取って、お江戸で2泊3日の美術展ハシゴ旅をしてきマシタ!今回は、予備知識ゼロで訪問した小さめの展示に意外な発見が―★ 4本まとめてご紹介♫

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 1本め👀『中山英之展:,and thenTOTO GALLERY・MA

▶中山英之?建築家?知らねーし…。そうなのよー、六本木に行ったついでに、たまたま立ち寄ったTOTOギャラリーびっくりドンキー🥩 前回特集した「石」との縁がここにつながって…。なんと紙でできた石が展示されてるじゃないの~、中山氏に速攻で興味スイッチON!石の画像を紙に出力し、実物どおりに組み立てて再現してんのね👍

f:id:chinpira415:20190805210714j:plain▶重く扱いにくいものを、軽やか&華麗に豹変させたところがミソですね。いわば石のトランスジェンダーか(笑)。テラスにはこんな巨大な石も…。背もたれの低い椅子との並びがすんごーく絵になってたよ。どこかチープでユーモラスでしょ~

f:id:chinpira415:20190805214646j:plain▶で、さらに意表を突かれたのは、最上階の小さなスペースで6本の短編映画が上映されていたこと建築家・中山英之氏が手掛けた5つの建物の、その後の様子が綴られているから「,and then」。歴史的建造物ならいざ知らず、建築家の手を離れた私的な建物を映像で後追いできるって、ありそうでなかったんじゃない?しかも映像はそれぞれ別の人が監督していて、展覧会=ミニ映画祭仕立てになってんの。うまいなあ~👍


展覧会ガイド「中山英之展 , and then」

▶そう、「石」と「映像」をきっかけに、建築家って何やる人?のイメージが刷新した企画になってたわけ。中山さんが世界と向き合うときのやわらかなスタンスは、なんだか子供の時に夢中になったあの無言工作劇のノッポさんみたいで、思わずニンマリしちゃった😊展示はすでに終了しちゃったけど、今後もWatchしてゆきます!

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2本め👀『モダン・ウーマン国立西洋美術館

▶お次は、松方コレクション展の長蛇の列を横目に(笑)、同じ国立西洋の常設展内で開催『モダン・ウーマン』展へ!いやはや、これは必見ですよ、ワンコインで胸騒ぎ~♥ 19世紀後半から20世紀初頭、ロシアからの独立前後のフィンランドを生き、国の近代美術に革新をもたらした7人の女性芸術家にスポットを当てた展示です。

f:id:chinpira415:20190806084317j:plain▶国が、社会が、女性の意識が、大きく変わろうとしていた時代に生きた彼女たち。新しい美術教育を受け、じぶんの表現を求めて研鑽を積む姿に、めちゃテンション上がっちゃった~。まずは礼拝する少女を描いたマリア・ヴィーク(1853-1928)『教会にて』(1884)。確かなテクで対象をまっすぐ捉えながら、少女の表情に甘さはなく、すでに自我に目覚め始め、未来に思いを馳せているような…この子とは即マブダチになれるな🌼

f:id:chinpira415:20190805233056j:plain▶別室の素描展示には、ヴィークの男性裸体習作も登場し…思わずどんだけうまいねん!ってツッコんでしまいました~。いや、単にうまいだけじゃない、人間の進化のプロセスまで浮び上がるスケッチになってるというか…ひたすら感服(ぺこり)。

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▶7人の作家の中で唯一知っていたのがヘレン・シャルフベック(1862-1946)。2015年に東京藝大の回顧展を見て一目惚れした彼女とここで再会するとは  うーん、やっぱイイわあ。シャルフベックはとにかく三角なのよ!(笑)こちらの作品『祖母』(1907)は、まっ白な頭巾を頂点として、どこまでもなで肩の三角形に着地(デカイ手に注目!)。

f:id:chinpira415:20190807230436j:plain▶一方、『木こりⅠ』(1910)の少年は、逆三角の顔、出っ張った耳、朱赤の唇までも三角してるし、『占い師』(1926)では抽象化がさらに進み、上半身まるごとスタイリッシュな三角モダン。もはやチェスの駒ですね(笑)。

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▶次の『青りんごとシャンパン・グラス』(1934)は晩年の静物画。ひょろ長いグラスにつられるように三角盛りにされた🍏が妙でしょ(笑)。そのうえこの蓬色(よもぎいろ)がクセモノでさー、メランコリックにも、超然としている風にも見えたりして、少なくても枯れとは無縁。70歳過ぎても一筋縄ではいかない彼女の内面が伺えるわね

f:id:chinpira415:20190807230554j:plain▶そしてシャルフベックよりさらに食指が動いたのがエレン・テスレフ(1869-1954)でしたね~。まあ、どれもこれも悔しいくらいカッコイイのよ!例えば『春の夜』(1894)みたいな絵を見ると、何をどうやって描いたんだろうという興味より、作家自身の背景が気になり、一体どんな人が描いてるんだろう…との想像が止まらなくなるの。だって一歩間違えたら死体が浮いててもおかしくない情景なのに、ひどく見惚れちゃうんだもん★

f:id:chinpira415:20190810225840j:plain▶これも惚れた~『ボール遊び』(1909)。ナイフを使った波がしらの動き、カンバスの向こうから海音が聞こえてきそうよねぇ~♬ 解放感が伝染し、見る側のも真っ裸よ

f:id:chinpira415:20190810235147j:plainフィンランド初の美術学校で教育を受けた彼女たちは、奨学金や留学の機会を得て、個々の才能を開花させていったの。テスレフも1891年にパリへ移り、その後イタリアへ。画風もガンガン変わり、一瞬たりとも目が離せませんよ。どこがイタリアなんじゃい!隅田川の打ち上げ花火だろ~って叫んでみるものの(笑)、シビレましたね『イタリアの風景』(1900-1910)3分でいいから世界をこんな風に捉えられる👀がほしいっ!

f:id:chinpira415:20190810235242j:plain▶最後に『帽子をかぶった自画像』(1935)とご本人のお写真を―。この👀を見てよ!もはやどんな言葉も無用ですね。カッケ~~~

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▶ヴィークを長女に見立て、シャルフベック、テスレフと続いたモダンウーマン列伝。4番目のシーグリッド・ショーマン(1877-1979)だけが母になり、子育てしながら両立に励んだとか。イタリアに滞在し、テスレフと一緒に制作したこともあったらしく、彼女が描いた『イタリアの風景』(1930年代)も展示されてたよ。小さなスケッチなんだけど、安定感のあるいい絵よね。

f:id:chinpira415:20190812090009j:plain▶次の『イタリアの風景、ヴォルテッラ』(1909)空が高くどこまでも青い!北に暮らす人々の南への憧れは、絵の中の空気感に如実に表れるね。フとガブリエレ・ミュンターの風景画を連想したわ。ちょうど同じ頃、ミュンターはドイツのムルナウで多幸感に満ちた傑作を生み出してたの。あ~時代の変わり目に立ち会うようでワクワクしちゃう

f:id:chinpira415:20190812092217j:plain▶また、ショーマンは1920年以降、美術評論家としての活動を始め、そこでも重要な役割を果たしたっていうから恐れ入りました(ぺこり)。評論家を引退後、70を過ぎて再び絵筆を持ち、さらに80を優に超えての裸婦像ですよ~、『モデル』(1958)。なんとまあ色艶のイイ背中!きっと若かりし頃のじぶんを妄想し、生涯生で見られないじぶんの背中をダブらせて、輝かんばかりに描いてみせたのね😊

f:id:chinpira415:20190812102047j:plain▶先陣を切ったヴィークとは、80歳以上の年の差があるエルガ・セーセマン(1922-2007)になると、いきなり世界の複雑さが前面に迫り出してくるから驚いた。NHKスペシャル映像の世紀」のオープニング曲が脳内リフレインしたわ(汗)。左から『室内(1940)『カイヴォプイストからの眺め』(1941)『通り』(1945)。長く生きてきて…ならまだしも、20代前半からこんな荒々しい筆遣いを我がものとしてるとは…早熟ねえ。ここに漂う孤独の色合いは、時代を察知する嗅覚からくるものに思えたなあ。現代に近い絵ね。

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▶目の表情が消された『自画像(1946)は、口元に微かに意思が現れていて、ちょっと無視できない気配がある。先輩ヴィークの描いた少女が、巡り巡ってここにつながったと見ることもできたなあ…。しかも実際の彼女たちは全員、めちゃ長生き(笑)。じぶんに正直になれないと絵描きにはなれないし、そうやってひたむきに我を生きると、心身共にじぶんを使い切って朽ち果てる理想の生き様になるのかもね👍 9/23まで開催

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3本め👀『メスキータ展東京ステーションギャラリー
▶これまた未知との遭遇~♩ 長ったらしい名前のサミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1868-1944)日本初回顧展行ってきました★

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▶メスキータは、オランダで活躍した画家、版画家、デザイナー。ちょうど前出のモダン・ウーマン列伝の女史たちと同時代を生きているから、欧州の美術の動向が如何に多様だったかもわかって面白かったよ。とにかく彼は木版、木版、木版のひと~。こちら『髭に手をやる自画像』(1917)を見てくれたまえ!

