画家・染谷亜里可は宙に遊ぶ🛸2/2

コンビ結成 ~🦋

◆前回に引き続き、画家・染谷亜里可くんご紹介特集です★ さて後半戦は、2011年の活動から始めましょう~♫ この年彼女は、お笑いコンビB&B(ふっる~)…ではなく、D.D.を結成!でも、2人の馴れ初めはB&B並みに、ふっる~です(笑)。何せ美大生時代からの相方、今村哲くんとのコンビだから~😊 そんなD.D.の第一弾発表作は、舞台美術で活躍している山元ゆり子さんとのコラボで、絵画・映像・音響・演劇的要素などを用いた体験型のインスタレーション『二重(にじゅう)に出歩くもの』でした!

f:id:chinpira415:20190601094846j:plain◆会場は愛知県立芸術大学のサテライトギャラリー。こちらが当日の入口風景です。左には今村君の油彩の小品が並び、右にはソメヤくんのでかい「Decolor」シリーズがお出迎え。一見普通の絵画展に思うわよね?ところが本編は、2つの壁の隙間から身をよじるように入って始まるの!…するってーと、じぶんの身体サイズ感が狂うがごとく

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◆へんてこな小部屋が次から次へと続くんです。あたしはひとりで体験したから、「ここはどこ?あたしはだれ?」モードに浸りやすく、心細さと高揚感のせめぎ合いがメチャ気持ちよかった!でもこれだけでは終わらないわけです。タイトルが「二重」ですからね。しかも引き返そうにも引き返せない…帰れ~ない二人を残して♪~by井上陽水状態に(笑)。ラッキーにも山元さんが映像をUPしていたので、続きはこちらをどうぞ


『二重に出歩くもの』山元ゆり子編 水谷イズル編集による

◆カメラが介在する映像では、どうしてもあらすじめいた形に集約されてしまいますが、実際に体験すると「二重」というキーワードに様々な意味が感じ取れました。やがて、じぶんの中のもう一人のじぶんを追いかけて彷徨い、虚実入り混じった世界へ突入。一人ぼっちのいかがわしい道草体験に、胸騒ぎが収まらなかったの~。もう一度、どこか地方の夜祭かなんかでやってくれないかな…。とにかく唯一無二の体験でした!

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美術館に潜伏🏠

◆そうそう、ソメヤくんは、あー見えてかなりの無鉄砲野郎なんですよね(笑)。あいちトリエンナーレ2013の並行企画展『ユーモアと跳躍』で、美術館に48時間滞在するという大胆な試みに挑んだことも…オーマイガー!(汗)

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◆簡単に言っちゃうと、岡崎市美術博物館のロビーに、なーんちゃって住居を拵え、仲間といっしょに2日間暮らしたんですよ~。施設設備に頼らず、極力自力でやりくりし、非日常空間をじぶん十分領域に改造して遊び倒そうという企み。タイトルは『2つで三人』。あたしも2日目のお昼間に、こわごわのぞきに行ったんだけど(汗)、これがなかなかシャレオツな宇宙になってて快適でさ~♫ 上からのぞいた図がこちら―

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◆壁はクッション性のあるプラスチック巻きダンボールをつなげたもの。ずるずるずる~っと引っ張り出して、間取り自由&プライベートも確保のD.D.御殿が完成アルヴァ・アアルトも真っ青よ(笑)。家具も滑車を付けた移動式になってて、けっこうな人数が寝泊まりできる仕立て。半透明に人影がこだますれば…まさに陰翳礼讃ですよ~。

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◆実験というほどストイックではなく、イベントというほど浮かれ過ぎず…。板についた自由思想の下で営まれていましたね。何より施設関係者さまの太っ腹な計らいに感服しました。できそうでできないすぐそこにある冒険、これぞユーモアと跳躍です👍

ちんぴらも飛び入り👣

◆このときD.D.は、関連企画として「みんなも妄想空間を考えてみてよ~、でもって実際に作って見ない?」というワークショップを開きました。そして本当に完成させた9組10名の空間を、迷路状につないで展示したのが『妄想の空間を連結しよう』です。

f:id:chinpira415:20190602224423j:plain◆へへへ、あたくし不肖ちんぴらも、参入させていただいたんです。左端に見えるのがあたしの妄想空間。初代リカちゃんハウスをイメージしました。欲しくても買ってもらえなかったヤツ…(涙)。

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◆あたしの場合、とにかく妄想力が貧困なんで、平面の組合せ&実用性でしか物事を考えられないの(汗)。リカちゃんハウスを等身大にして、貸本屋小屋にしたいなあ…パタパタ折り畳んで移動できたら笑えるなあ~と、いたって平凡に計画しました。

f:id:chinpira415:20190603231342j:plain◆そして、以前、東大出(!)のクソ生意気なマブダチOが、読書好きなあたしに言い放った一言『本を読むのって、カッコ悪くないですか?』を、そのままタイトルにつけてみたの(笑)。だから部屋の中に陳列したのは、空き箱を装丁したなーんちゃって本で、タイトルも逆さに書いて悪ふざけ~♪ 

f:id:chinpira415:20190603231429j:plain◆出窓には悪戯好きなカラスのモビールをあしらい、ぺらっぺらな貸本屋が出来上がったのよ~。構想3日、制作1ヵ月…D.D.の巻き込み力のおかげで、これまた超愉快な体験となりました😊感謝

所蔵品展を迷路に!

名古屋市美術館で2014年に開催した『遠回りの旅』スペシャルな企画でした👍所蔵品を中心にした人生の旅にまつわる作品の紹介と、D.D.の謎めき迷路を合体させた体験型の美術展。一粒で3度美味しかったです🍴

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 ◆常設展で見慣れたあの作品や、「おいおい市美さん、こんなの持ってたの?」と意表を突く小品が飛び出したり、近隣の美術館が所蔵する名品も集め…まるでセレクトSHOP!そう、そう、所蔵品=クローゼットのお洋服と見立てたら、コーディネートはグングン広がるよね👗。 展示方法を公募にしても面白いんじゃないかしらねっ。

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ブランクーシ、スニガ、岡本太郎マックス・クリンガー…意表を突く並びも、「旅」という文脈を補助線にして近づけば、受け止め方がガラッと変わって妙に新鮮。はい、そこにD.D.がまたまた迷路をぶっこんだんですよ~。ほら、会場にいきなり脇道が出現してるでしょ!さっそ~われてフ~ラ、フ~ラ♪目~の前がク~ラ、ク~ラ♫

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『昼の目 夜の目』と題されたこの先の迷路体験は、美術館のバックヤードに一匹のネズミになって潜入するイメージ🐭狭い通路を手探りで進めば、段差や、穴ぼこや、天井裏や、抜け道に出くわし…立ったり、はいつくばったり、寝っ転がったりして、身体フル稼働の大忙しに―。しかもその間、作品鑑賞もあり~のなんですよ。やがてたどり着いた場所は…月の愛香(内容はナイショ)、うーんマンダム

f:id:chinpira415:20190604234427j:plain◆2Fでは、人生初、じぶんの後ろ姿に恋に落ち、せつない道行体験ができる小部屋『鏡の回廊』も堪能し、一粒で何度も美味しい鑑賞となりましたね。小気味よい文章で綴られた図録がまたよくできてて、帰宅した後ももう一杯、ゴハンおかわりしたかんじ(爆)。収蔵作品鑑賞とのコラボD.D.作品、ぜひまたどこかでやっておくれ~📢

f:id:chinpira415:20190604234658j:plainちんぴら、穴にもぐる🍩

◆2016年にはソメヤくんの母校の記念企画展で、ドット柄のちっこい穴にすっぽり

f:id:chinpira415:20190608121500j:plain◆こんなところにあったのか~、どこでもドアだ~。立ち上がり部分に意外と高さがあり、どう入ったらいいか一瞬戸惑ったりして…よっこらしょ。知らない間に撮影されてマシタ(汗)。レセプション日、傍らのビール缶も一興でしょうか(笑)。

f:id:chinpira415:20190608121755j:plain◆“起きて半畳寝て一畳”どころの騒ぎではなく、かなりちっこ~い人小だったけど、中に入ると息苦しさはなく、むしろ一穴入魂しましたね(笑)。造形物としての佇まいにもソメヤくんのセンスが光ります★ 作り込み過ぎていないのに、存在感はピカイチなのよ。おっさんたちが憧れる男の書斎にどうっすか?チャクラ全開になりまっせ~。

f:id:chinpira415:20190608121641j:plainブラボー、ART!

