Mark Mandersとルームシェア☝

オランダ生まれベルギー在住の美術作家マーク・マンダース(Mark Manders 1968~)。国内美術館初個展となる『マーク・マンダースの不在』展東京都現代美術館で開催中だ(6/20迄)。ザンネンながら現在は緊急事態宣言を受けて休館中だが、再開を願わずにはいられないすんばらしい美術展になっていたただ、ちんぴらを虜にしている作家のひとりでありながら、なぜ彼の創作に魅かれるのかはじぶんでも説明がつかない。いつも以上にはなはだ心もとない案内になりそうだが、よかったらお付き合いください―。

 

【あいトリ2016で遭遇☝】

f:id:chinpira415:20210517104349j:plainマンダースとの馴れ初めは今から5年前。あいちトリエンナーレ2016の会場で不意に出くわした。何か一つの作品に特化した出会いというより、展示空間そのものにひどく動揺したのだ。実際は、国際美術展でありながら学祭みたいなせせこましいスペースでの発表だったが、半透明のシートで覆われた空間には、未完成のまま凍結されたような断片が物静かに点在していて、思わず「ここに泊まりたい!」とまで惚れ込んでしまった

f:id:chinpira415:20210517103639p:plain▶彼には18歳のときに閃いたという「建物としての自画像」と称した独自のコンセプトがあるらしい…わかるようなわからないような…(汗)。「泊まりたい!」という衝動に駆られたのは、まんざら的外れでもなかったようだが、間取と置かれた制作物のバランスに緊張したり脱力したりして飽きることがなかった。インテリアの拡大解釈?いやいや、デコるだけの表層的な演出とは明らかに違う。視座が遥か彼方にあったのだ

『狐/鼠/ベルト』(1992-1993)散らばった粘土の欠片までも演出だって。 はい、文句なくあいトリ2016で最も忘れ難い作家となったマンダース(詳細は過去記事で)。やがて「ところで…この人いったい何者?」と、ようよう我に返った―。

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【作品集を耽溺☝】

▶さて、そこで登場したのが『Room With Broken Sentence』マンダースが第55回ヴェネチア・ビエンナーレ(2013)のオランダ館代表を務めたときのカタログ本だ。鑑賞の余韻に浸っていたあたしに、マブダチRがそっとプレゼントしてくれたのだ(涙)。初期の作品やスタジオ内の写真も網羅されており、待ってました!とばかりにむさぼった…英語を紐解く根気は相変わらずゼロだったが―。f:id:chinpira415:20210525100904j:plain▶長年、雑誌を情報源としたサブカル好き体質の人間なので、<リアル><繰り返しながめるモノ>の2本柱で耽溺するのが、じぶんにとってはベストな愛好の形。特に、どこかしらに恥じらいが立ち上るマンダースの世界観は、<ひとりで大切に味わいたい詩集>のような趣があり、2次資料(図録)と過ごす時間もとても大切だと痛感した。

 

【そして金沢➡東京へ☝】

f:id:chinpira415:20210520151128j:plain▶去年の秋、マンダースとミヒャエル・ボレマンス(Michaël Borremans 1963~)との世界初の2人展『ダブル・サイレンス』を、金沢21世紀美術館まで見に行った話はすでに書いた(過去記事参照)。―で、続けて今回の東京での国内美術館初個展である。金沢からほとんどの作品が巡回していたが、当然ながら土地やハコが変われば響き方も様変わりする。またもやまっさらなご対面を果たせて、至福のひとときとなった。
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▶金沢の光庭にあった『2つの動かない頭部』(2015-2016)は、東京では屋外に展示―。

f:id:chinpira415:20210520151616j:plain▶金沢ではひろびろワンルーム展示だった『4つの黄色い縦のコンポジション(2017-2019)が、東京ではお馴染みの半透明シートで囲い込み。いや~、マジにどっちも◎

f:id:chinpira415:20210520171351j:plain▶粘土に見えて実はブロンズだったり、マンダース独自の製法で朽ちかけた風合いを作り上げていたりと、意表を突かれることばかり。架空の建物内に散見する、足場用のパーツもオリジナルか?道具1つに至るまで、日用品であって日用品ではない。モノで絵を描いている気分なのだろうか―。

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▶制作風景の動画を見つけた。でっかいスタジオ、冬場は寒いんだろうな…フル防寒で、黙々と制作する姿がひどく愛おしい。マンダースは、ほとんどの工程を自分ひとりで手がけているそうだが(!)、動画ではアシスタントの方たちも映ってる。まるで古代遺跡の蒐集家のようなスタジオ…現場に流れている濃密な時間に頭クラクラ。