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白黒のコントラストと掘り出した木版の線がそのままデザインになっててわかりやすくインパクト大。見ようによっては、けっこうクドイくらいの仕事なんだけど(汗)、構図が巧みでそのクドさが風合いに着地して見えるのよ(笑)。絶妙のバランスですわ。こちらは『ユリ』(1916-17)

f:id:chinpira415:20190812183946j:plain▶次の『少女(メイド)』(1932)『少年』(1927)なんて、現代に通じる洒落っ気があって、販促グッズやTシャツに使われても十分クールに決まりそう。一方で手作業の重みと緻密さがある分、俗に流されないメッセージ性も感じるしね。あのM.C.エッシャーが影響を受け、敬愛して止まなかった恩師だと知って、とてもガテンがいったわ。

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▶特に彼の持ち味を遺憾なく発揮したモチーフは動植物。そりゃあそうでしょう、神の手による自然グラフィックの極みだものね~。「シマウマは生きる木版」との本人コメントに超ウケました(笑)。はい、こちらが『シマウマ/Zebra』(1918)

f:id:chinpira415:20190812222254j:plain▶でも個人的に魅かれたのは、同じ動物がテーマでもエッチング作品の方でしたね。心が震えた…『ライオン/Lion』(1917)『コブウシ/Zebu』(1916)。物悲しい佇まいに、絵の前でしばし立ちすくんでしまいました。なぜだか死の影がチラついて…

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▶1944年。ユダヤ人だったメスキータはゲシュタポに連行され、アウシュヴィッツで死亡『脂尾羊/Fat-tailed sheep』(1916)は、自身の悲劇を予感していた作品に思えてしょうがなかった…これもエッチングです。でも彼の偉業を今に伝えられるのは、エッシャーや友人たちによって、アトリエに残された作品が命懸けで護られたおかげとか。版画こそナマで見ないとその奥行きに目が届きません8/18まで公開、急いでね

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4本め👀『原田治「かわいい」の発見世田谷文学館

原田治(1946-2016) さんの訃報には本当にショックを受けた…。あたしにとっては、イラストレータという職業とクレジットされる名前を結び付けて追い駆けた初めての人で、水面下ですんごく影響を受けたカッコいい大人の一人だったから―。没後初の回顧展は想像していた以上に感慨深く、じぶんを振り返る機会にもなりました。f:id:chinpira415:20190813085015j:plain▶会場入口のネオンサインを目撃して、早くも涙目に…😢 原田さんのイラストが世の中に出回り始めた頃、アメリカのフィフティーズ・デザインが大好きだったあたしは高校生。日本製のキャラはどれも無邪気過ぎてお気に召さず(笑)、愛用していたのはもっぱスヌーピーだったなあ。だから原田さんが手掛けたOSAMU GOODSと出会ったときは「これだ!」とすぐに飛びつきましたね~♬ なにせMade in America以上にアメリカ色が濃厚に見えたんだもの(笑)。

f:id:chinpira415:20190813113655j:plain▶そう、キャラクターのデザインだけじゃなく、OSAMU GOODSと名付けられた通り、ロゴやサイズ感やパッケージも含め、トータルでデザインされていたからノックダウンしたのよね。アメリカへ行ったこともないのに、アメリカのショッピングセンターで買ったみたいな気分を満喫…美しい錯覚ですわ(笑)。一方でOSAMU GOODSの難点は、パッケージがかわいすぎて、もったいなくて本体が使えない点でした(爆)。

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▶でもって、欲しいアイテムは意外と高額で、高校生のお小遣いでは買えなかったのよ。だからミスドーのオマケにみんなハマったのでしょう~♪ 

f:id:chinpira415:20190813111516j:plain▶他にも、各種グッズの仕事や広告&出版界での活躍など、今回の展示で初めて知ることも多かったな。守備範囲の広さとプロ意識の高さは、ディック・ブルーナに通じるものがありましたね。シンプルな絵柄だからこそ、人一倍のこだわりを見た思いです。

f:id:chinpira415:20190813092636j:plain▶そうそう、あたしが最も愛したグッズは、ザンネンながらここでは見当たらず…。1978年に主婦の友社から創刊された女の子向け雑誌『GALS LIFE』の特別付録になったビニール製のマスコット人形なの。念のために画像検索したら…ひぇー、コレですよコレ!ぺったんこの学生カバンにぶら下げて通学してマシタ。セーラー服の日々が走馬灯のように思い出されたわ~(爆)。

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▶そして大人になってからのあたしは、原田さんの美意識にとても影響を受けたの。再版された美術エッセイ『ぼくの美術帖』(みすず書房)を読み耽り、小村雪岱鏑木清方北園克衛川端実らの魅力を再認識したっけ…。また、東京の山の手の戦前の洋館に似合いそうな鈴木信太郎の絵を知ったのもこの本がきっかけだったなあ。生粋の東京人の原田さんの文章を通じて、ホンモノの江戸の血筋を感じていたんだと思います

f:id:chinpira415:20190814075526j:plain▶実はちんぴらジャーナルを始めるきっかけは、原田さんのブログ原田治ノートに刺激されたからなんです!だから同じ「はてなブログ」を利用し、サイトデザインや基調カラーも真似てブルーに😊 原田さんは、古いものに造詣が深い方でしたがアナログに執着するわけではなく、早くからブログを始めていて、亡くなる数日前まで更新。編集作業&情報発信には生涯関心を持っていたんだと思います。美意識が凝縮されたアーカイブ、今でも読めます!そしていつ読んでもキリッと新鮮な👀に生まれ変わります―

原田治ノート

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開催は9/23まで。特に50歳以上の紳士淑女のみなさま、お見逃しなく(笑)。

 

PS 大物展示、ボルタンスキーの東京巡回は大阪に軍配が上がり、塩田千春展も広すぎる森美では怪しげな気配がイマイチ愉しめず…(汗)。場との相性ってありますね。さて次号は少し先になります。9/13の更新で~す

鶴舞公園―石ロマン編

桜はもちろん、紅葉まつりに蓮まつりetc…と、我がブログで、さんざん使い倒してきたあの“ネタの宝庫”鶴舞公園(笑)。さすがにもう打ち止めでは?と思っているみなさまもいらっしゃるかと想像しますが…まだまだ甘~い🍰 今回は、こちら↓の画像のさくら名所100選の地…ではなく、プレートが貼り付けられた側―つまり公園内の「石」にスポットを当てた石ロマン編のお届けです!

f:id:chinpira415:20190715213754j:plainそう、花や木ばっか見てんじゃねーよ!とちんぴらは言いたいわけです。まずは地下鉄上がってすぐの足元を見て見て~♫ いきなり、なーんちゃってリチャード・ロング石タイルがお出迎え(爆)。鶴舞公園玄関の敷物(笑)だと思って眺めてほしいわ~。

f:id:chinpira415:20190715215638j:plainちなみにホンモノのリチャード・ロング(Richard Long 1945ー)作品はこんなかんじ★

f:id:chinpira415:20190715220114j:plainここもポケモンの聖地になるか!(笑)

f:id:chinpira415:20190715215750j:plain話を鶴舞に戻すと…、サークルパターンを入口に敷いたのは、おそらく園内中央部の噴水塔の形を見立てているからだろうね。ほれ、上空から見た光景といっしょでしょ?

f:id:chinpira415:20190718085637j:plainってことで、開演当時から100年以上もそびえ立つ噴水塔周辺は、石まつり状態!

f:id:chinpira415:20190718083605j:plain成型ものとゴロゴロ自然石ものとが組み合わされて、どことなく退廃ムードあり!そして噴水と言えばローマでしょう~。こんなん見せられちゃあ、フェデリコ・フェリーニ(1920-1993)の映画甘い生活('60)を思い出さずにはいられない~。撮影はトレヴィの泉

f:id:chinpira415:20190718085113j:plainそしてローマに行かずとも鶴舞で、岩石軍団と水とのコラボが堪能できる絵はこちら♥

f:id:chinpira415:20190718083913j:plainなるほど、水分補強で新たな輝きが…もしかして石も生きてる

f:id:chinpira415:20190718084027j:plain一方、バルコニーには石のモザイクもあしらわれてるの~♪ ステキすぎます★

f:id:chinpira415:20190718084228j:plainこういうテクは職人さんのセンスに任されるのかな…。それにしても、色とサイズと質感の違いを上手くパッチワークしていて、キマッてるよね~👍

f:id:chinpira415:20190718084305j:plain公会堂と対面する側の両サイドには、石組みの門柱がシンメトリーに置かれていてナイス⚽ 現代アートの彫刻作品みたいよ!