◆ベルベットに浮かぶお月様から始まったソメヤくんとの交流。今回、じっくり振り返ってみて、我が事ながら改めて縁の不思議さに驚かされちゃいました。フランシス・アリスイリアム・ケンドリッジガブリエル・オロスコ(画像右)フィッシュリ&ヴァイスゴードン・マッタ=クラークetc…ソメヤくんから教えてもらったアーティストたちに触れ、じぶんの思考が大きく変化したのもとっておきの体験になったけ…。

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◆絵を買うときに思うのは、「この人の、次の作品が見たい!」という衝動なんですよね。次作を制作するための絵の具代を、勝手に渡したつもりでいるの(笑)。未来の博打の片棒になり、あたしにできない冒険をガツーンとやってもらいましょう~という心意気。作家の創作時間にまで思いを馳せられるなんて、すんごく贅沢なことじゃない?

f:id:chinpira415:20190608135909j:plain◆最後に紹介するのは、ソメヤくんの作品で一番愛しいクレパスの作品です。女の子2人が机の上で何かやってるシルエット…いっしょに本を眺めているのか、手芸でもしてるのか、それとも夕飯の下ごしらえか(笑)。とにかくこの絵の、2人で何かに夢中になってる姿がたまらなく好きなの~。しかも、俗世を離れて宙に浮いてる~!★タメ年のあたしたちも、こんな風に頭ン中で常に切磋琢磨しあってる気がするよ「Viva人生!」っていいながらねっ♫ 

 

染谷 亜里可 展 - Left inside Right

会期 : 2019年5月18日(土)- 6月22日(土)

会場 : ケンジタキギャラリー 時間 : 11:00 - 13:00 / 14:00 -18:00
名古屋市中区栄3-20-25 TEL 052-264-7747

 

PS 次回は6/29に更新します

画家・染谷亜里可は宙に遊ぶ🛸1/2

染谷亜里可展へ行く

◆栄のKENJI TAKI GALLERY染谷亜里可(そめや ありか)展~Left inside Right~ がスタート!(6/22まで)4年ぶり、待ちに待った新作展のオープニングへ行って参りましたので、まずはそちらのご紹介★「お、ねだん以上。」byニトリ…じゃなくてー、「期待以上。」byソメヤ~♫ クールに変化し続けてて、ごっつカッコよかったー👍

f:id:chinpira415:20190524230007j:plain◆画像ではわかりにくいんだけど、これはベルベット地を脱色して描く「Decolor」というシリーズで、彼女の代名詞となっている表現方法なの。そもそもベルベットって毛足があって、光の反射角度によって表情が変わるでしょ。素材そのものに光と影を招き寄せる力があり、なおかつ滑らか。これをキャンバス代わりにしただけでも、おーっと唸るんだけど、そこに引き算(脱色)を使い、足し算(絵を描く)にしちゃうところが天才プラマイゼロのマジックですわ~。

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▶ほな、プラマイゼロってことは、無重力かいな~。確かに今回の積み木みたいなモチーフだと、浮遊感がハンパなくて、無重力漂流に体ごと魅せられたわ。どうもこの積み木の描き方にLeft inside Rightの試みがされているらしいけど…テクを聞いてもさっぱり飲み込めず(汗)。ただ絵画というより彫刻作品風なインパクトがあって、長年定点観測してるあたしの👀には、またまた大胆なユーモアとペーソスを搭載した印象でした★

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ところで染谷亜里可をご存知か?

◆染谷亜里可の存在を知ったのは2003年。もう15年以上も前のことよ…。名古屋市美術館が企画した、この地方に活動拠点を置く美術作家9名を紹介する展覧会『現代美術のポジション2003』で、ガツーンと出くわしてしまったの~、やっべー💦

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◆ガツーン…とはいえ、記憶にこびりついたのは―①お月様が浮いてる作品を仰ぎ見て思わずクラクラした ②それはキャンバスではなくベルベットの布に描かれ、ラフに垂れ下がっていた ③作家名をチェックしたら、じぶんと同じ年=1961年生まれの女性だった 以上3点のみ。そんな運命の1枚がこちら―

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◆こんなざっくり感想じゃ、ガキの使いにも劣るわね(笑)。ただこの3点がじぶんにとってはやけに鮮烈で、染谷亜里可という名をしかとインプットしたのであります。

ここから始まる大レース~♪

◆で、“愛”は名前をつけた瞬間から始まっちゃうんですよね~♥タメ年のソメヤくんの作品を脳裏に刻んだ後、翌年の秋に早々と、KENJI TAKI GALLERYで新作と遭遇。はい、ちんぴらはこのときの興奮を生涯忘れることができません(涙)。まずは、ギャラリー1Fに並んだ「字幕」シリーズ。例のベルベットを用いた「Decolor」技法で、モチーフは映画の一場面風に見える…マジに動揺した長年の映画愛好家だから余計に

f:id:chinpira415:20190522220855j:plain◆だって、まるで寸暇を惜しんで眺めてきたスクリーンが、映画小屋からこっそり抜け出し、暗闇をまとったままギャラリーに集結し、あたしを取り囲む状態になったんだもん。つまり、いつも見ていたスクリーンから、逆にあたしが見られているわけよ。でもって、脳内映画データベースを紐解いても作品名は特定できず、むしろどこかで見たような場面&意味深な字幕だから惑わされたのか…恐るべしベルベットの架空迷宮

人生初、絵の衝動買い!

◆2Fに上がると、今度は油彩による「鳥瞰」シリーズのお出まし♫ これまたどれも何がモチーフになっているのか、わかるようなわからないような…。筆使いがわかり~の、陰影もあり~の、物体は具象だけど、テカテカの合板に描かれていて抽象的に感じられ~の…。その中の1枚がこちら…タイトルは『億万長者の家』(04)。ギャラリーの人に尋ねたら、なんと人生ゲームの家の駒を鳥瞰で捉えた図だって。オーマイガー!

f:id:chinpira415:20190522232759j:plain◆なんでその絵がウチにあるかっていうと…このとき“人生初の絵の衝動買い”をしちゃったからなんです!お値段10万円也★自転車操業の年増のフリーターが『億万長者の家』を騒動買いって、ギャクみたいでしょ?(爆)周囲からは「はぁ?絵だとぉ~?いったい何様のつもりだあ!」とヒンシュクをかったりもしたけど、絵を買って得た体験価値はマジに計り知れないです貨幣価値に置き換え不能なアクションなんですよね。

f:id:chinpira415:20190524084745j:plain◆絵って、“窓”になるの。それも、世界につながる“窓”がウチの中にできるんだよ、それだけで活気づくってもんでしょう~。それと、価値が定まっていないものを、カンだけを頼りに探し出す行為は、じぶんのものさしとの格闘になるからね。絵と対峙してじぶんが発掘できるなんて、まさに未知との遭遇じゃない?

