BORREMANS☝

ベルギー人でゲント在住のミヒャエル・ボレマンス(Michaël Borremans 1963~)。今回は、ちんぴらとは縁もゆかりもない地を拠点に活動し、ちんぴらを虜にしている美術家について綴ります🎨 エレガントな身振りで人を狂わせる作品を作り続ける彼の魅力とは

 

【横トリで密会☝】

f:id:chinpira415:20210217113813j:plain▶ボレマンスとの馴れ初めは今から10年前。横浜トリエンナーレ2011の会場でこっそり密会した。密会とは如何にも意味深だが、ドデカイ横浜美術館内の見落としそうなほどささやかな展示コーナーにそれはあった。『Weight』('05)と題した動画のループ上映。プリーツスカートをはいたおさげ髪の少女が回り続ける…ただそれだけの内容だ。なのに作品の前から離れられなくて…その間、マジに魂が吸い取られていたと思う💦

f:id:chinpira415:20210217133409j:plain▶凝視せずにいられなかったのは、スカートの裾から下が唐突に切断された状態で静かに回転している点。テーブルの上の置物が機械仕掛けで動いている風に見える一方、マイセン磁器のような色白の少女が時折り瞬きなんかするもんだから、胸の奥がザワっとする…。そう、生身の人間への猟奇的仕掛けを妄想させ、怖いもの見たさに襲われるってわけ。もちろん、すぐに単純なトリックだとわかるんだけど、ポーズ&衣裳&色彩&素材感&照明などへの目配せが見事で、目を凝らすほどに現実の時間が遠のいて行った

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▶あたしが最も妄想を掻き立てられたのは、切断面にプリーツスカートが用いられているところだった。プリーツスカートの着用体験者ならば思い出すはず―身につけたときに感じるあの“立体装置”のような感触を!だから、制服の裾をぶるーんと回したり、襞の中に下半身を埋め込むようにしゃがみ、蛇腹感を味わったときの記憶が蘇り、余計に興奮…あの身体性を動く彫刻として、可視化していることに息を呑んだのだ―

 

【原美でめぐり逢い☝】

▶さて、衝撃的な密会から3年後の2014年。ボレマンスの日本初の個展原美術館で開催されると知り、快哉を叫んだのは言うまでもない♥こちらは妻を描いた『One』('03)

f:id:chinpira415:20210220131749j:plain▶俯いている夫人の横顔、下半身がガッサリ欠落していて、テーブルに埋め込まれているのか…浮いているのか…しかもケルト💦握った右手の形と像全体のフォルムが呼応してる…。初の個展でその全貌がつかめるはずが近づくほどに謎は深まるばかり…。次もスケルトン仮面つながりで『Mombakkes Ⅱ』('07)、一見平穏な静物画に見える『Magnolias Ⅰ』('12)の背景には無関係な下絵が浮かび、花瓶はやっぱりスケルトン💦

f:id:chinpira415:20210220134107j:plain▶元々は写真家で90年代半ばから表現手法を油彩画へ変えたという。ベラスケスやマネに影響を受け、独学で絵画を学んだらしいが、この古典技法を習得してこそ不可解な題材にエレガントさが増すのだ。続いて『The Racer』('12)『Girl with Feathers 』('10)

 f:id:chinpira415:20210220150356j:plain  f:id:chinpira415:20210220150421j:plain ▶ボレマンスは同じ題材や同じポーズを繰り返し使用する。表情に起伏がなく俯いてる人物はオブジェのようだが、突き放された感じはしなくて、むしろ目が合わないことに胸が高鳴る。人が何かに没頭している気配は、それだけでスリリング&崇高に感じる。f:id:chinpira415:20210220134249j:plain『The Beak』('03)こんな仰向けポーズも繰り返し登場😊この唐突感、有無を言わせず見てしまう。尖がった黄色と白いシャツ、そこに柔らかな御髪がたっぷり添えられることで、イメージが生に傾いたり死に傾いたりして、一筋縄ではいかない。最後は原美の展示で一番グッときた『Red Hand,Green Hand』('10)だ。 f:id:chinpira415:20210220115800j:plain

▶ホワイトの入れ方…このエナメルチックな照り感に心底震えマシタ…。画の中の世界観に安寧と恐れが絶えずせめぎ合うボレマンスの作品群。このめぐり逢いが決定打となり、高価な画集にまで手を伸ばした(笑)。自宅でひとり脳ミソを沸騰させながら「ブラボー!」「エレガント!」を連呼したものです、はい。

 

【画集で恋愛成就☝】

▶こちらが、ページをめくり続けると腱鞘炎になりそうなくらいボリューミーな画集『As sweet as it gets』。いったい何度見返したことだろう…👀

f:id:chinpira415:20210220173217j:plain▶英語解説スルーで、美術トーシローのあたしでも、ボレマンスの制作姿勢のアウトラインみたいなものが掴めて、知的好奇心に火がついた。例えばこんな風に…➡フランスの写実主義の画家クールベ(1819-1877)と比較した『The Avoider』('06)ウケる!

f:id:chinpira415:20210224132412j:plainマネ(1832-1883)の世界で一番有名な笛吹き少年像と『The Whistler('09)にもニヤリ!