f:id:chinpira415:20190720091428j:plainどうやらちんぴらは四角形が並ぶと心トキメク♥ようで(笑)、例えば花壇の縁とか―

f:id:chinpira415:20190720092720j:plain敷石のじゅうたんとか―

f:id:chinpira415:20190720093954j:plainひっそり架けられた階段の凸凹にも―食指が動きます👍

f:id:chinpira415:20190720094216j:plainさて、桜の木が密集するこちらは、ちんぴらが毎日通り抜けする公園内通勤コース。年に3週間はおっそろしく人が密集するけど、それ以外はハレ(晴れ)とケ(褻)でいうところのケの道なの。当たり前だけど雨の日はぬかるんで靴はドロドロ(汗)。

f:id:chinpira415:20190720100352j:plainクソッ!とぶーたれたりしちゃうわけですが、一方で日本映画の金字塔、成瀬巳喜男の傑作浮雲('55)の冒頭で、ヒロインの高峰秀子(1924-2010)がぬかるんだ道を「いやになっちゃう…」とぼやきながら歩くシーンを思い出し、ひとりニヤニヤ(笑)。通勤で舗装されていない道を歩くこと自体、もはや貴重な体験だしね~♫

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それとさー、この丸石だけで縁取られた道の真ん中にたたずむと、これまた不思議なことになぜか青木野枝(1958-)作品を妄想しちゃうのよ~。5差路になった道と、桜の木が覆いかぶさってできた空間インスタレーションだからなのかな…。

f:id:chinpira415:20190720100148j:plainちなみに、青木作品は、泡のように軽やかに舞い踊っているけど、なんと鉄の彫刻ですからね!素材と動きのギャップがすっきだわ~

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はいはい、ここいらで妄想は切り上げて、胡蝶ヶ池周辺ものぞきに行きましょう👣池には中の島ありーの、そこに鶴と亀をはべらせーの、石灯篭立ち~の、畔には東屋ありーの…とまあ、ザ・日本庭園なんです。で、そもそも庭園の池に大きな鳥と亀をペアで登場させたのは漢の武帝がハシリだって…。つまり紀元前から続く様式美ひぇ~

f:id:chinpira415:20190720111926j:plainそんな風に中国の神仙思想から大きな影響を受け、その後日本人の細部にこだわる造形感覚で独自な境地にたどり着いた日本庭園の型は、現代の我々の心根も自然に通い合うから面白い★池泉に龍頭鷁首の船を浮かべて遊ぶ古代の貴族趣味は、公園でのボート乗りデートに代わったけどね~(爆)。反対に池の周りに寝っ転がる石も大好き♥

f:id:chinpira415:20190720224707j:plainちっこいながらも石渡し州浜もあり、市民公園の割には凝ってて侮れませ~ん👍

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さらには桂離宮もどきのこんな石の抽象表現も顔を出し、楽しいぞ~胡蝶ヶ池♫ 

f:id:chinpira415:20190720230105j:plainそりゃあ、大量の雀だって思わず和みに来るでしょう~😊

f:id:chinpira415:20190720230953j:plainときには、石一つで峻嶮とした高山としたり…日本庭園は見立てのオンパレード

f:id:chinpira415:20190720233509j:plain庭園って植物が主役の舞台だと思いがちだけど、毎日通り抜けする度に気づいたのは、実は石こそ庭の背骨なんだということ。だから最近じゃあ、石の組み方や石そのものにも関心が向き始めちゃって、もうタイヘン(汗)。禅僧の夢窓疎石(1275-1351)や、作庭家の重森三玲(1896-1975)のお仕事も、この際ちゃんとお勉強したくなっちゃったりするけど、何から手を付けていいのか…途方に暮れるよ~😓

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ただ、身につけるパワーストーンにはぜんぜん興味が持てないちんぴらですが、古代より我が国の人々が、物質としての 石に石以上の何かを見い出しているという説はなんとなくわかる気もするな。石は時代を超えて残って行くから神秘的に映るんだろうね。(そういやー、かつてアポロ計画で持ち帰った月の石が大そう話題になったこともあったっけ☆彡)

f:id:chinpira415:20190728222257j:plainさらに、石のことを考えていたらフと「なんでここに石があるんだっけ?」「石ってどこから来たんだっけ?」という疑問が急浮上しちゃったのよー🗻そこで手に取ったのがこちらの1冊おもしろサイエンス 岩石の科学』(西川有司)です。

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ちんぴらが抱いた疑問のすべてがここにわかりやすく書かれていて目からウロコ!「岩石は地球の営みの中で誕生、移動、消滅を繰り返しながら循環してる」ってサ♫ そしてそもそも地球は岩石の塊なのだと、58年生きてきて初めて気づきましたあ~、ヤバイです😊実際、石がいかに我々の社会や生活の基盤になっているかを知って、モノの見方が変わり始めてます。そう、遅まきながら、ちんぴら内“天の岩戸”が開いちゃったよ~♫

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PS 次回は8/15に更新します



 

なぜか魅かれるもの―⑧ 時計🕒

生きている間に、最も頻繁に目にするものって何だろう…。
予想だけど、おそらくあたしの場合は「時計」になるんじゃないかな…。けっこう見てるよ…朝から晩まで。一度視線の先をカウントしてほしいわ(笑)。だいたい朝一番にのぞくものは、ダーリンの寝顔♥なーんてことは日本の現実生活にはなく、まずは目覚まし時計でしょう~。近眼だから👓無印良品製のこちらを鷲掴みにしてWAKE UP!

f:id:chinpira415:20190704235524j:plainその後あたしの視線は、居間の壁掛け時計へ移動。ここに引っ越して16年以上になるけど、ずっと同じ位置に掛かっていて、家にいる間は、ほぼこれをチラ見しながら過ごしてマス。お察しの通り、あたしの理想の時計は、学校や工場で目にする数字が12個ガツーンと並んでて丸フレームのこどもの絵に出てきそうなザ・時計タイプ😊

f:id:chinpira415:20190704235553j:plainだから、昔から世界時計が並ぶ光景を見るだけで「こうしちゃいられない!」的にめっちゃワクワクするのよ~。大昔、じぶんの部屋の壁にPARIS LONDON NEW YORK 時計を貼っていたくらいだからね~。紙皿で手作りした張りぼて時計…もちろん動きゃしないわよ(爆)。ただ時計って、単純に時間を確認するだけのモノじゃないよね?

f:id:chinpira415:20190703224243j:plainいや、いわゆる高級時計をはめてステイタス幻想に酔う…みたいなことではなく(汗)、時計には正確な時を知らせる物理的側面とは別に、主観を交えて時の流れを感じさせる作用もある気がするの。文字盤をじっと眺めていると、あがなえない時間の流れが可視化されて、じぶんもこの流れに乗ってんだなあ…とね。さらに言えば、生命の源流みたいなものまで想像しちゃう…。プラネタリウム体験に近い感覚かな(笑)。

f:id:chinpira415:20190705225153j:plainあっ、反対に、駄菓子屋で売ってたおもちゃ時計や、お店の入口にぶら下げるWILL RETURNサインクリーニング屋の看板もすきすき~♥ あのなーんちゃって感!めいっぱい時計のフリしてるのに、いたずらに時が過ぎて行かないからカワイイぞー★

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時計と言えば…衝撃を受けたARTがある!2011年の横浜トリエンナーレで見たクリスチャン・マークレーの『THE CLOCK』('10)。世界中の映画やドラマの中で、時計が写っているシーンを1分間隔でつなぎ合わせ、なんと24時間の映像作品に完成させてるの!

f:id:chinpira415:20190707103223j:plainすんごーいシンプルなアイデアでしょ。でも既存の映像素材だけで、果たしてそんなことが可能なのか?…と、出掛けて行ったわけ。何せ24時間上映だからさー(横浜では施設の開場時間のみ上映。24時間全部が見られる特別上映は別枠で)この画像のように、会場にはスクリーンとゆったり座れるソファーだけがあり、出入り自由でみんなゴロゴロ(笑)。

f:id:chinpira415:20190707110627j:plainで、見始めたらこれが本当に時計つながりで進むわけよー、めちゃ笑った(爆)。つまり、1時間=60分➡1分ごとにつなぐ➡最低60コの時計写真が必要➡×24時間だから…最低でも1440コの時計写り込みシーンが必要だよね。ただ、7時を指し示す映像があるのは想像がつくけど、7時17分、7時18分みたいな中途半端な時間って…とハラハラするじゃない?それが本当に出てくるときの快感ってハンパなかったわ~(笑)。

f:id:chinpira415:20190707120945j:plainさらに驚くのは、なんの関連もない映像をつなげているのに、物語性もずっと担保されて見えること。例えば7時17分と7時18分をつなぐ間に、埋め草的に挿入される映像によって、物語の流れを補填しているんだよね。これって、視点の異なる複数のカットを組み合わせて物語を生み出す映画技法=モンタージュのお手本みたいな作業でさー、シンプルなテクだけでこんなに斬新な作品が生み出されるとは…アゴが外れました👍

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しかも、24時間映像だから、現実の時間と対応させて上映すれば、作品そのものが「時計」になるってわけ。待ち時間の長い、飛行場のロビーで流したりしたら、きっとスマホなんてのぞくヒマなんてないと思う(笑)。ご本人による作品解説動画も見てね~★


The Clock, de Christian Marclay

あと、時計をテーマに書きたいな…と思ったときに、図書館で見つけたのが織田一朗氏『時と時計の百科事典』('99)。時間や時計にまつわる様々な語彙が小気味よい文章で解説されていて、すんごく楽しかった!百科事典と名付けられただけあって、宇宙衛星での時刻体系、大相撲の制限時間、睡眠や暦の話にまで及び、時計➡時間のことを考察し始めたら、それこそ時間が足りないよぉ~(笑)。

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さて、そこでいつものごとくマブダチ各位へ「時計」についてヒアリング。①日常生活で時間を確認するときに最もよく見る「時計」②お気に入りの文字盤の「時計」は?