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◆そういえば絵を購入した翌年、三重県立美術館からソメヤくんの展示をするので、図録作成のために画像を借りたいとの依頼があったの(右図)。絵の所有=絵描きの歩みの伴走者になるってことなんだなあ…。これも他では味わえない体験になったわ。

2度あることは何度でも…?

◆ソメヤくん追っ駆けは、その後もお地味に継続し、これまた忘れもしない2007年のこと。眼科で検査した帰り道、まだ瞳孔が開いたままの牛乳瓶の底から見てるような状態で(汗)、新作展開催中のKENJI TAKIへ立ち寄ったの。いや~ん、ボケボケなのに、どの絵も素敵すぎてしんぼうタマランかったのよ~💦お断りしておくが、ボケてるから素敵に見えたわけではなく、作品が放つ空気感にノックダウン👍

f:id:chinpira415:20190525105757j:plain ◆空+地平線+大地の三位一体構成に、この流麗な筆遣いを見よ!はい、お察しの通り購入させていただきました『Landscape』(07)。初めて絵を買ったとき、マブダチHに「そこから始まるんだよ~。1点で終わるわけないっしょ~。」と、恐ろしき一言を通告されたが、キミは預言者でしたね✿この絵を見たとき、ラース・フォン・トリアー監督の奇跡の海(96)エミール・ノルデの水彩画を思い出したっけ…。

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◆でね、後日作品のお支払いをしにギャラリーへ寄ったとき、生ソメヤくんとバッタリ遭遇した写真がこちら♥なぜか長身のボーイッシュな女性をイメージしてたから、サイズ感があたしといっしょで笑っちゃった😊これ以降今に至るまで、友情てんこ盛りな関係に。パートナーの今村哲くんもタメ年の絵描きでさー、あたしたちが集結するとまるで部活(笑)。天下国家ネタからサブカルまで、同世代のおしゃべりは止まらない~。

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アトリエへ突撃訪問!

三重県いなべにあるふたりのアトリエ兼住居に泊りがけでお邪魔したこともあるの。日常的に学生を相手にしているからか、ふたりとも気取らない人柄で懐が広くて、最高に寛げた!夜遅くまで美術談義に花を咲かせたのに、翌日も朝っぱらから布団の上でティツィアーノの画集をめくりながら、大騒ぎしたっけ~(笑)。

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f:id:chinpira415:20190525142217j:plain◆創作の現場訪問は、ほんとテンションあがるよ~。あちらこちらにイメージソースの断片が転がってたりしてドッキドキ…。あたしにとってはまさに聖地巡礼でした!

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◆右の画像はアトリエの横にある庭への入口。このこんもり具合、めちゃミステリアスだと思わない?それとも、ただ手入れゼロなだけ?(笑)ソメヤくんの頭の中へ続く迷路の入口だと踏んでるが…。きっとここに創作の女神を囲っているに違いない!

ベルベット降臨

2008年、世界がリーマンショックに揺れる中、父が亡くなりました(涙)、享年82歳。翌年、父が残した預貯金を譲り受けたんだけど、大富豪ならともかく、ちょっとしたボーナス価格。ありがたいが、いまいま食うには困っていなかったので、この手のお金は残さず使い切ろうと決断♫ タイムリーなことにソメヤくんの新作展が…(爆)。これ、何に見える?…このときの展示のタイトルは「Monster」

f:id:chinpira415:20190525141108j:plain◆あたしは、鉄腕アトムの妹のウランちゃんがひっくり返ったところ…くらいにしか思いつかなくて(笑)、モチーフより不穏な気配みたいなものに魅かれたの。地色のコバルトブルーから抱くイメージとの落差もお気に入り。ちなみに本人に尋ねたら、バイオリンの糸巻部分だって!こうして念願の「Decolor」シリーズが我が家の玄関に鎮座♫ 父は建築系の職人だったけど、絵を描くのも好きな人で、幼い頃のあたしをモデルにしてよくスケッチしてたっけ…。絵で追悼できたのは、何よりの想い出となりました★


荒井由実 ベルベット・イースター

願わくば一軒家に住んで引きで眺めたいのだが…(爆)。絵を飾りたいために家が欲しくなったりして…業が深くてスイマセン。というわけで、今回はベルベットつながりで終了(笑)。ソメヤくん紹介編は、次号にも続きます。6/13にUP予定、お楽しみに!

勝手にシネマ評/『ROMA/ローマ』('18)

アルフォンソ・キュアロン監督が描く話題の新作『ROMA』は、タイル模様のクローズUPでゆるりと始まる。背後から控えめに鳴り響いてくるのは、鳥のさえずり…足音…デッキブラシがゴシゴシこすれる家事労働らしき音だ。

f:id:chinpira415:20190511215820j:plainやがて、水が撒かれて清められ、その水がタイルの上に徐々に流れ着くと、天窓から刺す光の反射で水鏡と化し、上空を横切る飛行機をアメンボみたいな姿で映し出す。まず音で誘い、次に光を降り注ぎ、最後に動く物体を、ごく小さくスクリーンに招き入れる仕立てが神々しい。そう、世界はこうして絶え間なく動いているのだ!

f:id:chinpira415:20190511220518j:plainここで映画はカメラを引き、一連の労働音が、小柄な若い女性による清掃スケッチだったことを明かす。傍らでうろつく一匹の犬も含め、平穏な日常の一コマなのか…。きわめてよい風景だ。

f:id:chinpira415:20190511220712j:plainその後もカメラは、彼女の手慣れた家事労働を遠目に追い駆けながら、家政婦仲間との関係性や、邸内の情報も一筆書きのリズムに乗せてさりげなく捉え、ドラマの舞台をものの見事に立ち上げる。滞空時間の長い滑らかな幕開け…我々の意識はすでに映画の中にある―

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マズイ!こんな調子で映像美にイチイチ感嘆していたら、ひとりウットリつぶやきで終わってしまう(汗)。先を急ごう。70年代メキシコシティのローマ地区先住民族の血を引くクリオは、白人中流家庭の邸で働く住み込みの家政婦だ。雇い主一家は、医者のアントニオに妻のソフィアとその母、やんちゃ盛りの4人の子供の7人家族。同僚と2人、朝から晩まで一家の生活周りのすべてを整えているが、主人と奉公人の線引きは、極端に緊張を強いるほどのものでもなさそうだ。逆を言えば、それだけ階級差が固定化されてしまっている証にも受け取れるが―。

f:id:chinpira415:20190511221741j:plainしかし無垢な子どもたちは、慈愛に満ちた方へと自然に吸い寄せられる。慎ましく穏やかなクリオの表情や振舞いに陽だまりを感じるのか、気づけば子どもたちは皆、彼女が側にいてくれるのを願っている。時代や国や肌の色が違えども、子どもは魂の感応アンテナを尖らせ、焦がれる対象を見つけ出す生き物なのかもしれない。

