国際芸術祭 あいち2022✑ 備忘録

『国際芸術祭 あいち2022』の広告はしょっちゅう目にしても、どんな催しなのかピンとこなかった人も多かったのでは…? “表現の自由展”騒動から早や3年。あいちトリエンナーレとして定着していた現代美術の祭典を、今夏から名称変更をして再スタートさせたのが『国際芸術祭 あいち2022』。

でも、新名称は略しづらく、誰かと話題にするときには従来通り「あいトレ」を使用してました。夫婦別姓が難航してる中、イベントの名称くらいは勝手にさせろよ!ですね(笑)。ちなみにこっそり置かれた英語版のガイドマップにはTriennaleの表記が…👀

そんなわけで、いつものようにフリーパス券を買い求め、いつものように全会場を歩き、いつものようにじぶんから近づくを繰り返し、いつものように未知の星と遭遇して、いつもように心地よい胸騒ぎを覚えた作品の備忘録です。なにせ現代ARTは未来への博打~♬破産しても賭け続けまーす(爆)

 

横野明日香(1987-) 

まずは芸文センター10F会場に入って、どしょっぱつに登場する横野明日香『採土場』('22)になぎ倒されました~。瀬戸の採土場を描いた大作です。てっぺんに見える鎌首をもたげて作業中の赤いシャベルカ―、まるで月面のクレーターみたいな山肌の表現、均質に塗りこめられてて人影のない空漠感…なんともSF的でそそられました。もう一枚、対面に飾られた横位置の『瀬戸の風景』('20)もデカさが魅力★遠景の山並みと、真ん中のむき出しの山肌と、前景の居住空間の3つのレイヤーの描き分けと構成が絶妙で、かつて瀬戸を訪問したときの記憶が呼び起こされ、虚実入り混じった世界へ没入してしまった。横野さんは県美出身で地元の瀬戸市で活動している作家とか。耳も眼も澄ましたくなる作風、注目してゆきたいです。

モハンマド・サーミ(1984-) 

バグダッドで生まれたモハンマド・サーミのコーナーは、照明が落とされていて、暗がりの中で彼の描く絵画作品とミステリアスに出会う仕立て。スポットライトは点いているものの、近づいて眼を凝らさないと捉え切れない。森の中へ分け入って鑑賞するような気分になりましたね。こちらは『プア・フォーク』(2019)

しかも目撃する景色に人物は不在でやけに心許なく、近づくほどに不穏な空気に包まれます。次の『難民キャンプ』(2021)なんて、ホラー映画の舞台に見えなくもない…💦が、一方で1枚の絵の中で繰り広げられる光と影の移ろいが、妙に心に染み入るんです

作家はサダム・フセイン政権下のイラクに生まれ、その後故郷を離れて移民として暮しながら絵を学んだというハードな経歴の持主。ただそうした背景を知らなくても、1つの絵画、1つの物質として『テープが貼られた窓』(2018)は魅力的でした。行き止まりの割にはやけに眩しくて…。孤独にもグラデーションがあるのかもしれないな

百瀬 文(1988-) 

続いては映像作品、百瀬文Jokanaan』(2019)。オペラ『サロメ』の一節が熱く歌い上げられる中、その音源に合わせるように、口パクユダヤの王女サロメ役を演じるのが左側の男性で、右側の女性は男性の動きをモーション・キャプチャーでデータ化して作られたCG映像。つまりサロメとヨカナーンの役回りを、ヒロシ&キーボー(!)的に男女の恋愛駆け引きと見せかけ、実際は性別役割も実体もズラした仕掛けで物語ってるわけそもそも「サロメ」は上映禁止になったこともある古典問題作だから、ヒロインが狂い咲きする下りをどう踏み込んでも、鑑賞者のマインドは割と柔軟に対応できるんだよね。百瀬作品の現在性を凝縮した方法論でも、無関係に進行する2つのサイトがズレながら共鳴する様には、生身とはまた別の情感が立ち上りまくり、ドキドキしたよ~。ちなみに、消音にしたらどんな印象になるんだろう…これまた興味津々。

ローリー・アンダーソン(1947-)&黄心健(1966-)

様々なパフォーマンス・アートを繰り広げてきた米国のローリー・アンダーソと、台湾のニューメディア・クリエイター、黄心健(ホアン・シンチエン)の共作『トゥー・ザ・ムーン』(2019)は、観客自身が宇宙飛行士となり、15分間の月面旅行が体感できる予約制のVR作品。人生初のVRでしたが、これが意外にもおっとり&のんびりムードの詩的演出で、それゆえ逆に“いざなわれた感”が身体に残り、なかなか愉快な体験となりました~♬やっぱVRと月面旅行という組合せが勝因なんだろうな。誰も日常的に知ってる場所なのに、一番遠いところにあるから大部分の人が訪問できない「月」…そりゃあ自ずとロマンティックになるわな😊そして文学的な6つのシナリオ(星座/DNAの博物館/テクノロジーの荒地/石の薔薇/雪の山/ドンキー・ライド)に導かれてのお散歩遊泳。そう、VRは孤独との相性もイイのよねそれが快楽でもあり、空恐ろしくもありー