【001 オタク会社員Kちゃん

①②ともOMEGA Seamaster Jacques Mayol 1996 Limited EditionRef.2553.41.00。海が好きなわけでも、イルカが好きなわけでもありません。一応、グラン・ブルーも観ましたが、素潜りが好きなわけでも、ジャック・マイヨールが好きなわけでもありません。限定が好きなのです。発売当時に清水の舞台から飛び降りる覚悟で初めて買った高級時計。メンズが3,000本限定で30万くらいだったような…。上司の彼女が百貨店に勤めてたので、ちょっと値引いてもらった記憶です。

f:id:chinpira415:20190707141024j:plain今や携帯で時間確認ができるので、不自由はしないんですが、付け忘れて外出した日はなんだか心細いのです。なにせ20年以上のお付き合い。時計付けてないのに何度も左腕見たりして…(汗)。シーマスターには珍しい緑の文字盤がお気に入りです。ROLEXのように値が上がるような時計ではないですが、メンテしながら使い続けていつかは息子に譲ろうと思ってます。欲しがるかどうかは別にして…。父親のエゴですね。


【002 寸止め中のK

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会社のパソコン画面で時刻確認かな…。朝はTV画面でもついつい時刻確認するけど。②はずっーと前から迷ってるヤコブセンのテーブルクロック。文字盤よりフォルムが気に入ってる。でも、ほんと長い間保留中(汗)。限定色が出てて、このアイスブルーは部屋のカーテンと同色だから気にはなるのだが…未だ購入までには至りませ~ん。

 

【003 たまたまローマ数字派のM

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気に入るとか気に入らないとか関係なく、①いつも使っている腕時計で時間確認。両方とももらいもので~す(笑)。で、スゴイことを発見した!革ベルトの方は、ビッグベン風に中心から放射状に見るように数字が配列されているけど、金属ベルトの方は途中から上下に見るように数字が配列されてるんです!つまり、V,VI,VII,VIII が中心非対称なのだ~。しかも IIII がビックベンの IV と違うし。偶然ながら母校K 大の時計台文字盤もビッグベン風でした★(ドヤ顔)

 

【004 シックにキメてるY

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①無意識に見る時計は、なんだろう?と考えた答えが、iPhone でした!見るたびに、時間を確認しています 。そしてiPhone を手にした時から、それまで使っていたお気に入りの腕時計は、アクセサリーのアイテムになったの♥ってことで②はカルティエのタンク。端正なフェイスがお気に入りの逸品です😉 (これまた4= IIIIだ!)

 

【005 イケてるはずが…Aくん

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①はイタリア製の置時計。オレ的には気に入ってんだけど、家族からはデカイわ&数字がないわで超不評(汗)。針の角度でザックリわかればいいし、針の動きには女性の脚が連想させられて色っぽいのに…。たまに遊びに来る義母が、掃除する度に針を曲げちゃって…後でコソっと直してんだけどさ(汗)。②のLOCMANもオレ的には気に入ってんだけど、時計屋のあんちゃんに「玩具時計ですね」って言われてガックし(笑)。

 

【006 アナログ丸型派のF

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①の日常見ている時計はPC内のカレンダーとセットにした時計。これ見やすいんだよね~、デジタルの仕事やってるのに頭はアナログ。ちなみに背景は五月晴れの富士山♪
休日出勤で仕事をしている時、守衛のおじさんとこの富士山で話が盛り上がりました(笑)。②は10年以上前、ダンナが選んでくれた腕時計。あまり見かけないブラウンの文字盤が好き

 

【007 贈られ時計活用のYちゃん

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①はチャレンジ1年生から贈られてきた時計で、おきる、そろそろ寝る、さぁ寝る、勉強の時間などを分刻みで教えてくれるの。しかもバイリンガル(笑)。春から娘が1年生になって、自分でペース配分しながら動くのに役立ってます。いつも持ち歩いて行動してるよ(笑)。②は弟&妹にお祝いでもらった掛け時計。文字が4つしかないから見にくいし、なぜかいつも10分早くなるし、針が剥き出しなので、埃かぶってくると13分くらい早くなるけど、遅くはならないところがいい子です♫

 

【008 デジ+アナ+超アナのM

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①日々の暮らしの中で時間を確認するのはもっぱらスマホです。アラームもタイマーもお世話になってます。それと、バンクーバーの弟を始め、海外の友達と連絡取る時用に世界時計も愛用。②は古い腕時計イロイロ。母の実家が明治以前からの時計屋だったから…。お願いして貰った懐中時計は、ハイジのオンジを真似てオーバーオールの胸ポケットに入れてたよ。動かなくなった後に、ユリゲラーの念力でちょっと復活したことも~♫そしてオマケ!Kさん(Mのダンナ)のゴルフ焼け手首に落書き~⌚

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この時計、気に入った!おいくら万円?サッサと手首を切って頂きましょう~🔪

 

【009 手作り大富豪時計Oくん

マブダチRの息子で自由研究好きなOくん小4BOY。いつもあたしの心を鷲掴みにするオブジェを作って感動させてくれるの。そんなOくんに、「時計を作ってプレゼントして!」とお願いしたら…こんなん出ましたあ~、金ぴか掛け時計で~す★いきなりアラブの大富豪感満載(爆)

f:id:chinpira415:20190712235725j:plain弟の誕生日ケーキについてたプラスチックの皿に、木工用ボンドで盛った文字盤をあしらい、針はなんと爪楊枝!家にあった100均の時計のムーブメントを取り出して再利用してるらしく、ちゃんと動くのよ~。しかも数字の7のところにちっこい豆電球が付いてて、小技に泣けるぅ😢小4男子、あなどれないわ…“伸びしろ”じゅうぶんってヤツですかね(笑)。

 

【番外編:宅見時計店

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今年のはじめだったか…張り紙を見て思わずカメラを向けた。伏見の交差点にあった宅見時計店のシャッターに閉店のお知らせが―(涙)。勤務先が近くだったこともあり、愛用の腕時計のメンテは必ずこの店にお願いしていたの。お話し好きのご夫婦二人で仲良く切り盛りされていて、数年前に奥様が亡くなられた後も、寂しさを紛らわすようにご主人お一人で店頭に立たれていらっしゃって…。いや、あたしの方こそ言わないと…長い間お疲れさまでした、いつも丁寧に対応していただいてありがとうございました(ぺこり)。

 

PS 次回は7/29に更新します

 

勝手にシネマ評/『よあけの焚き火』('18)

今回は、内容もタイトルもほとんど知られていない映画の紹介です。残念ながら観客動員は伸びず、すでに名古屋での公開は終わってしまいました(涙)。プロの役者が使われていないし、宣伝も控えめな小品だから致し方ないんだけど…もったいない話です。

f:id:chinpira415:20190629133929j:plainかく言うあたしも、劇場の方に薦められなきゃスルーでした(汗)。映画愛好家たるもの、これじゃあマズいだろうと反省し、ブログにまとめることにしました。映画って、念じているといつか見られることがあったりします(確率高い!)。記憶の片隅にぜひ入れておいてください。

f:id:chinpira415:20190629134206j:plain土井康一監督による『よあけの焚き火』(’18)は、72分という短い作品ながら、わたしには“初めて尽くし”な映画で、かなり意表を突かれました。もちろんホメです。ご存知の通り、映画に関しちゃ相当すれっからしになってますから、脇腹をフイに刺される体験=ブラボー!なんです(笑)。

f:id:chinpira415:20190629134449j:plain晴れた冬の朝、閑静な住宅街から映画は始まります。帽子にマフラーでしっかり防寒して車に乗り込む親子。サッカーの試合に出る息子の送迎でしょうか?…カジュアルウエアが板についた、今どきのシャレオツなパパと息子の絵ですわ。それにしてもニッポン、変わりましたね~(笑)。50年前の我が親子像とは全くの別物(汗)。しかもどことなくお品も良くて―。

f:id:chinpira415:20190629134642j:plainいや、出で立ちは軽快だけど、息子は助手席ではしゃぐ様子もなく、遠い目をして後部座席に口数少なく座っています。凛々しくもあり、心細くも映る複雑な横顔。休日の親子の遠出にしては、場違いな緊張感が…一体なぜ? はい、実はこの親子、650年以上もの伝統がある大藏流狂言方の血筋を受け継ぐふたりで、山奥の稽古場へ向かうところなのです。

f:id:chinpira415:20190629134955j:plain映画初主演かつ、じぶん役に挑むことになった親子。父は大藏基誠(おおくらもとなり)、10歳の息子は康誠(やすなり)と言います。車窓からの眺めは、雪の残る大自然へと見る見るうちに様変わりし、ふたりがたどり着いた先は、ひっそり佇む一軒の古民家です。