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映画はこうして早い段階から、クリオ自身がじぶんの介在価値を肌で感じながら奉公している断片を綴り、これが勝因の一つになっている。クリオの背景はわからなくても、彼女にはじぶんで築いた居場所がある。ヒロインと我々との親和性を絶えず意識しながら、『ROMA』は描かれて行くのだ。

f:id:chinpira415:20190511222058j:plainもちろん、家政婦にも女子の時間はやってくる!クリオは、同僚と勢いよく休日の街へ繰り出し、出会ったばかりの恋人候補と早々にベッドイン。慎ましく働く黒子の横顔から一転、好奇心に突き動かされて輝くハレな横顔へ鮮やかに転身だ。ここでもカメラは、若さ弾むクリオの姿を、ひとつの情景として遠目で見守り続けるため、時に我々の記憶を呼び覚ます装置にもなる。労働から解放され、細胞の隅々までじぶんだけの時間を生きる彼女ののびやかさは、懐かしく眩しいものとして、しかと脳裏に焼き付くのだった。

f:id:chinpira415:20190511222333j:plainある日、アントニオがケベックへ旅立つ。たかが出張で家を空けるだけなのに、悪い予感がしたのかヨメのソフィアは大揺れ。時を同じくしてクリオの妊娠が発覚するが、こちらも相手の男にあっさり逃げられ途方に暮れる…。社会的ポジションの異なる2人の女が、男に去られてピンチ襲来という1点を共通項に、物語の中心に迫り出して行く…ずいぶん意表を突く展開である。

f:id:chinpira415:20190511222612j:plainそもそもソフィアは、子どもたちに圧倒的に慕われるクリオに対して、面白く思っていなかっただろう。家政婦としては重宝しても、母親の面目は保たれないからだ。ただ2人の女は、異なる立場だからこそ無暗に接近せず、互いの状況変化を察知して、手を差し伸べ合うことはできる

f:id:chinpira415:20190511222754j:plainソフィアは、すぐさまクリオを病院へ連れて行き、このまま働きながら子供が産める環境を約束し、クリオもXmasが来ても一向に修復できない主人夫婦を黙って見守る…。同情でも、友情でもなく、今の生活を持続可能にするための合理的な選択で2人の女は結束する。美談を遠ざけたこのリアリティに、わたしは気持ちよくノレた!

f:id:chinpira415:20190511230750j:plainさらに映画は、女たちの内面の葛藤も微妙にズラして巧い。地震に雹、ド派手な年越しパーティーに山火事など、非日常なアクションを唐突に差し入れ、日常を相対化して進行するため、彼女たちの心配事は必要以上に悲劇化せず、我々は絶えずまっさら状態でドラマの行方を見届けられるというわけだ。

f:id:chinpira415:20190511223217j:plain例えばクリオが逃げた男を訪ねるシーン。彼女は、ぬかるんだ田舎道をたどり、男の居場所をようよう探し当てて声をかけるが、いきなり酷い仕打ちを受ける。フツーなら、不実な男と憐れな女という悲恋の絵にハメるところだが、ここではそんな等身大の後日談では終わらない。男は、都会で真面目に働き信頼を築いた女へ、嫉妬と憎悪をたぎらせ必要以上に逆ギレする。格差への不満が、まず近な相手を捌け口にしてエスカレートする様に、やり切れなさが募った。

f:id:chinpira415:20190511224208j:plainそして終盤、映画はさらに大きくうねる。出産を間近に控えたクリオが、突然、政権への抗議暴動に巻き込まれてしまう。激しく暴徒化する若者の中には、怒りに狂ったあの男の姿も見えるではないか!恐ろしい勢いで生と死がせめぎあい、もはやスクリーンの中は濁流状態。冒頭の平穏な日常がここでイッキに裏返り、クレオは死産を告げられた―。

f:id:chinpira415:20190511230536j:plainに出迎えられ無事に退院したクリオ。離婚を決意し、夫の愛車を小型車に買い替えたソフィア。2人は子どもたちを連れて、心機一転の小旅行へ出掛ける。目の前に広がる海辺の景色は、2人の再出発を祝福するにふさわしい自然美の結晶だ。が、驚くのはまだ早い。ここでは明かさないが、全てのパーツが出揃った最後の最後に、映画はなお、究極の“光と音”で神話を編み、我々に贈り届ける。そう、この瞬間を目撃させるために『ROMA』は作られたのだ。

f:id:chinpira415:20190511230603j:plain旅から戻り、家政婦の毎日がまた始まる。留守番の同僚に「話がたくさんあるの…」と声を掛けながら、慌ただしく家事に勤しむクリオの姿が小さく捉えられ、映画は閉幕。平穏な日常とうっすら漂う無常観…あー、このエンディングがわたしはたまらなく好きだ!ハンパない傑作…早くも今年のナンバー1候補に決定だ。


『ローマ』予告編|Roma - Trailer HD

監督の幼少期の記憶を下敷きした自伝的作品『ROMA』。見終わってずいぶん経つのに、様々なシーンが蘇ってきて未だに興奮冷めやりましぇーん。キュアロン作品は『リトル・プリンセス』(’95)以来、リアルタイムで追いかけていて、タメ年ということもあり(!思い入れが強い作家の一人。女の描き方と美術まわりの趣味がすごーくイイのよね~。DVDで過去作品をチェックするなら、『大いなる遺産』(’98)が断然オススメ!劇中で使われるフランチェスコ・クレメンテの絵の数々、奥にも左右にも深い画面作り、緑を基調にした色彩設計…すべてブラボー♪余談ですが、監督のお顔も好みです♥

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『ROMA/ローマ』

2018年/135分/メキシコ・アメリ

監督/脚本/撮影  アルフォンソ・キュアロン
美術      エウヘニオ・カバレロ
衣装        アンナ・テラサス

キャスト    ヤリッツァ・アパリシオ マリーナ・デ・タビラ

※名演小劇場、伏見ミリオン座で公開中

 

PS 次回は5/28に更新します

 

クリスチャン・ボルタンスキー🌑Lifetime

フランスを代表するアーティストの1人、クリスチャン・ボルタンスキー(1944~)。ご存知ない方は、取り急ぎこちらのお姿をご覧あれ~。金子信雄じゃないですよ(笑)。

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いや、エロ名悪役&料理番長の金子信雄(1923-1995)は大好きな役者さんでしたが….。ボルタンスキー氏、なんだか雲水みたいな気を放っていませんか?只者ではない存在感です、超カッコい~い★ はいそこで、ボルタンスキー雲水が手掛けた日本初の大規模回顧展【Lifetime】を拝みに、大阪の国立国際美術館へ行って参りました!