アスターゲイツ(1973-)

常滑会場で目を引いたのはアスターゲイツ。かつて土管を大量生産していた工場主の使われなくなった住居を、音楽、ウェルネス、陶芸研究のためのプラットフォーム「ザ・リスニング・ハウス」(2022)として再生させてます。古民家を開かれたスペースに改装する取組みは目新しいものじゃないけど、ここは想定外の空間に化けてて超クール💎ネオン管を和室、それもコテコテの古民家に持ち込むとは!日本人では思いつきにくい視点。ネオンの光って悪目立ちしそうだからね。ところがどっこい、ご覧の通り全く違和感がなく、むしろシック。陰翳礼讃を心得てるというか…参りました(ぺこり)。そしてプラットフォームとしたからには、おそらく今後この場がどう活用されていくかが作家の一番の関心事だよね?わたしもまた足を運んでみたい。

AKI INOMATA(1983-)

歴史的な町並み保存地区有松で、この地でなければ置き換え不可能な展示と遭遇。AKI INOMATAは、なんとあのミノムシに有松絞り生地を与え、蓑(巣筒)を作らせたというから仰天です👀『彼女に布をわたしてみる』(2022)では、蓑を纏い(!)葉を食べるミノムシの姿を映像でお披露目してくれました。江戸時代末期の絞問屋の元作業場空間が、さながら絞りドレスショーのランウェイに様変わりしてあでやかだったわ~、ブラボー♬さらに絞り職人の技術とミノムシの生態を融合させ、新しい絞り染めの技法まで考案したというから面白すぎる。染め上がった生地は、ミノガの翅の形の団扇に仕立てられ、ディスプレイも含めとってもシャレオツ。生き物の生存戦略と職人の伝統技術…背後には共に費やされた時間が流れていて、鑑賞者をがっつり魅了していたわ

ガブリエル・オロスコ(1962-)

2015年の大規模個展で惚れ込んだガブリエル・オロスコ。まさか有松の竹田家茶室で見られるとは思ってもみなかった😊でもって文化の異なる歴史ある建物が舞台だろうと、素知らぬ顔してスルスルッと忍び込み、俺様テイストをキラッと炸裂昔から日常的にここにあったような顔つきで展示されてて思わずニンマリ!日本の古布を使ったなーんちゃって掛け軸『オビ・スクロール』シリーズ、単位の「尺」にインスパイヤされたという『ロト・シャク』シリーズ、めちゃグッときた。何て軽やかなのよ~嫉妬するほど好き『ロト・シャク』は、長い方が六尺で短い方は三尺で作成され、彼の哲学が反映されているみたいだけど、何せどっちも垂木に養生テープとか工業用テープで幾何学模様を貼り付けてあるだけの野暮っちさでさー、このギャップがタマランのです。それでいてもちろん建物にしっくり馴染む優雅な美しさ…。とりあえず今すぐ養生テープを買いに行こ(笑)

三輪 美津子(1959-)

さて最後を飾るのは今回の展示で最もハッとさせられた作家、三輪美津子。名古屋出身らしいけどまったく知らなくて…慌ててネットで検索してみたもののさほど情報も得られず…💦芸術祭のHPには「初期の頃から同一人物とは思えないほどスタイルの異なる作品を制作してきました。その制作態度からは、ひとりの画家としての確立した存在となることを避けようとする彼女の意思が感じられます」とある。じぶんで粘土をこねて造った立体物を油彩で描いた『彫像』(2010)シリーズ絵の前に3度立ったがまったく見飽きず―はたまた『山頂にて』というタイトルのフォトペイント(1990)に圧倒されていたら、同じタイトルで高山植物絵葉書のコラージュ(1989)が登場したり、天上近くには横一列で同じ配色に塗られた20枚の作品『青空』(1987)が掲げられ、さらに10Fフロアにも長編小説10冊の冒頭と文末のテキストを画面の上下に配した『READ・MADE』(1996)が―。何より全部平面作品なのになぜか平面の手触りがなく、じぶんの頭の中で勝手にVR化してた!どこまでもそっけない振る舞いの三輪さん、いったい何者?HPで公開されている画像バイオグラフィを眺めるだけで血が沸騰する。三輪さんの体温が低くなればなるほど、わたしの体温は上昇するんですよ~、ヤバいよヤバイ!最近の作品がないけど、今はどんな絵を描いているのだろう…。あー、もっと見たい!ナマで見たい!他にも、台風をうっちゃりながら一宮会場でハジけたり、有松で絞りをあしらったトレーナーを衝動買いしちゃったり、常滑で錆トタン好き魂が全開になったりとエエ時間が過ごせました。このあと最終日の10/10にアピチャッポンのVR作品『太陽との対話』が待ち受けます(追加販売でなんとかチケットゲット!)。続きはあいトリ2025で(笑)

PS 次回