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到着早々、親子は手分けをし、キビキビとおウチ作業を始めます。雨戸を開け放ち、隅々まで掃除をし、台所周りを整えて柱時計のねじを巻き、手作りのカレンダーまで貼り出します。どうやらしばらく滞在する模様。「おいおい、『男の隠家』by三栄書房っスか」とツッコミを入れてみましたが(笑)、昭和初期の匂いがする小ざっぱりと美しい空間の磁力にはあらがえません。なんと照明以外、家電製品が見当たらないのよ~、清々しいはずです。

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そして驚くべきことに、一連の作業の間、父から教育的指導が入っても、息子はことごとく「はい」としか返さない…。ちょっと信じられないほど素直に振る舞い、聞き入れます(汗)。かといって、特殊な家業の躾に閉じるスケッチでもなく、家の中の「はい」の連発が、家の外の雄大な蓼科の山並みに抱かれるように描かれ、とても寓話的。一目で「これはノレそう!」と直感が働きました。

f:id:chinpira415:20190629142344p:plain男2人の合宿生活には、小さな彩りも添えられます。自宅から持ち込まれたのは、人形の姿をした陶製のベルと一匹の金魚。ゲームとアニメではなく(苦笑)、留守番の母をイメージさせる小道具を登場させるとは…付け入るスキがございません

f:id:chinpira415:20190629151409j:plainここまで俗臭ゼロだと、これはこれで変わりもの見たさ欲が募り、かえって新鮮。何せ稽古が始まれば、初めて尽くしにさらに血が騒ぎ、身体が勝手にヒートUPするのですから。

f:id:chinpira415:20190629140736j:plain実際は、父から息子へ伝統の技が伝授されるシーンに奇をてらうような手触りはなく、カメラは絶えずクールダウンしていて、記録の構え。だからなのか、口伝え&身体伝えの繰り返しに、素描集を眺めるようなそぎ落とした美しさが立ち上がり、強い輝きを感じます。 

f:id:chinpira415:20190629142446j:plain稽古場の佇まいがこれまた素晴らしい!コーナー2面が共にガラス窓になっている畳敷きの和室は、ちょっと手狭にも感じる暮らしと地続きの一室ですが、黙々と稽古を続けるうちに、普段使いの空間の“気”が、徐々に上昇してくるから目が離せません。日常と非日常な営みが溶け合い、なんともイイ塩梅に…。そしてここでも、屋外の凍てつく空気が親子稽古の書割りとなって、静謐な情景を生み出していました

f:id:chinpira415:20190629142920j:plainとはいえ、親子であり子弟である関係は、向き合いすぎて煮詰まることも。寝食を共にし、逃げ場のない閉ざされた場所でのトライだからなおさらです。映画はそこに風穴を開けるように、親子じゃれ合い狂言合戦を差し挟み、なんとアクション映画にも仕立ててくれちゃうんです。

f:id:chinpira415:20190629143113j:plainが作った具だくさんのお味噌汁を食べながら、はたまた人っ子一人いない広大な草原ではしゃぎながら、興にまかせて狂言のフレーズを繰り出し、親子で丁々発止する様子が楽しいったらない!そう、ラップの掛け合いノリなんですよ。狂言のことなどまるっきし知らないあたしも思わずつられてしまいました。相棒がいるっていいなあ…。大自然を舞台にいっしょのアクションで共振しあうのって愉快だなあ…と。

f:id:chinpira415:20190629143628p:plainそんな親子に映画は、近所に住む宮下老人の孫の咲子を巡り合わせます。両親を震災で亡くし、この地へ移り住むようになった物静かな少女と、伝統という名のレールが敷かれた運命を生きる康誠。いわば対照的な境遇の2人が出会い、ほんの一欠けらの未来の兆しを、共に探り当てるまでが描かれて行きます。詳しくは書きませんが、少女を絡ませることで、映画が世界へ向けるまなざしはさらに遠くまで伸び、かつ、言葉に置き換えられないたおやかな仕上がりになりました。

f:id:chinpira415:20190629143545j:plain土井監督は、人間国宝シリーズなどのドキュメンタリーで実績のある人らしいです。なるほど…写体との距離が絶えず一定で、余計なものを足したり引いたりせず、とても落ち着いています。なので当然のように、大藏基誠・康誠親子ありきで始まった長編初監督作品なのかな…と思っていたら…これがまったく違ったの!

f:id:chinpira415:20190629144054j:plain鑑賞後、監督の舞台挨拶を聞きました。するってーと、なんと原案はポーランドの絵本だと言うじゃありませんか。『よあけ』という絵本の世界観にインスパイヤーされ➡家族をテーマにした映画にできないか➡家族の日常は「伝える・伝わる」の連続だ。でも「伝える・伝わる」とは一体何なのか?➡伝統芸能の家系に生まれた親子はまさに「伝える・伝わる」の体現者だから…とまあ、想像とは正反対のルートで狂言方親子を主人公にしたことが判明してビックリ!

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そして原案となった絵本の世界観も土井監督仕立てで見事に開花させます。自然という名のカンバスに頼った絵的なイメージの捻出だけではなく、大藏親子と咲子を通じて、スクリーンの前の観客一人一人の内なる “よあけ”を想起させるよう設計してるんです。控えめに見えて、この監督の巻き込み胆力はなかなかのものです(笑)。

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ついでに、ご本人にあの魅力的な稽古場のことを尋ねたら…稽古場は大藏家のものではなく、監督の師・本橋成一氏と縁のある建物を借りてのセット撮影だって!確かに出来過ぎだろうと思う節はあったものの、思わずめまいが…。もしかしたら大藏親子も役者さん?(爆)いやー、なんて素敵なウソつきさんなの~!マンマと乗せられましたあ~。もちろん最上級のホメです(笑)。

f:id:chinpira415:20190629150722j:plainすでに映画監督としての資質をじゅうぶん備えておいでの土井康一氏、次作も素敵なウソつきでよろしくです(ぺこり)。


『よあけの焚き火』予告編

『よあけの焚き火』

2018年/72分/日本

監督/脚本/編集  土井康一
撮影      丸池 納
音楽        坂田 学
照明        三重野聖一郎

キャスト      大藏基誠 大藏康誠 鎌田らい樹

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PS 次回は7/13に更新します

画家・染谷亜里可は宙に遊ぶ🛸2/2

コンビ結成 ~🦋

◆前回に引き続き、画家・染谷亜里可くんご紹介特集です★ さて後半戦は、2011年の活動から始めましょう~♫ この年彼女は、お笑いコンビB&B(ふっる~)…ではなく、D.D.を結成!でも、2人の馴れ初めはB&B並みに、ふっる~です(笑)。何せ美大生時代からの相方、今村哲くんとのコンビだから~😊 そんなD.D.の第一弾発表作は、舞台美術で活躍している山元ゆり子さんとのコラボで、絵画・映像・音響・演劇的要素などを用いた体験型のインスタレーション『二重(にじゅう)に出歩くもの』でした!

f:id:chinpira415:20190601094846j:plain◆会場は愛知県立芸術大学のサテライトギャラリー。こちらが当日の入口風景です。左には今村君の油彩の小品が並び、右にはソメヤくんのでかい「Decolor」シリーズがお出迎え。一見普通の絵画展に思うわよね?ところが本編は、2つの壁の隙間から身をよじるように入って始まるの!…するってーと、じぶんの身体サイズ感が狂うがごとく

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◆へんてこな小部屋が次から次へと続くんです。あたしはひとりで体験したから、「ここはどこ?あたしはだれ?」モードに浸りやすく、心細さと高揚感のせめぎ合いがメチャ気持ちよかった!でもこれだけでは終わらないわけです。タイトルが「二重」ですからね。しかも引き返そうにも引き返せない…帰れ~ない二人を残して♪~by井上陽水状態に(笑)。ラッキーにも山元さんが映像をUPしていたので、続きはこちらをどうぞ


『二重に出歩くもの』山元ゆり子編 水谷イズル編集による

◆カメラが介在する映像では、どうしてもあらすじめいた形に集約されてしまいますが、実際に体験すると「二重」というキーワードに様々な意味が感じ取れました。やがて、じぶんの中のもう一人のじぶんを追いかけて彷徨い、虚実入り混じった世界へ突入。一人ぼっちのいかがわしい道草体験に、胸騒ぎが収まらなかったの~。もう一度、どこか地方の夜祭かなんかでやってくれないかな…。とにかく唯一無二の体験でした!