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【出会いは~♪スロ~モ~ショ~ン】

その前に、ボルタンスキー雲水との最初の遭遇を思い出してみたのですが…出会いは~♪スロ~モ~ショ~ンby中森明菜でした(笑)。日本の美術館はけっこう彼の作品をお持ちなのですが、所蔵品展などで1点づつ、寸止め気味に目にしてきただけなので、時期も場所もはっきりしないのです(汗)。例えば『聖遺物箱(プーリム祭)』('90)という作品は、豊田市美術館にこちらがあり~の、

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原美術館にはこちらがあり~の…

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横浜美術館にも、同じように個人を特定できないくらい荒く引き延ばされた顔面UP写真とスポットライトで構成された『シャス高校の祭壇』('87)があるのです。

f:id:chinpira415:20190423220601j:plain強烈なインパクト。1度目にしたら瞼に焼き付きます。こうして画像で眺めるだけでも、美しくもあり、空恐ろしくもありで、背中がぞわぞわしてきませんか? 写真➡遺影、シンメトリー➡葬列、箱➡祭壇、ライト➡魂、むき出しの電気コード➡悲劇性…、ハレとケをごっちゃにさせながらの連想が止まりません。しかも、かつてどこかで味わったような感覚が押し寄せてきて、じぶんの記憶を紐解く旅に誘われます―

 

【なぜか既視感が…】

豊田市美術館はこんな標本箱も所蔵しています。初期の作品『罠』('70-'71)。ボルタンスキー雲水の作品だと知らずに眺めた覚えがありますね。剃刀や針が使われているところと意味深なタイトルで、身体が強張りつつも、どうにも目が離せなかったな―

f:id:chinpira415:20190424090025j:plain一つ一つ表情の異なる手作業の痕跡が妄想を膨らませるのか、子どもの頃に砂場に埋めたものを掘り起こして眺めたような既視感がありました。箱に収められると、それだけで日常から切り離され、ツイ凝視したくなります―。

 

【闇がともだち】

愛知県美術館では、リニュアルする前の最後のコレクション展で『影』('86)を目撃。これまたあたしが作ったんじゃないか?と、勝手に既視感を感じた影絵装置で(笑)、出来損ない加減が絶妙のスカルたちが風に吹かれて闇夜のダンス♫  こうして所蔵品だけを振り返ってみても、表出されたモノの姿かたちは様々ながら、常にテクはシンプルで間口が広い…ここが重要ポイントになってる気がしました。

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【Lifetime展】

そして今回、彼の50年にわたる創作活動をぞんぶんに一望できる回顧展で、ようやく寸止め鑑賞から脱却しましたあ~!驚いたのは、表現方法が想像以上に多様だったことと、作品全部がフルオーケストラのごとく共鳴しあって、会場全体が1つの荘厳なインスタレーション作品と化している点でした。

f:id:chinpira415:20190426211321j:plainなので、ここでは多くを語りません。実際に足を踏み入れ、じぶんと作品がどう化学反応するかがすべてです。できるだけ予備知識を入れず、夜空を眺めるように、スッと訪れてみてください。間口が広い割には、“単純に好き嫌いだけでふるいにかけておしまい”…とはなりませんよ。非常にスリリングな体験が待っています。

f:id:chinpira415:20190426214217j:plainちなみに、我々大人美術部の3人の感想も「今まで見たインスタレーションの中で一番魅かれた!」と、逆に「ちょっと怖くてダメだった…」の、真っ二つに分かれました

f:id:chinpira415:20190426215143j:plain冒頭で取り上げた美術館所蔵作品も登場しますが、いままでに単品で遭遇した時の印象と様変わりして映るのは発見でしたね。こんな風に繰り返しに耐えられるのは、きっとうーんと遠いところを起点にして創作しているからなのでしょう。

f:id:chinpira415:20190427095048j:plainだから、作品の前に立っても、モノと対峙してるかんじにならないのです。むしろ物理的な強度は後ろに下がり、何億光年も前の宇宙と、何億光年も先の宇宙のあわいの中を、ひとりぼっちで漂流しているような感覚に陥ります―。

 

【シンプルで大胆】

抽象的な言葉ばかりを書き連ねてしまいましたが(汗)、ボルタンスキー雲水の制作姿勢はとても具体的なんですよ!拍子抜けするくらい具体的でシンプルなの。こちらの右側『アニミタス(チリ)』('14)という13時間16秒のなっがーい映像作品は、チリのアタカマ砂漠にカメラを据え置き、数百もの風鈴が風になびく光景をエンエンと綴っただけ。スクリーンの前には干し草が敷かれ、乾燥した土地を想起させますが、とはいえあからさまにひとつの仕掛けとして展示してますよね?

f:id:chinpira415:20190427100046j:plainなのに、イマドキのデジタルアート体験とは真逆の着地に至るのです。おそらく鑑賞者のまなざしが、じぶんの内へ内へと向かうからだと思います。ボルタンスキーは、チリの巨匠パトリシオ・グスマン(1941-)の傑作ドキュメンタリー映画『光のノスタルジア('10)を見ているらしいのですが、いやー、確かに両作品は共振してる!その呼び水となっているのが日本の風鈴とは!…実に感慨深かったです。


南米ドキュメンタリーの巨匠パトリシオ・グスマン『光のノスタルジア』『真珠のボタン』DVD発売!

 そして、あたしがダントツにコワかったのが『黒いモニュメント、来世』('18)です。そもそも来世という文字を、こんなにマジマジと眺めることはないですよね(汗)。どちらかと言えば、来世=浮世離れしたのんきな未来図を思い描きません?ところが迷路のドン付きに赤く浮かび上がる電飾は、非常口の誘導灯みたいに即物的で…慄きました!

f:id:chinpira415:20190427131610j:plainそう、虚を突かれて思わずビビったんです。ただ、“まだあたしは向こう側から呼ばれていないなあ…”とも思いましたね。現世での修行が足りんと―(笑)。

 

【来世のイメージとは?】

 今まで考えたこともなかった来世。そこで周囲の人たちはどんなイメージを持っているのか尋ねてみたら―。例えば50代おっさんの場合…1人は「なんとなく,かぶと虫になるような気が…」とつぶやき(汗)、もう1人は「来世はないようにも思っています。もし戻ってきたとしても、もうその辺の雑草で良いや。風に吹かれてフワフワとしていれば…」とのこと(笑)。どちらも人間稼業は店じまいするってことね~♫

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マブダチFは「来世と聞いて、すぐにM田S子を思い出した」だって(爆)。あたしが加工した文字を使って、懐かしの名台詞が今蘇るぅ~!「今度生まれ変わったら、いっしょになろうねって言いました…(嘘泣き)」。この画像、女性自身に売り込みたいね。

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30代美人ママMはさらにぶっ飛び!「はあ?なんで来世が炊飯器なんだよ~!」と、念のためにヒアリングしたら、「キッチン全体を撮ろうと思ったんだけど、なんか絵にならないなぁと思って。まぁ、炊飯器が絵になる訳でもないんだけどね」…もはや禅問答の域か…意味がわかりません(爆)。昔から白飯好きだとは知っていたけど…(汗)。

f:id:chinpira415:20190427222945j:plainそして最後は画家のマブダチAのご登場★ さーすがー、アーティストの表現はキレがいい!逆さ文字にも、うふっ♫ もうひとつ、別の世界の扉が開いていますね。ある意味、言葉の意味を一番まっとうに捉えているかも。

f:id:chinpira415:20190427223811j:plainこうして並べると素人衆の出たとこ勝負感も捨てがたいわけで(何より笑える!)、みなさま方の乱入あってのちんぴらブログでございます(ぺこり)。おっとー、いかんいかん、ボルタンスキー雲水のことを忘れそうになった(爆)。

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図録を読んで初めて、彼のフツーではない幼少期体験などを知りましたが、「死者に捧げる儀式を行うことが、芸術家としての仕事だと思っている」の一言に、すべてが集約されています。大阪の後、国立新美術館長崎県美術館3館を、1年に渡り巡回するLifetime展。会場ごとに本人が構成を変えるらしいので、東京へも足を延ばしてみるつもりです。機会があればあなたもぜひ!

 

PS 次回は5/13に更新します

 

鶴舞公園―御開帳 🏢 編

名古屋市公会堂の大規模改修工事がついに終了!