f:id:chinpira415:20210224133813j:plain▶ほーっ、腰からバッサリ『The Lid』('07)カラバッジョ(1571-1610)ナルキッソスと共鳴するのか…テーブルが水面の見立てだとは!西洋美術史への関心もイッキに加速。

f:id:chinpira415:20210224134621j:plain美術手帖のインタビュー記事を読むと、ボレマンスが最も影響を受けたのはロココ時代の画家シャルダン(1699〜1779)だという。中でも静物画と、カードプレイヤーを描いた作品にインスパイアされたとか。言われてみたら静かな日常の一コマを控えめに俎上に上げるところなど、共通項はあるようだが…。ちなみにシャルダンはこんな画風。穏やかで丁寧な絵作りだから逆に人物はシュールな置物に見え、苺の盛りっぷりは毒々しい

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【金沢で成熟愛☝】

▶そして去年の秋に、なんと6年ぶり、3度目の逢瀬が叶った♥場所は金沢21世紀美術館。しかも、2016年のあいちトリエンナーレで一目惚れした彫刻家、マーク・マンダース(Mark Manders 1968~)との世界初の2人展だとさ~~、テンションMAX👍

f:id:chinpira415:20210224152348j:plain▶とりあえずマンダースはまた別の機会に特集することにして…。金沢では、新旧あわせて45点ほどのボレマンス作品と遭遇。ちょっと笑っちゃったのは、『As sweet as it gets』をながめ倒していたからか、画集の表紙にもなってるボレマンスのモナリザと評される『The Angel』('13)の実物が、見上げるほどデカくてびっくり仰天だった👀

f:id:chinpira415:20210224215438j:plain▶次の『The Loan』('11)も同様で、首から上がバッサリ割愛された衝撃的な後ろ姿は、実物のデカさに意表を突かれつつも、このサイズだからこそ、むしろよりエレガントに感じた。奇異性よりも彫刻性の方が高くなるからなのかな…。奥に控えるマンダース作品(こっちは頭部のみ!)との配置も絶妙。リアル鑑賞ならではの体感だ。

f:id:chinpira415:20210224215536j:plain▶最新作の『Coloured Cones Ⅱ』(’20)「スタジオに置いてあった生地のサンプルの色味を見ようと、円錐形にして並べたところ“絵のように美しい被写体”だと思い、家族の肖像画のように配置した」とか。ただの色見本が家族の肖像画とは…オーマイガー!色の調和、布の光沢や皺の加減が生々しい。シャルダンの苺も三角盛りだしな…

f:id:chinpira415:20210224214226j:plain▶思わずゴージャスにヴィスコンティの映画を連想してしまった…こっちも5人(笑)

f:id:chinpira415:20210226121937j:plain ▶逆に、人間を布で覆って抽象度をUPさせるこんな作品も―。左は『Amy』('17)右は『Jack』('18)タイトルが人の名だから、顔が見えないことにツイ動揺してしまう…💦

 f:id:chinpira415:20210226122757j:plain f:id:chinpira415:20210226122831j:plain   ▶最後にボレマンスの発言を―「私が描くときには、現実をミラーリングする要素を最小限に抑えている。そうすると絵によりパワーを持たせ、もっと注意を向けさせることができる。またそのほうがもっと普遍的で、時の試練に耐えられる作品になると思う。要素を減らすことで、強力で緊張したイメージを制作したいと考えている」


Michaël Borremans ダブル・サイレンス

 

【なーんちゃってBORREMANS☝】

▶さて、ここまで魅せられていたら、このあたしが“返歌”を詠まないわけがない!

f:id:chinpira415:20210226163006j:plain▶…というわけで、『The SKirt(2)』('05)を真似て、プリーツスカートを再現!愛用のポンプ容器に履かせてみた…💦我ながらくだらなさに爆笑👏

f:id:chinpira415:20210226163056j:plain▶少女の後ろ姿に愁いが漂う『The SKirt』('05)は…

f:id:chinpira415:20210226163154j:plain鹿ヘッドを代用してみた…。プリーツ万歳🏁

f:id:chinpira415:20210226163220j:plain▶他にも、『The Swan』(’06)という襟の絵に憑りつかれてしまい…

f:id:chinpira415:20210226163320j:plain▶もともと付け襟にフェティシズムを感じるあたしが、なんと絵筆を持って水彩スケッチを始めるという暴挙にまで及んだ…。

f:id:chinpira415:20210227132936j:plain▶うーん、描けば描くほど襟ってヤツの神秘性に気づかされたりして…愉しかった

f:id:chinpira415:20210227133014j:plain▶陶器の人形を描いた『The Glaze』('07)。まさか釉薬の色気を絵画で発見しようとは!

f:id:chinpira415:20210226163347j:plain▶居ても立っても居られず、昔買った輸出用の陶磁器を出してきて真面目に描いた―。

f:id:chinpira415:20210227133053j:plain…てなわけで、ボレマンス熱は沸騰するばかり―。ちなみにボレマンスの発言で最もウケたのは、「一番いい服を着ると、いつもいい絵が描けます。絵の具がついたらすぐに着替えます。スーツが作業着になってしまうと魔法が解けてしまうので。」だ👍ドリス・ヴァン・ノッテンのスーツを着て絵を描く男…この浮世離れ感もタマランぜよ~♥

PS 次回は3/28に更新します