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美術館に潜伏🏠

◆そうそう、ソメヤくんは、あー見えてかなりの無鉄砲野郎なんですよね(笑)。あいちトリエンナーレ2013の並行企画展『ユーモアと跳躍』で、美術館に48時間滞在するという大胆な試みに挑んだことも…オーマイガー!(汗)

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◆簡単に言っちゃうと、岡崎市美術博物館のロビーに、なーんちゃって住居を拵え、仲間といっしょに2日間暮らしたんですよ~。施設設備に頼らず、極力自力でやりくりし、非日常空間をじぶん十分領域に改造して遊び倒そうという企み。タイトルは『2つで三人』。あたしも2日目のお昼間に、こわごわのぞきに行ったんだけど(汗)、これがなかなかシャレオツな宇宙になってて快適でさ~♫ 上からのぞいた図がこちら―

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◆壁はクッション性のあるプラスチック巻きダンボールをつなげたもの。ずるずるずる~っと引っ張り出して、間取り自由&プライベートも確保のD.D.御殿が完成アルヴァ・アアルトも真っ青よ(笑)。家具も滑車を付けた移動式になってて、けっこうな人数が寝泊まりできる仕立て。半透明に人影がこだますれば…まさに陰翳礼讃ですよ~。

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◆実験というほどストイックではなく、イベントというほど浮かれ過ぎず…。板についた自由思想の下で営まれていましたね。何より施設関係者さまの太っ腹な計らいに感服しました。できそうでできないすぐそこにある冒険、これぞユーモアと跳躍です👍

ちんぴらも飛び入り👣

◆このときD.D.は、関連企画として「みんなも妄想空間を考えてみてよ~、でもって実際に作って見ない?」というワークショップを開きました。そして本当に完成させた9組10名の空間を、迷路状につないで展示したのが『妄想の空間を連結しよう』です。

f:id:chinpira415:20190602224423j:plain◆へへへ、あたくし不肖ちんぴらも、参入させていただいたんです。左端に見えるのがあたしの妄想空間。初代リカちゃんハウスをイメージしました。欲しくても買ってもらえなかったヤツ…(涙)。

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◆あたしの場合、とにかく妄想力が貧困なんで、平面の組合せ&実用性でしか物事を考えられないの(汗)。リカちゃんハウスを等身大にして、貸本屋小屋にしたいなあ…パタパタ折り畳んで移動できたら笑えるなあ~と、いたって平凡に計画しました。

f:id:chinpira415:20190603231342j:plain◆そして、以前、東大出(!)のクソ生意気なマブダチOが、読書好きなあたしに言い放った一言『本を読むのって、カッコ悪くないですか?』を、そのままタイトルにつけてみたの(笑)。だから部屋の中に陳列したのは、空き箱を装丁したなーんちゃって本で、タイトルも逆さに書いて悪ふざけ~♪ 

f:id:chinpira415:20190603231429j:plain◆出窓には悪戯好きなカラスのモビールをあしらい、ぺらっぺらな貸本屋が出来上がったのよ~。構想3日、制作1ヵ月…D.D.の巻き込み力のおかげで、これまた超愉快な体験となりました😊感謝

所蔵品展を迷路に!

名古屋市美術館で2014年に開催した『遠回りの旅』スペシャルな企画でした👍所蔵品を中心にした人生の旅にまつわる作品の紹介と、D.D.の謎めき迷路を合体させた体験型の美術展。一粒で3度美味しかったです🍴

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 ◆常設展で見慣れたあの作品や、「おいおい市美さん、こんなの持ってたの?」と意表を突く小品が飛び出したり、近隣の美術館が所蔵する名品も集め…まるでセレクトSHOP!そう、そう、所蔵品=クローゼットのお洋服と見立てたら、コーディネートはグングン広がるよね👗。 展示方法を公募にしても面白いんじゃないかしらねっ。

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ブランクーシ、スニガ、岡本太郎マックス・クリンガー…意表を突く並びも、「旅」という文脈を補助線にして近づけば、受け止め方がガラッと変わって妙に新鮮。はい、そこにD.D.がまたまた迷路をぶっこんだんですよ~。ほら、会場にいきなり脇道が出現してるでしょ!さっそ~われてフ~ラ、フ~ラ♪目~の前がク~ラ、ク~ラ♫

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『昼の目 夜の目』と題されたこの先の迷路体験は、美術館のバックヤードに一匹のネズミになって潜入するイメージ🐭狭い通路を手探りで進めば、段差や、穴ぼこや、天井裏や、抜け道に出くわし…立ったり、はいつくばったり、寝っ転がったりして、身体フル稼働の大忙しに―。しかもその間、作品鑑賞もあり~のなんですよ。やがてたどり着いた場所は…月の愛香(内容はナイショ)、うーんマンダム

f:id:chinpira415:20190604234427j:plain◆2Fでは、人生初、じぶんの後ろ姿に恋に落ち、せつない道行体験ができる小部屋『鏡の回廊』も堪能し、一粒で何度も美味しい鑑賞となりましたね。小気味よい文章で綴られた図録がまたよくできてて、帰宅した後ももう一杯、ゴハンおかわりしたかんじ(爆)。収蔵作品鑑賞とのコラボD.D.作品、ぜひまたどこかでやっておくれ~📢

f:id:chinpira415:20190604234658j:plainちんぴら、穴にもぐる🍩

◆2016年にはソメヤくんの母校の記念企画展で、ドット柄のちっこい穴にすっぽり

f:id:chinpira415:20190608121500j:plain◆こんなところにあったのか~、どこでもドアだ~。立ち上がり部分に意外と高さがあり、どう入ったらいいか一瞬戸惑ったりして…よっこらしょ。知らない間に撮影されてマシタ(汗)。レセプション日、傍らのビール缶も一興でしょうか(笑)。

f:id:chinpira415:20190608121755j:plain◆“起きて半畳寝て一畳”どころの騒ぎではなく、かなりちっこ~い人小だったけど、中に入ると息苦しさはなく、むしろ一穴入魂しましたね(笑)。造形物としての佇まいにもソメヤくんのセンスが光ります★ 作り込み過ぎていないのに、存在感はピカイチなのよ。おっさんたちが憧れる男の書斎にどうっすか?チャクラ全開になりまっせ~。

f:id:chinpira415:20190608121641j:plainブラボー、ART!

◆ベルベットに浮かぶお月様から始まったソメヤくんとの交流。今回、じっくり振り返ってみて、我が事ながら改めて縁の不思議さに驚かされちゃいました。フランシス・アリスイリアム・ケンドリッジガブリエル・オロスコ(画像右)フィッシュリ&ヴァイスゴードン・マッタ=クラークetc…ソメヤくんから教えてもらったアーティストたちに触れ、じぶんの思考が大きく変化したのもとっておきの体験になったけ…。

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◆絵を買うときに思うのは、「この人の、次の作品が見たい!」という衝動なんですよね。次作を制作するための絵の具代を、勝手に渡したつもりでいるの(笑)。未来の博打の片棒になり、あたしにできない冒険をガツーンとやってもらいましょう~という心意気。作家の創作時間にまで思いを馳せられるなんて、すんごく贅沢なことじゃない?

f:id:chinpira415:20190608135909j:plain◆最後に紹介するのは、ソメヤくんの作品で一番愛しいクレパスの作品です。女の子2人が机の上で何かやってるシルエット…いっしょに本を眺めているのか、手芸でもしてるのか、それとも夕飯の下ごしらえか(笑)。とにかくこの絵の、2人で何かに夢中になってる姿がたまらなく好きなの~。しかも、俗世を離れて宙に浮いてる~!★タメ年のあたしたちも、こんな風に頭ン中で常に切磋琢磨しあってる気がするよ「Viva人生!」っていいながらねっ♫ 

 

染谷 亜里可 展 - Left inside Right

会期 : 2019年5月18日(土)- 6月22日(土)

会場 : ケンジタキギャラリー 時間 : 11:00 - 13:00 / 14:00 -18:00
名古屋市中区栄3-20-25 TEL 052-264-7747

 