鶴舞公園内にある名古屋市公会堂が、先月2年ぶりに復活しましたあ~、パチパチパチ♫ ぱっと見、どこが改修されたかわからない?いえいえ、れこそが何より重要公会堂の開館は1930年10月10日。検索したら昭和初期の画像が出てきましたが、ほら、往時と比べてもほとんど変わらないでしょ。90年もの間、同じ場所で同じイメージを投げ掛け続けてきたことに大きな意味があるわけです。だって他に置き換えできない時間が内包されているんですからね。

f:id:chinpira415:20190407140906j:plainとはいえ、公会堂の前を毎日歩いて通勤する身にとって、平時イメージを放出していない状態のこの2年は、意外と長かったんですぅ…。傷口が治らなくてずっとバンドエイドを貼ってるかんじ(汗)。「あー、なんかモヤっとするなあ…」という気持ちで見てました。ここでちょっと時間を巻き戻し、工事の様子を振り返ってみましょう。

f:id:chinpira415:20190407212546p:plainまず、建物を取り囲むパネルが立てられた後、2017年6月頃から足場が組まれました。

f:id:chinpira415:20190407145611j:plainで、「モヤっとする」なんて文句言いながら、実は足場が伸び進むたびに、妙にテンションあがっちゃって(爆)。だってこんな光景を目にしたら、もうブリューゲルを連想するしかないでしょう~🔔

f:id:chinpira415:20190407150552j:plainほれ、これですよ、旧約聖書をモチーフにしたあのバベルの塔(小バベル)』👍

f:id:chinpira415:20190407151240j:plainもしかしてこのまま2年間、毎日こ~んな作業風景の数々が、お目にかかれるのかなあ~なんて、ツイ涎を垂らしそうになりましたが…んなわけねーだろ!ですね(笑)。そもそも雲にまで届かないし~。しかも、ちんぴらの妄想を打ち砕くように…

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呆気なく、バンドエイド幕がするすると下りはじめ―

f:id:chinpira415:20190407154007j:plain内と外が几帳面に仕切られて行きました。各階の出入り口まで…妙にカワイイ(笑)。

f:id:chinpira415:20190407154048j:plainあれよあれよという間に見事に梱包。全面的にバンドエイドが貼られ、いわば強制療養です(涙)。素朴な疑問=グレーと青の使い分けに理由はあるのか?…未だに謎です。

f:id:chinpira415:20190407153923j:plainでもこれまた不思議なもので、いっそ全部をしれーっと包み切り、そこにイデオロギーの塗装を施せば、一発逆転でARTにも成り得るわけで…。はい、今度はクリスト『梱包されたライヒスターク(帝国議会議事堂)』を連想しちゃいマシタ★ 

f:id:chinpira415:20190407160616j:plain公会堂だって、昭和天皇御成婚の記念事業から始まり、第二次世界大戦中には高射第二師団司令部として利用され、戦後はGHQに接収されて、連合軍兵士専用の劇場として使用されたこともある歴史的スポットですからねズバリ、あたしたち以上に、世の移り変わりを目撃してる証言建造物。まあでも、ARTだろうが長期工事だろうが人間のやることなんてどこ吹く風~、カラスさまの縄張りに変わりはないようです(笑)f:id:chinpira415:20190407162721j:plainこの2年、通り抜けする度に目にしたのは、一反木綿顔したシートだけ。そういえば台風の時はさすがにハラハラしちゃったなあ。ところどころでろ~んと外れて、乱れ髪に…(汗)。それでも強風に吹き飛ばされることは一度もなく、技術力に感心しちゃった!去年の11月には足場が外され、遂にキレイキレイになった素肌でご登場です

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年末には固く閉ざされたパネルが解体され、いよいよ仕上げ段階へ入りました!

f:id:chinpira415:20190409223744j:plainおー、3連アーチとの久々の対面に胸が高まりマシタ…ドキドキ😊

f:id:chinpira415:20190409224200j:plainちなみにブリューゲルは、一番下の階をこんな風に描いてて…くどいって(爆)。

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玄関横のお気に入りの松が、ボーボーになってたのは笑ったけど、各種サンダーバード重機が出動して(笑)、駐車場もリニューアルへダッシュ🏁

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年明けの2月には、玄関前のレンガの張り替えです。

f:id:chinpira415:20190409225337j:plainそして再会の2週間前には、植木がきりっと散髪!やっぱいいなー、この書割りのようなしつらえと、引き直された駐車ラインの白が“松の廊下”を連想させるぅ~

f:id:chinpira415:20190409231712j:plainはい、こちらが蘇った名古屋市公会堂正面です。これですよ、これ!グッジョブ👍

f:id:chinpira415:20190412234219j:plainいちおう改修前と後を比較。ほとんどお姿が変わらない分、1Fの外壁の汚れが磨き落されてピカピカになった効果がよくわかりますね。タイルの張り替えは部分的なのかな?

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工事中、立ち入り禁止用のバリケードが、“くまモン”だったのには納得いかなかったんだけど(なぜ他県のご当地キャラ?)、現場解体後はアヒルに代わってました(笑)。

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夜のライトアップもいいっすね~。まだ中には入っていないけど、大物女性アーティストのコンサートが似合いそうな…ダイアナ・クラールあたり、いかがでしょうか~♪

f:id:chinpira415:20190413003004j:plainでも、公会堂の正面玄関を見るたびにあたしが思い出すのは、外タレコンサートでも桜まつりでもなく、自衛隊市ヶ谷駐屯のバルコニーでゲリラ的に演説し、その後割腹自殺を遂げた三島由紀夫の事件なんです。建築様式が似ているせいもあるのかな…。1970年11月25日、当時9歳だったあたしにはすべてが衝撃的で脳裏に焼き付いてます(汗)。

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そうそう余談ですが、同じ年のマブダチたちが「なんで、鶴舞中央図書館も復元で残さなかったんだろう。大好きだったのにぃ~」と文句タラタラで、ひどく悔しがってました。場所の記憶は強い心の拠り所になるってことですね。年をとると余計に―(笑)。

 

 PS 次回は4/28に更新します

勝手にシネマ評/『運び屋』('18)

薬物使用で逮捕された人気ミュージシャンの映像が、派手に世間に流れていた3月某日。「 “伝説の運び屋”の正体は90歳の老人だった」―と、謳い文句が躍る映画を見に行った。

f:id:chinpira415:20190324225121p:plainクリント・イーストウッドが監督・主演する新作『運び屋』(’18)だ。大いに笑い、めいっぱい楽しませてもらった。―が、本作は、実際にあった麻薬密輸事件の映画化だという。考えてみたら日本の騒動と源泉はいっしょなのだ。いや、リアル犯罪として比較したら、そのウン百倍もタチが悪いのは明らか。まったくもって言い逃れできない真っ黒案件である。なのに、気持ちよく手を叩き、快哉まで叫んでしまうのだから、困ったものだ(汗)。

f:id:chinpira415:20190324225442j:plain改めて思った「映画」という装置が、アウトローを物語るとき、いかに最大級の効果を発揮するかを!劇場の暗闇に身を沈め、世の中からはぐれた輩どもの輝きをこっそり拝むと、しょぼい毎日がいきなり活気づく…あれですよ、あの愉悦!

f:id:chinpira415:20190325085618j:plainじぶんを大きく見せたい…それも反体制を気取って…という青臭く後ろめたい欲望に、映画はタイムリミット付きで個別に奉仕してくれる。それゆえ我々は、錯覚の時間内で、日々の規範からより遠いところまで運ばれたいと切に願うのだ。真っ黒だろうが真っ白だろうが、左だろうが右だろうが、なんだってかまわない…トンでもないジャンプを体感させてくれ!と(バンジーだから紐ついてるしね 笑)。

