写真家・楢橋朝子をご存知か?

画を見続けて早何十年と経つが、正直言って女性で一目置いている映画監督は,ほんの一握りだ。そもそも国内外を見渡しても、監督業に就いている女性は男性に比べて極端に少ない。なぜだろう…。才能の問題?体力の問題?統率力の問題?それとも女じゃ金が集まらないという投資の問題なのか?…よくわからない。だが、女性の写真家となると、もはや「女性」冠など必要としないくらい自分勝負に出ていて静かに百花繚乱。あの90年代のガーリー・フォトブームなんかも、ちゃんと消化されて今に至っているような気がする。

の場合、写真を作品として認識するようになったのは、美術館で写真展と対面する機会が増えてからだ。ハコのマジックって大きいですね!白いハコを額縁に見立て、何枚も続けてヨコ移動しながら写真をながめると、自ずとそこから作風というヤツが立ち上ってきて、自分と共鳴するもの&しないものが明確になってくる。そこまでは絵画といっしょ。ただ絵画と大きく異なるのは、写真は100%シャッターを切ったその瞬間の現実が素材となっているわけじゃない?だから、「どうしてこの人には世界がこんな風に見えたのかな…。こんな風に見たいと思ったのかな…。」と、自分と同じ地平に立っている前提で思い巡らしてしまうことだ。構造的には同じ👀を持っているはずなのに、その作家の👀と私の👀の違いが露わになるから、私との落差が大きいほど“面白い!”となるみたい。なぜだか技術的なことはまったく無視しているのよね(苦笑)。私が魅かれる写真家は、人知れずトンデモないものを見ていて、それをこっそり炙り出すように提示することで世界を再定義している人―。想像するに、リアリスト&単独行動派が写真家に向いているのではないか?…女性写真家に優れた人が多い理由はそこじゃない?…と、勝手に踏んでいるがどうだろう。具体的に日本人で好きな女性写真家を挙げると…石内郁オノデラユキ米田知子川内倫子志賀理江子…たくさんいるよ~。あなたたちの👀で1日過ごしてみたいです、はい(笑)。そして今回ここで紹介するのが楢橋朝子(ならはし あさこ)

 

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橋さんの写真と出会ったのは2001年秋。東京都写真美術館『手探りのキッス~日本の現代写真』にて、≪half awake and half asleep in the water≫と題したシリーズを見たのが始まりだ。すでに15年も経つが、このとき味わった感覚は今も忘れられない。12枚並んだ写真のすべてが水際から撮影されたもので、ながめていると下半身の力が抜けてきて、危なっかしくも愉快な冒険に繰り出したかのような気分になったのだ。タイトルの半睡半醒は言い得て妙だが、私は泳げないので(汗)、優雅な夢うつつ気分というより、一寸法師になってちっこいお椀の船に乗ってプカプカ漂ってるかんじ。家出した心細さはあるが、お椀の中で一寸法師がエラソーに「俗世とは懐かしきものなりー」とかなんとかつぶやきながら、ひとり胡坐をかいて水際からながめてる情景がこのシリーズなんじゃないかと勝手に想像した(笑)。そしてこれを機に、楢橋朝子=プカプカの写真撮ってる人!として、しかと刻印されたのである。

 

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の後、出張で上京したときに、タイミングよく京橋のギャラリーでプカプカの“今”を見る機会に恵まれた。6年ぶりの再会。あの一寸法師の家出は、のんきムードにとどまることなく、ワイルド方面に跳躍していて「カーッコイイ!」と興奮★参考資料として置いてあった写真集が気に入り⇒タイトルをメモり⇒アマゾンで検索したら⇒引っかからずに⇒ガックリきのこ(涙)。ホームページらしきサイトも見つけたが、あまり更新されていないようだったので、長期伴走計画に気持ちを切り替えた(笑)。

 

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 度気になったものに関して私はかなりしつこい。「いずれまた」出会えると確信していて、いつまでも気長に待てる。で、ちゃんと新作と遭遇できちゃたんですよね~、しかも地元名古屋で!2013年、八事のC・スクエアにて、堀川を撮影した作品展が開催されると知って快哉を叫んだ。堀川ですよ、あの堀川!カヌーを借りて、延べ8日間、長期スパンで撮影されたシリーズを前にしたときは、やっぱあまりにも身近な川だけに複雑な感情が押し寄せてきたなあ…。もはや覗き込むことさえない川から、逆に我々の日々の営みを見返されているような気がして、足元が揺らいだんだと思う。それこそ汚れまくりの負のイメージが鼻の先に刷り込まれている世代だから(とにかく街中にありながら悪臭が強烈だった!)、川の存在をあえて無視し続けてきたんだよね…。そんな後ろめたい記憶が蘇り、動揺したのかもしれない。

 

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してこの展示で楢橋さんは堀川を動画で撮影した作品も発表。これが、たまんなかったのよ~。私の抱いた若干の後ろめたさを、今度は反対に川の方がバッサリ無視し、あるがままに流れて行くの。春、水際は舞い散る桜の化粧で表情を刻々と変え、我々を桃源郷へ誘う…。最期にたどり着く風景がこんなんだったら、ほくそ笑みながら往生できるだろうなあとツイ夢想した―。

 

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いうわけで、私の素人解説では伝えきれないので、楢橋さんの写真に興味を持った方は、直接こちらをチェックしてみて。サイト(03magazine)が新しくリニュアルされ、水際写真シリーズ以前の作品もUPされています。実は私は、C・スクエアのアーティスト・トークイベントで楢橋さん本人とお会いし、なんとその後文通友だちにもなったの(笑)。しかも私が書く映画評を面白がってくれて、そちらのサイトでキトキト映画雑記」という読み物コーナーを担当させてもらっているのです。それにしても縁とは奇妙なものですね…。泳げない私が楢橋さんの写真の中で漂い、見知らぬ世界を放浪するようになったのだから。楢橋さん、ぜひ引続きこのちんぴらに、トンデモないものをお見せくださいませ(ぺこり)。

※ここで使用している画像はすべて楢橋朝子作品です