PS 次回は6/29に更新します

画家・染谷亜里可は宙に遊ぶ🛸1/2

染谷亜里可展へ行く

◆栄のKENJI TAKI GALLERY染谷亜里可(そめや ありか)展~Left inside Right~ がスタート!(6/22まで)4年ぶり、待ちに待った新作展のオープニングへ行って参りましたので、まずはそちらのご紹介★「お、ねだん以上。」byニトリ…じゃなくてー、「期待以上。」byソメヤ~♫ クールに変化し続けてて、ごっつカッコよかったー👍

f:id:chinpira415:20190524230007j:plain◆画像ではわかりにくいんだけど、これはベルベット地を脱色して描く「Decolor」というシリーズで、彼女の代名詞となっている表現方法なの。そもそもベルベットって毛足があって、光の反射角度によって表情が変わるでしょ。素材そのものに光と影を招き寄せる力があり、なおかつ滑らか。これをキャンバス代わりにしただけでも、おーっと唸るんだけど、そこに引き算(脱色)を使い、足し算(絵を描く)にしちゃうところが天才プラマイゼロのマジックですわ~。

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▶ほな、プラマイゼロってことは、無重力かいな~。確かに今回の積み木みたいなモチーフだと、浮遊感がハンパなくて、無重力漂流に体ごと魅せられたわ。どうもこの積み木の描き方にLeft inside Rightの試みがされているらしいけど…テクを聞いてもさっぱり飲み込めず(汗)。ただ絵画というより彫刻作品風なインパクトがあって、長年定点観測してるあたしの👀には、またまた大胆なユーモアとペーソスを搭載した印象でした★

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ところで染谷亜里可をご存知か?

◆染谷亜里可の存在を知ったのは2003年。もう15年以上も前のことよ…。名古屋市美術館が企画した、この地方に活動拠点を置く美術作家9名を紹介する展覧会『現代美術のポジション2003』で、ガツーンと出くわしてしまったの~、やっべー💦

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◆ガツーン…とはいえ、記憶にこびりついたのは―①お月様が浮いてる作品を仰ぎ見て思わずクラクラした ②それはキャンバスではなくベルベットの布に描かれ、ラフに垂れ下がっていた ③作家名をチェックしたら、じぶんと同じ年=1961年生まれの女性だった 以上3点のみ。そんな運命の1枚がこちら―

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◆こんなざっくり感想じゃ、ガキの使いにも劣るわね(笑)。ただこの3点がじぶんにとってはやけに鮮烈で、染谷亜里可という名をしかとインプットしたのであります。

ここから始まる大レース~♪

◆で、“愛”は名前をつけた瞬間から始まっちゃうんですよね~♥タメ年のソメヤくんの作品を脳裏に刻んだ後、翌年の秋に早々と、KENJI TAKI GALLERYで新作と遭遇。はい、ちんぴらはこのときの興奮を生涯忘れることができません(涙)。まずは、ギャラリー1Fに並んだ「字幕」シリーズ。例のベルベットを用いた「Decolor」技法で、モチーフは映画の一場面風に見える…マジに動揺した長年の映画愛好家だから余計に

f:id:chinpira415:20190522220855j:plain◆だって、まるで寸暇を惜しんで眺めてきたスクリーンが、映画小屋からこっそり抜け出し、暗闇をまとったままギャラリーに集結し、あたしを取り囲む状態になったんだもん。つまり、いつも見ていたスクリーンから、逆にあたしが見られているわけよ。でもって、脳内映画データベースを紐解いても作品名は特定できず、むしろどこかで見たような場面&意味深な字幕だから惑わされたのか…恐るべしベルベットの架空迷宮

人生初、絵の衝動買い!

◆2Fに上がると、今度は油彩による「鳥瞰」シリーズのお出まし♫ これまたどれも何がモチーフになっているのか、わかるようなわからないような…。筆使いがわかり~の、陰影もあり~の、物体は具象だけど、テカテカの合板に描かれていて抽象的に感じられ~の…。その中の1枚がこちら…タイトルは『億万長者の家』(04)。ギャラリーの人に尋ねたら、なんと人生ゲームの家の駒を鳥瞰で捉えた図だって。オーマイガー!

f:id:chinpira415:20190522232759j:plain◆なんでその絵がウチにあるかっていうと…このとき“人生初の絵の衝動買い”をしちゃったからなんです!お値段10万円也★自転車操業の年増のフリーターが『億万長者の家』を騒動買いって、ギャクみたいでしょ?(爆)周囲からは「はぁ?絵だとぉ~?いったい何様のつもりだあ!」とヒンシュクをかったりもしたけど、絵を買って得た体験価値はマジに計り知れないです貨幣価値に置き換え不能なアクションなんですよね。

f:id:chinpira415:20190524084745j:plain◆絵って、“窓”になるの。それも、世界につながる“窓”がウチの中にできるんだよ、それだけで活気づくってもんでしょう~。それと、価値が定まっていないものを、カンだけを頼りに探し出す行為は、じぶんのものさしとの格闘になるからね。絵と対峙してじぶんが発掘できるなんて、まさに未知との遭遇じゃない?

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◆そういえば絵を購入した翌年、三重県立美術館からソメヤくんの展示をするので、図録作成のために画像を借りたいとの依頼があったの(右図)。絵の所有=絵描きの歩みの伴走者になるってことなんだなあ…。これも他では味わえない体験になったわ。

2度あることは何度でも…?

◆ソメヤくん追っ駆けは、その後もお地味に継続し、これまた忘れもしない2007年のこと。眼科で検査した帰り道、まだ瞳孔が開いたままの牛乳瓶の底から見てるような状態で(汗)、新作展開催中のKENJI TAKIへ立ち寄ったの。いや~ん、ボケボケなのに、どの絵も素敵すぎてしんぼうタマランかったのよ~💦お断りしておくが、ボケてるから素敵に見えたわけではなく、作品が放つ空気感にノックダウン👍

f:id:chinpira415:20190525105757j:plain ◆空+地平線+大地の三位一体構成に、この流麗な筆遣いを見よ!はい、お察しの通り購入させていただきました『Landscape』(07)。初めて絵を買ったとき、マブダチHに「そこから始まるんだよ~。1点で終わるわけないっしょ~。」と、恐ろしき一言を通告されたが、キミは預言者でしたね✿この絵を見たとき、ラース・フォン・トリアー監督の奇跡の海(96)エミール・ノルデの水彩画を思い出したっけ…。

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◆でね、後日作品のお支払いをしにギャラリーへ寄ったとき、生ソメヤくんとバッタリ遭遇した写真がこちら♥なぜか長身のボーイッシュな女性をイメージしてたから、サイズ感があたしといっしょで笑っちゃった😊これ以降今に至るまで、友情てんこ盛りな関係に。パートナーの今村哲くんもタメ年の絵描きでさー、あたしたちが集結するとまるで部活(笑)。天下国家ネタからサブカルまで、同世代のおしゃべりは止まらない~。

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アトリエへ突撃訪問!

三重県いなべにあるふたりのアトリエ兼住居に泊りがけでお邪魔したこともあるの。日常的に学生を相手にしているからか、ふたりとも気取らない人柄で懐が広くて、最高に寛げた!夜遅くまで美術談義に花を咲かせたのに、翌日も朝っぱらから布団の上でティツィアーノの画集をめくりながら、大騒ぎしたっけ~(笑)。

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f:id:chinpira415:20190525142217j:plain◆創作の現場訪問は、ほんとテンションあがるよ~。あちらこちらにイメージソースの断片が転がってたりしてドッキドキ…。あたしにとってはまさに聖地巡礼でした!

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◆右の画像はアトリエの横にある庭への入口。このこんもり具合、めちゃミステリアスだと思わない?それとも、ただ手入れゼロなだけ?(笑)ソメヤくんの頭の中へ続く迷路の入口だと踏んでるが…。きっとここに創作の女神を囲っているに違いない!

ベルベット降臨

2008年、世界がリーマンショックに揺れる中、父が亡くなりました(涙)、享年82歳。翌年、父が残した預貯金を譲り受けたんだけど、大富豪ならともかく、ちょっとしたボーナス価格。ありがたいが、いまいま食うには困っていなかったので、この手のお金は残さず使い切ろうと決断♫ タイムリーなことにソメヤくんの新作展が…(爆)。これ、何に見える?…このときの展示のタイトルは「Monster」

f:id:chinpira415:20190525141108j:plain◆あたしは、鉄腕アトムの妹のウランちゃんがひっくり返ったところ…くらいにしか思いつかなくて(笑)、モチーフより不穏な気配みたいなものに魅かれたの。地色のコバルトブルーから抱くイメージとの落差もお気に入り。ちなみに本人に尋ねたら、バイオリンの糸巻部分だって!こうして念願の「Decolor」シリーズが我が家の玄関に鎮座♫ 父は建築系の職人だったけど、絵を描くのも好きな人で、幼い頃のあたしをモデルにしてよくスケッチしてたっけ…。絵で追悼できたのは、何よりの想い出となりました★


荒井由実 ベルベット・イースター

願わくば一軒家に住んで引きで眺めたいのだが…(爆)。絵を飾りたいために家が欲しくなったりして…業が深くてスイマセン。というわけで、今回はベルベットつながりで終了(笑)。ソメヤくん紹介編は、次号にも続きます。6/13にUP予定、お楽しみに!