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そして文句なくトンでもないジャンプを味わいましたよ~。なにせ90歳のジジイのわんぱく体験にお付き合いするのだから、全てが未知との遭遇(笑)。映画はイリノイ州のへんてこな花畑のシーンから始まった。「なにこのヨレヨレの花?もしや薬物栽培でもしてんの?」などと、ぼーっと眺めていたら、名前も知らない花より、さらにヨレヨレシワシワ猫背の御大イーストウッドが、テンガロンハットではなく、麦わら帽子を被ってひょいっと登場★荒野をさすらい続けたカウボーイの終着点は、土と共に生きる園芸家なのか~と苦笑い。一瞬、デレク・ジャーマンみたいな求道者像を思い浮かべるものの、すぐさま撤回(笑)。

f:id:chinpira415:20190324230108j:plainヨレヨレの花は、1日だけ開花するデイリリーというユリ科の一種で、イーストウッド扮するアールは、移民たちを使ってこれを手広く栽培し、ひと財産を築いた成功者だった。しかも、枯れても山のにぎわいどころか、軽口をたたきながら正装して品評会に繰り出す様は、まるで花道をねり歩く歌舞伎役者のごとき艶姿。その有頂天ぶりが可笑しいったらありゃしないのだ。ところが洋の東西を問わず、ジジイのええかっこしいを「馬鹿だね~」と笑って許せるのは、他人様ゆえのことらしい。家族をないがしろにしてきたカッコつけ男は、ヨメと娘から見放されて久しい憐れな老人でもあるのだ。

f:id:chinpira415:20190324230320j:plainさて、外堀から伺っているだけでも、『運び屋』がどんな展開になるかは、概ね予測できるだろう。デイリリーの生態のようにアールは早々と萎れ、転落街道まっしぐら。艶姿から12年後の2017年、商売は傾き、自宅と農園を差し押さえられ、手元に残ったのは古ぼけたフォード1台だけ。無論、しょげて帰れる場所もない。人生の高低差を味わうのはヒーローの常だが、口の減らない90歳の老人に、一発逆転の打ち手など用意できるはずもなく、はてさてどうしたものか―。

f:id:chinpira415:20190324230551j:plain「町から町へと走るだけでカネになる」―。無違反運転で国中を旅してきたのが自慢のアールは、そう持ち掛けられてテキサス州エルパソへ。運転免許返納に怯える日本のシルバードライバーからすれば、ここぞとばかりに自尊心を取り戻せそうなキャリア・パス図だが(笑)、案の定とびっきりヤバイ奴らがお出迎えだ。ただし、アールが出没する先は、いつでもどこでも花道に早変わり♪じぶん十分の立ち回りを披露なんかして、退路を断たれたジジイに怖いものはない

f:id:chinpira415:20190324230859j:plainで、中身は見るなと言われた荷物を、鼻歌交じりに指定の場所へ運べば…アラ不思議。ダッシュボードから大金入りの封筒が、手品みたいにでてくるではないか!いやー、やっぱ現ナマのパワーはすさまじい。アールの皺くちゃの手で握りしめると、かえって札束にナマナマしさが割り増しされ、妙に興奮しちゃったわよ~。というわけで、取り急ぎこれで孫娘の結婚披露宴代はゲット。汚名返上&家族の信頼回復に一歩前進か。

f:id:chinpira415:20190324230755j:plainこうして超お手軽&高額バイトに身を乗り出したジジイは、運び屋稼業に精を出し、次から次へと失くしたものを買い戻す。そもそも根がええかっこしいだから、これを機に老後を手堅く内向きに生きようなどと改心するわけもなく、稼ぎは周囲に大盤振る舞いし、踊りまくりモテまくり。世間ではよく「金のない年寄りは誰にも見向きもされずに孤独」と、教訓めいたことを言うが、あぶく銭が人気者の座を保持するための運用費に充てられる絵は、大ウケしつつ、どこかウッスラと侘しさが漂うようにも映る。

f:id:chinpira415:20190324231631j:plainもちろんイーストウッド映画だから、老人に金をチラつかせ、家族との和解の果てに大団円…には至らない。アールに絡ませるのは、家族は家族でも麻薬密輸元締め一家のボスや、組織に忠誠を誓う手下の若造や、はたまた赴任したてのエリート麻薬捜査官という顔ぶれで、要は背景の白黒に関係なく、男同士のジャレあいこそがヒーローの現役感を司るパワー源だという仕立て。女どもにすまないと詫びるしぐささえ、様式美の内なのだ。

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「タタ(じいさん)」の愛称で呼ばれ、運び屋記録を更新するほど振り切った仕事ぶりを披露したアールは、映画ならではの血統書付きアウトロー。カーラジオをBGMに、自由気ままにオレサマの流儀で浮世を疾走する一方で、朝鮮戦争の退役軍人だという経歴が終始通低音として鳴り響く。具体的にはほとんど語られないが、だからこそ、見たくないものを嫌というほど目撃してしまったであろう老人の虚無感が際立って見えた。

f:id:chinpira415:20190325085022j:plainそうイーストウッドが作る映画は、ある意味、いつだって形を変えた戦争映画。そして彼が演じるヒーロー像には、常に鎮魂のしぐさが刻印されている。折れ曲がった背中で、ダーティーワードを連発する孤高の狂想老人に、男たちが惚れるのもわからなくもない(笑)。イーストウッドはしぶとい。まだまだ飛べるな。この先も治外法権でジャンプし続けていただきましょう!


映画『運び屋』特報【HD】2019年3月8日(金)公開

『運び屋』

2018年/116分/アメリ

監督/製作/主演   クリント・イーストウッド
撮影      イブ・ベランジェ
音楽        アルトゥロ・サンドバル
脚本      ニック・シェンク

キャスト    ブラッドリー・クーパー ローレンス・フィッシュバーン

 

PS 次回は4/13に更新します  

橋本治は永遠にえらい!

2019年1月29日 作家の橋本治さんが亡くなってしまいました😢。享年70歳。訃報をネットで目にしたとき、ザーッと血の気が引くのが、じぶんでもありありとわかりました。この30年、橋本さんの文章に、何度シビれ、大笑いし、自由を味わったことか―。

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橋本治という名の金脈は、「量」「幅」「質」そして「奥行き」までもスゴ過ぎて、一生賭けて探索する宝の山だと勝手に思っていた節があります。あたしが呑気に3合目あたりをうろついていても、橋本金脈は「減らない、錆びない、逃げ出さないから大丈夫。お愉しみはずーっと続くよどこまでも~♫」と、信じ切っていたんです。どうしてそう確信していたのか…。尋常じゃない仕事量をはじめ、病気のことも公言されていたのに、それでもなぜかフツーの人の身に起こるシンパイごとを、橋本さんには結びつけて考えようとしなかった…「いつまでもあると思うな親と金と橋本治だったなんて。

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橋本さんの文章に魅かれたきっかけは、1989年に文藝春秋から創刊された硬派女性向け雑誌「CREA」での連載『絶滅女類図鑑』だったと思います。女たちの頭上を、イヤミと皮肉タップリに、まわりクドく旋回し続けるようなめんどっこいエッセイで、当時の女性誌にはまずお目にかかれない代物でした。難解な言葉など1個も出てこないのに、問題定義の連続技に我が脳ミソはとっ散らかり、ぜんぜんスッキリしない…(汗)。ただ、見過ごせないものが蠢いていることだけは、しかと感じとってしまったのです。