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▶金沢と東京の比較で一番可愛らしかったのが『舞台のアンドロイド(88%に縮小)』(2002-2014)。画像は、作品の一部分(椅子、折りたたんだ衣服、靴)なのだが、金沢では本体と少し離れたフロアの出入り口付近の床にちょこんと並んでいた

f:id:chinpira415:20210520152841j:plain▶それが東京では、まるで本体から身を隠すように、バックヤードにひっそり並んでいるではないか!なんて可憐なのよ~~。きっと気づかなかった人もいるのでは?しかも衣服の盛りが微妙に違う…金沢鑑賞が功を奏したちんぴらです(笑)。そしてディティールへのこだわりから、マンダースの美意識にまた1歩近づけた瞬間でもありました👍

f:id:chinpira415:20210520151739j:plain▶そうそう、バックヤードの斜め前には、これまたこそっーと握りこぶしサイズの鼠もどきのブロンズ像が!『記録された課題』(1992-1993)ガムテの貼り方まで愉しい

f:id:chinpira415:20210520151709j:plain▶こちらはドローイングを立体に持ち込んだような…ヒモ状の曲線に心が震えた『像の習作』(1997-2015)『細く赤い文の静物(2020)見れば見るほど厳かな感覚に―。。

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▶鉛筆にカセットテープetc…。ありふれたモノたちを建物の間取り図風に床に並べた『調査のための居住(2007年8月15日)』(2005-2007)。子どもの頃にしょっちゅうやっていた遊びの痕跡が、目の前に美しくサラリと出現し、その場で深く考え込んでしまった…。なぜじぶんはこの純朴なアクションを忘れてしまったのかと―

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▶なんと『完了した文』(2003-2020)では、鉄製のラインの行き着く先にティーパックが並ぶのだ(左角を見て)!ティーパックですよ、あのティーパック!しかも靴と対面してる。ティーパックがこんなに繊細な物体だとはこの年になるまで気づかなかった…。モノから発せられる内なる声と共に、モノとモノとの関連性を通して、“詩”を生み出しているとしか思えない。後ろに掛かる『2色のコンポジション』シリーズが窓に見えたりするのも、しっとりと美しい。

f:id:chinpira415:20210520153330j:plain▶そんなマンダースの頭の中をのぞきこめるのが、通路の壁一面を使った『ドローイングの廊下』(1990-2021)。意外なことに完成作品よりうーんと艶めかしいではないか。

f:id:chinpira415:20210520220705j:plain▶そして今回初めて、ヴェネチア・ビエンナーレに出品した『マインド・スタディ』(2010-2011)とナマでご対面。先に書いた通り、カタログ本で繰り返しながめていたが、まさか実物がこれほど大きいとは!片足での踏ん張り、緊張感がハンパなかった

f:id:chinpira415:20210520220852j:plain▶ギリギリと軋む音が聞こえてきそうだ(汗)。テーブルセットを模した台座との絶妙なバランス…磔刑にも天使の羽ばたきにも見える一本足劇場。おっそろしくドラマチックだが、散文的なイメージではなく、やっぱりここでも詩の感受性を刺激してくるものに見えた。そう、マンダースの作品には、じぶんの世界を押し広げるきっかけが詰まっている。だから魅かれる…ルームシェアしたいと思うまでに―。

f:id:chinpira415:20210521160137j:plain▶最後に本作りが好きなマンダースが、本という形式の魅力や編集の楽しさについて語っている動画をご紹介。趣味人の顔になって、嬉しそうに一生懸命語る様子が何とも微笑ましい。あー、やっぱ編集心を大切にしてる人なんだなあ…すご~く共感


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【Mandersへの返歌☝】

▶はい、それではお馴染みのここまで魅せられたら、“返歌”を詠まないわけにはいかぬ!>のコーナーでございます。いつか本人に届いたりして…一笑されたら本望ですね(爆)。今回は、最近ハマっているDAISOで見つけた200円フレームにコラージュ。たぶんアクセサリーなんかを飾りながら収納する用途で作られたケースなんだけど、フレームに1cmの奥行があるから素材選びに幅ができて、ついつい盛ってしまう~(笑)。f:id:chinpira415:20210525101153j:plain▶やりたい放題、食べ放題(笑)。今回、マンダース展のチラシを切り取ってコラボさせたのは、室町時代の画僧、祥啓(生没年不詳)『瀟湘八景図画帖』。いかがでしょうか。500年以上前の墨画淡彩(重要文化財!)と息もぴったり…ですよね?!😊

PS 次回は6/13に更新します