勝手にシネマ評/『ROMA/ローマ』('18)

アルフォンソ・キュアロン監督が描く話題の新作『ROMA』は、タイル模様のクローズUPでゆるりと始まる。背後から控えめに鳴り響いてくるのは、鳥のさえずり…足音…デッキブラシがゴシゴシこすれる家事労働らしき音だ。

f:id:chinpira415:20190511215820j:plainやがて、水が撒かれて清められ、その水がタイルの上に徐々に流れ着くと、天窓から刺す光の反射で水鏡と化し、上空を横切る飛行機をアメンボみたいな姿で映し出す。まず音で誘い、次に光を降り注ぎ、最後に動く物体を、ごく小さくスクリーンに招き入れる仕立てが神々しい。そう、世界はこうして絶え間なく動いているのだ!

f:id:chinpira415:20190511220518j:plainここで映画はカメラを引き、一連の労働音が、小柄な若い女性による清掃スケッチだったことを明かす。傍らでうろつく一匹の犬も含め、平穏な日常の一コマなのか…。きわめてよい風景だ。

f:id:chinpira415:20190511220712j:plainその後もカメラは、彼女の手慣れた家事労働を遠目に追い駆けながら、家政婦仲間との関係性や、邸内の情報も一筆書きのリズムに乗せてさりげなく捉え、ドラマの舞台をものの見事に立ち上げる。滞空時間の長い滑らかな幕開け…我々の意識はすでに映画の中にある―

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マズイ!こんな調子で映像美にイチイチ感嘆していたら、ひとりウットリつぶやきで終わってしまう(汗)。先を急ごう。70年代メキシコシティのローマ地区先住民族の血を引くクリオは、白人中流家庭の邸で働く住み込みの家政婦だ。雇い主一家は、医者のアントニオに妻のソフィアとその母、やんちゃ盛りの4人の子供の7人家族。同僚と2人、朝から晩まで一家の生活周りのすべてを整えているが、主人と奉公人の線引きは、極端に緊張を強いるほどのものでもなさそうだ。逆を言えば、それだけ階級差が固定化されてしまっている証にも受け取れるが―。

f:id:chinpira415:20190511221741j:plainしかし無垢な子どもたちは、慈愛に満ちた方へと自然に吸い寄せられる。慎ましく穏やかなクリオの表情や振舞いに陽だまりを感じるのか、気づけば子どもたちは皆、彼女が側にいてくれるのを願っている。時代や国や肌の色が違えども、子どもは魂の感応アンテナを尖らせ、焦がれる対象を見つけ出す生き物なのかもしれない。

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映画はこうして早い段階から、クリオ自身がじぶんの介在価値を肌で感じながら奉公している断片を綴り、これが勝因の一つになっている。クリオの背景はわからなくても、彼女にはじぶんで築いた居場所がある。ヒロインと我々との親和性を絶えず意識しながら、『ROMA』は描かれて行くのだ。

f:id:chinpira415:20190511222058j:plainもちろん、家政婦にも女子の時間はやってくる!クリオは、同僚と勢いよく休日の街へ繰り出し、出会ったばかりの恋人候補と早々にベッドイン。慎ましく働く黒子の横顔から一転、好奇心に突き動かされて輝くハレな横顔へ鮮やかに転身だ。ここでもカメラは、若さ弾むクリオの姿を、ひとつの情景として遠目で見守り続けるため、時に我々の記憶を呼び覚ます装置にもなる。労働から解放され、細胞の隅々までじぶんだけの時間を生きる彼女ののびやかさは、懐かしく眩しいものとして、しかと脳裏に焼き付くのだった。

f:id:chinpira415:20190511222333j:plainある日、アントニオがケベックへ旅立つ。たかが出張で家を空けるだけなのに、悪い予感がしたのかヨメのソフィアは大揺れ。時を同じくしてクリオの妊娠が発覚するが、こちらも相手の男にあっさり逃げられ途方に暮れる…。社会的ポジションの異なる2人の女が、男に去られてピンチ襲来という1点を共通項に、物語の中心に迫り出して行く…ずいぶん意表を突く展開である。

f:id:chinpira415:20190511222612j:plainそもそもソフィアは、子どもたちに圧倒的に慕われるクリオに対して、面白く思っていなかっただろう。家政婦としては重宝しても、母親の面目は保たれないからだ。ただ2人の女は、異なる立場だからこそ無暗に接近せず、互いの状況変化を察知して、手を差し伸べ合うことはできる

f:id:chinpira415:20190511222754j:plainソフィアは、すぐさまクリオを病院へ連れて行き、このまま働きながら子供が産める環境を約束し、クリオもXmasが来ても一向に修復できない主人夫婦を黙って見守る…。同情でも、友情でもなく、今の生活を持続可能にするための合理的な選択で2人の女は結束する。美談を遠ざけたこのリアリティに、わたしは気持ちよくノレた!

f:id:chinpira415:20190511230750j:plainさらに映画は、女たちの内面の葛藤も微妙にズラして巧い。地震に雹、ド派手な年越しパーティーに山火事など、非日常なアクションを唐突に差し入れ、日常を相対化して進行するため、彼女たちの心配事は必要以上に悲劇化せず、我々は絶えずまっさら状態でドラマの行方を見届けられるというわけだ。

f:id:chinpira415:20190511223217j:plain例えばクリオが逃げた男を訪ねるシーン。彼女は、ぬかるんだ田舎道をたどり、男の居場所をようよう探し当てて声をかけるが、いきなり酷い仕打ちを受ける。フツーなら、不実な男と憐れな女という悲恋の絵にハメるところだが、ここではそんな等身大の後日談では終わらない。男は、都会で真面目に働き信頼を築いた女へ、嫉妬と憎悪をたぎらせ必要以上に逆ギレする。格差への不満が、まず近な相手を捌け口にしてエスカレートする様に、やり切れなさが募った。

f:id:chinpira415:20190511224208j:plainそして終盤、映画はさらに大きくうねる。出産を間近に控えたクリオが、突然、政権への抗議暴動に巻き込まれてしまう。激しく暴徒化する若者の中には、怒りに狂ったあの男の姿も見えるではないか!恐ろしい勢いで生と死がせめぎあい、もはやスクリーンの中は濁流状態。冒頭の平穏な日常がここでイッキに裏返り、クレオは死産を告げられた―。

f:id:chinpira415:20190511230536j:plainに出迎えられ無事に退院したクリオ。離婚を決意し、夫の愛車を小型車に買い替えたソフィア。2人は子どもたちを連れて、心機一転の小旅行へ出掛ける。目の前に広がる海辺の景色は、2人の再出発を祝福するにふさわしい自然美の結晶だ。が、驚くのはまだ早い。ここでは明かさないが、全てのパーツが出揃った最後の最後に、映画はなお、究極の“光と音”で神話を編み、我々に贈り届ける。そう、この瞬間を目撃させるために『ROMA』は作られたのだ。

f:id:chinpira415:20190511230603j:plain旅から戻り、家政婦の毎日がまた始まる。留守番の同僚に「話がたくさんあるの…」と声を掛けながら、慌ただしく家事に勤しむクリオの姿が小さく捉えられ、映画は閉幕。平穏な日常とうっすら漂う無常観…あー、このエンディングがわたしはたまらなく好きだ!ハンパない傑作…早くも今年のナンバー1候補に決定だ。


『ローマ』予告編|Roma - Trailer HD

監督の幼少期の記憶を下敷きした自伝的作品『ROMA』。見終わってずいぶん経つのに、様々なシーンが蘇ってきて未だに興奮冷めやりましぇーん。キュアロン作品は『リトル・プリンセス』(’95)以来、リアルタイムで追いかけていて、タメ年ということもあり(!思い入れが強い作家の一人。女の描き方と美術まわりの趣味がすごーくイイのよね~。DVDで過去作品をチェックするなら、『大いなる遺産』(’98)が断然オススメ!劇中で使われるフランチェスコ・クレメンテの絵の数々、奥にも左右にも深い画面作り、緑を基調にした色彩設計…すべてブラボー♪余談ですが、監督のお顔も好みです♥

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『ROMA/ローマ』

2018年/135分/メキシコ・アメリ

監督/脚本/撮影  アルフォンソ・キュアロン
美術      エウヘニオ・カバレロ
衣装        アンナ・テラサス

キャスト    ヤリッツァ・アパリシオ マリーナ・デ・タビラ

※名演小劇場、伏見ミリオン座で公開中

 

PS 次回は5/28に更新します