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世の中が、女子のワガママぶりを無視できなくなり、女子の扱い方に幅をもたせるフリをし始めたとき、橋本さんは赤い絨毯でもてなすどころか、当の女子たちでさえ無自覚な本質をえぐり、白日の下にさらしてみせました。しかも、オヤジの本懐的な物言いではなく、とうの昔に終わった男社会の現状を読み解いた上での投げ掛けだったから、余計に驚きました。13歳年上のこの人はいったい何者?と、自然に興味がわいたのです。

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こうして橋本さんの教養の厚みに圧倒させられる日々がはじまりました。『絶滅~』などの論評がB面だとしたら、同じ時期のA面では、古典の現代語訳をガンガン披露する橋本金脈。橋本さんは、滔々と流れる日本の歴史の末端に、じぶんの日々の営みも地続きで流れていると、フツーに考えてしまえる人だったような気がします。あたしも意を決し、95年の年末から文庫化された『窯変 源氏物語を毎月購読。1年かけて全14巻と番外編『源氏供養 上・下』を読了し、忘れられない源氏イヤーとなりました。

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実は『窯変ー』の「薄雲(うすぐも)の章、光源氏最愛の女性・藤壺が亡くなるくだりに差し掛かった96年の春と、傍迷惑な軟弱BOYが自滅する「柏木(かしわぎ)の章を読んでいた同年の晩夏に、親しかった友人が立て続けに急逝…。我が人生で最も足元が揺れる日々の中にいて、支えとなっていたのが『窯変ー』でした。特に源氏の死後を描いた宇治十帖、「浮船(うきぶね)の章には鳥肌が立ちました。『アンナ・カレーニナ』は、アンナの死後にデカイ話へ変調して爽快でしたが、橋本源氏は終盤になるにつれ冷徹なリアリスト目線が冴えわたり、雪の女王みたいな振舞いで超カッコいいんです!

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僕には、有名な古典をわかりやすくポピュラーにしようという発想は、全然ない。原典が要求するものしか書かない。古典に対する変な扱いや、変な迷信を取り除きたい、ただそれだけのこと” 枕草子から始まった古典シリーズは、徒然草古事記平家物語etc…と続き、一人の作家の仕事とは信じがたい偉業を成し遂げます。そこにさらに輪をかけ、美術分野にまで分け入って『ひらがな日本美術史 1~7』を発表。「芸術新潮」での連載は立ち読みで済ませ➡本にまとまったら買うを繰り返しました(笑)。

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『窯変ー』さえ、気に入ったフレーズが出てくると傍線をグイグイ引いたあたしですから、教科書以上に読みふけった『ひらがな―』シリーズなんて、自慢じゃないけどカンペキにじぶん仕様に使い込んでます(笑)。実物と遭遇するチャンスがあれば、見る前に読み、さらに見た後でまた読みなおす…生涯テキストの決定版となりました。橋本さんの美術評は誰のものとも似ていません。いや、美術に限らずすべてにいえることですが、対象と対象の背後にたなびく周辺事情まで事細かに思考をめぐらせ、まるで自ら時空を超えてキャッチUPしてきたかのごとく、言葉を紡いで指し示すのです

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例えば橋本さんは、長谷川等伯の国宝『松林図屏風』(六曲一双)について、この右隻の左端にわだかまった冷たい空気の流れがあきらかにあると書いています。そしてここからの展開に頭クラクラ~(汗)。なんとこの屏風から、「ジャズのリズムが聞こえる」というオチへ淀みなく語り尽くすのです!単なる“言ったもんが勝ち”妄想じゃないんですよ。めちゃロジカルなの~。ウソだと思うなら、今すぐ『ひらがな日本美術史3』を求めて本屋へGOしてください。目からウロコが落ちまくりますよ★

f:id:chinpira415:20190310203751j:plainそして『ひらがな―』シリーズで最も影響を受けたのが桂離宮の章です!橋本さんが、桂離宮へはじめて足を踏み入れた体験記にいたく感動し、ずーっとずーっと行きたくてしょうがなくて、2009年秋、遂にお出かけ~♪なんと贅沢にも旅のお相手は中野翠さん(30年来の仲!)★ふたりとも橋本さんの解説文をコピーして持参してましたね~(笑)引き戸の向こうとこちらの浮世は全くの別世界…橋本さんに導かれて体感した桂離宮は、あたしにとって永遠にスペシャルな空間となりました(いつか書きます!)

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橋本さんの訃報を知り、すぐに本棚から取り出して再読したのが『ふたりの平成』('91)と橋本治内田樹('08)。橋本さんはもう同じ空の下にいないんだ…と思ったら、たまらなく寂しくなり、今にも生声が聴こえてきそうな2冊の傑作対談集に縋りました。じぶんの好きな書き手同士が「ほら、やっぱり水面下で繋がっていたのね!」と判明するときほど、至福の瞬間はありません。橋本さんは基本ひとり遊びの人でしたが、中野&内田ご両人に対しては「おまえら大好き!」と心から打ち解けていた気がするのです

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同学年の橋本さんと中野さんが語り始めると、そこは学生街の喫茶店に早変わり~♪“願わくば元号が変わる今、“スカートをはいた男の子とズボンをはいた女の子”に、もう一度誌面で再会してほしかったです(涙)。一方、橋本&内田談義は部室ノリ。誰もまともに論じてこなかった橋本先輩の天才ぶりを、内田後輩がそれはそれは丁寧にヒアリングして我々に補足解説…フト高畠華宵の絵なぞ思い浮かべてしまいマシタ(笑)。

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最後は小説家 橋本治について。最も衝撃を受けた1冊は…2009年の『巡礼』(新潮社)ですね。ゴミ屋敷にひとりで暮らす初老の男と、戦後日本の繁栄の道のりを交差させた橋本さん渾身の一作に、身も心も奮えました。ここで描かれる生真面目で孤独な男の生涯と、時代との乖離の手ざわりは、現代をも射程に収めていて恐ろしくリアルなんです。

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「なぜゴミ屋敷の主になったのかー」を読者に想像させること…。橋本さんは、誰も見向きもしないものから、微かに立ち上がる声なき声を感じとり、じっと聴き入ってしまう人でした。そんな純粋な振る舞いが『巡礼』には凝縮されていた気がします。翌年に刊行された『橋』『リア家の人々』と、ぜひ併せて読んで下さい。平成が終り新元号に変わる今、「昭和」と独りで対峙した橋本さんの小説を紐解くことには、大きな意味がありますf:id:chinpira415:20190308230606j:plain亡くなる直前までアクセルを踏み続けていた橋本さん。去年遅ればせながら古事記に耽り、橋本さんが『草薙の剣』(新潮社)を出したと知って、「なんてタイムリーなの!」と小躍りしたのに…ごめんなさい、未だに読み逃しています(汗)。その『草薙ー』は野間文芸賞を受賞。祝いの品に原稿用紙を希望し、「原稿用紙を前にすると幸福になる人間でした」とコメントを寄せたとか。あー、しみじみ泣けてしまいます。


[作家自作を語る]『草薙の剣』橋本治|新潮社

でも橋本さんはたくさんの作品を遺してくれました。なにせ橋本金脈は、ボケボケしていたら一生かかっても踏破できないくらいのスケール、ヤバイです(汗)。この借金を踏み倒すことなく、これからもコツコツ読み続けて行きたい…だってこんなにあたしを奮い立たせ、かつ自由にさせてくれた師は他にいませんから。そう、橋本治は永遠にえらい!―合掌

PS 次回は3/27に更新します